「おいイグナス! 大丈夫か、おい!」
無線機から怒鳴り声が聞こえる。
床に横倒しになりながら、それに大丈夫だと答えて扉の先を見る。
つい先程、そこをいくつもの銃弾が横切っていった。
(やばい。黒幕は本気だ)
相手は今、原作同様チェルノボーグをわざと天災に巻き込もうとしている。
この襲撃は恐らく口封じと都市の混乱が目的だろう。黒幕側にとってもはやここは戦争を起こすためのミサイルと同じ、そこを治めていた人間など邪魔者以外の何物でもない。
しかもこの緊急性が高い事態でトップが消えたなんてことになれば移動都市の避難もそれだけ遅れる。
幸い侯爵自身は無事だった。今は俺の隣で歯をカタカタ言わせ蹲っている。
もし俺が引きずり込んでなかったら今頃扉の前で蜂の巣になっていたことだろう。
だが、事態は待ってくれない。
開いたままの扉の向こう側から音が近づいてくる。
この執務室は窓も無く、袋小路。
銃を持った相手に突入されればひとたまりもない。
執務室の机を壁にして身を隠す。
腰元の装備を確認する。万が一に備えて色々持ってきていたが本当に役に立つとはな。
それらを準備する傍ら、つい助けてしまったこの男を見る。
(さすがに置いていったらまずいよな)
これだけの事をしでかしたんだ。証拠になる人間は全て消すつもりだろう。
最悪の場合、その下手人にレユニオンがでっち上げられる可能性がある。いやそうとしか考えられんわ。
それに一応これでもチェルノボーグの領主、役に立つかもしれない。
「おいおっさん」
もう商人モードはやめて素の口調で話す。
「死にたくないよな?」
「あ、当たり前だろう!」
「なら、ついてきな」
先に鉤が付いたロープを固定し末端を握る。
もう片方の手で腰のベルトから手のひらサイズの筒状の物を取り出す。
蓋の部分に着いたピンを噛んで抜き、扉の先に放る。
「耳と目塞げ!」
一拍遅れて、閃光と音が爆発した。
キーンと耳鳴りが続く中、未だ耳を塞いでいる侯爵を俵のように担ぎ扉の先に走る。
廊下には何人もの武装した軍人がいた。
彼らも流石にスタングレネードには驚いたのか右往左往している。
だが多勢に無勢。応戦していたらいずれやられるだろう。
だから俺は扉の先を曲がることなく一直線に駆けていく。
視線の先には、チェルノボーグを見下ろせるガラス壁があった。
「おい、まさか」
「舌噛むなよお!」
目を見開く侯爵を無視してそのまま突っ込む。
走った勢いそのまま、体当たりしてガラスを粉砕した。
宙に投げ出される俺達。
掴んでいたロープを強く握り直す。
重力に従うまま落ちていく俺達はやがて伸びきったロープに引っ張られ、振り子のようにまた司令塔の壁へと引き戻される。
下半身で勢いをつけ、今度は外側からガラス壁を蹴り砕いて廊下に飛び込んだ。
倒れこんだ体を速やかに起こし周囲を伺う。
割れたガラス片を踏んでパキパキと音がした。
どうやら、この階には敵はいないらしい。
「脱出完了、よし!」
「何もよくないわ! 殺す気か!!」
ついお決まりの現場猫ポーズで一息つく。
隣のおっさんがうるさいが知ったことか。むしろ助けてやったんだからありがたく思え。
壁の表示を見るにどうやら俺達は一気に3階下まで移動したらしい。
急いで侯爵を連れて階段を駆け下りる。
侯爵も命が惜しいのか黙って後をついてくる。
「おい、これから出す質問に正直に答えろ。いいな!」
「なんだ!」
「この移動都市の制動室で緊急停止が行われた可能性がある。解除の方法は?」
「なんだと?!」
「いいから答えろ! 天災に襲われたいのか?」
階段を駆け下りながら口に手をあて黙り込む侯爵。
悩むこと数秒後、口を開く。
「制動室に鍵があった筈だ。あれは最も権限が強い、緊急停止が行われたというなら恐らくその鍵が使われたはずだ!」
「だろうな! そしてやった張本人がご丁寧に鍵を壁にかけ直してくれる訳がない!」
くそ! もう時間が無いぞ!
原作だとどれくらいの猶予があったかは分からないが、とても全員に避難を呼びかけて間に合うもんじゃない。
そもそも移動都市から逃げたところで何処に逃げろという話だ。
「待て、もう1つある」
急に立ち止まった侯爵につられて足を止める。
「私の執務室に置いてあった制御鍵。あれならば可能だ」
「どういうことだ? 緊急停止に関与するなら権限が足りないはずだろう?」
原作だと確か8章終盤だったか、探し求めていた鍵をいざ使おうとして権限が足りなかったはず。
「それは緊急停止を発動する場合だ! 正規の手順で源石エンジンを再起動するならばあの鍵で事足りる」
「マジか」
「そもそも移動都市を緊急停止するなど最後の手段だ。それが万が一悪用されたとき、鍵が無くて復旧できないなど間抜けにも程がある」
確かにそうだ。もしそうだったら一生エンジンのかからないデカい棺桶ができちまう。
「なら、それを取りに」
行こう、と口にした瞬間。上階で爆発音がした。どうやら先程俺達を襲った男達の仕業らしい。
位置的に俺達が先程までいた執務室だろう。
「・・・・・」
「・・・・・」
「どうすんだよ! バカ侯爵!」
「知るか! ああもう終わりだあ!」
2人揃って頭を抱える。
肝心の鍵も今吹っ飛んだ。もう1つの鍵は行方も知らない敵の手中。
もう他に方法は・・・・待て。
他に、鍵?
「それだ!」
もう一度、通信機に手を伸ばす。
「俺だ。アレックスに繋いでくれ!」
「何だ、イグナス?」
「今チェルノボーグの制動室が敵勢力に占拠され緊急停止が行われている。このままじゃこれから起こる天災にチェルノボーグ全体が巻き込まれる」
「何?!」
「だが対処法はある、今から言う場所に向かってくれ」
ああ、ほんと。商会とアザゼルの情報網使って先に居場所調べといて正解だった。
作戦が終わったらサプライズで会わせて喜ばそうとか考えてたけど、まさかこうなるなんてな!
「お前の姉、ミーシャがこの事態を救う鍵だ!」
司令塔前 大通り
冷静さを失っている。
客観的に自分を見て、そう結論づける。
先程の爆発、明らかにイグナスが向かっていた場所だ。
彼が無事か気になって仕方ない。
それでも、それを表に出すことはしない。
彼に託された、レユニオンのリーダーとしての仮面を張り付け指揮を執る。
現在、私達は突然現れた謎の集団への対処に追われていた。
チェルノボーグのあちこちから同時多発的に爆発音が鳴り、そこら中から武器を持った集団が出てきた。
人数はそれほどでもないが、各地に散らばっているせいで対応が遅れている。
「タルラ、大丈夫だ。さっき迷彩狙撃兵が保護したと連絡があった」
そんな胸中を見抜かれていたのか、エレーナが彼の無事を知らせてくれた。
どうやら侯爵諸共襲撃されたが自力で脱出したらしい。
誰にも気づかれないよう、そっと深く息を吐く。
それならばもう心配はいらない。
気持ちを切り替え、今私達を取り巻く状況について考察する。
「正体不明の敵勢力がチェルノボーグ各地で騒動を起こしています。民間人にも被害が出ているようです」
「あいつら見境なしか」
盾兵の1人がそう毒づく。
それもそうだろう、私も同感だ。
イグナスが何とか人的被害を出さずに任務を遂行しようと頭を悩ませていたことを知っている。
それをこうも台無しにされて、腹立たしい事この上ない。
先程倒した屍を転がす。
一見感染者の浮浪者が武装しているように見える。
顔の一部や手には確かに黒い結晶が光っていた。
だが。
私はその結晶に触れ、強く引っ張る。
少し抵抗を感じたが、やがてそれはペリッという音とともに剥がれた。
(やはり、感染者を装っていたか)
感染者の浮浪者にしては体格がしっかりしているし、携行している武器の性能もやたらと良い。
加えて、奴らの動きは妙に統率が取れていた。
同時多発的に破壊工作が行われた事しかり、ただの集団蜂起ではない。
そしてイグナスが語っていた未来の情報。それらから導き出される答えは1つ。
「こいつらは恐らく正規の軍人だ」
「何だって?」
「恐らくチェルノボーグを混乱させ天災に巻き込むためだろう」
「何でそんな事をする? ここはウルサスの中でも主要な工業都市だ、何のメリットがあって」
「戦争を起こすためだ」
レユニオンの皆んなに私の推測を語る。
その内容に、多くのレユニオンメンバーは義憤に燃えていた。
「ふざけるな! 戦争を起こすためにここまでするか!」
そのタイミングでイグナスから無線が入る。
オープン回線で告げられたその内容は私の想像通りだった。
そして、この事態を打破するための方法も彼は既に突き止めていた。
(なるほど、ならば私達のするべきことは)
この先の流れを予測し、方針を定めた私は剣を掲げた。
「聞いていたな、諸君。奴らはこの地を天災に襲わせ、それを利用しようなどと考える者達だ。手加減はいらない、戦狂いの軍人達に我々の覚悟を見せる時だ!」
「「「おう!!!」」」
部隊を再編成し、各所の鎮圧に向かわせる。
アレックスとリュドミラはこの事態を好転させる人物の元へ向かうらしい。
パトリオットにヘラグ、エレーナとサーシャは各部隊を率いて散開する。
「W、聞こえているな?」
「ええ、胸糞悪い。今まで生きてきた中で5本の指に入るくらい最悪な気分よ」
「私も同じ気持ちだ。そちらも騒ぎを起こす奴らを鎮圧し、市民の避難を呼びかけてくれ」
「あいつらが素直に言う事聞くとは思えないけど? まあ気に入らない奴を吹っ飛ばすのは任せなさい」
「ああ、任せた。終わったら愚痴くらいは聞いてやるから頑張ってくれ」
Wが困惑する。
「はあ、何の?」
「君なら何だかんだ言って市民を守るだろう? ここの住人は、未だ感染者に対する差別が色濃い。無下な対応をされたら言ってくれ」
「・・・・・」
「イグナスが言っていた。君は素直じゃないから口は悪いが、根は優しくて面倒見がいいとな」
「あの男、今度会ったらただじゃおかないっ!」
「彼と仲が良くて嬉しいぞ」
「あんたほんとにイかれてるわね!?」
無線がプツリと切られた。
彼女も中々に面白い。イグナスが構いたくなる気持ちも分かる。
通信機をしまい、目前の敵を見据える。
大通りに溢れる人々を追い回す、正体を隠した男達。
それに私の部下達が応戦している。
その中の1人が、独り戦場を俯瞰する私に襲い掛かってくる。
「お前達も、感染者の恨みを思い知るがいい!」
「ほう?」
振り下ろされた剣を受け止める。
一般人とは思えない、正規の訓練を受けたのだろうそれは確かに鋭かった。
だがそれだけだ。
全くもって、その一撃には
「私達が何者か知って言っているのだとしたら、滑稽だな」
そしてそのまま力を込めて押し込んでいく。
敵はどんどんと押し込まれ、形勢が逆転する。
押し込んだ剣の先、驚愕に震える瞳を真っ直ぐ射貫く。
「大方、偽装工作なのだろうが舐められたものだ」
付近で活動していた私達に罪を擦り付けようという魂胆だろう。
自分達の悪行を隠せるうえ、さらに感染者差別を助長させるいい機会だ。あの薄ら寒い議会の狸どもは喜んでこの作戦を推し進めたに違いない。
だがそうはさせない。
「感染者の恨みだと? 彼らは己が憎しみに打ち克ち、真の平和の為に戦う者達だ」
そのまま相手の剣ごと敵を切り捨てる。
「聞け! 暴徒達よ! 我々はレユニオン・ムーブメント、感染者と非感染者の共存を謳う者である!」
多くが私に目を向けた。
武器を振るう敵も、私達の背に庇われた市民達も。
「貴様らが感染者の恨みを体現するというならば、その振るう剣のなんと軽い事か! 我らの剣と盾の、足元にも及びはしない! 見果てぬ未来に手を伸ばさんがため、立ち上がった我らを貫けるものか!」
そうだ。こんな卑怯者どもに私達を騙れるものか。
この覚悟と誇りは、決して貴様らに汚させはしない。
今まで逃げ惑っていた市民は、どうすればいいのか分からないようだった。
いきなり感染者達に襲われ、助けられたと思ったらその相手も感染者だった。
自らの命を惜しみ、戦う彼らに目もくれず走り出す者もいる。
それでも、その場に止まる者達も確かにいて、何が彼らをここに縛り付けているのか私は知っている。
そんな彼らに、この声が届くように。
「ウルサスの民達よ。未だ恐れるものも多いだろう! 突如襲った暴徒達に、恨みを募らせる者も多いだろう、だが覚えておいて欲しい! 我々も、感染者もまた人である。彼らのように憎しみに憑かれ力に訴える者もいれば、我々のように君達とともに戦い真の平和のため手を取り合える者もいるのだ!」
拳を握る少年が見えた。
そんな反応を示すのはほんの僅か、大通りを埋め尽くす人込みの中で数えるほどしかいない。
それでも、何もしない自分に不甲斐なさを感じる者がいる。
私達を、同じ人と認めてくれる人間がいた。
(君の言うとおりだったよ、イグナス)
どれだけ制度が、文化が、世界がそれを強要したとしても。
それに異を唱える勇気がなかったとしても。
そこに共存の芽は、確かに宿っている。
「どうかその目で確かめて欲しい。感染者は、果たして恐怖と迫害に晒されるべきなのかを! 我々は、レユニオンは、その背で以て証明しよう!」
「「「「「「「おお~~~~~~!!!!!!」」」」」」」
レユニオン全員が雄たけびを上げる。
彼らに迷いはない。
その背に彼らを迫害していた者達を守り、武器を持った暴徒に立ち向かっていた。
そんな彼らを、誇らしく思う。
「さあ、覚悟しろ。偽りの大義を騙る者どもよ」
剣を抜き放つ。
それは私の感情に呼応するように、周囲を赤く染めていく。
熱く、熱く、燃え滾る。
それは自らの半身と掲げる理想を傷つけられた怒りか、はたまた小さな希望を見つけた喜びか。
それらを薪に、アーツの炎が膨れ上がる。
「私の希望を傷つけた罪、贖ってもらうぞ!」
宝を汚された龍の怒りが、炎となって敵を飲み込んだ。
「さて、方針としてはこれでいいはずだ。後はロドスへの連絡だな」
チェルノボーグの路地裏はいつもよりさらに閑散としていた。
そこを俺と侯爵、そして数人の迷彩狙撃兵が走り抜ける。
司令塔脱出後、外で待機していた迷彩狙撃兵に合流した俺達は急いで移動していた。
俺の横で息を上げる人物がボリス侯爵だと知って苦い顔をしていたが、俺の説得もあり一先ず争いにはなっていない。
アレックスとリュドミラは2人でミーシャを迎えに行った。
そしてそれ以外、タルラとエレーナとパトリオットとWとサーシャはそれぞれの部隊を率いて各地で暴動を起こしている軍人達の制圧に動いてくれている。
他のレユニオンメンバーもその指揮下で力を振るってくれているはずだ。
なら当然俺達も何かしないとな。
「今どこら辺に手が回っていない?」
「幸い敵勢力の制圧には手が足りています。警察組織に加えてロドスの別動隊も鎮圧に動いているので、多分私達が今から動いても力にはならないでしょう」
「そうか」
さすがレユニオン。
だとすれば、他にやるべきことと言ったら避難誘導か。
今もアレックス達がミーシャを、ひいては制御鍵を取りに行ってくれているが間に合うかは怪しい。
だが移動都市の上に住む住人全てを避難させる時間なんてないし物理的に不可能だ。
なら、チェルノボーグが天災からの回避行動を取れたと仮定して間に合わない箇所の住民を避難させる。
これが現実的だろう。
「誰か、チェルノボーグの地図は無いか?」
「あります」
人の気配が無い家屋にお邪魔し、地図を机に広げる。
「こっちが北で、こっちが東。天災の発生予測地点の中心は?」
「ここです」
狙撃兵の1人がチェルノボーグの全体図から少し離れた箇所、北東の方角を指差す。
「なら、南西方向に逃げるから」
「いや駄目だ」
思わぬ人物が俺の声を遮った。
俺達の視線の先には、ボリス侯爵が険しい顔で地図を睨んでいた。
「おい、どういう事だあんた」
「待て、落ち着け」
食って掛かろうとした狙撃兵の1人を宥める。
詰め寄りかけたそいつに一瞬目を遣ったが、侯爵の目は再び地図に向けられた。
「前回の移動方向とは逆方向だ。緊急停止している状態ならば、そちらに進むためには一度移動都市全体の進行方向を変える手順が必要になる」
「どれくらいかかる?」
「確か30分程だ。看過できないロスだろう?」
「確かにそうだな」
これだけ大きい構造物ともなると車のように簡単にギアを変えたりとかもできないんだろう。
「なら北西方向に曲がりつつ天災から逃げることになるから」
「避難を開始するとしたら、ここだろう」
侯爵が南側の区画一帯を指で囲む。
「これだけの緊急事態だ。先に源石エンジンを起動させて方向転換しつつ、移動しながら被災箇所を切り離していくことになるだろう」
「やっぱりそうなるか」
「ふん。腹立たしいが仕方があるまい。天災に遭い動けなくなった区画など重荷にしかならんからな」
地図を間に挟み議論を交わし方針を決めていく俺達。
そんな俺達を、傍らのレユニオンメンバーは信じられない顔で見ていた。
「なんで、そんな平気にしてられるんですか?」
「何がだ?」
我慢できなくなった狙撃兵が言い募る。
「こいつはボリス侯爵、貴族です! 前皇帝の下で揃って感染者差別を煽っていた人間ですよ? どうして何もなかったみたいに接しているんですか?」
もう1人の制止も聞かず、侯爵を指差す。
「知ってるんです! こいつは権力欲しさにとある施設の研究者達を自分の言う通りになる奴を残して皆殺しにしたって!」
リュドミラの親の事だろう。
そして、残った研究者とはアレックスとミーシャの父だ。
「そんな奴が、今更善人ぶるなんて納得いきません!」
そう息巻く彼を見て、侯爵はそれを鼻で嗤った。
「小僧、勘違いするな」
1歩踏み出す。
「私がこうやってお前達に協力するのは全て、このチェルノボーグの為だ。善意でやっているなど見当違いも甚だしい」
「何だとっ!」
掴みかかる彼を咄嗟に抑える。
そんな彼に対し、侯爵は至極冷静に説明した。
背筋を伸ばし、俺達を見下ろす彼からは為政者としての自負を感じた。
「いいか。そこの男の話で私も大体の状況は把握した。議会の古狸や血の気の多い軍人どもがここを利用して戦争でも起こすつもりなのだろう。全く、こちらが新参者だと舐めおって!!」
叩きつけた拳は壁に亀裂を生じさせた。
おい、他人家だぞ?
「私はボリス侯爵。このチェルノボーグを治めるよう陛下より賜った誇り高き貴族だ! だからこそ、ここまでされて黙っているつもりはない。この騒動を生き残り、こんなバカげた計画を実行に移した奴らを血祭りに上げてやらねばならんのだ。精々お前達を利用してやるだけよ」
最後の一文は要らなかったが、まあいいだろう。
こっちも利用させてもらう気満々だからな、お互い様だ。
「言っとくけど、あんたが今体中穴だらけじゃないのは俺のお陰ってこと忘れるなよ?」
「ふんっ、そんなもの無断で私の執務室に入った時点で帳消しだ。国家反逆罪で極刑だからな」
視線がぶつかりバチバチと火花が散っているように錯覚する。
目を背けたら負けな気がして、いい笑顔のまま手を差し出す。
侯爵もその手をガッと握った。
「あくまでもこの騒動が鎮圧されて天災から逃げきるまで、協力してやる」
「協力してください、でしょう? そちらこそ、ちゃんと役に立ってくださいね?」
「ははははは」
「ふふふふふ」
互いに相手の手のひらを握りつぶす勢いで握手する。
そんな俺達を狙撃兵の2人は何故か肩を震わせて見守っていた。