明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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今回くそ長くなっちゃいました。
でもしょうがない。書きたいとこ全部書いたらこうなっちゃう。


今回は三人称視点です。


第三十七話 万象萌芽・下

 

「サーシャ。来たぞ!」

「弾幕を切らすな。侵入させなければ当たらなくてもいい」

「了解!」

 

 直後、高台から一方的に矢の雨が降り注ぐ。

 

 日の光に照らされた鏃が鈍く輝き光の跡を残す。空を一時的に覆いつくす程のそれらに晒されれば、例え訓練された兵士であったとしても絶望しただろう。

 

 だが、それらが標的を捉えることは無かった。

 

 

「くそっ、化け物め! なんで当たらねえ?!」

 

 数十、あるいは百を超えんばかりの矢の嵐の中、悠然と建物へと近づいていく人影があった。

 

 彼らは黒い装束に身を包み、滑るように弾幕を躱していく。

 黒い笠に隠され表情も伺えず、音も無く屋根を飛び移っていくその姿は幽鬼のようで不気味だった。

 

 レユニオンはこの時点では知らなかったが、彼らは今回の事件を早急に解決しようとウェイ長官が派遣した兵だった。

 龍門の暗部を担う部隊、黒蓑。裏の仕事に特化し秘密裏に龍門の安寧を脅かす存在を排除するための存在。

 そんな彼らの戦闘能力は当然高く、いかに訓練されたレユニオン兵といえど苦戦は免れなかった。

 

 

 それでも、事態は現状膠着していた。

 黒蓑の一団は負傷する気配すらないが、レユニオンが作り出した即席の牙城を前に攻めあぐねてもいた。

 

 それにはいくつか理由がある。

 まず、サーシャが地理的に籠城に適した建物を指定していたこと。見通しが良く明確な高低差の有利があり入り口が少ない。内部に罠を仕掛けている事に黒蓑側も当然気付いており、様子見の時間を引き延ばしていた。

 

 次に、黒蓑側が本気でなかったこと。

 そもそも、今回の彼らの作戦目標は隠れ潜んでいたレユニオンの一団の()()()()()()()だった。普段であればそのような命令は下されない。龍門に仇なす連中を存在ごと消し去るのが彼らの使命、しかしウェイ長官は今回の騒動の裏に外部勢力が関わっていることには気づいていた。

 このままレユニオン側と取り返しのつかない亀裂を生むわけにもいかず、かといって龍門の中の不穏分子をそのままにするわけにもいかない。そんな中での苦肉の策として黒蓑を動員しての早期解決を実行に移したという経緯があった。

 彼らを確保して尋問してしまえば少なくとも彼らの容疑は晴れる。黒蓑はそういった情報を吐かせるための技能もある。それで内部にスパイがいれば良し、レユニオン外で工作をしている人間がいるのなら本隊が龍門の手にある以上以前よりも迂闊な行動はできなくなるだろう。

 

 

 そういった事情が重なり、何とか均衡は保たれていた。

 だがそれも長く保ちそうには無かった。

 ただでさえ少ない弾や爆薬が物凄い勢いで消費されていく。

 

 

 部隊の状況を逐一把握しながら自らも狙いを定めていたサーシャも芳しくない現状に冷や汗を流す。

 

 

「すまん、抜けた!」

「!」

 

 悲痛な叫びに標準を建物近辺に移す。

 見れば正面の入り口5メートルほどの位置まで黒蓑の1人が迫っていた。

 

 

(行かせない)

 

 狙いを変えてから照準を合わせ引鉄を引くまでに掛かった時間は1秒にも満たない。

 正確かつアーツによって強化された一撃は確かに標的を捉えたはずだった。

 

 

 だがその姿がまるで蜃気楼のように揺らいで見えた瞬間、矢は何もない地面に突き刺さり衝撃で土煙を上げた。

 

 風が立ちこもる砂を押し流すと、何もなかったかのようにそこに黒蓑が立っていた。

 

 

(くそ)

「惜しいな。優秀だが、これだけ近ければ殺気も感じ取れる」

 

 老練の兵士の言葉が聞こえた気がした。

 サーシャは自動バリスタに射撃の命令を送る。入口正面に備え付けられたそれは侵入者迎撃用に用意してあったものだ。

 

 だが放たれた矢はまたしても蜃気楼のように揺らいだ体を素通りしていった。

 

 

 サーシャは冷静にこの状況を分析し打開策を探していた。

 だが。

 

「気が逸れたな」

「! しまった」

 

 そこにただ立つだけの男を差し置いて、1人の黒蓑が猛然と駆ける。

 

 咄嗟に狙撃するが冷静を欠いたそれは入口へと突貫するその背後に突き刺さった。

 

 

「くそっ侵入者だ! 2階の人員は階を上がってくる奴の迎撃に回れ、他は引き続き外縁を警戒しろ!」

 

 

 サーシャは返事も待たず階段を駆け下りる。

 

 3階と2階を繋ぐ踊り場で一度足を止め、アーツによる隠蔽を施しながら足音を立てないよう慎重に2階を覗き込んだ。

 

 

 やけに静かなそこには既に多くのレユニオン兵が倒れ伏していた。

 自分のいる場所からでは生きているのかすら分からず、焦る気持ちを必死に押し殺す。

 

 悔しさに歯を噛みしめる音すら立ててはならない。

 レユニオン迷彩狙撃兵を束ねる長として、これ以上の失態は重ねられなかった。

 

 

「止まりなさい!」

 

 聞き覚えのある声がしてゆっくりと部屋全体を見渡せる位置に移動する。

 

 角から顔だけ出せば、グレースロートが角に追い詰められていた。

 

 

 彼女は背にレユニオン兵の1人を庇っていた。

 彼女がここに来るまで肩を貸し歩いていた、足に傷を負った男だった。

 

「よせ、嬢ちゃん」

「あなたは黙ってて!」

 

 後ろを振り返らないままそう叫ぶグレースロート。

 そんな彼女らに黒蓑の1人はゆっくりと近づいていく。

 

 

「抵抗するのはおすすめしない。口を割らせるだけだ、死にはしない」

「そんな事、信じられるとでも? それに、彼らがそんな事を企むことはないと上は気付いているはず」

「甘いな。そちらの思惑は私達にとってなんの意味も持たない。この龍門に外患を持ち込んだ、それだけでも粛清の対象足り得る。命を奪わないのはあくまで更なる外患を招くことを防ぐためだ」

 

 暗にこれは龍門の長たるウェイ長官の指示であり、覆ることはないと示されて顔を顰めるグレースロート。

 

「そもそもお前はレユニオンの者ではないだろう? 何故そこまで加担する?」

 

 そう口にしながらも、その答えに然程興味は無いようだった。

 龍門に仇なす者を消し去る道具として、無感情にいつでも相対する敵を制圧できるよう構える男。

 

 そんな彼に銃口を向けながら、グレースロートは迷いなく口にした。

 

「私はロドスの一員。感染者を守るのは、当たり前」

「そうか、腕の1、2本は覚悟しろ」

 

 退く意思が無い事を確認した黒蓑が一瞬で距離を詰める。

 

 後ろにレユニオン兵を庇っている以上避ける選択肢はない。

 黒蓑の振るう剣が、ボウガンを構える彼女の腕へと吸い込まれていく。

 

 

 まずい、と持っていたボウガンの引鉄を引くサーシャ。

 

 

「ちょっと、待った~~~!!」

「!!」

 

 その直後、耳障りなエンジン音とともに待ったが入った。

 サーシャも咄嗟に引鉄にかけていた指を外し、声のした壁の向こうを見る。

 

 コンクリートの外壁が、まるでバターのように切り裂かれる。

 そして声の主が切断された壁を砕きながら両者の間に割り入った。

 

 身の丈ほどもあるチェンソーを片手に、フェリーンの戦士が豪快に着地する。

 彼女から沸き立つ熱風に煽られて、長い濡羽色の髪がなびく。

 

 

「ロドスエリートオペレーター、ブレイズ到着! 無事よね、グレースロート?」

「え、ええ」

 

 グレースロートは突然の同僚の登場に面食らっていた。

 つい先程まで斬られる覚悟でいただけに、ブレイズの明るい声は少し場違いにさえ感じた。

 

「まったく、単独行動ばっかであんたの隊長が嘆いてたわよ? その挙句1人でレユニオン護衛の任務に就くなんて少しは仲間を頼ったらどうなのよ?」

「・・・助かったわ」

「だいたい・・・え、なんて?」

 

 素直に謝罪するグレースロートに対して、その反応が信じられず思わず聞き返してしまうブレイズ。

 

「私1人では任務を全うできなかった、だから感謝している」

「ふ、ふ~ん? まあ分かっているならいいわ」

 

 どうしちゃったのよこいつ、と小声で呟くブレイズ。

 

 夜に彼女とサーシャの間にあった一幕など知りようがないブレイズはあまりの変わりように驚きを隠せなかった。

 自分に素直に感謝した上、自分1人では力不足だったと素直に認めた。

 単独行動を好み、感染者に対して身構えて距離を保っていたあのグレースロートとは到底思えない。

 

 礼を言う彼女も、記憶にあるそれよりも自分に対して近づけているように感じた。

 

(感染者が怖くなくなった? 何かあったのかしら・・!)

 

 

 彼女が変わった理由に思考を巡らせながらも、視界の隅に動く気配を感じてチェンソーを振るうブレイズ。

 それは気配を殺して再びレユニオン兵に接近しようとしていた黒蓑の足先数センチを抉っていた。

 

 

「止まりなさい。私、強いわよ?」

「そのようだな。だが、ここでは満足にそれを振るえまい?」

 

 表情を繕いながら、痛いところを突かれたなとブレイズは思う。

 

 このコンクリート造の建物の中で先程のように無暗にこの武器を振るえばたちまち支えが崩れ崩壊するだろう。

 1対1(タイマン)なら問題ないだろうが、今回はあくまで籠城戦。拠点を失くすわけにはいかなかった。

 

「なら、これで詰みだ」

 

 突如聞こえた声にブレイズだけでなく黒蓑の男も咄嗟に振り返る。

 

 何もない空間からアーツを解除したサーシャが姿を現す。

 集中すれば隠密アーツを看破する程の腕前の黒蓑といえどブレイズの乱入により流石に意識が分散されていた。

 

 サーシャは必中の距離を保ったまま黒蓑に投降を勧める。

 だが当然、それを了承するわけも無かった。

 

「我々はただの剣。替えは効く、人質に取ろうにもその価値は無い」

「その事なんだけど、お?」

 

 何かを口にしかけて、ブレイズは左耳を押さえる。

 その場の全員が黙って成り行きを見守っていた。

 

 身に着けたインカムから流れる報告に、やがてブレイズは呆れたような笑みを浮かべた。  

 そして自分達に囲まれている黒蓑の男に同情しながらも告げた。

 

「あ~、あんたたちは残念ながらもうお役御免だそうよ?」

「何?」

 

 ブレイズは人差し指で天井を指す。

 

「もう、()で話は済んでるって」

 

 

 

「兄貴!」

「ドクター、アーミヤ」

「よく今まで持ちこたえた、サーシャ!」

「アーミヤちゃん! 疲れた~」

「うわっ、ブレイズさん。苦しいです」

「は~、かわいいウサギちゃんを抱きしめてないとお姉さん回復できないな~?」

「もう、ブレイズさんったら」

「グレースロート、お疲れ様」

「私も。グレースロートさんがご無事で、本当に良かったです。近衛局とは別の部隊が交戦したと聞いた時はどうしようかと」

「・・・おかげさまで、無事よ。任務も、ちゃんと遂行したわ」

「! はい!」

 

 戦闘も終結し、レユニオンが立てこもっていた建物のすぐ傍で再会を果たした一同。

 イグナスは無事隊長としての役目を果たした弟分を存分に撫で回し、ブレイズも同様にアーミヤを抱きしめ吸っていた。

 

 そこから一歩離れたところで任務完了の報告をするグレースロート。

 彼女が柔らかい、どこか憑き物が落ちたような笑みを浮かべていることにドクターとアーミヤも気付いた。

 

 龍門に来てすぐの頃、孤立して頑なだった様子に不安を覚えていた両者だったが、心配はなさそうだった。

 

 

「それにしても、どうやって龍門側を退かせたの?」

 

 グレースロートが当然の疑問を投げかける。

 

 解決事態の糸口が見えず、しかも相手はあのウェイ長官だ。交渉は難航したに違いない。

 そう思っての問いだったが、アーミヤ含め増援組の表情が固くなる。

 

「ついさっきウェイ長官らと俺達で交渉したんだが」

「実はまだ解決したわけじゃないんだ」

 

 ドクターが振り返る。

 見ればチェンを含めた近衛局の面々に加え、黒蓑の一部までもがその場に留まっていた。

 

 彼らはいつでも戦闘態勢に入れるよう構えていて、その緊迫感がロドスの面々にも伝わってきた。

 

「これから今回の暴動事件の黒幕を見つけないといけない」

 

 そう言ってイグナスは待機しているレユニオンの一団の元へと歩き出す。

 

 

「お前達、負傷した奴は一旦待避させるぞ。動ける奴は手を貸してやれ」

「「「了解」」」

 

 負傷の少ない者が負傷者に手を貸し移動していく。

 当然レユニオンの一員としてイグナスもそれに協力する。

 

 彼が向かった先は、足を負傷していたレユニオン兵だった。

 

「あんたがイグナスか。幹部の人に肩を貸してもらうってのは、なんだか畏れ多いな」

「気にするな。こういうことに偉いも何もないだろう?」

 

 イグナスは地面に腰かけていた彼に手を差し出し、掴んだ手ごと引っ張り上げる。

 赤く染まった包帯が巻かれた足を宙に浮かせ片足で立つ男。

 

 そんな彼に肩を貸す前、イグナスは問いかけた。

 

 

「なあ、サーシャの奴はどうだ? うまくやれてたか?」

「ん? ああ、そうだな。頼もしい奴さ。若いのに立派なもんだ。あいつと、あのロドスの嬢ちゃんのお陰で死なずに済んだ」

 

 感謝しなくちゃなと、そう笑う彼を視てイグナスは納得する。

 

 

 そして、彼に腰の短剣を突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、ようやく会えたな、黒幕さん? いや、()()()

「・・・へえ、()()を見破るか。やっぱり面白いね君」

 

 

 

 姿形は変わっていない。だがその発言に今までの親しみやすい印象はなく、むしろ超越者じみた余裕を感じた。

 

 

 

「なんでここに、ていうのは愚問だな。どうやら軍事委員会はよほどレユニオンが怖いらしい」

「怖い、というのとは少し違うかな。芽は早めに摘むに限るってことらしいよ?」

 

 もはや偽るつもりもないのか、その容姿が溶けるように流動的に移り変わっていくのを見て、イグナスは内心冷や汗をかいていた。

 

 変形者。 

 原作におけるヴィクトリア編において自救軍を壊滅に追いやったサルカズ陣営の諜報のエキスパート。サルカズの中でも最も特異な存在であり、姿形だけでなく記憶や感情すら読み取る反則級の能力を持ち、なおかつ統一された群体として存在する疑似的な不死者。そして、かつてサルカズを統治していた十王庭の1つ。

 

 

 正直、イグナスがその可能性に気付けたのは偶然だった。

 

 ここまで徹底的に調べてもその存在を掴めない謎の暗躍者、動機を掴もうにも心当たりが多すぎて絞り込めなかったイグナスは逆に誰ならばここまで完璧に騒動を起こせるか考えた。

 

 ホワイダニットではなくハウダニット。

 

 ここ最近各国からレユニオンの噂を聞きつけ感染者が集ってきていたこと。そしてあの龍門の暗部である黒蓑部隊をして黒幕の居場所を突き止められなかったとウェイ長官との交渉時に判明したことからして外部の工作の線は薄い。

 しかしレユニオン内部にスパイがいるのならそれは相当隠密に長けた人物だ。そしてその中で現在レユニオンと龍門が決裂することで得をする人物もしくはその集団。

 

 

 そこまで当たりをつけた上で、遂に先程直接その眼で視て確信した。

 

 相対する彼の魂、それは常人というにはあまりに大きく泰然としていて、その割には無垢で色もなくどこか虚ろな印象を受ける。

 質問した内容に答えた際、ほとんど感情を揺らさなかったのも決め手となった。

 

(マジで俺がこのアーツを使えてよかった。でなければ一生犯人を追って下手すれば内部分裂していた。姿形だけでなく対象者の記憶すら完璧に読み取るといっても、魂そのものを偽ることはできなかったらしい)

 

 

 やがて変形者は真の姿を現す。

 

 儚げな翠の髪に小柄な体躯。

 髪と同じ色をした瞳は、彼にしては珍しく好奇心を抑えられないでいた。

 

 それもそうだろう。

 

「異種族の魔王、そして特異点(イレギュラー)。君達にはとても興味がある」

 

 

 彼の眼に他の存在は映っていない。

 ただ2人。目の前で刃を向けるイグナスと、自らを見据えるアーミヤだけが彼の関心を寄せていた。

 まるで、それ以外は路傍の石だとでも言わんばかりに。

 

「貴方が、変形者ですか?」

「そうだとも、今代の魔王。会えて嬉しいよ。こんな気の乗らない仕事に出向いた甲斐はあった」

 

 固い表情を崩さないアーミヤに対し、変形者は親し気に話しかける。

 

 この緊迫した場において、彼だけが一切の危機感も抱いていなかった。

 

 

 それは彼がこの場で誰よりも強いという自負故か。

 あるいは変形者という、遥か昔、それこそ()()()()()()()()()()()()()()から存在し続ける歴史の傍観者であるが故か。

 

 

「この長い歴史において初めて生まれた()()()()()()()()()()()()()()。君は()()から戴いた王冠で、一体何を成そうというんだい?」

「ロドスの理念は変わりません。感染者を救い、非感染者と共に歩める世界を創る。それが私達の歩む道です」

「そう急ぐことはないよ? 君の道のりはまだ長い。そんな()()()()()()()に拘らなくても、いずれ分かる時が来る」

「おい」

「!」

 

 瞬間、刀が鞘走る音とともに一閃が繰り出される。

 

 変形者はそれを難なく避け、珍しい個体との対話に水を差した下手人に不快感を滲ませる。

 

「邪魔しないでくれるかな? 部外者が入り込めるような場ではないんだ」

「そちらこそ、さっきから黙って聞いていれば随分勝手なことを言ってくれる」

 

 

 手にした刀を振り、再び構えるチェン。

 彼女もまた変形者に劣らない程の不快感と怒りを表情に浮かべていた。

 

「チェンさん!」

「アーミヤ。あいつが黒幕、という事でいいのだな?」

「はい。ですが」

「それが分かればいい。魔王だのなんだのは後にしろ」

 

 

 チェンが大地を踏みしめ、駆ける。

 一瞬で変形者の懐へ辿り着いたチェンはそのまま袈裟斬りを放つ。

 

 だがそれも見切られ間合いを取られ、間近から放たれる青い流体のアーツをチェンは転がるようにして避けた。

 

「何をそこまで怒っているんだい? これは僕達と彼女の問題だ」

「いいや。貴様は私の逆鱗に触れた」

 

 平然とした変形者の態度に怒りを通り越して逆に頭が冷えたチェンは、いつでも飛び出せるよう構えながら語る。

 

「貴様はアーミヤとあいつの、タルラの理想を侮辱した! 何より、貴様らの企みによって龍門が脅かされた!」

 

 その言葉にアーミヤとドクターが驚く。

 この数日間、ともに行動をする中で彼女とは何度か話をしたが龍門近衛局の隊長としての側面以外はあまり見られなかった。

 感染者に対する対応について何度も衝突した。アーミヤは一度だけチェンがスラムの感染者の少女へ向けた優しさを知っているが、内心よく思われてはいないのだろうと考えていた。

 

 そんな彼女が、ロドスの理想を否定した彼に怒りを露にしていた。

 

 

 チェンもまた、ここまで自分が怒りに身を震わせることになるとは思っていなかった。

 

 だが、彼女はこれまでの数日間いかにアーミヤ達ロドスの面々が理想に向けて力を尽くしているかをその目に映した。荒削りで甘い部分はあるものの、彼女達が掲げる理想をチェンもまた心の奥では認めていた。

 自分の率いる近衛局の隊員、そしてなんとか守ろうとしているスラムの住民達が謂れのない危険に晒された。ただでさえ立場の弱い彼らは、黒幕の存在が示唆されていなければレユニオンごとまとめて粛清されていたかもしれなかった。

 何より、あれだけの苦難や挫折を経て再会を果たしたタルラとまた埋めようのない亀裂が生じかねなかった。

 

 それらを差し置いて部外者などと、到底許せる物言いではない。

 

 

 低い体勢から相対する変形者を見上げる。

 素性はともかく、今の自分では逆立ちしても太刀打ちできないことは明白だった。

 

 武人としての勘が、目の前の敵を遥か彼方まで伸びる巨大な大木であるかのように錯覚させる。

 

 それでも、退くわけにはいかない。

 かつて失ったと思っていた姉を取り戻さんと打ち込み、磨き続けてきた剣の技、受け継いだ龍を殺す太刀。

 

 それらは全て、自らが守ると定めたものを守り通すために振るうとあの日に決めた。

 

 

「貴様がこの龍門に害をなすというのなら、芽吹かんとする想いを虚しいと嗤うのならば、この命を以てしてでも貴様を倒す」

 

 

 チェンの手が腰に佩いたもう1つの刀の柄を掴む。

 

 常ならばその刀身を晒すことを拒む意志持つ剣も、抜けと言わんばかりに自ら鯉口を切る。

 チェンはその感触に思わず笑みを浮かべ、すぐさま裂帛の意思を込めて叫んだ。

 

「赤霄、抜刀!」

 

 

 妖しく輝く龍殺しの剣に、多くの者が魅入られる。

 

「へえ。その刀面白いね、源石を直接鍛造したのか」

「なめるなよ!」

 

 赤い軌跡を残してチェンが再び加速する。

 

 変形者が青い流体のアーツを打ち込むが、それらは全て彼女の持つ赤霄によって切り伏せられた。

 アーツを切り裂くその刀によって、彼我の距離はみるみる縮まっていく。

 

「終わりだ!」

 

 そして、その刃が変形者本体に振るわれる。

 

「仕方ない、()も参戦しよう」

「! 何?!」

 

 変形者が口にしたその時、チェンは何故か真横からアーツによる襲撃を受けた。

 

 直撃は何とか免れたものの、衝撃を反らすこともできず吹き飛ばされる。

 

 

 すぐに立ち上がったチェンは、そのアーツを放った人物の姿を見てさらに驚愕した。

 

「まさか・・」

「ごめんね、チェン隊長?」

 

 近衛局の隊員の1人が自分に手を向けていた。

 謝罪する彼の口調が明らかにおかしい。まるで、自分が先程まで刃を向けていた敵のようだった。

 

「ここまでするつもりはなかったんだけどね。安心するといいよ、もうこの場に僕達の()()は紛れ込んでいないから」

 

 しかしその姿も先程と同様に溶けるように移り変わり、変形者と全く同じ姿になる。

 

 

「私の・・部下を・・」

「彼は最期まで君に僕の存在を知らせようと足掻いていたよ。慕われていたんだね?」

「くっ、貴様ぁ!」

「そこまでです、変形者」

 

 少女の声がその場を鎮める。

 チェンと変形者の死闘の場へ、アーミヤが歩いていく。

 

 

「ありがとうございました、チェンさん」

「アーミヤ・・・」

「私達の理想を守ってくれてともに立ち上がってくれた事、本当に嬉しかったです。だからこそ、私も覚悟を決めました」

 

 そう言ってチェンの横に並び立ったアーミヤは、目前の変形者達を力強く見据えた。

 

「さて、もう一度問おうか、小さな魔王」

 

 その力で、何を成すのか。

 

 投げかけられたその問いに、アーミヤはもう一度同じ答えを繰り返した。

 

「甘いね、小さな魔王」

「私達の歩む道を、誰にも否定なんてさせません!」

「その先に何もない事を知っていながらも進むのかい? 今まで君達のような人間がいなかった訳じゃない。だが彼らは等しく最後には何も成し得ず散っていった。その命が短く、そして彼らの進む未来に先がなかったからだ」

「貴方は勘違いをしています。私達が進む道は前人未踏、この大地が永く見ることのできなかった景色です。ならばその道は見つけるのではなく切り拓くもの!」

 

 アーミヤが手を前に突き出す。

 それは彼女が語った未来を掴み取らんとするようであった。

 

 アーミヤから黒い稲妻が迸る。

 だがそれはアーツを放つ前兆ではなく、むしろ彼女自身に向かって収束していく。

 

 彼女に嵌められた指輪から、何かが溢れ出そうとしていた。

 

 ドクターとイグナスが彼女の名を呼ぶ。

 それに構わず、アーミヤは変形者に宣誓した。

 

 

「未来を掴み取る為に進む事を、私は恐れません!」

 

 

 そして彼女は、アーミヤは。

 

 魔王の玉座に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 魔王。サルカズの王。

 その名を継ぐ者が背負う業。

 

 それは歴代のサルカズの王の記憶の継承を意味する。

 継がれた王冠は、彼らの怨嗟、憤怒、悲哀、絶望、それら全てを取り込み混沌とした黒い輝きを放つ。

 

 

 様々な記憶がアーミヤの中を駆け巡る。

 

 

 ロドスの仲間達、フロストノヴァとケルシーとドクターが自分を振り返って待っている。

 彼らが消えて、懐かしい、穏やかな笑顔を浮かべたテレジアが目の前に立っていた。

 

 駆け寄ろうと一歩踏み出せば、軽い衝撃とともによろめく。

 

 視線を下げれば、彼女の手にした剣が胸を刺し貫いていた。

 

 知らない記憶が流れ込む。

 

 

 それは1人のサルカズの王だった。

 サルカズという祝福されぬ種族に降りかかる世の不条理を嘆き、自らを包む大火で零れ出る涙を焼き去る憤怒の化身だった。

 サルカズの君主として、最期までその炎を絶やさなかった姿にアーミヤは悲哀と恐怖と敬意が入り混じった感情を抱いた。

 

 やがてその身は灰となり、彼が手にしていた剣のみが地に突き刺さっていた。

 剣と自分だけが取り残された空間で、アーミヤはその剣に歩み寄る。

 

 その柄を握ると、刀身を包んでいた蒼い炎が右手を這って昇ってきた。

 

 熱い。灼け焦がれてしまいそうだ。

 感じる熱も、そこに込められた怨嗟と怒号も、アーミヤという人格を塗りつぶす勢いで大きく広がっていく。

 

 それでも、アーミヤはその手を離さなかった。

 

―今の私では、扱えない。

 

 だから傍らに立つチェンから感じた記憶、剣とともに在ったその人生の軌跡、それらも自らに取り込む。

 それはこの数日行動をともにして分かった彼女の人柄、自分と同じように苦悩しながらも誰かを救う事を諦めきれない彼女を頼りたいと願ったからなのか。

 

 

 彼女の感じた誇り、怒り、苦悩が自分に溶け込んでくるようで。

 これまで経験したことのない記憶の濁流に、自分を見失いかけたその時。

 

 

 誰かが優しくその頭を撫でた。

 

 

「!」

 

 苦痛に俯いていた顔を上げれば、そこにはよく見知った青年が笑っていた。

 

「イグナス、さん?」

『気負い過ぎだ。自分のするべきこと、したいこと。両方ちゃんとわかってれば合格点だ』

 

 私のするべきことは、魔王として、1人の感染者として、感染者の差別の無い世界を作ること。

 

 私の、したいことは。

 

「あの時みたいに、穏やかな笑顔に囲まれて、ずっとずっと平和に暮らしたいです」

 

 アーミヤの口にした答えに、イグナスは反応を示さなかった。

 その代わり、頭を強く撫でつけられ乱れた髪が垂れ下がった。

 

『それは必ず、お前をまた立ち上がらせてくれる』

 

 それを聞いたアーミヤは1人納得する。

 

 これも記憶だ。初めて彼と出会った時の記憶。

 気さくで頼れる、けど少し抜けたところもある、不思議な人。

 

 

 今だってそうだ。自分を見失いかけたこの瞬間、まるで分っていたかのように私の前に現れた。

 

「ありがとうございます、イグナスさん。おかげで私は私のまま、この苦難に立ち向かえます」

 

 

 彼の正体については依然として謎のままだった。ケルシーも未だに警戒するよう口酸っぱく言っている。

 それでも、彼が裏切るだなどとアーミヤは思っていなかった。

 

 正面に佇む彼を見据え、もう大丈夫だと感謝するアーミヤ。

 それに対しイグナスの虚像は何故か身を悶えさせながら言った。

 

 

『お? 何アーミヤちゃん好きな人いるの? いいじゃん俺大好物だよそういうの!』

 

 

(・・・こういうところは、やっぱりイグナスさんですね)

 

 それは過去の残像が故、見るものを選別することはできない。

 かっこいいまま姿を消すこともできず、記憶の中ですらどこか抜けているイグナスを背にアーミヤは剣を携えて光の先へ歩いて行った。

 

 

 

 現実世界へとアーミヤの意識が戻る。

 

 開いた瞼に映る光景は、記憶を辿る前とほとんど変わっていない。

 

 だが皆一様にアーミヤに驚愕の視線を向けていた。

 

 

 

「「その炎、は」」

 

 中でも一際驚愕に目を見開いているのは変形者だった。

 

 

 アーミヤの手には、いつの間にか一振りの剣が握られていた。

 チェンの記憶を取り込んだ影響だろう、それは彼女が今手にしている赤霄と呼ばれる剣に瓜二つだった。

 赤霄を黒く染め上げたようなその刀身に、記憶で見た蒼い炎が時折揺らめく。

 

 

「「クイロンの、()()()()か!」」

 

 興奮しながらその名を告げる変形者達。

 彼の眼はもはやアーミヤと彼女から放たれる蒼い炎に釘付けになっていた。

 

「これが、今私にできる証明です。変形者」

 

 アーミヤはその剣の顕現を以て証明した。

 自分はサルカズの王冠を使うに能う者だと。

 

 

 それを聞いた変形者達の纏う雰囲気が一変する。

 聞き分けの無い幼子を諭すような寛容さから、その器を見定めんとする裁定者へ。

 

 その冷たく光る眼差しは、ほんの僅かな期待を隠せないでいた。

 

 

「「なら傲慢にも魅せつけろ、小さな魔王。今口にした野望がその王冠に値するか、悠久を生きる僕達が見定めよう」」

 

 彼らからいくつもの呪物が召喚される。

 デコンニュータントと呼ばれるそれは、1つ1つが変形者の放っていたアーツエネルギーを帯びていて、それら全てを相手するのは至難の業だろう。

 

 

 だが。

 

「チェンさん」

「ああ、アーミヤ」

 

 互いを見ることなく、自ずと同じ構えを取る両者。

 

「赤霄」

「影霄」

 

「「絶影!」」

 

 2本の赤霄が連なる。

 同じ経験、同じ術理、同じ理想の元、振るわれる剣もまた一切のズレなく共鳴する。

 

 それはまるで実体と影。

 

 本来あり得ぬ2本の赤霄。それらが織りなす音を超えた連撃に巻き込まれ、悉くが放ったアーツごと両断されていく。

 

 そして。

 

「ぐっ・・!!」

 

 今度こそ、赤霄の剣は本体に届いた。

 

 一方は斬撃とともに消え去り、もう片方も致命傷を負った。じきに消え去ることだろう。

 

 虫の息になりながらも、至極穏やかな顔でアーミヤを見上げる。

 

「認めよう、今はまだ小さな魔王。君は確かに魔王の器足りえる。だが覚えておくといい。サルカズの憤怒は今もこの大地に燻っている。一度火が灯されれば、この大地の遍くを焦土に変えるだろう。これまで積み上げられた時と屍は、もはや誰にもどうこうできないほど深く大きい」

「・・・それでも、今目の前で苦しむ人達を見過ごすことはできません。彼らを救う為に手を伸ばし続ける事を、私はもう誓いました」

「そうか。ならもういいよ。言う事はなにもない」

「ああ。なら1ついいか?」

 

 イグナスが進み出る。

 

「そういえば忘れていたよ、特異点(イレギュラー)。君と話す時間があと少ししかないことが残念だ」

「その呼び方やめてくんね? なんか仲間外れみたいで嫌なんだけど」

 

 本気で嫌そうな顔をするも改める気配は感じられず、仕方なしとイグナスは用件だけちゃっちゃと伝えることにした。

 

「これ以上うちらにちょっかいかけるのはやめてくれ。こんな事毎回やるのはキツ過ぎるし、成り代わりの元になる人が報われねえ」

「無理だと言ったら?」

「俺が全部見つけて全部潰す」

 

 端的に告げられたそれに、変形者はほんの一瞬気圧された。

 魔王や十王庭の者とは違う、今までにない自分の能力が全く通用しない相手。そんな彼からの宣誓によって初めて襲い来る圧倒的な未知に高揚する。

 

「約束はできないかな。そもそも僕達は敵同士だし」

「そこだよ。あんたらはそもそもカズデルとかそこまで興味ないだろう? あるのはただ1つ、変形者という種族が迎える真の変化についてだけだ」

「随分知ったような事を言うね? 僕達が古より存在してきた、これまで()()()()()()()()()()()()()()()()超越者だと理解しているのかい?」

「超越者ねえ? 自分探しの旅とか、生きることの意味を探すとか、やってること思春期の少年と変わらねえぞ?」

「・・・・・・」

 

 そのあまりにも大胆な暴言に、悠久の時を生きる変形者は言葉が出てこなかった。

 

「そりゃそんな長く生き過ぎてると色々達観しちまうのかもしれないけど、もっと周りをよく見てみようぜ? 面白い事なんてそこら中に転がってるんだから」

「・・・・」

 

 イグナスの言葉に変形者は納得がいかなかった。

 

 

 長い、長い時を経た。

 その全てをこの目に映して、数多の祝福と嘆きを聞いた。

 

 巡る生命の循環の中で、自分だけが停滞していた。

 何も成せず、ただ傍観し続けた。

 

 進化もなく退化もない、ただ時に取り残された生に何もかもが色褪せていった。 

 

「まあ、それでも苦しいっていうなら。俺が1つだけ答えを用意してやる。あんたが本当の意味で変化を迎えられる方法を」

「本当かい?」

「ああ。だが、今はまだその時じゃない。誓ってもいい」

 

 そんな中で、久しく感じなかった高揚が胸を満たす。

 異種族の魔王、予測不能の特異点、彼らを中心に集う者達。

 

 懐かしい()()という感覚に、変形者の中で天秤は傾いた。

 

「分かったよ。今はその口車に乗ってあげよう。次に出会う時、その答えを聞こう」

「俺としてはあんましおすすめしたくないけどな」

 

 原作で変形者が迎えた1つの結末を思い出し、苦笑いをするイグナス。

 その間にも変形者の体はどんどんと崩壊していく。

 

「それまでは、そうだな。自伝でも書いてみたらどうだ? 他人の記憶じゃない、自分で成した事をまとめた本だ。どうせ暇だろ?」

「・・・覚えておくよ、特異点(イレギュラー)

「あ、だからその名前で呼ぶなって言」

 

 そしてイグナスの抗議を聞き届けることなく、変形者の欠片は散っていった。

 

 

ヴィクトリア 宮殿内

 

「それで、レユニオンへの工作は失敗に終わったと?」

「うん。やっぱりあのイグナスっていう奴は特別だね。すぐに見破られたよ」

 

 聴罪師の問いに、なんてことの無いように告げる変形者。

 その報告をテレシスは玉座にて静かに聞いていた。

 

「では、再度レユニオンに出向していただき次は更に慎重な」

「ああ。もうレユニオンに僕達を送るつもりはないよ」

「・・・なんですと?」

 

 耳を疑う申し出に聴罪師が思わず聞き返す。

 

「だって、行っても見つかるのが目に見えているじゃないか。僕達の役目はあくまでも諜報と内部工作、諜報については送ったサルカズの傭兵達からも報告が来ているんだろう? なら無理に僕達をあちらに送るより他の場所に送る方が賢明だって」

「しかしそれではレユニオンが」

「あのさ~~」

 

 なおも諫言しようとした聴罪師を変形者が遮る。

 放たれた圧により玉座の間の蝋燭が一斉に消え、彼の眼が妖しく光った。

 

 

「もしかして使い潰そうとしてる? 十王庭の1人である僕達を?」

「・・・滅相もありません」

 

 武器を構える気配を微塵も見せないのは王であるテレシスの手前無礼を見せないためか。

 はたまた真の不死者を前に衝突を恐れたがゆえか。

 

「よい。お前達の役目は非常に大きい。その分ロンディニウム内ではその力を存分に振るう事を期待しよう」

「そこは任せてよ。務めは果たすよ」

 

 そうして一礼したきり、踵を返して玉座の間を離れる変形者。

 その背に苦い顔をした聴罪師とテレシスがいる事を意に介さず悠然と歩いていく。

 

 

 やがて変形者は扉の先にいたサルカズの兵を呼び止めた。

 

「ねえ君。何か書く物は持ってない?」

「変形者様! はい、こちらをどうぞ」

 

 サルカズの兵は懐に仕舞っていたペンと手帳を差し出す。

 しかし変形者は顔を顰めた。

 

「もっとたくさん書けるものはないの?」

「も、申し訳ありません! すぐにご用意いたします!」

 

 そして近くにいた同僚に声を掛けすぐさま白紙の本を用意するよう伝える。

 

 言伝られた彼を待つ間、サルカズの兵は何となく質問した。

 

「変形者様、一体何を書き留められるので?」

 

 

 その問いに変形者が答えることは無かった。

 

 

 

 




次回、みんな大好きニアーライト!
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