明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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皆さんの推しカプを教えていただき誠にありがとうございます。

それな! と思うカプやえ、そんな美味しいカプいたの!? となるものもあり栄養が補給されました。

カプ厨よ、大地に満ちよ。週に一度は集会してくれ。推しを推してくれ。


第三十九話 その日、竜は目を開いた

 社交の場を、絹を切り裂くような甲高い悲鳴が通り抜ける。

 

 ターラー人による秘密の社交場は今、恐怖に支配されていた。亡霊部隊に関する調査に来たホルンとバグパイプを尾行しこの場所を突き止め瞬く間に包囲した駐屯軍によって。

 

「ハミルトン大佐・・・」

「また会ったな、スカマンドロス」

「尾けていたのですね」

「合理的管理と言いたまえ。おかげで我々は勘違いをしたターラー人達の巣を炙り出すことができた」

 

 悔し気に名を呼ぶホルンを一瞥し、ハミルトン大佐が手を掲げる。

 それに従って駐屯軍が一斉にボウガンと軍刀を構えた。

 もはや警告という圧ではない。逆らえば直ちに処刑すると言わんばかりの殺気だ。

 

 ホルンとバグパイプは外が騒がしくなっていることに気が付いた。

 物を壊す音に時折混ざる誰かの悲鳴。状況を把握したバグパイプがそのあまりの仕打ちに抗議の声を上げる。

 だがホルンは何も言い返せない。

 臨時統制法。ハミルトン大佐は駐屯軍の最高司令官であるが故に緊急時は都市全体に戒厳令を敷く権限を有している。いくら証拠がないとはいえ、軍にも犠牲が出ているこの状況で彼らの下した決断を覆す力は彼女達にはなかった。

 

「そんな。一般市民を武力制圧するなんてどうかしてるよ! ここの人達はともかく、外にいた人達なんて何の罪もないのに!」

「罪がないだと? 笑わせるな。こいつらを見逃した時点で奴らは等しく罪人なのだ。今日ここで、この売国奴達が陰謀を張り巡らせる事を知らなかった者が外にどれだけ居る? ああ、愚かなターラー人達は同胞愛というものでも掲げていたのだろう。ここで話し合われる内容によって明日にまた貴重なヴィクトリアの兵士が失われる事を知りながらな!」

 

 参加者の1人である男爵がどうにか弁解しようとするのを視線で黙らせ、ハミルトン大佐は集会場の全ての人間に向けて言い放つ。

 

「ヴィクトリアの恩恵を享受しながら、我らと違う言語を話し栄光ある歴史さえ貶める彼らのどこがヴィクトリア人だとっ! 陰謀を巡らせ、市民を守っていたはずの軍人に刃を向けた奴らにまだ慈悲が必要か? 分かったらさっさと退け!」

「大佐。連れていくのならば私を。少なくともここにいる多くの若者よりは、多くを知っています」

「シェイマス! 何故」

 

 この場の全員を連行しようとした大佐に、細身の男性が進んで手を上げる。男爵が呼んだ名前に大佐はほう、と視線を向けた。

 

「詩人シェイマス・ウィリアムズ。貴様の詩集なら読んだぞ。ゲル王の行いを誇張しターラー独自の文化などと広めた愚かな物書きのことはな」

「大佐! 彼を連行するおつもりですか!」

「部外者は引っ込んでいろ」

「大丈夫ですよ、ホルンさん。ご心配なく」

 

 大佐の傍らに控えた兵士が手荒く彼の後ろ手を縛り、肩を押す。

 連行される寸前、彼はホルンに振り返りながら優し気な笑みを浮かべた。

 

 

「あなたとの語らい。大いに参考になりました」

 

 

―「思想は何の役に立つ? 土に一本の羽を植え、それが羽獣になるまでを想像するのはどうだろう?」

 

『私には、この土地を変えることはできないし、変えたいとも思いません。私は、ただ懸命に羽を植え続けるだけの人なのです』

 

 ヴィクトリア語で話し、ヴィクトリア語でターラーの詩を紡いだ彼の背中が遠のいていく。

 

 ホルンは振り向いたその顔が今にも消えそうな蝋燭の灯にも見えた。何とかこの状況を打破できないか。せめて駐屯軍を足止めしなければと思考を巡らせる。

 まさにその時。

 

 

―ポーン。

 

 それは何か、例えばボールのような弾力性のあるものを打ったような音だった。この緊迫した空気にそぐわない、朝の公園でよく聞くような気の抜けたそれ。

 そしてそれに微かに混じる、タイマーのような電子音。

 

「「「!!!」」」

 

 気付いたのは、ホルンとバグパイプと大佐だけだった。

 弾かれるように見た窓の外に、戦場で培った直感が最大級の危険信号を発する。

 

「総員窓から離れろ!!」

「伏せて!!」

 

 その直後。

 ガラスが内側にはじけ飛ぶとともに、外からの爆発音が建物を揺さぶった。

 

「何だ!?」

「奇襲?!」

 

 咄嗟に盾を構えたホルンは、背後のバグパイプが無事な事を確認して壁際に目を向ける。

 幸い、近くにいた大佐が直前に気付いたおかげで大事には至っていない。刺さったガラス片が痛々しいが、連行されそうだった詩人ウィリアムズ含め全員が無事だ。

 

 ホルンとバグパイプが窓の外を見ようと近寄る。だがその直前外からまるでオーブンで焼かれたような熱を感じ思わずのけ反る。

 その熱がようやく引き始めやっと窓の傍に来た時、そこには信じられない景色が広がっていた。

 

 

 石畳の道路が焼け焦げている。

 

 本来燃えぬはずのそれらが煙を上げ、蜃気楼のように揺らいでいた。家の木材には赤炎が燃え移り、炎の壁となって街道を取り囲む。

 そしてその地獄のような空間の中で、2つの集団が向かい合わせになっていた。

 

 2つの集団は先頭の男女が互いに牽制し合っているようだ。

 黒い装束で統一された集団と、装いはまばらな集団。だが後者は皆等しくオレンジ色のスカーフを巻いており、そしてその特徴はあまりにも有名だった。

 

 

「レユニオン! 何故ここに!?」

 

 

 

 

 

 

「何の真似?」

「そちらこそ。源石爆弾を仕込んだボールを投げ込もうとするだなんて、あそこには同胞がいるんじゃなかったのか?」

 

 街灯は爆発によりひび割れ、月の光も雲に遮られて届かない。

 そんな暗闇の中、周囲を取り囲んだ炎の壁と2つの灯が互いを照らす。

 

 1つはダブリンの兵士から「リーダー」と呼ばれていたドラコの女性。その尾の先には決して消えることのないだろう赤炎が灯っており、黒い装束に白銀の長髪がシルクのように映えていた。

 だがその瞳は何処までも暗く、濁っている。

 

 そんな相手を見て対峙するもう1人、レユニオン部隊長レイドは眉間に皺を寄せた。

 だがその動きに一切の淀みはなく、鞘から解き放たれた紅蓮の刃がその勢いを増す。

 

 

 この地にロンディニウムからの部隊が到着してから、彼はその動向を探っていた。そしてつい先程彼女らがターラー人の集会に足を運び、それを嗅ぎつけた駐屯軍がこれ幸いと地区一帯を包囲しようとしていた時点で彼はヒロック郡に潜むすべてのレユニオン兵に召集をかけ事態に備えるよう通達した。

 

 そして会場の外から様子を伺っていたまさにその時、窓の外から何かを投げ込もうとしていた青年を見つけ咄嗟にその軌道上に入り鞘に収まったままの刀を一閃し空高くかちあげた。

 

 結果として会場に集まったターラー人と駐屯軍とホルンとバグパイプ、彼らの命を救ったレイドは休む間もなくこうして更なる脅威に対峙している。

 

(・・・強いな。少なくとも力量は)

 

 

 眼前に広がる黒装束の集団を見て冷静にそう判断する。

 少なくとも市民が暴徒化しただなんてレベルではないことは確かだ。彼らは正規の軍人に負けず劣らずの戦闘能力を有している。

 そして何より。

 

(先頭のあのドラコ。アーツの出力が桁違いだ)

 

 

 ちらりと、レイドが石畳の街道を見遣る。

 自分とその後ろを除いて、辺り一面が焼け爛れていた。

 

 先程この広い街道を覆いつくした赤炎。自分が一刀のもと切り裂かなければ後ろの部下や避難中の市民達は今頃物言わぬ灰になっていただろう。

 

 だからこそ、レイドは気に食わなかった。

 

「この騒動に、お前達は関わり合いが無いはずだ。感染者の守護者とやらよ」

「そうだな」

 

 「リーダー」ではなく、傍らに控えた黒装束の兵士が語りかける。それに言葉少なく返したレイドはその視線を彼女から逸らさない。

 自分に向けられる非難するような眼差しに、無意識に「リーダー」は目を逸らした。

 

「目を逸らすな!」

「!」

 

 だがそれを、レイドは許さない。

 自分の罪を、振るった槍が齎す結末をその目に焼き付けろと言う。

 

「先程の一撃、俺だけではなく後ろの市民も巻き込むものだった。俺の部下8人、駐屯軍の兵士4人、彼らから逃げる市民5人、俺を含めた18人の命をお前は奪おうとした」

 

 圧倒的な熱量を生み出すアーツユニットの槍が細かく震える。

 それは本来ありえない。彼女は亡霊部隊ダブリンの「リーダー」であり、これまで何度もそういった行為を行ってきた。淡々と。

 今更新兵のように奪う命の重さに震えるなどおかしいはずだった。

 

 だがレイドはそれを見抜く。

 怖くても前に進む勇気を持った少女の面持ちが目に焼き付いているが故に。

 そんな彼女がもしその重さに耐えきれなかったらと思い浮かべた事があるが故に。

 

 

「借り物の言葉など不要だ。何故ここにいる? 戦う覚悟の無い人間は、この場にいるべきではない」

「・・・・・・」

「おい貴様、リーダーを侮辱す「黙れ」!」

 

 ダブリン兵の言葉を遮って、レイドは再び彼女に問う。 

 

「俺はそこのリーダーとやらに話している」

「!・・・私は」

「どうやら死にたいようだな、出来損ないの感染者が!」

 

 何か言いかけた彼女も、高まる開戦の流れに口を噤む。

 レイドはそれに落胆しながらも、心を切り替えて柄を握り直した。

 

「まあいい。どのみちお前達は斬り捨てる」

 

 その言葉を合図に、互いに戦意を高ぶらせていく。

 

「ダブリン」

「レユニオン」

 

「「邪魔だ、消えてもらう」」

 

 こうして幕は切って落とされた。

 1人のドラコの心にさざ波を起こしたまま。

 

 

 

 

 

 何故か交戦し始めた両者に疑問を抱きつつも、ホルンは窓際から一度離れる。経緯は分からないが、レユニオンと亡霊部隊は今対立関係にある。それにホルンは両者の配置からしてレユニオンが市民を庇ったのではないかと推測していた。

 ならば彼らが襲撃を退けている間にここの生存者を逃がすべきだ。

 

「バグパイプ、生存者の避難、っ! 危ない!」

 

 それに気付けたのは偶然だった。背後の部下に命令を下そうと後ろを向いた時、その先にあろうことか同胞へと杖を向ける術師の姿を捉えた。

 

 咄嗟に飛び出し、先程まで大佐達に威勢のいい言葉を吐いていた男爵らしき人物を庇う。直後、術師から放たれた無数の石礫が前方に翳した砲撃盾を激しく揺らした。

 

「ひっ! マ、マンドラゴラ殿、どういうおつもりですか?!」

 

 後ろで喚く男から意識を切り離しつつ、ホルンは今も苛立たし気に顔を歪めるフェリーンの術師を見据える。よく観察すれば、彼女の纏う黒い装束は外でレユニオンと対峙している集団と似通っている。

 彼らが口封じに動いたとするならば、尚更この会場にいる人達は何としても逃がさなければならない。

 

「やらせねえべ!」

 

 自分にやや遅れてバグパイプが破城矛を構え術師に突貫する。彼女の種族特有のタフネスと破城矛の貫通力を活かした突撃は今まで多くの敵を葬ってきた。

 だがそれが術師を貫く直前、身長大の岩石がその軌道に割り込みそれを防いだ。

 

「! 固い」

「ヴイーヴルってのはほんとやっかいね!」

 

 もう一度突き出そうとしたバグパイプも殺到する礫の嵐に距離を取ることを余儀なくされる。

 睨み合う形になる両者。

 警戒しながらも大局を見据えていたホルンは、視線を逸らさないまま後ろに声を掛けた。

 

 

「大佐、緊急事態です。貴方達は彼らの護送を!」

「何を言う! もはやこいつらは奴の仲間である事は明白だ! 奴ら諸共駆逐してくれる!」

「では何故彼らが命を狙われているのですか!」

「・・・」

 

 盾で会場の人間に向かう石礫を弾きながらホルンは叫ぶ。

 

「きっと彼らは亡霊部隊にとって不利益になる情報を持っています。それを失えば奴らの思うつぼです!」

「こいつらを野放しにしろというのか! 余所者が命令するな!」

「ふざけるな! 俺達だって軍の奴らに従うなんてまっぴらだ!」

「今貴方達にアーツを向けているのが誰かわかっていないの?!」

 

 人1人余裕で貫けそうな石柱を砕き、ホルンは会場の全員を息を荒げながら諭す。

 

「彼女は今貴方達を口封じしようと動いている! 死にたくなければ言う事を聞きなさい!」

 

 二の句を継がせない鬼気迫った言葉にようやく事態を飲み込んだ会場の人々が大人しくなる。

 大佐は躊躇しつつも、優れた術師を相手にお荷物を抱えた状況はまずいと考え直し部下に撤退の命令をかける。

 

「行かせると思う?」

「あんたの相手は私達!」

「ちっ! しつこいわね!」

 

 逃げる人々に矛先を向けようとした彼女、マンドラゴラとかいったか、と2人は距離を詰める。

 

「バグパイプ。このまま部屋の中で決着をつけるわよ!」

「了解!」

 

 様子からしておそらく彼女のアーツは岩石の操作。なら石畳に覆われた街道に出せば不利になる。

 そうなれば手が付けられない。

 

「ほんっとムカつくわ。今頃この無駄に着飾った屋敷が空っぽの頭ごと木っ端微塵に吹っ飛んでたってのに・・・」

 

 瓦礫が彼女を中心に渦巻いていく。

 苛立ちに顔を歪ませ、憎悪に染まった瞳で目の前の全てを罵倒する。

 

「アンタ達も、素直に消されない住民も、ヴィクトリアの傲慢な兵士達も、目障りな感染者も、あの()()()()()も! みんなみんな、潰れちゃえばいいのよぉ!」

 

 迫りくるそれらに、ホルンとバグパイプは自ら立ち向かって行った。

 

 

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