やっぱ本編皆さん気になってたんすかね~?
ダブリンの兵士達がレユニオンとの交戦から撤退してしばらく。
広場に集まった彼らはある2人を中心に囲んでいた。
1人は彼らの「リーダー」であるドラコの女性。
そしてもう1人は先程の屋敷で行われる集会について、ヴィクトリア軍に情報を流したシアーシャというフェリーンの女性だった。
彼女はヒロック郡でターラー人の集いの窓口としての役割を持っていた。しかしダブリンというものに不信感を抱いていた。
一度も直接会ったこともない彼らに、自分達の命運を預けることがどれだけ怖ろしい事なのか自覚していた。だからこそ、友人でありヴィクトリア軍の儀仗兵でもあるジェニーを通してこの集会に関する情報を伝えたのだ。それが大きな災いに転じる前に。
そして今日、彼女のそれは確信に変わった。
ここに来るまでの道中、慣れ親しんだ街が消えぬ炎に包まれているのを見た。
伝説にある民を奮い立たせる炎が、人々を恐怖に陥れているのを見たのだ。
「あなたのせいよ! 至るところが燃えていて、お父さんとお母さんも、お爺さんや近所の子ども達も無事かわからない! これが私達が望んだ自由だとでも言うの?」
「・・・私がもたらすのは、勝利だけ」
「勝利なんて要らなかった! 私達は、ただ穏やかな日常が欲しかっただけなのにそれも全て灰になってしまったわ」
悲痛な叫びが広場に響く。
1人の優しい女性に過ぎなかった彼女の心からの叫びに反して、「リーダー」の言葉はあまりに平坦で、小さかった。
囲むダブリンの兵士が彼女が逃げられないよう拘束する。
周りからは繰り返しある言葉が発せられた。
「粛清を!」「粛清を!」「裏切り者を、死刑に!」
「リーダー」が呆然と呟く。
「・・・死刑?」
「当然じゃない。それにこれはチャンスよ。見なさい、今も私達を遠くで眺めているあの地元の奴らの目を。今ここで見せしめにしておけば、あいつらも私達に服従するわ」
マンドラゴラの視線に釣られ、「リーダー」は周囲を見渡す。
いくつもの瞳が、自分を見つめていた。
「!」
「何ビビッてるのよ。この程度の人数で怖気づいたなんて言わないでよね」
「リーダー」はその言葉に荒れた呼吸を落ち着かせる。
そうだ。自分が実の姉の
名も知らない大勢の前で、心にもない演説を与えられた台本通りにもっともらしくこなしてきた。
目の前の、震えるフェリーンの女性を見る。
迫る死への恐怖に涙を浮かべる彼女に、握った槍が無意識に震えた。
マンドラゴラの言うとおりだ。何を今更。自分がどれだけの命を灰にしてきたと思っている。
その度に言い聞かせてきた。
人の命など、燃料に過ぎないのだと。
『目を逸らすな!』
だがあの時掛けられた、しっ責の言葉が頭から離れない。
どれだけの命を灰にしてきたか。自分は最早数えてすらいない。初めて命を奪った時と同じように、いつも目を背けて見ない振りをしてきた。
だが先程からやけに槍が重く感じる。今まで無視してきたそれらがここにきて纏わりついてくるようだ。
槍を構える。だがそれは酷く緩慢で、穂先に灯る炎も儚く揺れていた。
「言い残したことは、ある?」
それを彼女に突き刺すまでの猶予が欲しくて、「リーダー」は問いかけた。
自分の命がここまでなのだと悟ったシアーシャは、涙を浮かべながらも微笑んだ。
「・・・最後に教えてくれるかしら。私達が勝つ未来はあるの?」
「・・・・・・・・・・来る」
長い沈黙を経て、ようやくその言葉だけを吐き出した。
それを見て、シアーシャは顔を歪めた。
彼女の目の前には、亡霊を率いる竜ではなく今にも倒れそうな少女しか見えなかった。
「ひどい顔よ、あなた。人殺しなんて似合わないわ」
「・・・・・・わた、しは・・・」
私は、何のために殺してきたのだろう?
自分の姉がそうしてきたから。自分の知る誰よりもドラコらしい彼女だったらそうしたから。私が彼女の
でも、私はどうしたいんだろう?
これまでだって、一度も誰かを殺したいだなんて思ったことはなかった。
生まれつき体が弱くて、自分のアーツが体を焼いた。今だって、炎を振るう度内側を焦がされるような不快感は消えない。
したくない事ばかり浮かんで、やりたい事は朧気過ぎて形を成す前に薄れていってしまう。
逃げてばかりいる。目を背けてばかりいる。
こんな私は、正しく
それならば、今まで燃やしてきた命と自分の命、どちらが重いのだろうか?
私は、「■■■■■」は。
私の望みは、一体何なんだろう?
直面した、自分のあまりの空しさに「リーダー」の力が抜ける。
彼女は構えていた槍を、ゆっくりと下ろした。
「ねえ、何してるわけ? まさか絆されたなんて言わないわよね!?」
我慢ならないと言い募るマンドラゴラの言葉すら、彼女には届いていなかった。
「! もういい、あたしがやる」
呆然とする彼女を見限り、石錐を形作るマンドラゴラ。
それを見て「リーダー」は無意識に足を踏み出した。丁度、マンドラゴラとシアーシャの間に立つように。
何故動いたのか自分自身でも分からない。
だが彼女は聞いてしまったのだ。執行を待つシアーシャが零した、死にたくないという声を。
「あんた、何のつもりよ! 腑抜けは引っ込んでなさい!」
「・・・い、や・・・」
考えが纏まらないまま、困惑する「リーダー」にマンドラゴラがまた罵声を浴びせようとしたとき。
「これは一体、どういう状況かな?」
しわがれた、しかし深い知性と大らかさに満ちた明るい声だった。
ダブリンの面々は突如現れたその人に警戒する。いくら裏切り者の処刑に興奮していたとはいえ、この場の誰1人として気付かなかったというのは異常だった。
白く輝く光輪が頭に浮かんでいて透明な羽らしきものも見えることからサンクタだろう。
薄く開かれた眼は揺らぐことなく正面を見据えている。
「貴様、サンクタが何の用だ!」
「そうかっかしないでおくれ。ついさっきまで事務所で客人をもてなしていたんだが、気付けば外は大騒ぎ。気になって出てみたら君達がいたんだ」
疑わしい事この上ない。水を差された事もあり早くこの場を去るよう武器を構える。
「ところで、君」
抽象的な呼び方だったが、「リーダー」はそれが自分を指しているのだと直感した。
「君にその槍は合っていないように思える。君には少し、重すぎるんじゃないかい?」
「・・・何を・・・」
「アンタ、いきなり出てきたかと思えば何のつもり?」
「大方、君は誰かにその立場を強要されているのだろうね」
「なっ!」
サンクタの言葉に、マンドラゴラの殺意が高ぶる。
自分が散々我慢して敬愛する真の「リーダー」を差し置いて彼女を祭り上げてきた努力が全てパーになる。
自分の周囲に礫を浮かび上がらせ形を変える。
それらは一度放たれればサンクタの老婆など容易く貫くだろう。
既にアーツの準備は終えている。
喉元に切っ先を突き付けられたも同然のこの状況で、それでもなお彼女は目を逸らさない。
(ああ、まただ)
「リーダー」のドラコはあのレユニオンの戦士を思い出す。その瞳もどこまでも真っ直ぐ、自分だけを見つめていた。
まるで自分が見失ってしまった「■■■■■」という存在を、見つけ出すように。
「ロンディニウムの監視下でこれほどの軍勢を揃えているのだから、ただの傀儡とは考えにくい。この大帝国を覆すに足る力を持ったその人物を君は畏れている」
「!」
「そしてそこのフェリーンの彼女の反応から見るに、その人物は君と近しい関係なのだろう。思うに親類かな?」
「今すぐその口を閉じないとミンチにしてやるわよ!」
サンクタが手を上げる。武器も持っていない状態で、話を続ける。
「君はその槍を自ら下ろした。その意味を考えた事はあるかい?」
「・・・分からない。それに考えても、意味なんてない」
「何故そこまで頑なになる?」
「関係ないの。私は、ただの影。あの人が灯す炎の、影にしかなれない」
『言うがいい。どれだけ大きな野心だろうと許してやろう』
雪降る夜に、自分の姉はそう言った。
彼女はいつだって正しくて、決断力があって、幼い頃から気弱で震える事しかできない自分の手を引いてくれた。
それはいつだって変わらなかった。
人目を避けて生きていた私達をヴィクトリアの刺客が襲い両親が火に包まれた時も、彼女はこの手を引いて頼るべき家を探し回った。
自分達を保護したヴィクトリアの伯爵が自分達を教育し傀儡として祭り上げようとしたときも、彼女はいち早く彼を見限り家の全てを味方につけそのアーツで屋敷ごと葬り去った。
仮にも恩師といえる彼を包む紫炎を背にしてそう問う彼女。
自分よりも大きく、熱く、冷徹な姉と比べ、自分はまるで蝋燭の灯のようだった。
『ないならないで構わない。我が妹よ、自分の欲望がどこにあるのか分からないなら、まずは私になれ』
そう告げられたあの日から、私は「リーダー」となったのだ。
私には彼女と同じだけの信念も、誇りも、渇望もなかったから。
諦める彼女に対し、サンクタは告げる。
「人は考える
「わたしは・・・」
「思うがままに吐き出すんだ。私はこれでもサンクタだ、修道士の真似事くらいはできるとも。君の懺悔を、受け入れよう」
それを最後に、サンクタは口を閉ざす。
「リーダー」は何度も口を開きかけては閉じ、息を吸い込んだ。
そして。
「・・・本当は、ずっと嫌だった・・・」
漏れ出たのは、掠れたような告白だった。
涙の枯れた彼女の顔が苦し気に歪む。
その身を灼く炎のように、向き合った本心が彼女に突き刺さった。
「もう、誰も殺したくない。誰かの、あの人の影として生きるなんてもう嫌」
「あんた、何ふざけたこと言って!!」
「そうかい。なら、助けよう」
「リーダー」へと意識が向かったほんの一瞬。マンドラゴラの意識がサンクタから離れる。
その隙にホルスターから6弾装填のリボルバーを抜き放ち腰だめで引き金を引く。
放たれた弾丸は今もダブリンの集団の中央でシアーシャを拘束する2人を
シルクハットに隠された目が鋭く光る。
予備動作すら視認できない程の早業に、咄嗟に石の壁を張ったマンドラゴラに遅れてダブリンの兵士達が武器を構える。
「アンタ何者よ?!」
「これは失礼。挨拶より先に銃弾を放ってしまうとは。だがこれがサンクタの常とは思わないでやって欲しい。単にお喋りに時間をかけてしまった私の落ち度だ」
守護銃であるオートマチックリボルバーを向けたまま、サンクタの老兵は名乗りを上げる。
「私の名はOutcast。ただの老いた追放者さ」
「Outcast・・・」
「君の名前を教えてくれ。お嬢さん?」
その名を呟く「リーダー」に、Outcastは聞いた。
「わ、わたし、は」
それは生まれてから今までずっと彼女のものであった筈なのに、どこか馴染みがなく口に出すのに手間取った。
それだけ彼女は久しく自分の名を口にしていなかった。彼女の姉と一部を除いて、彼女に接する人は全員「リーダー」という実体のない統率者をこそ必要としていたから。
それでもようやく彼女はその名を、たった1つ自分だけのものを口にした。
「わたしは、ラフシニー。ラフシニーよ」
「分かった、ラフシニー」
Outcastが銃を構え直す。
事情は明らかにはなっておらず、今までの言葉は全て推測でしかない。
それでも、何かを背負わされた少女が一歩を踏み出せた事を知り、口角を上げる。
「サンクタとして、ロドスの一員として、迷える者を救うとここに誓おう」
「テラで老いぼれを見たら「生き残り」と思え。いやほんとマジで」byイグナス