気付いたのが日曜の夜12時。どうしろっちゅうねん。
「サンクタとして、ロドスの一員として、迷える者を救うとここに誓おう」
その言葉を皮切りに、銃弾がダブリンの兵士達に襲い掛かる。
1つ銃声が唸れば2,3人の兵士達が瞬く間に崩れ落ちていく。
そのあまりの異常さにマンドラゴラは叫ぶ。
「ちょっとアルモニ! どうにかしなさいよ!」
「流石にこれはちょっと予想外ね。どうするの、
「冗談じゃない。あんなイカレた奴らに借りを作るなんて死んでも御免よ!」
また1人、ダブリンの兵士が倒れた。
これ以上の被害は抑えなければならない。マンドラゴラはアーツを発動し銃弾の嵐の元凶に狙いを定める。
だがそれを見逃すOutcastではない。
銃口を兵士達からマンドラゴラに変え引き金を引く。
それを見てマンドラゴラは咄嗟に周囲に浮かべていた岩石を盾にした。
「おや、防がれたか」
「簡単にやられる訳ないでしょ!」
「確かに、君はそこらの兵士とは違う。でもね」
マンドラゴラの左後方で「うがっ!」という呻き声がした。
見れば先程と同様、兵士が意識を失っていた。
「銃弾を弾く方向は考えた方がいいね?」
「! 調子に乗ってんじゃないわよ! あんた達も突っ立ってないで行きなさい! 奴は今弾切れよ」
逆上したマンドラゴラはアーツを昂らせ操る岩石の量を上げる。
飛来してくるそれを横に滑るように躱しながらOutcastは腰のポーチからスピードローダーを取り出す。既に銃弾がセットされたそれを片手に、リボルバーを横に振りチャンバーを露出させる。
薬室に銃弾を装填しようとしたところで接近していたダブリン兵が剣を振りかざす。
「死ね、サンクタ!」
振り下ろされるそれを冷静に捉え、Outcastは上半身を少しずらす。
それだけで振り下ろされた剣は空を切り、避けられて間もない彼の顎を彼女のハイキックが掠めた。
脳を揺らされたダブリン兵の意識が飛ぶ。
「サンクタだからって銃しか使えないわけじゃない」
再びリボルバーを振りチャンバーがカチンと音を立てて収まる。
意識を失った彼を正面に背負って盾としたOutcastは、ダブリン兵の集団へと突貫していく。
味方を盾にされマンドラゴラはアーツを向けられない。その間にも盾にしたダブリン兵の脇から放たれる銃弾が次々と兵士を無力化していく。
そして突っ込んだOutcastは彼らに囲まれた2人を呼ぶ。
「今のうちに君達は逃げるんだ」
「で、でも」
「シアーシャ!」
狼狽する彼女を呼ぶ声が響く。駐屯軍の儀仗兵のヴイーヴルが遠くからこちらに駆け寄っていた。
「ジェーン! なんで」
「貴女を助けに! ほら、早く!」
見知った友人の言葉に、ようやく足が動き出す。
それに遅れてラフシニーもその後に続いた。
包囲の輪から逃れようとする2人をダブリン兵が追おうとするが、Outcastが邪魔をする。
その背が遠ざかっていく。
「行かせると思う!? この裏切り者が!」
だが、そこへマンドラゴラがアーツを放つ。
追いすがるダブリン兵に対応していたOutcastも反応が遅れてしまった。
放たれたいくつかを迎撃するも、何本かが漏れる。
身長程の大きさのある石錐が走るその背に迫る。
「いけない!」
「避けてっ!」
「え?」
シアーシャが後ろを振り返る。すぐ目の前に鋭利な先端があった。
こちらに真っ直ぐ飛んでくるそれらが、やけにゆっくりに見えた。
そして、鮮血が飛び散った。
「どう、して・・・」
「・・・わか、らない・・・でも」
よろけて倒れたシアーシャの顔に血が滴り落ちる。
彼女の前に立っていたのは、先程まで自分の命を奪い取ろうとしていた「リーダー」だった。
その胸からは鋭い石錐の先端が生えていた。彼女が自分を庇って押し倒さなければ、それは自分を刺し貫いていただろう。
「・・・もう、死んでほしくなかった、から・・・」
どこか穏やかな顔でそう呟いた。
その手に槍は握られていない。シアーシャについていこうとした際、つい手放してしまった。
おそらくこれは報いなのだろう、とラフシニーは思った。
レユニオンの彼の言ったとおりだ。自分がそれで何人の命を奪ってきたかも自覚しないまま、その重さから逃げたいと考えたばかりにこうなった。槍を持っていれば、少なくともこんな最期を迎えなくてもよかったはずだ。
目の前に倒れているシアーシャを見る。
(・・・怪我、してない・・・)
「よかっ、た」
ドラコの少女が覆いかぶさるように倒れる。そこから流れ出る血は確かに熱くて、それでも自分と殆ど変わらない色をしていたことにシアーシャは今更ながら気付いた。
「は・・・え、ちょっと・・・何してんのよあんた・・・」
マンドラゴラはあまりの事態に呆然と呟く。それはダブリンの全員も同様で、「リーダー」が思いもしない形で倒れたことに言葉を失っていた。
だが次第に内から湧き出る激しい怒りを、抑えられなかった。
「ふざけんじゃないわよ! リーダーなんて嫌だったなんて今更過ぎる事言っておいて、今度は裏切り者を庇うだなんて頭おかしいんじゃないの!? あたしが何のためにあんたみたいな愚図を支えてやったと思ってるのよ! ほっんと、どこまでも、イラつく奴ねえ!!」
「ダブリン兵! 急いで彼女を保護しなさい、これは最優先事項よ!」
「は、はい!」
癇癪を起こすマンドラゴラを抑えアルモニは部下に指示を出す。
だがそれも、暴れ回るサンクタの所為で実行に移せない。
怒りのままにアーツを解放するマンドラゴラ、「リーダー」の身柄を取り戻したいダブリン、それを邪魔するOutcast。
事態は膠着し、その間にも刻一刻とラフシニーの体から血が抜け落ちていく。
(まずいね、このままでは)
Outcastの額に汗が浮かぶ。時間は掛けられない。どう撤退するべきか思考する彼女は岩石の嵐と化したダブリンの集団から距離を取る。
するとそこに缶のような何かが投げ込まれ、カランと固い音を鳴らした。
「Outcast、プランB!」
遠くから聞こえる誰かの声。その意味をOutcastはすぐに理解した。
その数秒後、缶から大量の煙幕が漏れ出て周囲の視界を遮る。
「2人とも、こっちだ!」
Outcastは応戦を止めシアーシャに抱きかかえられている彼女を背負うとシアーシャとジェーンを連れて路地裏に駆け込む。
視界が晴れた時、広場には仮初の主を失ったダブリンだけが取り残された。
「どうすんのよ!? あいつが死んだなんてことになったら、
「何の解決策も講じないまま突っ走らないで。重症の彼女を攫った以上あまり下手には動けないはず」
「あんたはいいわよねえ! あたしはあの愚図がトチ狂ったせいであの人から見放されそうだっていうのに!」
アルモニはこの先どう動くべきか頭を働かせる。
先程言った通り、重症の彼女を連れている以上奴らはあまり遠くには行けないはずだ。目的は不明だが、あのサンクタの言動からして亡骸でも構わないという可能性は低いと言えるだろう。
だが、今すぐ探しに行ったところで彼女を連れ戻す事は不可能だろう。そもそも先程の戦闘でかなりの兵士が削られてしまっている。捜索にまた手分けして行かせた場合、あのサンクタの強さからして各個撃破されるのがオチだ。
頭が痛い、とアルモニはこめかみを揉む。
つい先程、駐屯軍の兵営の方角から爆発音がした。それからすぐに駐屯軍に潜り込ませたスパイからの連絡で、軍を扇動して住民に打ち込ませる手筈だった源石クラスター弾が全て破壊されたと報告があった。それを為したのがかつての学友だというのだから因果なものだと思う。
勿論今現在も駐屯軍に対して各地で活動させているダブリン兵は優勢だし、クラスター弾によって状況をひっくり返す術を失った駐屯軍はこのまま壊滅するだろう。
だがこれによって地元住民のヴィクトリアに対する反抗心を煽ることができなかったというのが痛い。別の方法もあるにはあるが、ターラーとヴィクトリアの対立を決定的とするには今一つの結果になる懸念がある。
「どうされました、同志諸君?」
そこに慇懃な声がかかる。見ればダブリンの装束に身を包んだ6人がそこにはいた。
「・・・雄弁家」
「そう睨まないでいただきたい、マンドラゴラ殿。我らは皆、リーダーの元に集う同胞、そうでしょう?」
「いちいち癪に障る喋り方ね。気取ってて腹が立つ」
「これはこれは、手厳しい」
マンドラゴラはイラついていたところに気に障る同僚達がやって来たことで余計気を荒立てている。しかしアルモニにとって彼らの到着は
アルモニは「雄弁家」ら6人に事情を話す。喚くマンドラゴラを抑えていると、「雄弁家」と「会計官」の2人が解決策を提示した。
「では、その捜索は私達6人で請け負いましょう」
「できるの?」
「ええ。幸い劇薬学者は
その言葉が持つ裏の意味にアルモニは気付きため息を漏らす。
「あまりやり過ぎないで頂戴。私達はここを治めに来たのだから」
「ええ、勿論。心得ていますよ」
「そちらはまだ任務が残っているだろう? そちらに向かいたまえ」
そうだ。自分達にはまだ役割がある。
このヒロック郡の通信塔をジャックし、この反乱について声明を出す事。
ヒロック郡周辺の都市、そしてゆくゆくはヴィクトリア中にヴィクトリアの愚行を知らしめ、ターラー人の心に独立という名の火を灯す。その炎は次第に多くを巻き込んで燃え広がり、来る日に我々が再び立ち上がる炉となることだろう。
生き残った何人かを彼らに貸し与え、自分達は通信塔へと向かう。
正直、計画自体に彼女の存在はそこまで必要ではない。
仮初の主。「リーダー」。そんなものなど無くとも、既に真のリーダーは別にいるのだ。むしろ今後ヴィクトリアの公爵達に利用されれば自分達の障害になる可能性もあり、彼女の生存はあまり喜ばしくない。
それでも、あの気の毒なラフシニーを「リーダー」として祭り上げあるべきドラコの姿を演じさせたのは他ならぬそのリーダーだ。
(本当、底が知れないわね。ラフシニーも実の姉があれでは苦労するわ)
アルモニとて「リーダー」を演じさせられた彼女に多少思うところはある。だがそんなものは自分の目的の前では路傍の石同然だ。
ほんの僅かに憐憫の情を浮かべ振り返るも、感情を隠す事に慣れたスパイである彼女はすぐに前を向いた。
「で、雄弁家。さっきの話はマジか?」
「何がです?」
「あの女を取り返すうんぬんの事だよ。何でそんな面倒な事を」
「略奪者」の言葉に、「雄弁家」はにっこりと微笑んだ。
「いいではありませんか。我々は同志、助け合う事も重要です。それに」
その笑みは作り物めいていて冷たい。
「
「・・・へっ。そういう事かよ」
「略奪者」の口が弓なりに歪む。
この任務を出汁にまた暴れられる。空いた手が腰の得物の柄を撫でた。
「そもそも彼女を貫いたのはマンドラゴラの不手際だ。責任は奴にある。同じ高さにある椅子は少ない方が都合がいい」
「会計官」が冷徹にそうなった未来の利益を計算する。
「ま、責任負わなくていいなら大歓迎だな。後は聞き込みだが、それも任せられるんだろ?」
「・・・任せろ・・・サンプルは、どこだ・・・」
「サンクタか・・・楽しみだ」
「放火魔」は肩の力を抜き、「劇薬学者」は薬を使う
「さあ、我らの仮初の主を迎えに行きましょう。そしてそれを攫う勇気ある者達の顔をこの胸に刻むのです!」
六者六様の反応を見せる彼ら。
掲げる題目は1つのみ。
―ダブリンは誰をも逃さない。
「償いというのは救われる者自らが対価を支払う事を指すのに対し、贖いとは彼らを救いたいと願う者が対価を支払う事を指すのさ」
「どちらにせよ、救済には対価が必要な事は変わりない」
「いつか私も、それを支払うことになるんだろうね」