明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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第四十四話 通信塔奪還作戦

 ロドス一行とレユニオンが会合する一方で、ヒロック郡の中心部に存在する通信基地局では熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

 マンドラゴラ率いるダブリンの部隊と、3人のヴィクトリア軍人が対峙している。

 第二テンペスト特攻隊の隊長であるホルンを始め、隊員であるオーボエとチェロは最小小隊(スリーマンセル)のもと陣形を取る。

 

 見るからに劣勢のこの状況、しかし彼らの目に恐怖は無い。

 明らかな人数不利を悟りながらも決して諦める様子の無いヴィクトリアの戦士に、苛立ちが混じった嘲笑が降りかかる。

 

「ああ、もう! あんたらしつこいのよ」

 

 石柱が宙を舞い、一斉に襲い掛かる。

 それを金髪のループスが撃ち落とし、迎撃しきれないものに関してはその盾を以て凌ぐ。

 

「中々やるじゃないあんた。少なくとも頭空っぽの貴族連中よりは優秀よ。でもね、もうこのヒロック郡は私達ダブリンの支配下にある。あたしが何を言いたいか分かる?」

「さあ、あなたが倒すべきヴィクトリアの敵だという事は明白ね」

 

 勇んで笑うホルンに、マンドラゴラは言い負かそうと言葉を重ねる。

 

「犬っころは仕事熱心なこと。じゃあ教えてあげるわよ。あんたたちは見捨てられてんのよ、そのヴィクトリアに! あたし達があの集会場をタイミングよく襲撃できた理由に気づかないとか、王立前衛学校の優等生サマが聞いてあきれるわね。意味もなく、いつまでも盾突いてんじゃないわよ!」

「・・・駐屯軍、そしてロンディニウムにあなた達のスパイがいるってこと?」

「ハッ、やっと気づいたの? もうあなたに助けは来ない。できる事といったら黙ってあたしに串刺しにされることよ」

「軍内部にスパイ、しかもこれだけの規模の事をしでかすということはかなり上層部、下手すれば八大公爵すら・・・」

 

 ホルンも馬鹿正直に話し相手をしていたわけではない。

 直情的な敵幹部の神経を逆撫でする事で、少しでも情報を引き出そうとしていた。

 だが、集まったピースを組み合わせる内に、ホルンは恐ろしい推測に至る。

 

 

「あなた達、まさかヴィクトリアの王権を奪うつもり? 何の資格があって」

「資格? あるわよ、アスランの下僕さん。あたし達のリーダーは、誰よりも高貴な人だもの」

「まさか・・・あなた達のリーダーは、ドラコ?」

「正解、でも残念ね。それに気付いた人はお墓まで連れていくことにしてるの」

 

 アーツの出力がまた一段階上がる。

 2階建ての建物くらいの大きさの巨大な岩が彼女の頭上に現れた。

 今までの身長大のものではなく、明らかに人には対応しきれない程の大質量を以て圧殺する意図がそこには込められていた。

 

「さあ、墓石はこれで十分よね!」

 

 ホルンが盾を構える。白狼と称された彼女でさえ流石にこれを耐えきれるかは分からない。だがこれを避けてしまえば後ろの部下は磨り潰され、ただでさえ拮抗していた戦況は不利になるだろう。

 頭上より迫るその巨岩を前に、彼女は蛮勇の一歩を踏み出す。

 

 だがその直後、突如としてその巨岩が爆発し破裂した。

 

「何!?」

「・・・これは」

「お待たせしました、隊長」

 

 ホルンは声がした方に振り向く。

 

「ベース、マンドリン、トライアングル!」

「遅れてすみません」

「やっと駐屯軍の兵営から抜け出せました」

「隊長、指示を」

 

 彼女の前にさらに3人のヴィクトリア軍人が姿を現す。その手に持つ武器はどれもヴィクトリアの技術の粋を集めた傑作の制式装備。そしてそれを振るうのもまたそれに適う精兵。

 

 突如現れた彼らに加え、破城矛を構えたヴイーヴルが頭上から迫るアーツを砕いた。

 

「私もいるよ!」

「! バグパイプまで・・・」

「ごめんね隊長、結局コックさん達の手じゃこの都市の通信阻害をどうにかする事はダメだったみたい。直接通信局を抑えるしかないかなって」

「正解よ、バグパイプ」

 

 彼女にはこの地で起きている事件について、現地のトランスポーターを通して中央に報告してもらうよう単独行動をさせていた。だがこの地に来てから継続している発生原因不明の通信障害はより勢いを増しているらしい。

 そもそも先程のマンドラゴラの言った事が正しければ、最悪上でもみ消される可能性すら考えられる。より信頼の置ける人物にコンタクトを取る必要があった。

 

 浮かぶ石柱をその手の破城矛で砕きながらこちらに走り寄るバグパイプに、ホルンの口角が上がる。 

 

 

 ここに、第二テンペスト特攻隊は揃った。

 部下がここに誰1人欠けることなく再び集まったことで、ホルンは今まで遠ざかっていた四肢の感覚が戻っていく気がした。

 

 笑みを浮かべるホルンを前に、気色が悪いとでも言いたげなマンドラゴラはその身を宙へ浮かばせた。

 名実ともに上から目線のまま、マンドラゴラは告げる。

 

「何よ、少し人が増えたからって調子に乗らないでよね。こっちはあんた達より人も体力も有り余ってる。そっちはこれまでこそこそ動いてたせいで弾薬も少ないし傷も負ってる」

 

 依然として戦況は劣勢だと、ホルンは冷静に分析する。

 それでも、為すべきことは変わらない。

 

 

(ここには、最も信頼できる戦友しかいないのだから!)

 

 

 ホルンが敵を見据えながら、その盾を掲げた。

 

「思考を明晰にするは戦術!」

 

 ダンッ!! と石畳を砲撃盾が削る音が轟く。

 

「「「意志を堅固にするは規律!!!」」」

 

 それに続き、特攻隊は各々の武器を掲げその心に刻んだ教訓を復唱する。

 

「邪悪を壊滅しうるは勇猛さ!」

「「「生命を救済しうるは慈しみ!!!」」」

 

 バグパイプの持つ破城矛が蒸気を吐き出す。その音は竜の嘶きにも似ていた。

 彼らはあらゆる障害を破壊し、貫き、切り裂く。ヴィクトリアの敵を駆逐する戦士。

 精兵たる彼らを束ね、果敢に号令を上げるはヴィクトリアの敵を貫く牙、伝説の白狼の末裔。

 

「我らテンペスト特攻隊。ヴィクトリアの栄光を阻む悪に、正義の鉄槌を下す者なり!!」

「「「「「「然りっ!!!」」」」」」

 

 彼らの軍靴が、掲げる武器の鳴らす金属音が、1つに束ねられる。

 それは1匹の巨大な捕食者の唸り声となって、対するダブリンの兵士達を震えさせた。

 

「進めぇ!」

 

 突撃を告げる砲弾の音が通信塔周辺に炸裂する。それは浮かぶ岩石の一部を粉々に砕き、その向こうで顔を顰めるマンドラゴラを晒した。

 

「いいわ、無駄死にしたいなら、あたしがあの世に送ってやるわよ!」

 

 岩石が渦巻き、形を変えていく。

 殺到するそれらを第二テンペスト特攻隊は巧みな連携で崩していく。

 

 マンドリンが大剣を翳す後ろでドラムがアーツユニットを輝かせ、飛来する礫を的確に砕いていく。それにマンドラゴラの意識が僅かに傾いた隙を縫うようにバグパイプらが本隊と距離を詰める。

 崩しきれないそれを一先ずおいておき、接近する彼女らに照準を合わせたマンドラゴラに今度はホルンの砲弾が炸裂する。

 

 各々が自らの役割を完璧に把握し、部隊の仲間の動きに合わせ流動的に互いをフォローし合う。ロドスのエリートオペレーター達とはまた違う、高い練度を高度な戦術で組み合わせた、芸術的と言えるまでの連携による多の強さ。

 

 徐々に追い詰められていくマンドラゴラが、さらにアーツの出力を上げる。

 石の嵐とでも形容すべき多数の石柱が形成され、射出の時を待つ。

 

 だが、それらは突如として爆発し、近くにいたマンドラゴラをよろめかせた。

 

「爆発した?!」

「奴のアーツは周辺の岩石を操る。ならそこらの地面に予め仕込んでいれば勝手に近くまで持っていってくれる」

 

 驚くマンドラゴラに、工作部隊出身であるオーボエが手元の爆弾を握りしめ不敵に笑う。

 

 しかしこれでも彼女はダブリンの幹部。

 そのカラクリを理解したマンドラゴラは一度全ての岩石を砂粒程にまで細かく砕いた。そしてそれらに混じる異物を探し出しそれらを押し流す。

 アーツの出力もさながら、自在に形状を変える事が出来るマンドラゴラのアーツには流石に驚いた。

 

「マジか」

「こんな小細工で!」

「やああああ!」

「! くっ」

 

 反撃に転じようとした彼女にバグパイプが突っ込む。

 足場など無い空中で、バグパイプはあろうことかアーツで宙に浮かんでいる岩を蹴りそこまで辿り着いた。

 

「この!」

「惜しい!」

 

 何とかその間に岩を間に合わせたものの、危うくやられかける所だったマンドラゴラが呼吸を荒くする。

 

(くそ、くそくそくそ! 何1つ上手くいってない、リーダーの役に立たないといけないのに。こんなちょっと装備がいいだけの使い捨てられた軍人達に邪魔されて、何がしたいのか分からない感染者達に計画を台無しにされて、ほんっと頭にくる!!)

 

 荒くなった呼吸が思考を尖らせ神経を過敏にさせていく。

 そして脳裏が思いつく限りの罵詈雑言で埋め尽くされようとしていたその時。

 

 

―プツッ。

 

 突然、町中に設置された拡声器が起動する。そしてしばらくして、若い女の声が名乗りを上げた。

 

 その声の主はアルモニ。ここへやって来たダブリンのもう1人の幹部であり、直情的なマンドラゴラとは反対に策略や諜報を以てリーダーに仕えるフェリーンだ。

 

 その声はあくまで淡々と、しかし気丈に拡声器を通じて各地へ届く。

 

「ヒロック郡及びその周辺にお住いの皆さん。どうかこの声に耳を傾けてください」

「今日、私達を長く苦しめてきたヴィクトリアの軍人は遂にその刃を罪なきターラーの民に振り下ろしました。ヴィクトリアの民を守るべき彼らが、ただ社交の場に集っていただけの市民を捕縛し、彼らを拷問にかけ殺害しました」

「それだけではありません。彼らは源石クラスター弾を都市に撃ち込み、鉱石病という災いを以て我らをねじ伏せようとしたのです。幸いにも我々の手によって未然に防ぐことはできましたが、その事実は彼らが我々を同じ国に住む隣人ではなく路傍の石同然と見ている事を証明しています」

「過去数百年にわたり、彼らは私達の文化を貶め、嘲り、同化を迫りながらも真に我らを同胞と認める事はありませんでした」

「私達は戦争を望みません。ですがもし私達とともに立ち上がり、この不公平に抗う人がいるのであれば。どこにいようともその存在は私達の助けになるでしょう」

「私達の炎は、脈々と受け継がれてきた悪しき伝統を断ち切り、この国の不浄を浄化します。またその炎は不公平に抗うあらゆる命を慰め、自由で平和な未来への道を示すでしょう」

「どうか記憶してください。私達の名、『ダブリン』を」

 

 

 放送が終わり、場が沈黙する。

 やがてダブリンの兵士達が喝采を上げ、それとは対照的にテンペスト特攻隊の雰囲気は重くなった。

 

「くっ、間に合わなかった」

 

 ホルンが失態に顔を歪ませる。

 そして同様に、何故かマンドラゴラも天を衝かんばかりの形相で仲間のはずの彼女を罵った。

 

「アルモニ・・・よくも私の役目を! 何が代弁者よ、あたしがこんな奴らの相手してやってるってのに!」

 

 この声明は本来、彼女の役目だった。しかしアーツの出力や盤面制圧力に長けたマンドラゴラが通信局にやって来たホルンらの迎撃に回されたことでアルモニがそれを代行したのだ。

 適材適所と言うべきそれも、今この瞬間の彼女にとっては全てを奪われたような理不尽に映る。

 後で必ず落とし前をつけさせる、そう誓う傍らでテンペスト特攻隊が再びその勢いを増す。

 

「今すぐ通信塔を奪還するわよ! こちらから何の弁明も無いまま時が過ぎれば、反乱の火種が各地に飛び火する。それだけは何としても防がなければならないわ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 決死の覚悟で通信塔に迫る彼女らに、ダブリンの部隊が徐々に押され始める。

 

「マンドラゴラ様、もう持ちこたえられません!」

 

 元より規模の大きい彼女のアーツは強力な反面連携に向かない。

 しかも一度に攻撃と防御を行うほどのコントロールもないため、それらが入れ替わる隙を突かれれば徐々に後手に回り始める。

 

 攻勢から一転、今の彼女らは明らかに劣勢となっていた。

 

 このまま通信塔を奪い返されれば、先程の声明を否定されダブリンが得るはずだった支持は大きく目減りする事だろう。

 

 自身のプライドと、リーダーへの忠義。2つを天秤にかけた彼女の判断は早かった。

 

「・・・!!・・・っ!! 全員撤退の準備をなさい、寝てる奴は引きずってでも連れてこい!」

 

 宙に浮かぶマンドラゴラが手にしたアーツユニットを輝かせる。

 

「『いばらの森』!!」

「!!!」

 

 アーツの名前が叫ばれる。すると、通信塔付近が地震と錯覚するほどの激しい揺れに襲われる。

 移動都市の表層を構成していた岩石帯が全てひっくり返ったかのような天変地異。大地が砕け空に浮かび、ホルン達は立つ事さえ儘ならない。

 

「何て規模のアーツ! でもそれくらいで」

「ハッ、あたしを舐めないでちょうだい。それに、いちいちあんたらの相手だけしてられないのよ」

 

 マンドラゴラの目線が遥か後ろに向けられる。そこには先程声明を届けた通信塔の姿があった。

 彼女の狙いを悟り、ホルンの血の気が引く。

 

「まさか・・・各員、生存を最優先!」

「遅いっ!!」

 

 これまでとは比べ物にならない数の石柱が浮き上がり、聳え立つ通信塔を抉っていく。

 やがてバランスを失ったそれはゆっくりとこちらに向かって倒れてきた。

 

 あまりのスケールの違いに目の錯覚を起こしそうになる。だが蟻の歩みに思えるその速度も、実際は遠心力によって増大した速度で大質量がこの場に叩きつけられようとしているのだ。しかもマンドラゴラのアーツによって足場はめちゃくちゃとなっており、この場から全員が逃げ切るにはあまりに時間が足りない。

 

「じゃあね、馬鹿な軍人さん? あんた達が潰れる様を見れないのは残念だったわ!」

 

 哄笑を上げながらマンドラゴラが飛んでいく。いくつかの平らな岩石の上に部下を乗せ、迫る巨大な塔を避けながら遥か遠くへと消えていく。

 

 その背にもはや届かない事に悪態をつきながら、ホルンは倒れてくる塔目掛けて砲撃を続ける。だが先程のアーツで地盤が不安定になったせいで十分な砲撃体勢を取ることができず威力が減衰してしまう。放たれた砲弾は表面を削れはするもののその直撃を防ぐことはできそうも無かった。

 

「バグパイプ、あなただけでも逃げなさい! その破城矛の最後の一発で、ここから脱出するのよ!」

「嫌! それだったらあの塔に突撃してこれをお見舞いしてくる」

「いくらあなたでも無茶よ!」

「そんなのやってみなきゃ分からないでしょ!」

 

 バグパイプが特攻隊の全員を見る。

 これまで、どんな任務も一緒に切り抜けてきた。そんな彼らを、戦友を、置いて1人逃げるだなんて事はできなかった。

 

 それでも、状況がそれを許さない。

 ホルンの砲弾は底を尽き、盾に寄りかからなければならない程に満身創痍だ。

 チェロやドラムは足が瓦礫の下敷きになっていて、自力で抜け出すことは不可能。オーボエやマンドリン、ベースは目立った負傷はないがホルン達を連れて少しでも安全な場所に避難しようとしている。

 そもそも、いかに高性能な破城矛の一発とはいえその反動で空を飛ぼうなど未知数だ。この場を脱出する切符は、1人分しか存在しなかった。

 

 

「いきなさいバグパイプ! これは()()よ!」

「っ!!」

 

 鬼気迫るホルン、そして笑顔で自分を見送ろうとするオーボエ達。

 

(命令だなんて、ずるいよ)

 

 胸が張り裂ける思いで、バグパイプは破城矛のトリガーに指をかける。

 その瞳に涙を浮かべながら、それでも託された使命を果たそうと力を籠める。

 

 

 だが、その時。鋭い音が空を切り裂いた。

 

 暗雲立ち込めるヒロック郡の上空を、()()()()が横切る。

 それは今まさに地に叩きつけられようとしている斜塔へと到達し、それを粉微塵に吹き飛ばした。

 抉り取られたようにぽっかりと空いたそこから、僅かに石片の雨がホルンらに降ってきた。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 唖然とする一同。

 一早く正気を取り戻したホルンは遥か遠くの屋上に1人の偉丈夫の姿を見た。

 黄金の双角に、巨大な盾。白銀の全身鎧。

 

 その姿は、ヴィクトリアの軍人に伝わるウルサスの絶対の盾を彷彿とさせた。

 

(まさか、ね)

 

 緊張を紛らわせようと息を吐く。

 こんな場所にそんな伝説の存在がいるわけがない。そう結論づけて、視線を外す。

 そんな事よりも重要な事がある。目の前には全員が無事で済んだ事に気付き歓喜の涙を浮かべて抱き着こうとしてくるバグパイプがいる。

 

 こんなヘトヘトの体で彼女に抱きしめられたら逆に病院送りになりそうだ。

 自分の身の安全の為に、力一杯抱きしめてくる彼女をどうにか遠ざけようと苦心するホルンだった。

 

 

 

 

 そんな第二テンペスト特攻隊を眺めつつ、人類最強の男パトリオットは手元に戻ってきた槍を掴んだ。

 

「死するには、惜しい若者達だ」

 

 ウルサスとヴィクトリア。敵対し合う国の軍人同士だったが、国の民を思う気持ちは理解できた。

 それがあのような若い者であればなおの事。放っておくことなどできそうもない。

 あの凍原にいた頃であれば到底考えられない思考だ。誰かの影響でも受けたのだろう。

 

 すっかり絆された、そう思うパトリオット。

 眩しいものを見つめる穏やかな目を一転させ、彼は眼下のとある建物の屋上に目を向ける。

 

 

 そこには数人のダブリン兵と、紫炎を纏う白いドラコの姿があった。

 先頭で都市を見下ろすそのドラコの女は、暫くしてこちらを向いた。

 

(彼女がダブリンのリーダーか。なるほど、確かに強いな)

 

 これだけ遠くからでも、その力量は伝わってくる。何より、こちらに向けられた鋭い眼光からは確かな王の器を感じさせた。

 

「時代の節目、というものだろうか」

 

 ウルサスは皇帝が変わり、政変の起きたヴィクトリアは新たな王を迎えようとしている。

 

 何か、大きな変化がこの大地に訪れようとしている。

 歴戦の老兵である彼を以てしても、その予測は立てられそうもない。その身は先を見通す眼を持つサイクロプスではないのだから。

 

 やがてドラコの女は配下とともに影となり消え、その場には紫炎の残滓のみが残された。

 

 その屋上から目を離し、パトリオットは地平線を見る。

 動乱に未だ惑うヒロック郡に、夜明けが訪れようとしていた。




次回「嵐の後のエピローグ、あるいは来る災禍のプロローグ」

ついに、あの2人が出会います。
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