明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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遂に5周年リアイベですね。自分はチケット取れなかったので大人しくYoutubeの動画でも見て楽しんどきます。

皆さん、アークナイツ運営は別名「ゲームも作れるレコード会社」というくらいには作曲が神がかっています(しかも何故かそれが全て無料で聴ける←????)
PVとかも是非アークナイツ界隈が盛り上がっているこの時期に視聴してみてください。原作がどんな感じか痛いほどわかります。

おすすめは「2024記念特別動画」「黎明前奏オープニング」


第四十六話 片翼の王

ロンディニウム オークタリッグ区

ザ・シャード

 

 ヴィクトリアに建設された高塔の頂上で、2人のサルカズが並んでいる。その2人は物憂げな瞳のまま、自分達の成果物を眺めている。塔の頂上付近には、雲にすら届きうる黒い巨大な建造物が大地に影を落としていた。

 

 空に浮かんだ複数の巨大な飛空船、それらは空軍という概念が無いテラの大地において地に這う敵を悉く蹂躙する事だろう。

 

 白髪のサルカズ、テレシスはこれまでの月日を思い返す。自分達が生まれ、育ち、同じ未来を誓った日。積み重なった故郷の瓦礫の上で、王冠を継承したあの光景。そして無二の半身を自ら下した決断で失ったあの日まで。そして、それから孤独にサルカズの頂点に立ち続けた摂政王の日々を。

 故郷が再び滅ぼされ、散った同胞をかき集め、ヴィクトリアの政変にかこつけここまでやって来た。

 

 テレシスはとうの昔に気付いていた。この大地は、サルカズに安寧を許さない。おそらく妹もそれに気づいていたのだろう。それでも、その決して手に入らない物の為に足掻いた。

 

「だからこそ、我々は戦争を求めている」

 

 テレシスが誰に言うでもなく呟いた。

 彼女は忍耐と共存の果てにこそその安寧を見た。だがそれが潰えた以上、違う道を探さなければなるまい。

 

 テレシスは、幾度の喪失と失意の上で、全ての国を戦火に焦がし混乱と恐怖に塗れた大地にこそ安寧を見た。

 

 

 おそらく百年後の歴史書には自分は恐怖の暴君として名を残すことになるだろう。敵を大勢作るだろう。

 だが構わない。その恐怖による抑止こそが、サルカズに故郷を取り戻す糧になるのだから。

 

 テレシスは傍らの女性を見る。薄く桃色がかった白髪はテレシスのそれとよく似ており、柔和な表情は記憶にあるそれとよく似ている。そのはずなのにどこか違和感が拭えない。

 とっくに失くしたと思っていたものが、その思い出のまま目の前にある。それは本来ありえない事で、だからこそテレシスの目は僅かばかりの戸惑いを以て傍らの人を見た。

 

 その()()は、どこか物憂げな顔をしていた。

 

 

 2人は物見台から離れ、謁見の間に向かう。

 

 燭台の光に照らされているはずにも関わらず、そこは暗く淀んでいた。濃密な力と死の圧力によって空間が歪んでさえ見える。

 常人であれば卒倒してしかるべきそれをこともなげに受けながら、テレシスは階下の配下に声を掛ける。それこそが、カズデル軍事委員会の長、摂政王たる自らの役目と信じて。

 

 相も変わらず、十王庭の面々は良くも悪くも強大だ。どの長をとっても1人で戦場を覆しうる力を備えているのだから、その主張の激しさもまた当然のものだ。今もまた、老練なナハツェーラーの王をブラッドブルードの大君が挑発している。

 彼の性格からして、そろそろ我慢がならなくなってきたという事だろう。ヴィクトリアの貴族達の囀りを聞き飽きて、いつその血を搾り取ってしまうか分かったものではない。

 テレシスはそれに軽く牽制を入れておく。いくらこの都市の機構をほぼ掌握しているからといって盤石とは言えない。

 

 ロンディニウム内にはまだ自救軍という反抗組織が残っている。住民達もいつ不満を爆発させてもおかしくない。それ自体は大した隙にもならないが、それに外の大公爵達の手が入れば要らぬ不安要素になるのは明白だ。

 

「そうは言いますがナハツェーラーの王よ、私よりも遊興にふける者がこの場にいると思いませんか?」

 

 大君の言葉が場をかき乱す。その流し目は言外に王庭の1人に向けられていた。

 複数の視線を受けた変形者は、予想に反して淡々と返す。

 

「? ああ、僕のことを言っているのかい? 一応役目は果たしているよ」

「牙にすらならない自救軍とやらに紛れ込み傍観するのが役目とは、随分暇なようですね」

「そうでもないさ。案外見ているだけで面白いよ?」

 

 変形者の言葉に大君が少しばかり目を見開く。それはテレシスも同様だった。

 これまで何事にも達観した視点を崩さなかった彼が、何でもない市民の諜報任務を楽し気に語る。それは今までの彼にはありえない事であった。

 

 やはり、龍門での一件で何かがあったと見える。

 

 

 会談の内容はさらに他の王庭の動向へと移っていった。だが聴罪師から齎されるものはどれも吉報とは言い難い。

 

 リッチはもうすぐロンディニウムに到着する。だがウェンディゴはウルサスの北境からこちらに足を運ばず、バンシーは峡谷に引きこもり、炎魔とアンズーリシックは未だ消息すら掴めていない。

 王庭の席の半分が空席のこの状況で、それらを埋めるための苦労はこれからもしていかなければならない。

 

 そして未来を見通すサイクロプスにいたっては、テレシスの悲惨な最期を予言した。このロンディニウムが大火に沈み、テレシスは孤独な死を迎えると。

 

「心遣いに感謝すると、彼女に返信をしておけ」

「それともう1つ」

 

 自分の末路を意に介さず言うテレシス。だが聴罪師が手紙の続きを述べた。

 

 

「未来が絶えず揺れ動いていると、サイクロプスが告げております。その中心に、例の特異点がいると」

「ほう」

 

 

 その言葉に、ナハツェーラーは言葉を噤み、大君は眉を顰め、変形者は喜色を浮かべた。

 その中でテレシスは表情を一切変えないまま、外周区に配備されている傭兵達を増員する事を決めた。

 

「なれば来るか、奴らが」

「その通りかと」

 

 テレシスは閉じた宮殿内から遥か先を見据える。

 ロドス・アイランドとレユニオン・ムーブメント。

 魔王の王冠とヴィクトリアの竜の血が、彼女らをここに招いたという事か。テレシスは逃れ得ぬ因果というものに思いを寄せる。

 

 そしてそこに混ざるただ1人の例外。それがどのような波紋を生むのか、それはサイクロプスの未来を見通す眼ですら予測できない。

 

「・・・・・・」

 

 孤独なサルカズの君主もまた、見えるはずの無い景色から目を逸らすことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンディニウムから少し離れた廃棄採掘場付近

 

 

「やっとですね」

「そうだな」

 

 一方そのころ。アーミヤとドクターもまた、ロドス艦の甲板上で並んで地平線を眺めていた。

 今はまだ遠くてぼんやりとしか見えないが、その境界にはロンディニウムを囲む漆黒の防壁が覗いていた。その頂上には外敵を殲滅するための都市防衛砲がいくつも備え付けられており、ロンディニウムが建造されて以来、外敵を悉く退けてきた。

 

 あの場所にこれから挑む。2人の意志は固く、それは彼らに同行するロドスのオペレーター達も同様だった。既に先程オペレーター達を交えた最終ミーティングも終わった。その解散がてら2人は揃って外の景色を眺めに来ていた。

 

 アーミヤは真っ直ぐにロンディニウムを見据えている。その姿は荒野を駆ける風に揺らぐことはなく、以前より少しだけ遠くを見渡せた。

 纏う衣装も以前の物から一新しており、フォーマルなスーツベストの上にマントを羽織る彼女は逞しさすら感じられる。

 

 そんな彼女を見て、ドクターは呟いた。

 

「大きくなったな」

「そうなんです! この前の健康診断では6cmも伸びてました」

 

 だが嬉しそうに報告する彼女の笑顔は歳相応のもので、ドクターはそれに安心感を覚える。

 自分が記憶を失って目覚めてからまだ1年程度しか経っていない。それでも、いつだってアーミヤは傍にいて支えてくれた。そんな日々の中で、いつの間にか自分も娘のように思っていた。

 そんな彼女の目に見える成長というのは感慨深い。心なしか目線も近く、距離も初めて会った時よりも近づいているようだ。

 

「大丈夫ですドクター。私が必ず守ります」

 

 こちらを見ずに告げられたそれは、どこか自分に言い聞かせているようで。

 最初からそうだったなとドクターは思う。自分よりも遥かに幼い彼女は、自分を守ると言って聞かない。元より身体能力が貧弱な自分ではあるが、アーミヤのそれはそんな相手だからという理由ではありえない程強固で、いっそ呪縛のようだった。

 それほどまでに、以前の自分は彼女に慕われていたのだろう。

 

 アーミヤと同じ方を見る。あそこに、戦禍の元凶がある。

 

 かつての自分がいたバベルという組織、そこに因縁のあるカズデル軍事委員会。未だ記憶の糸口は欠片も手繰り寄せることはできていないが、あの場所に行けば何か掴めるかもしれない。

 伸ばした手が、空を切る。代わりに記憶の片隅で、以前ケルシーと話した時の言葉が指先に引っ掛かった。

 

『ドクター。君は過去を漂白されたように思うかもしれないが、それはあくまでも君自身のものだけだ。今の君にすら私は疑念を手放すことができないでいる。それだけの出来事が、かつて起こった。故に、君はそれを取り戻さなくてはならない。それは残された君の義務であり、それには君が想像するより既に遥かに重い対価が支払われている。私自身、その務めを果たした後の君を思うと背を押す手が鈍ることは確かだ。だがそれでも、君の過去がこの世界全てから消え去るわけではないんだ』

 

 自分は、自分が何者なのかを知らなければならない。

 だが、果たしてそれは本当に正しいことなのだろうかとふと思う。過去の自分を取り戻す事、それが何か恐ろしい結末の引き金となってしまうのではないか。そんな漠然とした不安があった。

 

『今、俺達を救ったのはあんただぜ()()()()?』

『私にとっての“ドクター”とはお前だ』

 

 自分を呼んでくれたあの言葉を、忘れることはできない。

 ドクターとは、自分とは、何者なのか。その答えを見つけ出すことができれば・・・

 

 

 思考に耽るドクターを訝しむアーミヤ。そこに第三者が声を掛けた。

 

「よう、御両人。デート中かい?」

「イグナスさん! またそんな事言って」

「おうおう、照れちゃって可愛いね」

 

 久しく見なかった彼もまた、その装いを変えていた。スーツやコートは一新され、黒を基調にすることは変わらず所々に白のアクセントが入ったものに変わっている。肩の飾緒や膝近くまで覆う軍靴も相まって軍服のように見える。

 そして何よりも、イグナスは今までにない物を持っていた。

 

「イグナスさん、それは?」

 

 アーミヤはイグナスが持つ細長い背負い袋について尋ねた。それにイグナスは待っていましたとばかりに詰め寄った。

 

「よくぞ聞いてくれたアーミヤちゃん! これぞ俺がここ1年頑張ったアーツの修行の成果だ」

 

 イグナスの仕草に合わせ背負い袋が重たい音を鳴らす。おそらくアーツユニットなのだろうが、自信たっぷりに笑うイグナスの姿はとても頼もしく見える。

 ここ1年彼はロドスで治療を受けつつレユニオンの本拠地でアーツの訓練に明け暮れていた。それが遂に形を成したというのだからはしゃぐのも仕方ない。

 

 本人曰く火力的な面では殆ど変わらないとのことだが、その分アーツの応用性が格段に向上したらしい。

 イグナスのアーツは少し特殊で、何故か魔王と似た作用を持っている。それがより万全となって振るわれるのであれば、たとえ直接戦闘に貢献できなくても頼もしい事この上ない。もとより鉱石病の影響で身体能力がウルサス人にしては低い基準にまで落ちてしまっている彼を戦闘に参加させる事はないのだ。それはロドス、レユニオン双方の同意の上で決められた。

 

「はい。頼りにしてます」

 

 大船に乗ったつもりでいてくれと笑うイグナスに、2人は全幅の信頼を寄せていた。

 

 それから会えなかった間の近況報告をしつつも、やがて話題は来たるロンディニウム潜入へと変わる。

 

「さっきのミーティングのとおりだ。もしかしたら君達には、重い役割を任せるかもしれない」

「それは言いっこなしだろドクター。それに重い役割云々を言ったら、お前達には鉱石病治療薬の開発っていう最難関を任せてるんだ。持ちつ持たれつで行こうぜ?」

「・・・君らしいな」

 

 かのロンディニウム潜入時におけるオペレーションは、万全を期してあらゆる事態に対応できるよう綿密に計画されている。そこには当然、盟友であるレユニオンを当てにした部分もあり彼らに頼る可能性も十分あった。いや、そうなるのはほぼ確定と言っていい。あれだけの軍勢を率いるカズデル軍事委員会の面々が侵入者への対策を疎かにするなどありえないのだから。

 

 だが、イグナスはそれを当然の事と言う。何でもない事のように笑って、それをこちらが想像もしていなかったような方法で成し遂げてしまうのだ。

 ドクターにとってアーミヤが娘かつ支えだというなら、イグナスは友でありライバルだった。彼に誇れる自分でありたい。あの日掛けられた言葉に恥じない自分でありたい。そんな思いにさせてくれる人だ。

 

「さあ、湿っぽい話は止めにしよう。食堂で今日特別メニューが出るんだってよ、早く行こうぜ」

「そういえばマッターホルンさんやジェイさんが張り切っていましたね」

「なんならうちの母ちゃんが一番張り切ってるよ」

「ははは」

 

 身内のはしゃぎ具合に流石のイグナスも手を焼いているようで。アーミヤのなんとも乾いた笑いを残して3人はその場を後にする。

 帰り際、一度立ち止まったイグナスが振り返る。その視線は先程までの2人同様、地平線に聳えるロンディニウムの壁に向いていた。

 

「・・・・・・」

『・・・・・・』

 

 遠く離れたテレシスとイグナス。

 合うはずの無い視線が交わる。お互いをその瞳に映さないまま。彼らは確かにその存在を捉えていた。

 

 届くわけがないと知りながら、それでもイグナスは声高らかに誓いを立てる。

 

 

「掴んでやるぜ、ハッピーエンドってやつをよぉ!」

『来るがいい。虚ろな幻想では、何も変わらないと思い出させてやろう』

 

 

 

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