明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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第四十七話 ロンディニウム潜入

ロンディニウム サディアン区

 

―ロンディニウム侵入作戦、決行日。

 

 無骨なジープが荒野を走り、その背に砂煙を上げていく。舗装もされていないその道はとても快適とは言えず何度も小石を踏んでは車体が跳ねる。

 そんな中、アーミヤ達は慣れた様子で立ち上がり遥か頭上までを遮る壁を見上げた。

 テラの大地に聳え立つ世界一高い城壁がすぐ目の前にまで迫っていた。

 

 ロンディニウムへの侵入は容易ではない。難攻不落の城壁は高速軍艦の砲撃でも崩れる事はなく、高く聳え立つそれは航空機でもなければ乗り越える事は不可能だろう。そして当然、それらへの対策もある。アーミヤは城壁の上で都市外に長い砲塔を向けるそれらを視界に捉え、思わず緊張で唾を呑み込んだ。

 

 城壁上に備え付けられた都市防衛砲を含む防衛システムは、絶えず侵入者に目を光らせている。その一撃は移動艦を一撃で沈める事すら可能な威力を内包し、それらが移動都市の内部構造に仕組まれた生産ラインに支えられほぼ休むことなく牙をむく。

 侵入路になりやすいインフラ層すら、そのあまりの複雑さに正確な設計図を持たない者を閉じ込める迷宮になっているというのだからお手上げだ。いつかのチェルノボーグと同じ手を使う事はできない。

 既に何人かのエリートオペレーター達が先行して中に潜入しているとの話だったが、それすら彼らの特殊さによるものだ。

 

 そんな中、アーミヤとドクターとシージ含むグラスゴーのメンバー達、そして技術支援者として前線に出てきたクロージャらは無事ロンディニウムの案内人の協力を得てロンディニウム・サディアン区のゲートにまで辿り着くことができた。

 

 入って早々、ロンディニウムが既に極めて危険な場所になっていることは実感できた。アーミヤとドクターは人混みに紛れつつも怪しまれない程度に周囲を伺う。

 

 至る所に配置されているサルカズの兵士達。そして、怯えたように身を縮こませ列を成すロンディニウム市民達。恐怖を顔に浮かべる彼らの向かう先は城壁側、つまり移動都市の外だ。

 もはや外敵から身を守る絶対の壁が、獲物を取り囲む檻と化していた。ロンディニウムが既にサルカズ軍事委員会の手に落ちているというのは本当のようだ。

 

 その列に紛れ、内部へと侵入する機会を伺うアーミヤ達。

 だが、ここで案内人であったトーマスが緊張に耐え切れず逃げ出してしまった事で状況が一変する。

 

「待ってください、今はまだ危険です!」

「もうたくさんだ! せっかくここまで出れたんだ、後はあんたらでやってくれ!」

 

 ここで彼がロドスから離脱しただけならばまだ問題はなかった。既に城壁内に侵入できた時点で案内人の役目は終わっており、ロドスが彼を未だ同行させていたのは彼の身の安全の保証のためだったのだから。

 

「あんた達、そいつを逃がさないで。そいつはロンディニウムの中に詳しい。道案内にはぴったりよ」

 

 だが逃げた先にはあろうことかヒロック郡からロンディニウムへと移動し駐在の許可を得ていたマンドラゴラ含むダブリンの軍勢がおり、その身柄は彼らの手に落ちてしまった。

 しかも、騒ぎを聞きつけたのか周辺を警備していたサルカズの戦士達が集まってくる。

 

()()()達が随分騒がしいじゃないか。何をしようと勝手だが、そいつの身柄はこちらで引き受ける」

「何故お前達()()なんかの指図を受けなければならない?」

「はっ、お前達の祖国を管理してやってるだろう?」

「貴様っ!」

「黙りなさい」

「偉そうにしているがお前もだフェリーン。無様に謁見の間から閉め出されたお前の姿はこの都市に来て一番の傑作だったよ」

「・・・」

「上官、こいつらを野放しにしていていいのですか! 下劣な種族がロンディニウムを土足で踏み荒らすのを黙って見ていろと?」

「挑発に乗ってんじゃないわよ・・・流石サルカズ、あいさつも随分と()()()じゃない? でもそちらも私達の間の協定を忘れたわけじゃないでしょ? 約束も守れないからあんたらは長年浮浪者をやって来たんじゃないかしら?」

「お前達など我々からすれば路傍の石以下の存在だ! それでもこうして律儀にここを()()なんてしてやってるのは、我らの()()のためだ」

 

 その人質の身柄を巡ってサルカズ達とダブリンが睨み合いを続けている。同盟関係とは思えない空気で、互いに一歩も譲るつもりは無いようだった。

 

 一瞬出た()()という単語が気にはなったが、アーミヤ達はその動向を静かに伺っていた。

 トーマスを助けるべきか。判断に迷うアーミヤ達を置いて、遂に両者が衝突する。アーミヤ達が知る由もないが、これは原作同様その場に居合わせた自救軍の横槍が引き金となったものだった。

 

 激しく争う彼らとそれから逃げ惑う市民達。流石に見逃せないと市民達の保護に回るロドスの面々。

 多くの思惑が入り乱れる中、アーミヤはダブリンに捕まっていたトーマスの元へと急ぐ。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。なんでこんなことに」

「今は時間がありません。急いでここを離れましょう」

 

 アーミヤが彼の手を引く。だがその手は重く、引っ張ろうと力を籠めた。

 

「っ!・・・? トーマスさん?」

 

 何故動かないのか。問いただそうとした彼女の目の前で、トーマスの口が不自然に歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、ほんと困ったことになったね」

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーミヤの視線が、何故かトーマスに釘付けにされる。

 思えば、アーミヤは彼に接触した時から妙な違和感のようなものを抱いていた。ほんの僅か、指先に何かが引っ掛かるくらいだったそれが次第に輪郭を表していく。

 

(そうです。この人から伝わってくる感情は、まるで役者が見せる素晴らしい演技のような・・・)

 

 表情も、声音も、真に迫ったものだった。

 ただ1つ、それらはあまりにも綺麗すぎた。雑念の無い、この場面でこの人物はこうするだろうと完璧に準えたような正確さがそこにはあった。これまでの経験に加えイグナスによる手解きを受けた事でより深く感情を受け止める事が出来るようになったからこそ気付くことができた違和感。

 

 アーミヤが目を見開く。思い返されるのは幾度となくシミュレーションを重ねた会議の中で、懸念として取り上げられていたもの。

 あの日、龍門で相対した十王庭の1人と接触した場合の対応について。

 

「いけません、彼は!」

「あれ以来随分鍛えたから自信があったんだけどこれも見破るか。でも、少し遅かったみたいだね」

 

 咄嗟に手を振りほどく。

 距離を取った先でトーマスの姿が溶けていく。その姿はやがて以前見た小柄なサルカズへと変わった。

 

()()()!!」

「やあ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 

 戦いの喧騒の中、変形者は休日の街中で偶然出会った友人のように話しかける。

 咄嗟に魔王の力を解放し、影霄を顕現させたアーミヤはその切っ先を向ける。

 

「彼はどこだい? 一緒に来ているんだろう?」

「! 来ていたとして、素直に教えると思いますか?」

「確かに。つまらない事を聞いた。やっぱり僕もどこか浮ついているみたいだ」

 

 ほんの一瞬、変形者は笑みを浮かべた。アーミヤはそこから歓喜とも諦観とも取れる複雑な感情を感じ取り心が揺れる。

 だが変形者が再びアーミヤを真っ直ぐ見つめた事でその感傷を振り払い剣の柄を握り直した。

 

「さて。ここには僕達が排除すべきロドスの潜入員と、あとおまけに末端とはいえ僕達と事を構えたダブリンの勢力、そしてロンディニウムに残る反乱分子が固まっている」

「何を言って・・・!」

 

 見れば、いつの間にかダブリンと衝突していたサルカズ達は撤退を始めていた。ここに残されたのは逃げ遅れた市民とダブリン、そしてロドスのメンバーだけだ。

 アーミヤは変形者の言葉の意味に気付き顔を上げた。

 

 ここに来る前、城壁の外から眺めた天を衝くような砲台の列。

 見上げた視線の先で、外敵に向けられるはずの砲塔が、内側(こちら)を狙っていた。

 

「異種族の魔王。この局面を、どう乗り切るのかな?」

「!!! 全員、散開してくださいっ!!」

 

 悲鳴混じりの指示を掻き消すように、上空から砲声が轟いた。

 それは僅かな空隙ののち、アーミヤやダブリンが残された場所に飛来する。大気を焼くエネルギーの奔流から逃れようとその場の全員が走り出す。

 そして撃ち込まれた都市防衛砲が炸裂し、その一帯を焼き焦がした。

 直前に気付いて散開したおかげで直撃は免れたものの、そのあまりの威力にアーミヤ達の体が宙を舞った。

 

「ゲホッゲホッ! っあの陰湿クソ魔族!」

 

 灰燼が舞うその場所で、ダブリンを束ねていたマンドラゴラの怒声も聞こえてくる。アーミヤが周囲を伺うもいつの間にか変形者の姿も消えていた。

 残された両者。ロドスもダブリンも、その下手人へと視線を向ける。

 届かない遥か上の怨敵を、彼女らは見上げる事しかできなかった。

 

 

 

 

 そんな彼女らを城壁の上から眺める者がいた。

 

「素晴らしい威力だ。これで一割の出力、しかも副砲というのだから驚きだ」

 

 サルカズの将軍マンフレッドが嘆息する。城壁の上は依然として風が強く、そのくすんだ金髪がなびいている。サルカズ軍事委員会の中でも王庭に次ぐ実力者である彼は、自分の成果物を確認し感嘆の声をあげた。

 あまりに容易く自分達の手に落ちたこの国を侮ってはいたものの、そのテラ随一と言われる技術力は素直に賞賛している。

 あの王庭の君主達のデタラメさには及ばないものの、資質に左右されることなくこれだけの威力を内包した一撃を生むことができる。何より、これらは量産可能だ。個人としての技量だけでなく将軍として戦争を研究し知識を蓄えてきた彼はこちらの方が好みだった。

 

 眼下では直撃こそしなかったものの爆風だけで辺り一帯を更地にしている。逃げ場所も少ないゲート前の空間であるならば、じきに彼らもそれに捉えられることだろう。

 だが元々外へ撃つべきものを内に向けているのだ。制御を奪ってまだ間もなく、いわゆる砲撃手も育っていない。その精度はまだ甘かった。

 故に。

 

「次弾装填。目標は眼下の敵勢力」

「いいのか?」

 

 いくら小競り合いを起こしたとはいえダブリンは一応同盟相手。そこに撃ち込んでいいものかと逡巡を見せた傍らの傭兵にマンフレッドは振り返った。

 数多くいるサルカズの傭兵の中でも彼の姿は目立つ。それは粗雑な服ではなく小綺麗な鎧に身を包み質の良い剣を佩いているからだ。

 長い赤髪の奥から、琥珀色の瞳がこちらを見ていた。

 

 そのサルカズの傭兵の名はヘドリー。かつてロドスの前身たるバベルの元で戦っていた優秀な傭兵。つまり、マンフレッドにとっては元敵という間柄だ。

 だが、マンフレッドは彼に友情に似た感情を抱いていており、副将としての地位を与えた。サルカズにしては珍しく、明日より先の未来を憂いサルカズという種族全体の行く末に思考を巡らせる聡明さと、傭兵としての冷徹さを併せ持つ彼は同じ視点で物を語ることができる数少ない同胞だった。

 既に禊は済まされ、彼は幾人もの同僚の首とその左目を土産に新たにテレシスを仕えるべき君主と仰いだのだ。そんな彼を疑う事はしない。

 

「構わない。彼女はそこまで重要な駒ではないし、こちらと衝突を起こしたという負い目もある。あの健気な娘は主君の為にどうにか同盟関係を維持したままでいようとするだろう。そんな者よりも優先するべき敵があそこにはいる」

 

 マンフレッドの視界には既にダブリンはなく、ロドス・アイランドのみを映していた。

 

「大砲とは飾りではないのだ。有効に使わせてもらうとしよう」

 

 再び、その砲塔が唸りを上げ始めた。

 

 

 

 

「どうするアーミヤ。ここからでは敵の攻撃を防ぐことはできないぞ」

「ドローンなら届くかもしれないけど、精々が数秒攪乱するくらい!」

 

 シージとクロージャがアーミヤに指示を仰ぐ。彼女らは焦っていた。

 先程は幸運にもアーミヤが早期に気付き避けるよう指示を出した事、そして狙いがまだ甘かったからどうにかなった。

 だが幸運はそう何度も続かない。いつか死神はその背に手をかけることになる。

 だからこそ、ここで立ち止まるわけにはいかない。その手から逃げ去るには前に進むしかないのだから。

 覚悟を決めたアーミヤは一度短く息を吐き、自分に顔を向ける人達を見つめ返した。

 

「ええ、確かに今の状況は最悪に近いです。起こって欲しくない出来事が同時に発生し後手に回っています」

 

 ですが、とアーミヤは続ける。

 

()()()()()()()()()()()()。事前の取り決め通り、このまま突っ込みます!」

 

 今もまだ、城壁の上の都市防衛副砲は次なる標的を探している。

 だがそれを無視してアーミヤ達は進む。その巨大な砲塔を向けられてパニックに陥る群衆を掻き分けて、目指すべきロンディニウムの中央へ走っていく。

 

 その無防備な背に、都市防衛副砲が狙いを定めた。

 

「なあ、本当に大丈夫なんだよな?!」

 

 シージとともに走るインドラがそう叫ぶ。シージをボスと仰ぐ彼女らは元ロンディニウムのギャングではあるものの、野生の戦士とでも言うべき実力を持つ。

 あの砲塔に背を向けて走る事態に、彼女らの直観が最大限の警鐘を鳴らし続けていた。

 

「大丈夫です。彼らを信じてください」

 

 それにアーミヤは自信を以て告げる。

 

 そして彼女の宣言通り、いつまで経っても砲声は鳴らなかった。

 それどころか砲塔は明後日の方向へと向かっていく。

 

「オペレーション、【ガーゴイル・ストライク】。頼みましたよ、皆さん!」

 

 アーミヤは足を止めぬまま一度だけ振り返り、信頼する彼らにエールを送った。

 

 

 

 

「将軍! 城壁外約1kmに敵影あり!」

「後にしろ。この城壁がある限り侵入はできん」

「それが・・・」

 

 マンフレッドは砲撃の結果を見届けようとしていたのを止め、後ろを振り返る。

 城壁の上のサルカズの軍勢は、城壁の内に潜むロドス達ではなくその外を見て固まっていた。そして、マンフレッドもまた目の前の状況に思わず目を見開いた。

 

 

 城壁の外は遥か遠くまで一面に荒野が広がり、地平より上空を切れ目のない雲が覆っていた。

 だが空一面に広がるその濁った白の中に、茶褐色の異物が紛れ込んでいた。

 

 時を経るごとにそれは点の集合体となり、やがて羽獣の群れに見えたそれはその輪郭を露にし、1つ1つが羽ばたく巨大な石像であるとわかった。

 

「あれはまさか」

 

 マンフレッドは迫り来る軍勢を見て言葉を失う。

 城壁の外。しかも自分達と同じ高度に彼らはいた。土塊や岩で構成された体を持つ無数の石像が、空に列を成してこちらに向かってきている。

 

 アーツに造詣の深い彼は、そのアーツの本質に気付いていた。サルカズの古の血脈、今は失われしアンズーリシックの操る巫術にそれは酷似している。

 それがこうして自分達に牙をむくことの意味に、顔を顰める。脳裏に王庭を探す自らの主君の姿が浮かんだが、この非常事態において迎撃を優先するべきと思い直す。

 

「直ちに砲塔を反転! 奴らを撃ち落とす」

「将軍、敵勢力が拡散しており全ての迎撃は不可能と思われます!」

「なら中央を狙え、少しでも奴らの数を減らすのだ」

 

 砲台が唸りを上げ反転し、外敵へ狙いを定める。

 狙うは中央、少しでも多くの敵を巻き込む位置へ。

 

 前と違い細かい調整は必要ない。これだけの数、撃てば必ず当たるのだから。

 

「撃てぇ!」

 

 マンフレッドの号令を経て砲弾が放たれる。暴れ狂うアーツの奔流が火花を散らし、赤黒く爆ぜる。制御を奪えたのは防壁の砲台1つ、しかも副砲に過ぎない。それでも、不躾な侵入者を殲滅するには十分すぎる威力を持つ。

 

「何だ? 1体だけ突っ込んでくる?」

 

 その砲撃を見届けているサルカズ戦士達の前で、ガーゴイルのうちの1体が突出してくる。

 それはまるで竜のような体躯を持ち、翼をはためかせ先頭を突き抜ける。

 

「無茶な。まさか迎撃しようというのか?」

 

 マンフレッドはその意図を見抜きそれを蛮勇と決めつけた。だがそれも当然だ。砲撃に敵う人間など存在しない。そんなもの、リターニアの巫王といった超常的なアーツの使い手でなければありえない。

 よしんば迎撃できたとしても炸裂するアーツの奔流が空を飛ぶ侵入者の多くを巻き込むだろう。故に注力すべきは一刻も早く次弾を装填し第二射にて敵の勢力を削ぐ事。

 

 砲台の制御を担う部下に指示を出そうとしたマンフレッドを、珍しくヘドリーが遮った。

 

「将軍、これは俺の傭兵としての経験だが」

 

 マンフレッドが傍らの副将を見る。その隻眼は真っ直ぐその敵を捉えていた。

 

「確かに、個人ではどうしようもない局面というものはある。人1人の持つ力というのは大局を変えるにはあまりにも矮小だ。だが、それを超えられる人物というのも確かに実在する」

 

 それは例えばリターニアの巫王、あるいは未踏の地を蹂躙した悪夢のハガン。サルカズの王庭達。

 前人未踏を成し遂げる、特異な力を持つ個体。そして、得てしてそういう人物をこう言うのだ。

 

―英雄、と。

 

 

 

 

 竜のガーゴイルの背には、2人のレユニオンがいた。こちらに刻一刻と近づく副砲の砲弾を前に、しかし彼らは落ち着いていた。

 

「よし、じゃあ頼んだ」

「ああ、任された」

 

 タルラがイグナスにそう返し立ち上がる。飛行するガーゴイルの背で、吹き荒ぶ向かい風をものともせず正面を見据える彼女。

 

 不安定な足場にも関わらず間合いを測り剣を右手に携えて、そしてタルラは一歩を踏み出す。その歩調は徐々に速くなり、やがてガーゴイルの背を駆け抜けたタルラはその背を踏みしめ跳び上がる。それに合わせてガーゴイルが体を撓らせた事で、タルラは1人宙に取り残された。

 

 移動艦すら撃墜する砲撃の前にただ独り晒されるタルラ。だがその眼光は鋭く正面を見据え、剣を構え集中している。

 

 炎のアーツがタルラを呑み込み、拡大していく。その規模は目の前の副砲にすら迫る程で、その灼熱の中タルラは腕を引き刺突の構えを取る。

 

 

 タルラが空中に身を乗り出した理由は至ってシンプル。そうしなければ周囲を巻き込んでしまうからだった。

 

 

 縮まる彼我の距離に比例して、タルラの纏う大火はその勢いを増す。

 引き絞られた弦のように、それは解放の時を待っていた。

 

 そして

 

「はあああああああ!!!」

 

 裂帛の気合とともに、剣が突き出される。圧縮された膨大な熱量は、竜の息吹となって解き放たれた。それは人など容易く呑み込むはずの都市防衛副砲の一撃を食い破り、砲撃を突き抜けてなお威力の落ちないそれは、防壁上に待機していたマンフレッド達を襲う。

 

 マンフレッドは一目見て全体を庇う事は不可能と即断。近くにいた部下達の前に躍り出て範囲を犠牲に強度を高めたアーツの防壁を生成する。

 だがそれでも防壁上を一掃するドラコの炎のあまりの威力に罅が入る。咄嗟に後ろに控えていたヘドリーが灰燼のアーツで炎の向きを逸らさなければそれすら破られていただろう。

 

 ようやく脅威が過ぎ去り周囲を確認したマンフレッドはその惨状に言葉を失った。

 部下の約半数が今の一撃で消し炭になり、なによりせっかく制御下におけた副砲は既に使い物にならなくなっていた。

 今回の制御奪還で得られたデータを元に他の砲台を奪う事もできるだろうが、それもだいぶ先になるだろう。

 

 

 マンフレッド達の直上をいくつもの影が過る。

 

 空を駆ける彼らは誰一人欠けることなく、ロンディニウムの各地へ散っていく。

 そのうちの1つに、マンフレッドは先程慮外のアーツを放ったドラコを見た。テレシスらから提供されていた情報の1つにある、レユニオンのリーダーだろうと当たりをつける。

 

 侵入者を眺める彼にヘドリーが慰めの声を掛けた。

 

「ああいう手合いは正面から相手にするだけ無駄だ。いくつもの策を講じた上で適切に弱点を突く必要がある」

「奴らの侵入を許したのは失態だ。早急に内部の警戒を最大限にまで引き上げる必要がある」

「俺は何をすればいい?」

「警備隊のうちの一隊を率いてもらう事になるだろう。ロドスにレユニオン、そして自救軍。敵は多い」

 

 為すべきことは多い。これが単なる戦争であるならばすぐにでも開戦の狼煙を上げ目の前の命を奪っていけばそれでいいが、今はまだその時ではない。

 真にサルカズが大地を蹂躙する支度ができるその時まで、ロンディニウムを取り囲む公爵達が互いに牽制しているこの状況を今はまだ維持しておきたい。

 

「丁度いい。足りない手は同盟者に補ってもらうとしよう」

 

 荒々しい靴の音にマンフレッドとヘドリーは振り返る。2人は城壁上に上がってきたフェリーンを見た。

 湧き上がる苛立ちを必死に抑え込むマンドラゴラの表情はとても腹の探り合いには向かないのだろう。謁見の間で繰り広げられる王庭達の話し合いと比べてあまりにも幼いそれに、いっそマンフレッドは微笑ましさすら感じていた。

 

 その腹に抱えるものを察しながらも、マンフレッドはサルカズにしては極めて友好的に問いかけた。

 

「さて、ダブリンの使者よ。弁明はあるかね?」




俺ガイルの平塚先生しかり、ブルアカのアルしかり、決めるとこは決めるクールでかっこいいでも普段はポンなキャラがほんとに好きです。

ナラントゥヤ・・・ふ~ん、おもしれえ女
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