ロックロックは見慣れた町を歩く。
彼女にとって、サディアン区は生まれ育った町であり、そしてこれからも暮らしていくであろう世界の全てだった。
ここは軽工業が盛んで一時はロンディニウムの心臓と呼ばれたこともあったが、発展する技術に次第に追いつけなくなり衰退していく斜陽の町だった。
だがそれをロックロックは嘆いたりはしなかった。むしろ自分がこの町を盛り立ててやろうと幼心に思ったこともあった。
廃工場に入り浸ってはスクラップをかき集め、工業品というには杜撰な物を作り上げる。いつしか子どもの頃に作った秘密基地はそんなガラクタの山で一杯になっていた。
それでも、時が経つにつれできる事も増え、それらの出来もまあ悪くはない物になってきた。自分の父に初めて自信作を持っていった時、滅多に飲まない酒を空けて完成品を眺めていたのを知っている。
そうやって色々なものを積み上げて、自分はここで大人になっていくんだろうと。そう信じて疑わなかった。
いつの間にか、ロンディニウムはサルカズの根城になっていた。
理由もわからず働かされ、逆らった人間は全員殺された。
錆びついた工場の壁なんかより遥かに濃密な鉄の匂いが、このサディアン区を覆っていった。
それに対抗して地元の皆んなが市民自救軍を結成して、地下に潜んで少しずつ仲間を増やしていった。まだ中学を卒業したばかりで大人というには若かった自分は後方支援だけしていたけど、昔から続けていたのもあって戦闘に使えるドローンを量産して力になれていた。なれていたと、そう思っていた。
それから暫くして、父さんの部隊がサルカズに待ち伏せされて襲われたと連絡があった。命からがら何人かが生き延びて、父さんは彼らを逃がすために囮になったのだと。
それを信じたくなくて、父さんを助けようと地上に出ようとして、仲間達に羽交い絞めにされて部屋に閉じ込められた。
それから数日後、冷えた頭で何も問題が無いと取り繕えるくらいにまでなった後。地上での資材回収に同行させてもらった。
見慣れていたはずのそこは、もう自分の知る故郷じゃなくなってしまっていた。廃工場を走り回る子ども達のはしゃぐ声も、未だ稼働を続ける工場の鉄を叩く音も聞こえない。
源石蒸気機関のスチームは、何かも分からないナニカを燃やす煤に変わっていた。
呼吸が荒くなって、どこかにかつての面影はないかと歩きながら周囲を見回しているとふと何かを踏みつけた。
ゆっくりと視線を下げた先には、肘から先だけの耐熱手袋があった。それは鋭い何かで切られたような切れ方をしていて、その下の土は赤黒く染まっていた。
ロックロックはその手袋から目が離せなかった。だってそれは、自分が今までずっと目にしていて、大好きな父さんが肌身離さずつけていたものなんだから。
拾おうとしたロックロックは軽くて重いそれに怯んだ。そうしてそれだけを持って地下に帰り、自室で一晩泣き叫んだ。
あれ以来、ロックロックの世界は変わってしまった。
「―――い。おいロックロック」
「! 何?」
「何じゃねえよ。地上だってのにぼーっとしてんな」
耳のすぐ横で仲間が声を出す。地上のサルカズに聞かれる訳にはいかないので、あくまでも響かない範疇で。
「フェイストと喧嘩か? 珍しい」
「・・・何で」
「廊下で言い争う声が響いてたからな。いいコンビだったじゃねえか」
「・・・別に」
彼の名前はビル。元は工場の溶接工で、父さんの部隊の部下だった人だ。父さんが死んで以来何かと自分の事を気にかけてくれている。
フェイストとあたしの仲を取り持とうとしてくれているのは分かるが、別にそこまで子どもじゃない。溶接工として人の仲までくっつけようとするのは少々お節介が過ぎる。
だけれども、そんな事を気にする余裕もなくなってきた。
サルカズ達はどうにかあたし達を捕まえようと躍起になっているみたいで、このままでは地上の連絡係の身も危ない。
急いで建物の間を縫って連絡係と合流したあたし達は、それでもサルカズの傭兵に見つかってしまった。
「ロックロック逃げろ。お前は行け!」
「ダメ、一緒に行くよ!」
多数の傭兵達に囲まれてしまい、後ろに逃げようにも追手を撒けるような道が無い。背中を見せれば追いすがられ捕まってしまうだろう。
そんな中で、ビルはあたしの前に立った。そんな勇気なんてないくせに、なんでこんな時だけ!
「俺はお前達を信じてる。だからこの情報は何としても指揮官に届けるんだ!」
「ビル! いやだ!」
「はやく行けっ!」
ビルがサルカズ達に向かって突っ込む。ろくな武器も持っていない状態で走っていく彼に傭兵達が身の丈を超える程の剣を振りかざした。
もう止められない。今あちらに走ればそれこそ彼の勇気が無駄になる。
それが分かってしまうだけに辛い。自分の手で感情を引き裂いて、理性に基づき背を向けた。
自分を置いていくこんな薄情者にビルは優しい声で言った。
「ちゃんと仲直りしろよ。お前達は相棒なんだからな」
ビルが懐から何かを取り出す。それは掌に収まる程の大きさで、ゆらゆらとピンが揺れていた。
万が一の為に、なんて言って隠し持っていたそれが何かを知っている。間違っても抜いたりなんてしないでねと私は言った。
ビルは走る私を見て、笑顔でそのピンに手を掛けた。
「ビル!!!」
走りながら、咄嗟に後ろに手を伸ばす。
直後、鈴を鳴らしたような金属音がした。
まるで時が止まったみたいだった。
サルカズも、ビルも、走っていた自分でさえ思わず足を止めた。
空気に響くそれが収まった頃、あたし達を囲んでいた傭兵達が一斉に倒れた。
彼らの骸と血でできた池の中に、女性が1人立っていた。
その頭に生えている角と尻尾を見るに、おそらく
赤と黒に満たされたそこで、彼女の白髪だけが純潔を保っていた。
「無事か?」
その声がさっき聞こえた鈴の音みたいだ。そうロックロックは思った。
「え、あはい」
「あなたは、何者?」
混乱から未だに抜け出せないビルに代わって質問する。だが、そこへ誰かの足音が聞こえた。追手かと身構える私達に対して彼女はあくまでも自然体で来訪者を迎える。
「タルラ、お疲れ」
「ああ。市民も無事だ」
タルラというのか、彼女の名前は。やって来た青年は顔見知りのようで穏やかに話している。とてもその手に掴んだ剣でサルカズを一網打尽にしたようには見えない。
青年がこちらを向く。
「! あんたは」
「? あたしが何?」
何故かフードを深く被った彼はあたしの方を見て驚いたように動きを止めた。
「いや、何でもない。知り合いに似てるなと思っただけさ」
彼は何故かタルラという女性に目配せをした後、こちらに向き直った。顔は見えないが、あたしもフェイストとよくするので何か通じ合ったんだろうなというのは分かる。
その彼がフードをめくった。
「「!!」」
その顔を見て、身構えてしまう。
どうやら彼はウルサス人だったらしい。空色の髪の上には特有の丸い熊耳がピクリとしていたが、問題はその髪の下。顔の半分を源石結晶が覆っていて、見るからに重度の感染者だ。いかに感染者に対して比較的寛容なヴィクトリアといってもここまでの人は見た事が無い。
そして混乱から抜け出して視界が広くなったことで彼らの身に着けているオレンジ色のスカーフも目に入った。
「やあ、俺達はレユニオン。訳あってこの町を占領しているサルカズ達をとっちめたいんだが、協力できないか。自救軍の隊員さん?」
どうやら自分達はとんでもない事に巻き込まれているらしい。ビルとあたしは揃って目を見合わせた。
そして仕方ないので彼らを作戦室に通した。
先程のフェイストの事を言えたものじゃないなとロックロックは思う。だがあれだけの数を文字通り一瞬で片づけた人が今更自分達を逃がしてくれるとは思えない。それに連絡係から聞いた話は一刻も早く指揮官に伝えるべき内容だ。彼らが協力的なのもあって、やや諦めの境地で彼らを案内した。
彼女らの指揮官の眼は険しい。
束ねるべきロックロック達の前であれほど緊張を露にするのは初めてだった。
無意識なのだろう、クロヴィシアの喉がゴクリとなった。
「1つ聞かせて欲しい」
「何だ?」
クロヴィシアがタルラを見つめながら問う。
タルラは何でも聞いてくれと言わんばかりだが、クロヴィシアの口はやけに重たい。それだけ今から聞く内容については慎重を期さなければならなかった。
「君の目的はなんだ?
その言葉にロックロック達は疑問符を浮かべていた。確かに目的が若干不透明なのは分かるが、
だがそれとは対照的に、自救軍の一部の大人達とロドスはその質問の意味を正確に捉えていた。
前者は「ありえない。けど確かに先程の炎は」と記憶に埋もれていたとある伝説を思い出し、後者はその可能性に気付いたクロヴィシアへの驚きとタルラの返答に対しての緊張で息を呑む。
そして問われた本人はやや面食らったのか眉を少し上げた後、さも当たり前のことを口にするように言った。
「確かに。私にはドラコの血が流れている」
その言葉に、作戦室の中の圧力が一気に増した。
ヴィクトリアにおいて今はもういないはずのドラコ。アスランと同じく、このヴィクトリアの王冠に値する血筋。
そんな人物が突然目の前に現れた事実に自救軍の戦士達の体が震える。
ロドスの面々も早々に正体を明かしたタルラに驚愕しており、特にシージはタルラに釘付けになっていた。
だが、クロヴィシアはそれとは別の意味で体を震えさせている。
ドラコが、今のロンディニウムに戦力を携えてやってくる。その意味が分からない彼女ではない。
玉座に座るべきアスランの血が途絶え、あまつさえサルカズに占領された。国を守るべき公爵達は揃って様子見を続ける始末。
そんな中、タルラの存在はあまりに劇薬過ぎた。
もし仮に、ロドスと自救軍が手を取り合いサルカズ達からロンディニウムを奪還したとして空になった玉座を誰が手にするのか。それを考えただけでクロヴィシアは悪寒が止まらない。それが新たな動乱の火種となってしまうのではないか、そう考えると作戦に引き入れるのは躊躇われるが、彼女がもし本当にドラコだった場合先程の城壁への一撃も彼女のものという事になる。
あれだけの力を持つ個人に敵対してよいものか、そこから先の未来はクロヴィシアにすら予測ができなかった。
口を真一文字に引き絞り、額から汗を垂れ流す彼女の姿を見て、タルラはようやく彼女の心中を悟った。
「安心しろ。私は玉座などに興味はない」
「・・・何故? その先にはヴィクトリアという王冠があるんだぞ」
かつてそれを巡って八大公爵のうち2つが争って互いに身を滅ぼしたほどだ。今も城壁外で静観を続ける残りの公爵達もそれを狙っているが、それすら彼女の前には霞むだろう。
なにせ彼女には正当な血筋がある。それに加え、もしサルカズ達からロンディニウムを取り戻したという実績が加われば誰も異を唱えられない。
そもそも感染者の自衛組織が何故ヴィクトリアの問題に首を突っ込むのか。その理由に未だ納得のいっていないクロヴィシアはどうしても首を縦に振ることはできなかった。
だが、そんな彼女の葛藤もタルラは見抜いたのだろう。今までの凛々しい姿から一転して和らいだ目と微笑みを浮かべ、その根拠を口にした。
「ヴィクトリアの王などになるよりも、私にとっては彼に嫁ぐ方が魅力的なのでな」
「・・・・・・・は?」
呆気にとられる自救軍の指揮官をよそに流し目でイグナスを見るタルラは自然とその腕を絡めた。
作戦室がまるで凍り付いたように静かだ。一部の人間の体温は急上昇しているが、この空気を自分から打ち破れる猛者はここにはいなかった。
「タルラ。こんな時に冗談言うんじゃない」
「冗談ではない。私の心を疑うのか?」
「そんなの1ミリも疑ったことないけど、そういう事じゃなくて自救軍の人達からしたら冗談にしか聞こえないからってこと」
「ふむ、なら彼女らにも分かるよう私の愛を示す必要があるということだな」
「ちょ、おい待てなんで顔を近づけてくるうそだろここでかよやめろば」
イグナスの静止の言葉はいとも容易く遮られた。
その光景を、自救軍の面々は呆然と見ている。ロドスの面々にとっては慣れたものなのか、またやってるよだのと囁き声があがっていた。クロージャが顔を手で扇ぐ仕草をして目を背ける。アーミヤに至っては顔を手で覆いつつも、その指の隙間はしっかりと開かれ目隠しの役割を果たしていなかった。そんな彼女にドクターは年頃だななどという場違いな感想を抱いていた。
そして妙に艶やかになったタルラがキリッとした顔で再びクロヴィシアを見返した。
「これで分かってもらえただろうか?」
「・・・ああ、わかったとも」
クロヴィシアはほんの僅かに頬を染めながら、今まで感じていたプレッシャーから解放され肩が落ちる。これはおそらく本心だろう。理論も根拠もあったものではないが、一周回ってこれしか方法が無かったのではないかという気さえしてくる。少なくとも、公衆の面前でいきなり接吻をかます色物が王権を簒奪しようと目論む策士だとは思えない。思いたくない。
思考を通り越して頭が一周回っておかしくなった彼女はふと思った。
(これがいわゆる、ダシに使われたというやつなのだろうか?)
レユニオンの作戦参加も決まり、監禁場所の襲撃作戦に関する情報交換を終えた彼らは一度解散した。
会議が終わって早々、ロドスのメンバーがタルラ達の方へと向かう。
「よおドクター。監禁場所をもう特定しているとは思わなかったぜ」
「そちらこそ、先程の朗報はかなり有益だった」
相変わらず仲のいい2人は互いの健闘を称え合う。
一方アーミヤはタルラを見上げながら先程の会合について説教していた。
それを軽く流しながら、タルラはドクターに先程の会議では伝えていなかった事を話した。
「レユニオンのメンバーも降下作戦終了後各地に散っている。全体的な方針については後程共有しよう」
「わかった」
「こちらからの戦力としてフロストノヴァは君達に同行させる事になった。もうじき来るはずだ」
「そうか」
エレーナがこちらに来る。これで戦力としてはもはや十分すぎる程に整った。
ドクターが彼女を含めた作戦について思考の見直しを図っていると、ふとタルラが意味ありげにこちらを見ているのに気付いた。
「愛されているな、ドクター」
「・・・こんな時に茶化さないでくれ」
「そうですよ、タルラさん。それに素性をそんな簡単に話してしまって、彼らが動揺するのも無理ないです」
「それは違うぞアーミヤ。それこそ私が真っ先に開示するべきものなんだ」
先程のお小言を続けようとしたアーミヤに対しきっぱりとタルラは言った。
「どのみちこの容姿では疑う者も出ていただろう。疑念を抱えたまま背中を預けろなどと私は言うつもりはない。それに、彼らは種族というものに囚われ過ぎている」
その言葉にアーミヤはハッとする。それは確かに彼女達が自救軍と接触した当初色濃く感じたものだったからだ。
「もちろん、戦時においては一瞬の躊躇いが生死を分ける。内と外、敵と味方を分ける指標はなるべくシンプルであるべきだ。だが、それでは私達がこの戦争を終えた時何が残る?」
タルラもアーミヤ同様、この戦争が終結した先、自分達の掲げる遠大な理想を見据えていた。
「彼らを恨むのを止めろなどとは言わない。家族を、誇りを、そしてその命を奪われた彼らにとってそれは正当な権利だ。それでも、恨みに瞳を奪われれば私達は暗闇の中で無作為に刃を振り回すことになる」
その言葉に、近くで彼女らの様子を伺っていたロックロックは苦しくなった。
タルラに助けられたロックロックの心に、その言葉は深く突き刺さった。
「割り切れないものもあるだろう。この私とて本当に大切な何かを害された時どうなるかは分からない。それでも彼らに、対するものを見定める猶予くらいは与えてやりたい」
傷を抱えた自救軍の彼らを憂いながらも、希望を見失わないその瞳がこちらを射貫いているように感じて。ロックロックは背を向けその場から立ち去った。
廊下の先で、ロックロックは俯いた。
先程の言葉が、頭の中で反芻する。
『それでも彼らに、対するものを見定める猶予くらいは与えてやりたい』
(そんなこと言ったって、あいつらは、サルカズがお父さんを!)
胸が苦しい。
あの日以来、サルカズを見る度あの光景が蘇る。
服を赤黒く濡らしながら、軽くなった
「わかってるよ」
あのサルカズは、多分そんなんじゃない。あたし達と同じ技術者で、剣なんて振れないような人なんだろうってとっくに気付いてる。
それでも、怖くて手が震える。またあの日みたいに失うんじゃないかって。
今みたいに、ひとりぼっちになるんじゃないかって。
鉄を叩く音が虚しく響く地下迷宮で、壁に背中を預けて蹲る。
今はもう、何も見たくない。膝の間に顔を埋めて暗闇にその身を任せる。
そうすれば、父さんに会える気がして。
「どうした、大丈夫か!」
でも、どうやらそこへは行かせてくれないらしい。視界が晴れた先には、ここ数年で見慣れた彼の顔が心配気にこちらを覗き込んでいた。
「・・・フェイスト」
彼は蹲るあたしの背中をさすって、ポケットの水筒を手渡してくる。
「なんで」
「そりゃお前が作戦室から急いで出て行っちまったもんだから、そりゃ追いかけるだろ」
「放っといてくれていいのに」
「するわけないだろ、副隊長。それにあの時の事謝りたくてさ。さっきは勝手に話を進めちまって悪かった」
「・・・別に、気にしてない」
「ほんとか? それよりほら」
フェイストが後ろ手に隠し持っていた物を差し出した。
「ロック十七号。ちゃんと完璧な状態にしてある」
渡されたそれを眺める。資材不足で故障気味になっていた姿勢制御モジュールは見た事もない新品に変わっていて、一目見ただけでかなり性能が向上したことが分かる。
何故か変な耳が付いているのが気になったが。少なくともフェイストにはこんな趣味はない筈だし、こんな見るからに高性能な部品を調達する事はできないはずだ。
じーっと見つめていると観念したのか一度大きく息を吐き、目を背けながら言った。
「あー、それなんだが実は直したのは俺じゃなくてだな・・・」
「あの、ロドスのメンバーのサルカズ?」
「! 気づいてたのか?」
「いや。ただ君がそんなにも気まずそうにしてるから」
確かに、彼女なら自分が作った時よりずっと高性能になっているのも頷ける。作戦室に案内する道中に見た彼女のドローンはヴィクトリアの高級品よりも遥かに優秀そうだったから。
ふと視線を感じて、フェイストの奥を見ると角から気まずそうにこちらを伺っていたクロージャが目に入った。
自分が見つかった事が分かったのか、曲がり角の先に姿を隠す。それでも彼女の頭の左右から伸びたツインテールがひょこりと出てしまっていて、それがなんだか雲獣の尻尾みたいでおかしかった。
「ふふ」
「? なんかおかしなことあったか?」
「なんでもない。もういいよ、別に気分が悪かったわけじゃないし」
「無理しなくていいんだぞ。何だったら救出作戦からは外れたって」
「ふざけないで。あたしももう自救軍の一員なの」
ロックロックが気遣ったフェイストの言葉を遮って彼と距離を詰める。そして彼の胸倉を掴んだ。
それでもフェイストは引くどころかむしろ詰め寄った。
「ロックロック、自救軍に入る前はさ、中学を卒業したばっかのボイラーマンの娘だっただろ」
「それは君も同じでしょ、ただの職人だったじゃない」
「今回の作戦は今までとは違う。奇襲じゃない、ガチで正面からサルカズを相手どらないといけないこともある」
「わかってる」
聞き分けの無い相棒に、フェイストは言って聞かせる。
「危険なんだ、ただの一般市民には本当は不相応のものだって」
「そんなのわかってるよっ!!」
滅多に聞かないロックロックの怒鳴り声にフェイストが驚く。
胸倉を強く握りしめ、その胸に顔を埋める彼女は聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。
「置いていかないでよ」
その声が震えているのが分かって、フェイストはこの少女がまた誰かを失うのを恐れているのを悟った。安全な場所で帰りを待つより、ともに戦いたいのだと理解した。
「分かった。それじゃ頼りにしてるぜ、副隊長」
「任せてよ、隊長さん。死ぬのなんて怖くないから」
「俺はすげえ怖いけどな。でも、お前も含めて死なせてしまう方がもっと怖い」
「じゃあ、あたしが守ってあげる」
「それじゃあ、そんなお前は俺が守るよ」
見つめ合った2人は、改めて今の状況がおかしくなって噴き出してしまう。
ひとしきり笑った後、フェイストは頼れる相棒に手を差し出した。
2人は手を取り合って、そして暗い廊下から光が差す方へと歩いていった。
ク「とんでもない場面出歯亀しちゃった?!」
フェイスト 178cm
ロックロック161cm
ふ~ん