明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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アークナイツ14章なんとか終わりました。

もうね、もう、、言葉にならない。


第五十一話 サルカズの再会

 爆発音と甲高い金属音が連続する。

 かなりの空間を有するこの廃工場にあっても、今激突する2人のサルカズをその内に収めるには些か狭い。

 

 建物の基礎構造がひしゃげる音を背景に、Wは長らく音沙汰の無かった昔馴染みを笑った。

 

「てっきり死んだと思ってたわ。それが今じゃテレシスの手下なんてね。洒落た鎧なんて貰っちゃって、着心地はどうなの?」

「性能は悪くない。多少違和感はあるが、それもじきに慣れるだろう」

 

 Wの皮肉も聞き慣れているのか、はたまたその性格か。律儀にそう返すヘドリー。

 互いに息を整え終えたのか、言葉は続かず再び炸裂音が轟く。

 

 そこかしこに設置しておいた爆弾を次々に起爆する。どれもが人1人を容易に木っ端みじんにする威力を持つ。それが間欠泉のようになんの前触れもなく発生するのなら逃げ道など無いに等しい。

 

 だが、ヘドリーは爆風に髪を揺らしつつもそれを適切に捌いていく。仕掛けられたそれらから絶妙な距離を保ち、巧妙に隠されたものについては起爆前に細やかなステップで距離をとる。それすら読み越していたWの奥の手の1つはその手の剣によってただのスクラップへと変えられた。

 

 それでもただで通すWではない。もう両手では数えきれなくなってきた数の奥の手を披露し、自分へと距離を詰めようとしていたヘドリーの足元を吹き飛ばす。

 

 

 ゴウン! と轟音とともに土煙が上がる。舞い上がった小石が地面にパラパラと落ちる音に、Wのものではない足音が混ざっていた。

 

(今のでも倒せないのね・・・)

 

 案の定、薄れていく粉塵の奥からヘドリーが姿を見せる。その鎧には今の一撃でかすり傷がついたくらいだった。

 心の中で悪態をつくWに対し、ヘドリーはどこまでも平坦な目で対する彼女を見据えていた。

 

「そういうお前は、随分情に脆くなったじゃないか」

「あら、さっきの独り言聞いてたの? 盗み聞きなんてらしくないわね」

 

 先程も、Wが起爆させた爆弾を事前に察知しその有効射程から身を引いていた。大抵の人間ならば引っ掛かるだろうが、ヘドリーとWは長い付き合いだ。こういった時、事前に策を講じているだろうという事は予想出来ていた。

 

 そしてその予想通り爆発は起き、ヘドリーは肉片にならずに済んでいる。それがヘドリーにとっては良くもあり、同時に失望を禁じ得ないものだった。

 

 ヘドリーは知っていた。Wが挑発するような物言いをするとき、それは大抵Wが自分の動揺を誤魔化そうとしている時だった。

 それは今も変わらない。そして戦い方も昔と変わらない。

 ヘドリーはもしWと出会う事があれば確かめようと考えていた事が的中したと分かった。

 

 Wはあの日以来、その歩みを止めたままだ。

 殿()()の幻影に囚われたまま、バベルに心を置き去りにしている。

 

(いや、それどころか)

 

「今の一撃、少なくとも俺達と別れる前なら軽傷は負わせられていた」

「そういうあんたは節操無しにも程があるんじゃないかしら。テレシスにどれだけ尻尾を振ったの?」

 

 ヘドリーの指摘に心臓を指でなぞられたような不快感を感じるも、Wはそれを振り払い不敵に笑う。

 その笑みはWにとっての鎧。戦場で自分を見失わないための武器そのものだ。それをつけ直した今、Wの頭は冷静さを取り戻しつつあった。

 

(でも実際、ありえないことなのよねえ)

 

 テレシスが一度自分と敵対した人間を手元に置いておくはずがない。だが現にヘドリーはこんな場所でサルカズの将軍と一緒に工場のお守りをしていたわけだ。なら当然、それ相応の代償がいるはず。

 そこまで思考を巡らせて、Wは一瞬だけ頭が真っ白になった。

 あの口うるさい、いつもヘドリーの隣で厚かましい顔を晒していたもう1人の昔馴染み。イネスの姿がどこにも見当たらない。

 

「・・・あんたまさか彼女を・・・」

 

 再び、Wの仮面が剥がれかける。

 その動揺を見逃す程ヘドリーは甘くなく、加えてその言葉の続きをWに口にさせるつもりはなかった。

 ヘドリーの振るう剣が迫る。Wも咄嗟にナイフを抜きそれに合わせる。金属の擦れる不協和音が2人の間の亀裂を暗示しているようだった。

 

「お前はまだ、何も背負っていないとタカをくくっているのだな」

「説教なんて何様のつもり? 元隊長さん」

「傭兵としての助言だ。いい加減自覚しろ。手にするたびに、それまで掴んでいた物は下ろさなければならん。俺は片目と彼女を失った」

 

 いつも冗談で言っていたが、あの女の事だ、死ぬのは当分先だろうと思っていた。

 そんな彼女の死が、あろうことかこの男によって齎されたという事実がWを揺らす。

 

 

 Wはいつもそうだ。死んでほしくない人間の傍にいつもいない。気付いた時には取り返しがつかなくて、空虚な胸の穴がぽっかりと空いたまま、何かで埋めろと囁き続ける。

 

 

 鍔迫り合いの中、ヘドリーが一歩踏み込む。

 息がかかる程すぐ傍で、ヘドリーは変われないバベルの亡霊に告げた。

 

 

「そして、()()()()()()()()()()。バベルはもう崩れたんだ」

 

 

 

 突きつけられた現実を、Wは至極冷静に受け止めた。

 受け止め、そして使わないと決めていた本当の奥の手を躊躇なく切った。

 

 自分すら巻き込みかねない超至近距離の爆弾。手元のスイッチが押され、その信号を受けてコンマ数秒もかからずそれは爆発する。

 

 するはずだった。

 

「そこか」

 

 ヘドリーはWから視線を逸らさないまま、あらぬ方向を一閃する。標的を捉えぬまま振るわれたそれは、今Wが起爆しようとしていたそれを的確に両断した。

 内部の源石ごと斬られたことで、それはもう爆発する事はない。後には虚をつかれ隙を晒すWと、剣を振りかぶったヘドリーだけが残された。

 

(まずい?!)

 

「過去に縋るのなら過去に取り残される」

 

 天を向いていた切っ先が、ゆっくりとこちらに下りてくる。

 それがやけにゆっくりと見えて、Wの脳裏に敬愛していた彼女の姿が浮かんだ。

 

(まだ、あの人の仇を)

 

「さらばだ。っ!」

 

 走馬灯を断ち切るように振り下ろされた剣は、しかし突如としてその軌跡を捻じ曲げた。

 

 

 直後、Wの鼻先を熱く輝く何かが通り過ぎた。

 それは寸前で刃を捻じ込ませたヘドリーを壁際まで弾き飛ばし、Wの命を間一髪救う。

 

 Wはゆっくりと、それが到来した方向に目を向ける。

 そこには見慣れた白髪のドラコが立っており、剣をこちらに向け微笑んでいた。

 

 

「遅くなった。怪我は無いか、W?」

 

 何でもないようにこちらを気遣うその姿が、どうしてか今は憎らしく思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと起き上がりながら、ヘドリーは乱入者を視界に捉える。

 

「あんたの事は知っている。先程の城壁への一撃、レユニオンのリーダーのタルラだろう?」

「私も有名になったものだ」

「それはそうだろう。ましてやこの国で、その血は特別な意味を持つ」

 

 

 厄介な敵の増援に、ヘドリーはこの作戦がほぼ失敗に終わった事を悟るも表情は崩さない。

 

「マンフレッドはどうした?」

「流石に手強くてな。少々手荒くなったが、しばらくは満足に動けまい」

 

 その返答にヘドリーは眉間に皺を寄せた。聞く限り、彼はまだ息をしていると考えられる。

 

「殺さなかったのか?」

 

 返事はない。だが感染者のリーダーは微笑み剣を構えた。

 度し難い。あろうことか敵将の首を繋げたままにするとは。それほどにあちらの戦力に自信があるのか、はたまた本気でサルカズを滅ぼさずにこの戦争を止めようと言うのか。

 おそらく後者だろう。流石にあの王庭の者達を知りながら楽観視はしないはず。かといってその行動の結果が変わるわけではないが。

 

「甘いな。お前からすれば1つ劣る程度の戦士かもしれんが彼はサルカズ随一の将軍だ。生かしておけば今度こそお前の手から多くの命を奪うぞ」

「それは忠告と捉えていいのか、サルカズの副将?」

 

 そう返すタルラはやけに含みのある顔でヘドリーを見た。

 心の奥底を見透かされたような心地に背筋が凍る。だが、()()()()()()()()()を知っているはずはない。それにもし知っているのならば、こちらの意に沿ってくれるはずだ。

 どのみちこの場では動揺を見せるべきではないという結果は変わらない。ヘドリーは自分が導き出した論理に身を任せ、この場では敵として徹する事を誓う。

 

 

 自分に油断なく武器を構えるヘドリーを、タルラは悠然と受け止めた。

 

「彼はサルカズの同胞の為に立ち上がった誇り高き者だ。惜しむべきは、その理想が折れようとしたとき手を差し伸べ同じ道に挑み続ける存在がいなかった事。彼らに穏やかな未来を信じさせることができなかった事だ」

「それが今更可能だとでも?」

「まずはこの戦争を止めることが先決だ。だが彼の存在は、この戦争が過ぎ去った後のサルカズには必要だと判断した」

 

 それはなんて遠大で愚鈍な下策だっただろう。

 この戦争で、無事に勝利できるかも分からない中で、目に止めなくてもいいような事柄の為に茨の道を進んでいく。それがどれだけの労苦を伴い、そしてその実を結ぶ確率が低いかをヘドリーは知っている。

 

 自分はサルカズだ。周囲よりほんの僅かに本に触れる機会があり、傭兵としては珍しく戦場よりもより広大な視点を持っていたからこそこんな道を辿ってはいるが、根本としては自身を含めて同族がよりよい明日を掴むために奮闘しているに過ぎない。

 

 だが、彼女はどうだろうか。まさか本当に遍く感染者を救おうというのだろうか。

 

 

 タルラは先程の戦いを思い出す。積み重ねた戦場と鍛錬が滲み出る、あの強大な将軍。

 しかし自分に向かって剣を振り下ろす彼の眼の奥には、過去に捨て置かれた未練を僅かに感じた。

 

「彼は声を震わせていたんだ。かつて望んだ道の先には、何も無かったのだと。怒りと後悔を滲ませて、その時の自分自身を罵っていた。光を失った過去が、彼らから真に望む未来へと進む勇気を奪い取っていたというのなら、それはあまりに悲しいじゃないか」

「だからこの地へ来たと?」

 

 その問いに、タルラは胸を張って応える。

 

「レユニオンが道を示す。悲劇の上に希望を植えずとも済む明日を。光差す未来への道に、轍を残すための旅路を行くのだ」

 

 そう笑うタルラの姿に、誰かの面影を感じた。

 ヘドリーはその正体を探り当てようとし、そしてすぐに答えに辿り着きWを見る。その目には哀れみすら浮かんでいた。

 

「成程。お前は彼女に殿下の幻を見たのか」

 

 Wは拳を血が滲むほど握りしめ、そして力を抜いた。

 その言葉に飛び出さなかった自分を褒めてやりたかった。いつも通りならすぐさま懐にしまい込んだ爆弾を総動員させ、ヘドリーの周囲5メートルごと更地に変えていただろう。そうならなかったのは一周回って冷静になったからか、はたまたさっきまでの戦闘でそんな体力も残っていないからか。

 

 図星を突かれたというのも違う。当然だ、この色ボケ龍女が殿下と似ているはずがないのだから。見当違いも甚だしい。ただ、皆が殿下の存在を過去に置いていく。彼女の笑みも、理想も、それが打ち砕かれた時の絶望も、Wにはつい昨日の出来事のように思い出せるのに。

 

 それがWには堪らなく、不快で、認められなかった。

 

「うちの仲間をあまり虐めてくれるな」

 

 タルラはWの前を遮る。

 

「彼女が何を胸に抱き行動するかは彼女自身が決める事だ」

「保護者のつもりか?」

「私はレユニオンのリーダーだ。同士が向かう道を定めたならば、肩を並べその背を叩き送り出してやる事が私の務めだろう」

 

 タルラは後ろを振り返らない。そんな彼女の後姿を眺めているだけの自分がひどく滑稽に思えて、Wは久方ぶりに虚勢ではない笑みを浮かべた。

 

 緊張が緩みアドレナリンが切れたのか今になって全身が痛みだす。よく見れば体中切傷だらけで、特に左肩には割と深い傷があった。

 

(どーりでぼーっとするわけね。さっきからほんと、らしくないわ)

 

 痛みはどうとでもなるが、血を失うのはいただけない。

 流れ出るそれを止めようと、適当な布が無いかポッケに手を突っ込んで指先に引っ掛かったそれを取り出した。

 

 

 その手には、かつてタルラから手渡されたオレンジ色のスカーフが握られていた。

 

 

 なんて偶然だろうか。レユニオンへの勧誘を受けたあの日、無造作に仕舞いこんでいたそれがたまたまそこにあった。

 すぐに他の布切れを見繕おうとして、これ以上に清潔な布なんて持ち合わせていないことに気付いた。なんせこれは今まで一度も使ったことが無い新品そのものなのだから。

 服の切れ端を使おうにもヘドリーとの戦闘で砂埃や血と汗で汚れていて、よくよく見れば、まあ元々腕に巻くための物なのだから当然だが、傷口を縛るには丁度いい大きさだった。

 

(ほんっと、神様ってやつがいるならぜひその顔を拝んでみたいものね)

 

 きっと自分の事を変なあだ名で呼ぶときのあいつみたいにむかつく顔をしているんだろう。

 胸中で浮かぶ羞恥やら苛立ちやらを押し殺して、それを止血する。縛った時の痛みで意識も丁度いい感じにクリアになったし、いつまでもこの龍女の背中でじっとしているなんてそれこそあたしらしくないだろう。

 

「さてと、言い残す言葉はある?」

 

 胸を張り、前に突っ立っているタルラより僅かに前に出て、Wは再びヘドリーと対峙した。

 

「もういいのか?」

「急に割り込んどいてよく言うわ。あそこからまたあたしの奥の手が炸裂して、今度こそあいつを木っ端みじんにするとこだったのよ」

「そうか。そういうことにしておこう」

 

 感謝の言葉なんて言うつもりはない。そうすればつけあがる事は間違いないし、この龍女経由であのお調子者に知られれば面倒くさい事になるだろう。

 

 

 並び立つ2人の間に、それ以降言葉は無かった。

 

 その代わり、同じ2つのスカーフがその腕で風に揺られていた。

 

 

 




14章やって、ウィシャデルのプロファイルとボイス聞いて、改めて好きになったよだぶち
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