明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

74 / 120
モンハンワイルズと鋒矢突破、ポケポケ、FGO、二次小説。

やりたいことが多すぎる。


第五十六話 魔王の正体

 突然だが、この中で壁ドンをされた経験がある奴はいるだろうか。

 いたら是非その時の状況と心境、そしてそうなるに至った経緯を教えて欲しいものだ。

 

 はあ~、ラブコメの波動を感じてえ~。

 この前リードとイーノがいい感じって聞いて有頂天になった時を思い出す。

 

 さて、いい加減現実逃避するのは止めよう。そんな事考えてる状況じゃないし、わりとマジで命の危機だ。

 

 俺は今、車両の壁に押し付けられ完全に逃げ道を塞がれている。

 そして俺に迫るW。完全に据わった目で、俺を見据えている。

 

 とても壁ドンなんて甘い空気じゃない。

 

「はやく言いなさい。でなきゃ、何するかわからないわよ?」

 

 殺気すら込められたそれを前にして、俺は頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 きっかけはテレジアの記憶を覗いた直後、列車の車両内での出来事だった。

 

 テレジアの記憶と感情の奔流に飲まれ、ようやく落ち着きを取り戻した頃。様子がおかしい俺をロドスの面々が心配した。

 それだけならよかった。後は俺が何ともないと言って立ち上がって、普段通りにしていればよかった。

 だが、タルラが俺に問いかけた言葉からアーミヤは俺が何をしたのかを悟ってしまった。

 

「彼女を、()()んですか?」

 

 その言葉の意味を理解できた奴はそう多くない。

 

 自救軍の面々は勿論、シージ達グラスゴー組ですら魔王の能力については知らない。もちろん、俺のアーツの詳細を知るわけもない。アーミヤのリーダーシップも、彼女の人柄という事である程度は納得できなくもない。

 

 だがそうではないもの。ロドスの幹部として俺のような外部協力勢含むオペレーターのプロファイルへのアクセス権限を持つアーミヤ、クロージャ、ドクター。そしてサルカズとして魔王の伝承を知るWにとって、それが齎す衝撃は一際大きいものだった。

 

「ちょっと待って。君、彼女にアーツを使ったの?」

 

 クロージャが目を見開いている。見れば他のロドス組も同様で、俺の言葉を待っていた。

 ここまで来て、もはや偽る事はできないだろう。俺のさっきまでの状態は明らかにおかしかったし、それがアーツによる反動だと考えれば辻褄が合う。

 

 

「教えてくださいイグナスさん! 彼女は・・あの人は・・・」

 

 アーミヤがいつにない剣幕で俺に迫る。それだけテレジアという存在は、彼女にとって重要なものだ。

 そんな、亡くなった筈の彼女が目の前にいた。動揺するのも無理はない。その真贋を見抜いたかもしれないなら尚の事だ。

 

「いいか? 俺が視たのはあくまでも断片的なものだ。さっきのサルカズの女性の、全てを視た訳じゃない」

「はい。それでも、判断材料にはなります」

「いいんだな?」

「・・・はい」

 

 意を決して、アーミヤはその続きを願った。それに俺はしばし頭を悩ませる。

 原作でも、テレジアの存在を察している様子はあった。彼女と対面することになるかもしれなくても、アーミヤは不安を感じることはあっても決して立ち止まる事はなかった。

 

 なら、伝えても問題はない、はずだ。

 

 

「彼女には、テレジアとして生きた記憶があった」

「!」

「だからおそらく影武者とかそういうのではない。それだけは、断言できる」

「なら、彼女は」

「いや。断定するにはまだ早い。俺が視たのは彼女の一生のうち後半の一部分だけ、それも亡くなる直前までだ。どうして今彼女があちら側に立っているのか、どうやって復活を為したのかは分からない」

 

 原作のどっかのタイミングで、テレシスとその御付きをやってる聴罪師が彼女の復活について話してる場面が描写されていたっけな。

 まさか本当に死者蘇生なんてやれるなんて思ってなかったが、少なくとも彼女にはテレジアとしての自覚がある。サルカズの古の巫術はかなり規格外なところがあるし、聴罪師の一族の出身であるシャイニングさんのアーツはそういった呪術的な魂の干渉だって示唆されていた。

 本当に亡くなったはずのテレジアを復活させたんだとしたら、その狙いは何なのだろうか? 魔王の継承者としての何かか、あるいは象徴として担ぎ上げるためか。今まで敵対していたはずの組織に復活させられて易々と従うような人ではないだろうが、俗にいうネクロマンシーの技術があちらにあるのだとしたら復活させた人を意のままに操る術がある可能性もある。

 あるいは、彼女自身に何か目的があるのか。魔王の戴冠の際の様子から言って、テレジアとテレシスの間に確執は無かった。あったのはただサルカズの平穏に向かうためのアプローチの違いだけ。

 記憶を覗けたと言っても、それはほんの一部。いずれにしても彼女の意図を全て推しはかるにはあまりに情報の欠片が足りなすぎる。

 

 

 

 

「ねえ、アンタ」

 

 思考の渦に嵌っていた俺は、名前を呼ばれ意識を浮上させる。

 

 Wがこちらを見ていた。真っ直ぐ、食い入るように、まるでそこに長年探していた答えがあるかのように。

 

(待て、俺はさっき何て言った?)

 

 その眼差しに、心臓が早鐘を打つ。

  

 

「彼女の最期も、あんたは見たのね?」

 

 その問いに、俺は自らの失敗を悟った。

 そしてそれは彼女も分かったのだろう。俺が、答えを得ている事を。

 

「教えなさい。彼女の暗殺を企てたのが、誰だったのか」

 

 空気が張り詰める。アーミヤも、クロージャも、そしてドクターも。

 車両を覆う重い空気に、その場に居合わせた自救軍やグラスゴーのメンバーが息を呑む。

 

 

「・・・教えられない」

 

 

 その返事を聞いたWは俺に詰め寄り胸倉を掴む。タルラがすかさず間に入ろうとしたが、それを俺自身が止めた。

 Wが腰からダガーナイフを抜き放ち俺の首元に添えた。

 息がかかりそうな目の前で、赤い瞳が容赦なく俺を射貫く。ギラギラと燃え盛る復讐の炎が、俺を真正面から燃やし尽くさんばかりに揺れていた。

 

「ふざけてるわけ?」

 

 彼女の声が震える。

 彼女の剥き出しの殺意に、恐怖を感じる事はない。だってあのだぶちだ、つっけんどんな態度してる癖に仲間想いで、素直じゃない反抗期の娘みたいな奴。

 

 でも、俺の体は震えていた。

 彼女の、アーミヤと同じくらい殿下が好きだったこいつの、復讐に身を焦がす程の想いを知っていて、それを告げる事が出来ない無力さに。

 

「言いなさいよ! あいつが、殿下を殺したんだって!」

 

 その指先がドクターを刺し貫いた。悲壮な顔をしたアーミヤの後ろでドクターが俯く。

 多分ドクターも薄々気付いていたんだろう。その全容を語られる事がなくても、ドクターなら散りばめられたピースからパズルのように事実を導き出すことは可能だ。その事実に隠された誰かの想いまでは察せなくても、過去の自分が犯した過ちは消えることなくそこにある。

 

「殿下は優しかった。直接なんて殆ど話したことないあたしにだってそれは分かった。あいつが忘れてしまった彼女を、あたしは昨日の事みたいに覚えてるのよ! 開かないドアと格闘する殿下も、子どもに寝物語を読み聞かせてる声も。全部全部、あたしは覚えてるっ!」

 

 それは叫び声だったのか、それとも嗚咽交じりの嘆きだったのか。それが伝わりドクターの拳が震える。

 普段飄々としている彼女が激昂している。それでも、アーミヤとイグナスには彼女が泣いているように見えた。

 

「それでも、あたしが最後に殿下に言ったのは絶対にサヨナラじゃなかった。別れの言葉も言えないまま荒野に放り出されて、何とか前に進んだらいつの間にか殿下が蘇っていてあたし達と敵対してる!」

 

「ねえ、教えなさいよ! いつも見透かしたような顔してるじゃない! あたしは次に殿下に会った時、どんな顔してればいいのよ! なんて声を掛ければいいのよ!? 殿下を裏切った奴を野放しにしてごめんなさいって謝ればいいわけ?!」

 

 矢継ぎ早に吐き出される彼女の慟哭に、俺は何も答えることができない。

 沈黙を貫く俺に業を煮やしたのか、彼女は叫んだ。

 

「あんたらが言ったんじゃない! 正しい復讐なら成されるべきだって! あんたの偽善に、あたしを巻き込むんじゃないわよ!!」

 

 

 

「俺は、お前の背中を押してやりたい」

「なら!」

「だが、お前が一線を越える言い訳になるつもりはない」

「!」

「お前は気付いてるはずだ。その真相に、事実以上の何かがあるって。それに、お前は本当はその刃を振るう事を躊躇っている」

「はっ、あたしが絆されたって? これでもまだ言える?」

 

 首に添えられたダガーが軽く押し当てられる。少しでも横に引けば、白い肌に赤い線が刻まれるだろう。

 

「さっきの俺の言葉を聞いた時点でお前はドクターの背後を取れたはずだ。そうしなかったのは、自分の中にまだ躊躇いがあるからじゃないのか?」

「うるさい」

「確かにお前はドクターが過去を思い出すまで直接的な復讐はしないと決めていた。そうでないと復讐にならないからだ。外面が同じだけの別人に刃を振るったって意味ないってな。でも、そうして過ごした日々が教えてくれたはずだ。今のドクターってやつを」

「うるさいって言ってんでしょ」

「信じてやってくれないか? 彼女と同じ理想を胸に走るあいつを。そして、俺達レユニオンの仲間の事を」

「黙れってのよ!」

 

 悲鳴にも似た拒絶の言葉が、虚しく車両の中に木霊する。

 

「・・・くっ」

「Wさん!」

 

 Wは俺を掴んでいた手を乱暴に放し前方の車両へと走り去る。

 

「イグナス」

「ああ、頼む」

 

 その背をタルラが追う。タルラなら彼女を落ち着かせられるだろう。

 しばらくあいつは俺と口すら聞いてくれなくなるかもな。ロドス側ともしばらく距離を置きたいはずだ。

 

 彼女が立ち直るまでの間、どうすべきか。思考する間に俯くと、自分の掌が目に入った。

 

(偽善、か)

 

 Wにとって、テレジアは大切な人だったんだろう。それを理不尽に奪われた。その怒りは正当なものだ。

 たとえテレジア自身がそれを望んでいなくても、ドクターがそれを覚えていなかったとしても、彼女の復讐は正しいもののはずなのに。

 

 その背を押してやれなかった。俺を睨みつけるあいつの眼に浮かんでいた殺気。その中に混じった、裏切られたという絶望感。普段から壁を作りがちなあいつが、初めてあそこまで本音を曝け出してくれた。それが、俺達へのあいつなりの信頼の表れだったと今頃気づいた。

 

(痛いな・・・)

 

 

 押し付けられた金属の冷たさが、今も首元に残っている。

 手を当てそれを実感していると、おずおずとアーミヤが話しかけてきた。

 

「イグナスさん。その」

「気にしないでくれ。だぶちならきっと大丈夫。いざとなればタルラも付いてる。それと、俺の意見は変わらない。少なくともあの真相は部外者である俺が盗み見た情報から判断されるべきものじゃない。君達自身が、彼女と直接会って知るべきだ」

「そうじゃない。そうじゃないんです」

 

 あの真相は俺が墓場まで持っていく必要がある。だからアーミヤ達にも伝えるつもりはない。

 そういう話だと思っていたんだが、アーミヤが頭を振る。

 

「私は、イグナスさんが抱え込むそれに押し潰されてしまわないか心配なんです」

「・・・ほんっと、君ってやつは」

 

 衝動のまま手を伸ばし、アーミヤの頭を少し乱暴に撫でる。

 こんな時にまで他人の心配か。この娘は本当に、優しい子だ。

 

―さて。

 

「ドクター」

 

 アーミヤから視線を移す。呼ばれた彼は未だ一言も発さず、揺れる床をじっと見ている。その拳は先程同様、強く握りしめられていた。

 

 ここに来て改めて突きつけられた過去の所業。それに動揺しない方が無理な話だ。しかもそれが、あのWからなら尚の事。

 

「俺の気持ちは変わらない。あのチェルノボーグで俺達を救ってくれたのはあんただ。過去の()()なんかじゃない」

「!」

 

 だが、それじゃ困るんだぜ主人公。

 たとえどんな過去があっても、自分で積み上げてきた物も確かにあるんだ。

 

 だから顔を上げろ。

 見据えるべきものを、その瞳に映すために。

 

「それに、変わっていないところも確かにある」

「・・・それは、君が視た記憶か?」

 

 テレジアの記憶で見たかつての彼は、バベルの皆んなとその他多くの感染者を救うために今と同じく身を粉にして働いていた。

 そもそも旅先で偶々見つけた幼い少女1人見捨てられないような奴だ。

 

 その結末で、あまりに大きい物を両天秤に乗せて、そして俺達ではない方を選んだのだとしても。そこには依然として彼の優しさがあった。例え源石に覆いつくされるような未来だとしても、今そこで苦しむ人々を無いことにはできないと。

 

 ドクターの魂を視る。

 出会った当初。透明で澄んだ川の水のようだったそれは、今はもう様々な色が混じり合っている。その中にはきっと、ほんの僅かでもテレジアの想いが混じっているのだと思う。

 

 全てが消えたわけじゃない。

 誰かを救うための頭脳と、そして困ってる人を見捨てられない人としての善性。

 

 それらが継がれたのはきっと、彼女の祈りが届いたからだと思うから。

 

 

「お人好しってところは、変わらねえんじゃねえか?」

 

 

 なら今度こそ、お前がこの世界を選べるように。

 

 テラの人々の可能性ってやつを、見せてやる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。