明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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私のエイプリルフールイベントにて

ポンペイ&オリジムシ VS ジェッセルトン

損失覚悟でジェッセルトンに賭ける
「いけえ~~ジェッセルトン!! お前ならやれるっ! 頑張れぇ!」

オリジムシにフルボッコにされるジェッセルトン

「なあ~~にやっとるんじゃぁ~~!! そんなんじゃサリアに勝てねえぞぉ!!」

源石錐が崩れる音


第五十七話 高潔不変のカンバーランド

 それは、まだ私が煌びやかなドレスを身に着け庭を走り回っていたような幼少の頃。

 ヴィクトリア貴族にありがちな大仰なパーティーで、天井を照らすシャンデリアの照明がきらきらと輝いていた。

 

 その下には、これまた華やかな色を纏った貴婦人や格式ばった正装を誇示する貴族と商人がひしめき合っていた。

 何もかもが正しく整えられたその空間。それでも、それが外面とはかけ離れた薄暗い何かを抱えている事を知ったのはそれより少し前。

 

 ヴィクトリアを覆う暗雲に引きずられるように、自分の誇っていた家が遂に斜陽に陥ったと揶揄されていたのを知ってからだ。

 

 

 このパーティーの会場は、私達カンバーランド公爵家が首都ロンディニウムに構えた邸宅だ。

 窓から差し込む日差しが、金に縁どられた額縁を照らしている。真っ白なシルクのテーブルクロスは机の上の色鮮やかな料理を際立たせる。

 そんな社交の場の中で、私はグラスを片手に手すさぶ。使用人が渡してくれたそのグラスは周りの大勢が飲んでいるような赤いワインではなく、リンゴのジュースで満たされていた。

 

 退屈で、息が詰まる。

 そう心の中でため息を吐きつつも、目上の方が挨拶に来れば笑顔を張り付けてカーテシーをした。小さい頃からマナーの講師に指導されたおかげもあって、当たり障りのない世間話をする傍ら私は別の考え事をする余裕があった。

 

 今日は珍しく、お父様が家にいる。

 お父様は近頃忙しく、自分の相手もしてくれない。最近足を運ぶ事が多くなった騎士の方や他の貴族と夜通し秘密のお話をしている。

 昔から王家の側近として仕えてきたお父様だ。最近は首都もどこか慌ただしいのは分かっていて、不満はありつつも大切なお父様の前では良い娘でいたかった。だからこそ、こうして愛想よく、令嬢として相応しい振る舞いをしていたのだ。

 

 それなのに。来賓の方が集うテーブルから聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「どこぞの媚びへつらうだけの側近とは違って、彼こそ真の蒸気騎士に相応しいのだから」

「先祖の栄光に頼って地位を保つような者は、栄誉ある騎士に相応しくないのだよ」

 

 ただでさえつまらなく感じていた社交の場も、そうやって招かれた身の上でお父様を悪く言う人達の所為で台無しだった。確かに今日このパーティーに顔を出された新鋭の蒸気騎士、チャールズ・リンチ氏は素晴らしい御方。でも、大好きなお父様を非力な臆病者のように言われ我慢できるほど私は大人じゃなかった。

 幼いからとこちらを侮る彼らを言い負かしてやりたくて、それでも何もできない自分が悔しかった。

 私は会場を抜け出して邸宅をやみくもに走る。

 

 そして辿り着いたのは埃と黴臭さに覆われた暗い場所。貴族の大半が顔を顰めるようなそこも、私にとっては差し込んだ一筋の光がそれらに反射して童心から見ればシャンデリアよりも煌めいて見えた。そしてその下で、物言わぬ鋼鉄の塊が私を何も言わず迎え入れてくれたから。

 

 誰もいない屋根裏部屋。そこで沈黙を守る甲冑が私にとって唯一の友だった。

 ()の前では、私はただの無邪気なアラデルであれた。女の身ながら剣を振り騎士を目指したいという夢も、令嬢にはあるまじき愚痴めいた非難も、彼は全て受け止めてくれたから。一方通行に過ぎる対話を重ね冷たい体躯に寄り添った日々、それでもそこからは温かさを感じた気がしたのだ。

 

 初代蒸気騎士の甲冑。カンバーランド公爵家が忠義の貴族と言われる所以。私の古い先祖は彼を纏って当時の陛下と民を守るためガリアの火砲に身を晒したという。

 

(いつか、私もそんな騎士に)

 

 そんな無邪気な語らいは、音を忍ばせやって来た怪しげな侵入者によって遮られる。

 顔の見えない彼らは話を聞く限り商売人と将校らしく、何やら良からぬ相談事をしているらしい。見つかったら何をされるか分からない。そっと抜け出そうと窓から身を乗り出せば、窓枠が軋んで音を立てた。

 

「誰だ!」

 

 耳聡く聞きつけた将校が辺りを見渡す。それに動揺した私は外に身を乗り出し過ぎて、気付けばその体は宙に浮かんでいた。

 

 悲鳴すら上げられず、頭から落ちていく私は死を覚悟した。

 だが中空で何か温かいものが私を包み込み、目を開けた時には石畳の上で尻もちをつくだけで済んでいた。

 

 

 呆然とする私の上空から舞い降りる雄々しい金の鬣。金糸のように流れる髪。

 ドレスを纏うアスランの幼子と、彼女を背に乗せる3匹の獅子。

 彼らはその口に王家の紋章が入った一振りの剣をくわえ、眼下の私を見降ろしていた。

 

「アレクサンドリナ殿下~!!」

「どこにおられますか~!!!」

「我らの国剣、“諸王の息”の行方も不明だ。何としても探し出せ!」

 

 遠くで叫ぶ貴族達の声も、この耳には届いていなかった。純金よりも眩く、太陽よりも煌めいて見える彼らから目が離せない。

 

 まるで御伽話から飛び出たような幻想的な光景。

 そして誰が喋ったのかも分からない、まるで頭の中に直接囁かれたような言葉は深く私の心に刻み込まれた。

 

『アラデル・カンバーランド。いつの日か、君はまたヴィーナと出会うだろう』

 

 

 それからしばらく呆然としていた。侍女に肩を叩かれようやく我に返った私は、先程までの夢のような出来事を思い返し、そして心を決めた。

 獅子がくわえていたあの剣を携え貴族達から喝采される殿下。大人達に一切動じることなく居住まいを正す彼女に、幼いながらも騎士の叙勲の真似事をした。金の鬣を揺らす彼女、アレクサンドリナ・ヴィーナ・ヴィクトリア殿下へ。忠誠を籠めた決意を。

 

『私が受け継いで、守るんだ。今日のパーティーにいたあの蒸気騎士みたいに、屋根裏部屋で休む()みたいに、カンバーランドの名前をまた輝かせるの』

 

 あの日、姉のように慕っていた侍女にだけ聞かせた誓い。

 それを幼子の無邪気な将来の夢と捉えた彼女は言った。この庭園に咲く花のように、人の心はうつろう。不変のものはこの世になく、いつかそれが分かる時が来ると。

 

 世の条理を説く彼女に、私はそれでも変わらないものはあると言った。悲し気に目を伏せる彼女と、そして私自身に言い聞かせるように。だからずっと私達は一緒だと、私が家族を守って見せると約束した。

 

『私の命に終わりが来るまで』

 

 それは今もなお、私の中で火を灯している。

 八大公爵家の一席、高潔不変のカンバーランド。その最後の血縁。アラデル・カンバーランドが目指し憧れた、あの黄金色の輝きを映して。

 

 

 幼い無邪気な誓いを照らすその輝きが、今の自分には苦しいほどに眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンディニウム オークタリッグ区カンバーランド公爵邸

 

 

 サディアン区での激闘を終え、そしてテレジアの復活を知ったドクター達。レールに導かれるまま線路を行けば、ロンディニウムの中央区、オークタリッグ区の終着駅で列車は止まった。彼らはまず、自救軍の勧めで市街地中心にある公爵家邸宅へと向かった。

 

 カンバーランド家は内戦が終わりサルカズに首都を占領された後も秘密裏に首都奪還の計画を練っていた。自救軍の支援もそのうちに入っており、今まで自救軍が飢え死にしなかったのは偏に彼女らのおかげだ。

 そんな話を聞いて、現地の協力者を得るためにもドクター達はその当主と会う事を決めた。

 

 静まり返った街道を、サルカズを警戒しながら進む。警邏に運よく出会う事も無く順調に道を進めば、広々とした空間にコの字型をした白い豪邸が建っていた。

 

「ここが・・・」

 

 その大きさにため息を漏らすドクターの前で、鉄の門扉がゆっくりと開かれる。

 そして奥から背の高いフェリーンの女性がゆっくりとこちらに歩いてくる。ヒールが鳴らす踵の音がピタリと止まり、彼女は胸を張ってドクター達を迎え入れた。

 

 アラデル・カンバーランド。八大公爵家であるカンバーランド家の現当主。

 そんな彼女に招かれドクター達は目の前の豪邸内の客室へと案内される。

 

 大勢で押しかけたにも関わらず、そこはすんなりと全員を収めた。それだけこの屋敷は広く、自救軍の戦士達は人生で一度も見た事のないようなその部屋をおずおずと見渡している。

 だがドクターとイグナスだけは、それだけが理由で無い事に気付いていた。

 

 それを敢えて指摘するようなことはしない。他の全員はやっとサルカズの目から完全に隔離された場所で息を落ち着けた。安堵の息が漏れる中、改めて今後の方針を相談する。

 

 

 ヴィクトリアの八大公爵家でもあるアラデルから齎された情報は依然として芳しくなかった。他の公爵家達は、今も互いの出方を伺い首都へと手を出さないままその緊張を高め続けているらしい。いつ開戦してもおかしくない。云わば破裂しないまま膨らみ続ける風船のようだ。

 当然、それはいつか爆発する。問題はその時ロンディニウム内に未だ残っている市民達にどれだけの被害が出てしまうかだ。そんな彼らを当てにするわけにもいかず、このまま首都奪還へと動き出したいクロヴィシア以下自救軍の面々の士気は万全だった。

 今までよりも幾分か好戦的な彼らに違和感を覚えたアラデルに、クロヴィシアはロドスとレユニオンのメンバーを紹介した。ロンディニウム防壁の突破に加え、あのサルカズの十王庭の撃退。そのどれもが侵攻作戦の成功率の高さを裏付けるもので、アラデルは驚きを以て彼らを見た。

 

 そしてそれを後押しすべく、ドクターは一刻を争う事態である原因について話した。 

 

「ザ・シャード?」

「ああ。あれこそサルカズ達が手にしてはいけない、()()を操る兵器だ」

 

 ドクターは窓の外を指差す。そこからはヴィクトリアを見下ろす灰色の雲があった。

 

 サルカズがこの地に根を張ってから、それは空に留まり続けている。晴れる事のないヴィクトリア市民の不安を映したかのようなそれこそが、ロドスがロンディニウムへと出向いた理由だった。

 

 天災を人為的に発生させる。そんな事が可能になれば、それはあらゆる国にとっての脅威になるだろう。

 天災とは銃や砲弾ではなく災害だ。人は災害には敵わない。天災が蹂躙した跡には人智を超えた力によって荒れ果てた土地と、そして大気中を舞う活性源石の粉塵に侵された大量の感染者が残される。

 

 そんな最悪の未来を阻止するため、ロドスはロンディニウムへとやって来たのだ。

 

 

 ドクター達の話を聞き、それでもクロヴィシアは戦いから降りることはないと言う。もしここで恐れをなし、外で重い腰を上げる事を躊躇っている公爵達の助けをただ待っているのならばその間にいくつもの命がサルカズに蹂躙される。そしてこの戦争が終わった後もこの土地を報酬とした山分けが自分達を襲うだろう。

 元は戦いも知らぬ一般市民がそれでもと反旗を翻したのが市民自救軍だ。ならばこそ、ここでできる事をする。指揮官を含め戦士達の決意は固かった。

 

 そしてアラデルもまた、この戦争にそこまでの猶予が残されていない事を悟った。既にサルカズはその巨大な塔を建設し終えている。そしてまた、その空中には天を覆いつくさんばかりの巨大な()()()。未だ稼働せず沈黙を保ってはいるが、それが最終調整の段階に入っているとしたら牙を剥く時はもう目の前だろう。

 今までのテラにはない2つの戦略兵器が世に放たれた時、軍事大国のヴィクトリアですらそれに適うか分からない。

 

 同盟相手の賛同を以て、ドクターは改めてそれに抗う手段を模索する。

 そして再び顔を上げた時、これから3つの部隊に分かれて行動する事を提案した。

 

 1つはロドスと自救軍の一部。彼らはザ・シャード完成を少しでも遅らせ公爵軍達が首都に介入するまでの時間を稼ぐ役割を担う。これだけの兵器の構築・運用はそれに見合うだけの補給を必要とする。だがロンディニウムは牽制を続ける公爵家の軍艦に囲まれ孤立状態だ。だからこそ、サルカズは秘密裏に補給路を確保しているはずであり、そこを見つけ叩く。フェイストは兵器製造を担うハイベリー区の生まれらしく、道案内は彼が担う事になった。

 2つ目は首都が置かれている状況をより正確に知るため、サルカズの支配下に置かれた都市防衛軍の司令本部へと向かう。都市防衛軍はサルカズによる占領が始まって真っ先に投降した。加えてクロヴィシアは都市防衛軍を率いる中佐と旧知の仲であるらしく、その人柄を知る彼女からおそらく協力はしてくれないだろうという意見が出た。そのためこちらに関してはあくまでも情報収集に留め、他の部隊が役割を終え次第力を合わせてこれの攻略にあたる。

 そして最後に、アラデルとヴィーナ達グラスゴーの面々。彼らはヴィーナが持ってきた地下墓の鍵を使い、国剣でありまた天災を鎮める力があると言い伝えられている「諸王の息」を取りに向かう。眉唾めいた伝承ではあるが、代々アスラン王家に仕えてきた忠義の家系であるアラデルが確かな根拠があると保証した。ならばいざという時の為の切り札として、それを確保しておくに越したことはない。こちらも、アラデルが手配した新しい戦力が到着し次第向かうことになっている。

 

 

 方針を語る最中、クロヴィシアはロドスの異様とも言える用意周到さに驚いていた。

 自分達の知らないアスラン王家の地下墳墓に眠る国剣へと続く鍵にザ・シャードの真価。それらをすべて把握し対策を練ってきた彼らに、疑念がもたげかける。

 だが、今はその不信を詳らかにするべき時ではない。俯瞰的な視点を保っていたからこそ口には出さなかった。そしてそれを察したアーミヤは、クロヴィシアに小さく礼を言う。

 

 

 自救軍とロドスが苦境を共に乗り越えた事で距離を詰める一方、レユニオンの動向についてはドクターにも予想外の出来事があった。

 

 まず、今まで沈黙を保っていたWが早々に単独行動を申し出て返事も聞かず飛び出して行ってしまった。元から単独のゲリラ戦を得意とする彼女だったが、それが戦術的な理由だけではないのは彼女の顔を見れば明らかだった。

 彼女の人柄を知らない自救軍の人々からすれば胸を撫でおろすよう状況だったが、アーミヤを始め多くの人間が彼女の安否を気にしつつもその背を無理に追いかけることはしない。

 

 アーミヤは徐々に遠くなる後ろ姿を見送る。

 

「Wさんも今は戸惑っているだけです。皆さんと過ごした時間は、決して軽い物ではありません。あの人なりの答えを、見つけ出せるはずです」

 

 心配しつつも信じて見送る。その横顔は、彼女が慕ったあの人の面影を残していた。

 

 そしてWに加えてもう1人。ドクター達に束の間の別れを告げ、その場を後にしようとする者がいた。

 

「本当に、行ってしまうんですか?」

「悪いな。その代わり、フロストノヴァはドクターに付けたままにするし、タルラも残す。戦力的には十分だろ」

「そうですが」

「俺にもやらなきゃいけない事がある。大丈夫だ、今生の別れってわけじゃない」

 

 アーミヤが心配そうにイグナスを見つめる。それにイグナスは笑って手を振った。

 

「じゃあドクターを頼むぞフロストノヴァ。アーミヤも、前みたいに変形者が紛れ込んでたりしないよう注意してやってくれ」

「任せてください。フロストノヴァさん。ドクターの事、よろしくお願いします」

「任せておけ」

 

 アーミヤは今回、自救軍の殆どが待機する事になるこの邸宅の護衛につく。これまでの状況から変形者があちこちに紛れ込んでいる事は分かっている。だからこそイグナスには残っていて欲しかったというのもあるが、それができないのであればその役目はアーミヤのものだ。

 アーミヤは既に二度、変形者の心を感じ取っている。一度目は龍門で、そして二度目はこのロンディニウムで。その感覚を思い出せば今度こそ被害が大きくなる前に彼を見破れると自負していた。

 

 そしてドクターの元を離れなければならないからこそ、アーミヤはドクターの安全を一番信用できる人物に託した。

 彼女なら、ドクターを必ず守り抜いてくれる。その思いを受け取ったフロストノヴァもまた、その信頼に恥じない成果を出すことを誓う。

 

 

「よし。じゃあ、またな」

 

 イグナスが手を振って外へと向かう。その後ろ姿をタルラはずっと目で追っていた。

 扉が独りでに締まり音が止んだ後。そこには行きより少しだけ少なくなったロドス達一行が残された。

 

「大丈夫だ。彼らもロンディニウム奪還の為に動いてくれている。なら、私達もできる事をしていこう」

 

 ドクターの励ましもあり、士気を持ち直した自救軍。

 今後の予定も決まり、後は各自目的地へ向かうだけ。そんな段階となり、他に何か意見が無いかアーミヤは周囲を見渡す。

 

 沈黙の中、1人が手を上げる。

 

「すまない。アーミヤ、ドクター。少しだけ、彼らと話す時間が欲しい」

 

 金の鬣を持つ彼女。シージがクロヴィシア達を見つめる。

 

「・・・分かりました。私達は外で待っていますね」

 

 意を決した様子の彼女を慮り、アーミヤ達は席を外す。

 皆が扉へ向かう中、タルラは何も言わずシージの肩に手を置き、そして外へと向かう彼らの後を追った。

 

「何だい、話というのは?」

 

 クロヴィシアは部屋に残った者達を代表して問いかける。

 態々彼らを部屋から追い出してまで話すようなことがあるのだろうか、そう困惑する彼らを真っ直ぐ見据え、シージは、ヴィーナは切り出す。

 

「ここにいる皆が、ヴィクトリアを取り戻すために命を賭けると言った。ならば、私は君達に隠してはならない事がある」

「それはいったい・・・?」

 

 

 

 

「私の、出自についての話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来た道をゆっくりと歩く。

 

 白い石畳の道は邸宅から漏れた光と敷地内に設置されたガーデンライトに照らされてほんのりと光っているように見える。

 だが行きは大きく荘厳な邸宅に向かって歩いたのに比べ、今歩く道は明かりも灯されなくなった街道へと続いている。

 

 そんな場所へ1人門扉を開けて出たイグナス。周囲を見渡すもそこには人影1つ無く、アラデルが今はしっかりとサルカズ達の手綱を握れている事を再確認する。

 人気の無い路地で、イグナスは立ち止まる。

 そんな彼を迎える人影があった。

 

 その男は黒い外套の裾を揺らし、闇から抜け出したように姿を現した。

 

「良いのか?」

「これは向き不向きの問題だ。俺は師匠と一緒に行動した方がロドスのためになる。タルラも納得してくれた」

「よく説き伏せたものだ」

「タルラのアーツでも変形者は倒せない。もっと根本的に違うアプローチが必要なんだよ。それに俺の護衛って意味なら師匠だけで足りる。タルラには、できればあの場所を守ってあげて欲しい」

 

 そんな彼の、Logosの登場を予期していたかのようにイグナスは質問に答える。

 Logosはそんなイグナスの言葉の最後に違和感を覚えた。

 

「人ではなく、場所か?」

 

 イグナスは喋り過ぎたと後悔した。

 深く追及されるわけにもいかず、かといって何も話さないのは義理が無い。

 仕方なくイグナスは口を開いた。

 

「アラデルさんにとってあそこは特別な場所なんだ。アスラン王の処刑以降苦しい立場を強いられ続けた彼女にとって、最後の拠り所なんだよ」

 

 彼女の結末を知っている。

 薄暗く、過去の悪意に満ちた場所で、憧れの存在とともに、変わってしまった自分を嘆いて消えた。

 

 あんな最期を迎えさせたくない。

 

 だけど自分の腕は1つしかない。その上、我儘な俺は沢山の助けたい人がいる。

 伸ばせる手にも限界があって、その1つ1つが持ち上げられるかさえ怪しいものばかり。

 

 だからこそ。最大限に効率的に進めなければ。

 自分1人でできる事など高が知れているのだ。仲間を信じ、頼り、巻き込まなければならない。

 

 頭を振って、邪念を晴らす。

 一度仲間を信じると決めた以上、それを疑うのは意味の無い事だ。

 

 今はただ1つ。自分の役割に集中するため深呼吸し目を閉じる。

 

「・・・さあ。あいつの孤独を、終わらせにいこう」

 

 その目を開けば、ヴィクトリアに浮かぶ星々が視えた。

 

 

 

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