明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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少し期間あいてしまい申し訳ありません。

危機契約、皆さん頑張って!


第七十二話 忍びよる悪意

 決戦の日。ロンディニウムに朝陽が昇る。

 

 自救軍の根城である地下迷宮にも採光部分はあり、吹き抜けとなった階段部分を反射して地下深くへと光が届けられる。地上と比べれば薄暗いとさえ言えるそれも、蛍光灯の明かりに慣れたその住人からすれば目覚めの合図には相応しい。何より、そこには人工的な明かりでは持ちえない温かさがあった。

 

 程なくして地下迷宮が忙しない騒めきを取り戻していく。

 ある者は決戦へと向かう覚悟を決め、作戦に追従する戦士達は携行するクロスボウの手入れを入念に行う。地下に留まりその支援を行う者は戦地に赴く彼らの無事を祈り涙する。

 

 皆が皆、それぞれのやり方でこの日を迎えていた。

 

「ようやく、だな」

「そうですね」

「この戦いも、ようやく決着がつく」

 

 そんな彼らの姿を見下ろしながらイグナスはアーミヤとドクターを振り返った。

 

 ようやく。自分が発したその言葉はやけに重みを持っていたようにイグナスは思った。

 

 ヴィクトリアでの政変を意識し始めてから、レユニオンでの下準備を水面下で進めた。サルカズの軍勢にも劣らない程の実力をつけさせるためパトリオット達に頼み込みレユニオンの戦士を鍛え上げた。また龍門からのスパイであったナインを囲い込み食料の他必要となるだろう膨大な支援物資の生産を急がせた。

 タルラ達とともにアーツの修行を行い自身も力をつけた。その集大成がまさにこの瞬間だ。

 

 不安は勿論ある。これまでとは違い、ここからはイグナスですら知り得ない原作の12章のその先。失いたくなかった人々を救えたのは原作知識があってこそだった。長く連れ添った頼みの綱はもう無い。

 

 それでも、とイグナスは顔を上げる。

 

 そこにはイグナスを見つめる多くの顔があった。

 ドクター、アーミヤ、タルラ、フロストノヴァ、シージ、その他にもここ数日で知り合い仲を深めた自救軍の戦士達。彼らは皆イグナスを信じ切った目をしていた。誰もが覚悟を決め、ともに明日を掴むのだと確信していた。

 

 背筋が伸びる思いだった。ただ幸せな結末が見たい、そんな自分勝手な願望で歩んできた自分が、こうして燦燦と輝く彼らに頼りにされている。

 

 

(今までありがとうな)

 

 

 心の中だけで、イグナスはそう零した。自分をここまで連れて来てくれた前世の記憶に。

 これからはお前がいなくても、彼らとともに支え合っていくよと。感謝の言葉が自然と胸に浮かんだ。

 

 

「そういえば、例の秘密の補給路の調査には誰が行くんだ?」

 

 イグナスがこれまで保留にし続けていた事柄を話題に出す。

 

 タルラとイグナスのレユニオン組はザ・シャードへと向かいその発動の阻止及び破壊が任務だ。そして一方のアーミヤ達ロドス組は今現在ドックに停泊している飛空船の撃墜に向かう予定だ。

 喫緊の作戦目標であるそれらと比べ、サルカズが使用している補給路のからくりには未だ謎も多く見通しが立たなかった。都市防衛軍のシステムをハッキングして得られた情報ではロンディニウム郊外にあるブレントウードという都市を中心に物資の流れが不自然に途絶えているということしか分からなかった。

 

 都市防衛軍本部に突如現れたテレシスが用いたリッチの秘術。空間を跳躍する類の代物があるのではないかというのがドクターやケルシーによる推測だ。

 そしてそのような重要施設であれば当然警備も厳重になっている事だろう。戦闘経験も作戦遂行能力もある実力者を送りたいところだが、ただでさえ同時多発的に作戦を遂行する事態になっているのだ。どの部隊も余力はない。

 

 それについて以前相談したところ、ロドス側からあてがあるという事で話は一度落ち着いた。

 だが作戦当日になっても姿を見せないその援軍にいよいよ不安になってきたイグナスが再度確認したというわけだ。

 

「ああ、それについては昨夜ようやく到着したよ」

「誰なんだ?」

「それは―」

「わ・た・し!」

「ひゃああ!?」

 

 ドクターが答えようとして、快活な声が割り込みそれに続いてアーミヤの悲鳴が上がる。

 見ればアーミヤが何者かに後ろから抱きしめられていた。

 

 聞き覚えのあるその声に思わずイグナスが叫ぶ。

 

「ブレイズ?!」

「そ。久しぶりね」

 

 アーミヤの頬をもちもちと摘まむそのフェリーンはニカッと明るい笑みを浮かべた。

 

「ブレイズが援軍か」

「私だけじゃないわよ? ロドス本艦の護衛の心配がなくなったから、エリートオペレーターの大半はこっちに来てる」

「マジかよ!?」

 

 イグナスが驚きのあまり声を上げた。既にロスモンティスやLogos、Miseryも参戦しているのだ。それに加え他のエリートオペレーターも来るとあれば百人力どころの話ではない。嬉しい誤算に頼もしく感じる。

 

「3日前別行動となったイネスはどうやら無事ヘドリーを救出する事に成功したらしい。そのヘドリーだが、あちらもブレントウードにどこか違和感を感じているようですぐにそちらに向かうそうだ」

「了解、ってことは行くのはブレイズとヘドリー達か。Wの奴何処ほっつき歩いてるんだ?」

 

 続いて出たケルシーからの報告に、配置を確認しながらふとイグナスは気になった。

 どうやらヘドリーの救出が終わった今もなおWはあちらに合流していないようで、流石のイグナスも少し心配になってきた。

 どこぞで野垂れ死んでいるとは露ほどにも思っていないが、ここまで姿を見ていないと気になる。さながら子どもの帰りが遅い親の気持ちであった。

 

「ヴィーナ、こっちは終わったよ」

「こちらも市民の方々のチェックは終わりました」

 

 うーんと悩むイグナス。丁度その時、ダグザとデルフィーンの2人がやってきてシージの元へと向かう。

 心配しても仕方がない、とイグナスはその件は保留という形にして切り替えた。顔を上げれば報告を受けたシージがドクターにいつでも行けると頷いている。

 

 シージ達グラスゴー組は万が一ザ・シャードが起動し天災雲が発生した場合に備え、「諸王の息」を手にカスター公爵の旗艦に向かう手筈となっている。またその道中、ロンディニウムの市民をウィンダミア公爵の移動戦艦まで護送する役割も担っているのだ。

 

 現在、ロンディニウム外には王庭たるナハツェーラーの宗主とその配下の軍がいる。それをカスター公爵とウェリントン公爵が抑えており、その間に無事市民達の安全を確保したウィンダミアがそれに加勢する計画だ。荒野を歩いて合流するよりはこちらの方がよほど安全かつ効率的だろう。

 護送するにはグラスゴーのメンバーだけでは流石に人手が足りないので、そちらにレユニオンからも何人か同行する事になっている。感染者である彼らが受け入れられるかは懸念材料だったが、サルカズによる軟禁状態から解放してくれたと意外にも肯定的な人間が多い。直接彼らと面識を持ったパーシヴァル達を緩衝役として送れば無用なトラブルが起きる可能性は低くなるはずだと人員にも配慮した。彼女らなら多くの市民達を無事に護送できるだろう。

 

 ふと視線を逸らせば、彼女らの背後に待機していたパーシヴァルが任せてくれと胸を叩いた。

 そしてそんな彼女らを代表しシージが前に出る。

 

「彼らの事は任せてくれ。必ず無事にウィンダミアの移動戦艦へと送り届ける」

「頼んだぜシージ」

 

 今もロンディニウムの地下迷宮どころかそこら中で待機しているロンディニウムの市民達。彼らを安全圏まで離脱させることができればいよいよ大詰めだ。移動戦艦もやってきての総力戦となる。

 

 

「さあ。ここからはしばらくお別れだ。次会う時には、もう全てが片付いてるだろうさ。だから」

 

 イグナスが拳を突き出す。それに自然と皆が同じく拳を突き合わせた。

 

 彼らの視線が交差する。その瞳には悲壮な覚悟は微塵もなく、口元に笑みを浮かべる者までいた。

 フェリーン、コータス、ウルサス、ドラコ、アスラン、サルカズ。国も種族も異なる彼らが形作るその円は広く大きく、そして力強い。

 

 そしてその中心たるウルサスは、その場の誰よりも泰然と笑う。

 

「生きて、また笑って会おう!」

 

 一際大きな喚声ののち、彼らは自分達の務めを果たすため、別々の道へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

ザ・シャード攻略組 大広間前

 

 シージ達はあの後、地下迷宮から長蛇の列を引き連れ自救軍本部を出ていった。サルカズの利用していた補給路に沿ってロンディニウム外へと脱出したのち、近くに来たウィンダミアの移動戦艦に拾われているだろう。ロドスのメンバーはもう1つの攻略対象である飛空船が停泊しているドックへと向かっている。

 その一方で、ザ・シャードへと向かう一行は少数精鋭。暗闇と静寂に紛れロンディニウムの路地裏を滑るように移動していく。

 

 その構成員はイグナス、タルラ、そしてロドスの諜報員であるアスカロンというサルカズのみ。明らかに人手不足に思えるがこれには理由があった。

 

 レユニオンのゴースト隊の偵察によるとザ・シャード付近はロンディニウム内に残っていた傭兵や戦士の多くが投入されているらしく、まともな方法では正面突破は難しいと予想された。警戒のため巡回する兵士の数は勿論、中に控えているだろう戦力もむしろ過剰と言えるほどだ。

 その警備の厚さからゴースト隊の隊長でもあるリュドミラや迷彩狙撃隊のサーシャですら潜入は難しく、仮に入れたとしても気付かれた瞬間に囲まれ終わる。アーツに造詣が深く用意周到なマンフレッド将軍も中にいるとあってはその危険性は高い。

 

 だからこそ、その点で最も信頼の置けるアスカロンをドクター達に頼み込んで連れて来た。彼女の潜入スキルは超一流、その上白兵戦でも屈指の実力を持つのだから間違いなく最適の人選だろう。

 

 その彼女が闇に潜ってからしばらく経ち再び姿を見せた。そして単独での潜入も難しいと口にした時、タルラとイグナスに少なからず衝撃を与えた。

 人員だけではない。中は既にサルカズの呪術的な結界も貼ってあるようでアスカロンですら誰にも気づかれずに忍びこむのは不可能なのだと言う。アスカロンは一度マンフレッドを襲撃しているため、それを受けて対策したのだろう。

 

 イグナスがアーツで聳え立つ塔を見据える。

 

 中は数えるのも億劫なほどの魂がひしめき合っている。その上、明らかに強大な魂が2つ見えた。

 1つは恐らく、マンフレッド将軍だろう。これだけの軍勢を統率できるのは彼くらいのものだ。そしてもう1つの魂、それは。

 

「・・・テレシス」

 

 アスカロンが呟く。普段感情を露にしない彼女だが、そこには明確な殺意があった。

 

 イグナスはただならぬ様子の彼女に声を掛けようとして、止めた。

 イグナスは彼女の過去を知らない。彼女は原作のヴィクトリア編で立ち絵でのみ存在を仄めかされていた人物だ。その際は影からドクター達を援護し、またマンフレッド達に直前まで悟らせず奇襲を成功させていた。

 同じサルカズ、もしかすれば既知の間柄なのかもしれない。イグナスの知識の片隅には2人の会話からマンフレッドとは旧知の仲であった事が仄めかされていた。

 だがアスカロンが私情に惑わされ役目を仕損じる可能性がない事を、イグナスは今世で学んだ。

 

「しょうがない。プランBで行こう」

 

 ロドスで過ごしたこの数年での信頼が、アスカロンに余計な動揺を与えないことを選ばせた。

 イグナスが懐の通信機を取り出す。

 

「俺達が出る。アスカロンは俺達が引きつけてる間にザ・シャードに潜入してくれ」

「任せろ」

 

 それだけを言い残しアスカロンの姿は空気に溶けて消えた。

 そして暫くしたのち、タルラとイグナスはサルカズが控えるザ・シャードへの道に身を乗り出した。

 

 

 ここ数年で建造されたのだろう。ヴィクトリアの伝統的な建築様式の街並みの中でそれは異様な存在感を放っていた。

 華美な装飾は一切なく、ただ高く聳え立つ鉄の茨の塔。人工的に天災を引き起こす気象兵器ザ・シャードの入り口には既に百に届く数のサルカズ兵士が並んでいた。

 

 そこに挨拶代わりの大火が撃ち込まれる。

 

 警戒していたのだろう。奇襲にも動揺する事無くアーツの障壁が何重にも張られ押し返そうとせめぎ合う。

 結果として障壁は砕けたものの、人的被害は軽微なものだ。それすらも路地に溢れだすサルカズ兵によって埋め合わされていく。戦闘配置についた彼らはそのまま襲撃犯であるイグナスとタルラを囲うように広がった。

 

 相対する2人と軍勢。

 だが両者の圧力は拮抗している。開戦の時を待つその間にピリピリとした空気が漂う。

 

 どちらが先に踏み込むか。じりじりと靴底が砂を擦る中、街中に響く声がその膠着を解いた。

 

 

「赤竜の末裔、そしてサルカズの運命を乱す特異点。こちらに来たのはお前達か」

「この声、マンフレッドか」

 

 街中に設置された放送用のスピーカーからマンフレッドの声がした。

 

「2人だけでサルカズの精鋭部隊と渡り合おうなどとは、驕りが過ぎると思わないか?」

「さてどうかな?」

 

 タルラが剣を振り抜き、その刀身に炎を宿らせる。

 彼女の炎の威力はマンフレッド自身その身で味わったはずだ。それはその配下も同じようで居並ぶサルカズ兵士達がどよめく。

 だが焚きつけるような挑発に対し、マンフレッドは冷静そのものだった。

 

「レユニオン。お前達の狙いは分かっている。ザ・シャードの起動を阻止したいのだろう。そしてその為にどのような手段を取るのかも見え透いている。彼女は熟練の暗殺者だが、来ると分かっていれば対策のしようはある」

(くそ、アスカロンのことがバレてる)

 

 イグナスは知らなかったが、アスカロンとマンフレッドはかつてともにテレシスに師事した謂わば同門の士。いくらバベルの崩壊を機に袂を別けたとはいえ互いのやり口は熟知していた。

 内心悪態をつくイグナス。そこにマンフレッドの嘲笑が響く。

 

「殊ここに至っても、お前達はあの理想を追い続けるのだな」

「何が可笑しい?」

「言っただろうタルラ。いずれお前達は取りこぼすのだと」

 

 僅かな空隙ののち、マンフレッドは言った。

 

「ロンディニウムを脱出する大勢の民間人。気付かぬとでも思ったか?」

「!」

「元はこちらが使用していた補給路だ。その隠密性を逆に利用しようというのは理に適っているが、我らの力を甘く見たな。所詮彼らは武器すら持たぬ。それだけであれば脅威ではないと判断し捨て置いただろう。だが、その中に牙を隠した獅子がいるのならば話は別だ」

「!」

 

 

 マンフレッドは考えた。

 現時点で最も我らを脅かすものは何か。

 

 テレシスと渡り合うだけの実力を持つ赤竜の末裔か?

 テレジアがかつて選んだ幼い魔王か?

 記憶を失いつつもその頭脳は健在のバベルの亡霊か?

 

 否。それらも脅威ではあるが、趨勢を決するほどのものではない。

 ならばそれは何か? それはサルカズを長く怨嗟の坩堝へと貶めてきたもの。

 即ち、戦争そのものである。

 

 個人の技量などたかが知れている。そのようなものに揺らぎはしない。サルカズを死に至らしめるのはいつだってそのようなものでは覆しようのない巨大なものだった。

 

 ならば、最も優先して襲撃すべき場所は何処か?

 強烈に、効率的に、敵の士気を崩し未来の脅威を摘む方法は何か?

 

 サルカズ全体を見ても屈指の実力者であるマンフレッドは、また同時に戦争を俯瞰する軍略家でもあった。

 サルカズ側の切り札であるザ・シャード。それを起動できたとしてもしその対抗策があるのだとすれば、どうか。ロンディニウムを占領する前、地下王墓に蒸気騎士を誘い出して殲滅した際に耳にしたとある噂。

 そして何より、いくらサルカズの精鋭といえどヴィクトリアが蓄え続けてきた強大な軍事力の結晶には及ばない。降り注ぐ砲撃の嵐を防げはしない。

 

 ならば、()を仕向けるべき場所は1つだ。

 

「血の海と化した彼らに、その楽観を悔いるがいい」

 

 導き出した残虐な解を、マンフレッドは躊躇わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の匂いが鼻の粘膜にこびりつく。

 先程まで、そこは命の危機から解放された安堵で満ちていた。親子が抱き合い、友人と思わしき2人が再会を喜び、今までの鬱憤を晴らそうと誰に語りかけるでもなく不満を口に漏らす者もいた。

 

 だが、それはすべて一色に塗りつぶされた。

 色とりどりの服装は全て鮮烈な赤に。

 口から漏れ出る音は耳を劈くような悲鳴に。

 

 そしてその中心で、男は餌を前に薄く笑っていた。

 

「どうする、ヴィーナ?」

 

 対するモーガンは、冷や汗を滴らせながら問う。手にした剣の先が小刻みに震えている。

 

 彼女はこれまで多くの敵と相対してきた。

 グラスゴーとして、縄張りを荒らす余所者を叩きのめした事もあった。ロドスに入ってからは様々な敵を倒し、時には説き伏せた。ロンディニウムに戻ってからは蒸気騎士の一撃に恐怖しながらも果敢に立ち向かい、サルカズの傭兵や兵士を相手に何度も死闘を演じた。

 

 だが彼女は初めて、死そのものを目にした。

 

「・・・何としても、奴は此処で抑える」

 

 答えるシージは退くつもりはない。その背には移動戦艦の中で未だ逃げ惑う多くの人がいる。

 シージがハンマーを握りしめる。自救軍のエンジニアらによって拵えられた急造のそれを握りしめ、目の前の敵を睨みつける。

 

 並みの人間ならばそれだけで怯むだろう眼光を受け、奴はむしろ微笑んだ。

 

「やはり血の匂いはいい。凡百の命であろうと、その内に秘める香りはこのロンディニウムを覆う穢れたそれを紛らわせてくれます」

 

 それどころか、その眼を見つめ返しその奥を暴き立てる。

 心の内から溢れ出る恐怖の匂いを嗅ぎとろうと、鼻梁を上向ける。

 

「獅子の末裔、貴女のそれならば少しは芳しいでしょうか?」

「・・・貴様がそれを知ることは無い」

 

 震えかける体を強靭な意思で抑え込み、ハンマーを構えた。

 

「他者への蔑みを隠さぬ貴様には、貴様自身の血がお似合いだ」

 

 気丈にそう返すシージに、ブラッドブルードの大君ドゥカレは嗜虐の笑みを濃くした。

 

 

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