明日の方舟よ、良い旅を   作:アルパカ戦士

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アニメ三期終了おめでとう!

濃度120%くらいの詰め込み具合だったけど、それでも入れるべきところはきちんと入れてくれてよかった。
最後の、殉職者の名前を読み上げるケルシーの声とか、エピローグとしてこれ以上にない締め方だったなあ。


第七十五話 怒りに震え

 シージ達がブラッドブルードの大君を退けた頃。ロドスと自救軍、そしてレユニオンが送り込んだ各部隊でも動きがあった。

 

 

飛空船攻略組 飛空船整備ドック

 

 

 飛空船の脅威を排除するため整備ドックを訪れたドクター達。彼らは一様に天高くを見上げていた。

 

 アーミヤは改めてその大きさに驚く。ロドスも空輸用のヘリはいくつか保有しているが、移動戦艦規模の大きさは流石に見るのも初めてだ。それが停留のため整備ドックとなっている巨大な高塔に横付けされている。影が地上をほぼ覆いつくし周辺よりも暗く感じられた。

 その巨体に見合うだけの兵装も備えておりその船底には回転式の砲塔がいくつも並んでいるのが見える。パトリオットが負わせたはずの損傷もすっかり修復されているようで、あれを止めなければ大公爵達の参戦もままならないだろう。

 鈍く光るその砲塔が放つ威圧感に息を詰まらせながらも、アーミヤは周囲の様子を伺う。空に浮かぶ飛空船へと伸びる高塔の周辺には巡回の警邏がいた。数は4人。今の彼女らでも問題なく制圧できる数だ。

 

(どういうことでしょう? 重要な施設の割には警邏の数が少ない気がします)

 

 念のため、アーミヤが感情を察知するアーツで周囲を索敵してもそれ以上の敵は確認できなかった。それにますます疑念が湧く。

 

 ドクターが頤に手を当てしばし考えこむ。フロストノヴァとケルシーが周囲を警戒する中、ドクターは1つの仮説を口にした。

 

「もしかしたら、警備の必要がないのかもしれない」

「どういうことですか?」

「パトリオットの話ではあの飛空船の中には王庭の1つであるレヴァナントがいる。彼らの種族的特性を考えれば、あの飛空船そのものが彼らの手中にあるという事だ。なら最初から警備など必要ない」

 

 レヴァナントはサルカズの1つで、彼らは肉体を持たず精神のみで存在する事が出来る。

 そして彼らは依り代とするものに憑依し操る能力を持っている。それが鎧のような人型のものだけではなく、ああいった人工物にも憑依できるのだとすれば辻褄が合う。

 

 だとすれば、ドクター達の潜入任務は困難を極める。レヴァナントにとって飛空船とは彼らそのもの。中に侵入した者を見つけるのだってお手のものだろう。

 アーミヤ達の中に潜入に適したアーツを持つ者はいない。

 

 アーミヤ達は彼らと直接対面する事になるだろう。

 静まる彼らの先陣を切ったのは、あろうことかこの場で最も年若いアーミヤであった。

 

「進みましょうドクター」

「アーミヤ、いいのか?」

「はい。元より覚悟の上です。それにここにはテレジアさんがいるかもしれないですから。私は彼女と会って、話さなければならない事があります」

 

 その瞳にはもう、迷いはない。ロドスの代表として、魔王として、その背に似合わぬ責務を背負いきる固い意思があった。3人は思わず顔を見合わせ穏やかな笑みを浮かべる。

 

―コツ、コツ。

 

 そんな時、アーミヤとフロストノヴァの耳が足音を捉えた。

 警邏の存在を気にも留めず、どこか不遜にも聞こえるそれは彼らにゆっくりと近づいてくる。

 

 フロストノヴァがアーツユニットを構える。その視線はコンテナの角へと向けられていた。新たな敵か、それとも。いずれにせよ警戒を緩める理由にはならない。

 そして、その足音の正体が彼らの前に姿を現した。

 

「あなたは!」

 

 その顔に、アーミヤは目を見開いた。

 

 

 

 

 唐突な邂逅ののち、アーミヤ達は少ない警邏をアーミヤとフロストノヴァのアーツで無力化しドックへと侵入した。

 ドックの中も外と同じく閑散としており、物言わぬ飛空船が彼女らを見下ろしている。

 

 そしてブリッジを渡り飛空船の中へと入りこんだ4人は、道に沿って中枢部へと向かう。この飛空船を無力化するには砲塔が密集する船底部分を直接破壊するか、動力となっているであろう機関部を止めるしかない。ドクター達は後者を選んだ。

 

 華美な装飾はなく、無骨な鉄骨と地上を見通せる壁ガラスのみが続く。足音がやけに響くような気がして一行の歩みは慎重なものになった。

 

 そして暫く進んだ頃、それは起きた。

 

「ドクター」

 

 唐突な静止の声に全員の動きが止まる。

 フロストノヴァとアーミヤがドクターの前で廊下の先を見据えていた。ケルシーがドクターを背に庇い背中を露出させる。

 

 外は赤黒い雲に太陽が隠されているせいか差し込む光は皆無に近く、ひどく薄暗く見える。

 彼女らの視線の先、照明もない廊下にまるで闇そのものが居座っているようだ。

 

 

 その影が、蠢いた。

 

 

「! 来ます!」

 

 影が身を捩りアーミヤ達に向かって手を伸ばす。その指先をフロストノヴァの氷壁が遮った。

 無形なはずのそれが分厚いアーツの氷をガンガンと揺らす。それにフロストノヴァはこの時間稼ぎがもうすぐ終わりを迎える事を悟った。

 

「崩れるぞ!」

 

 そして粉々に砕ける氷壁。

 その先の空間を埋め尽くす影の奥。そこから複数人の混ざり合った怒声が轟いた。

 

 

『何をしに来た、異種族の魔王!!』

「レヴァナント! 怒りを鎮めてください」

 

 構えつつもまずは対話できないか探るアーミヤ。だが彼の怒りにその声は油を注ぐだけだった。

 

『黙れ! 貴様を我らは認めん! 消えろ!』

「このままサルカズを、テラの敵にすると言うのですか? それでは本当にサルカズは魔族になってしまいます!」

『では奴らは我らを受け入れたのか? この血と憎悪に塗れた呪縛から、サルカズを解放できると? 我らを見るその瞳に、恐れも蔑みもないと断言できるか?!』

 

 聞く耳などありはしない。千を軽く超える年月は彼の意思を不動のものへと変えてしまっていた。

 彼は認めがたき存在を前に憤慨を隠そうともせず、彼の手足である影は激しく揺れていた。

 

「私達はそのために苦難を乗り越えてきました! 例え全ての人々からサルカズへの憎しみと差別を取り除くことができないとしても。こんな恨みを一身に背負うような道ではなく、もっと良い方法が」

『貴様はサルカズではない。サルカズではない小娘が、我らを救うだと? ただ先代が死した時その場に居合わせただけの、貴様が! 魔王だと?!』

 

 レヴァナントはそれを詭弁だと断じた。偽善だと罵った。

 サルカズでないものにサルカズの苦しみは未来永劫理解できない。その呪縛に囚われた者にしか、この怒りは理解できないのだと。

 

『言葉ではいくらでも言えよう。だが貴様の命運は我らとともにはない。そうだろう? コータスの娘。貴様には聞こえまい、この大地を覆う亡きサルカズの怨嗟の声は』

 

 何千年と続いてきた戦争の歴史。サルカズという種族に絡みついた呪いのようなそれ。

 

『故郷を滅ぼされたか? 冷たくなる母の体から産まれ出たか?』

 

 アーミヤは思い出す。かつてテレジアが語っていたサルカズという種族の悲しき定めを。

 疎まれ、畏れられ、この世にあってはならぬと後ろ指をさされ続ける在り方を。

 

『矮小な体躯に似合わぬ武器を握らされた事は? 端金を投げ渡され死地に向かえと命令された事は?』

 

 それに抗い続け、気が付けば戦争は彼らに最も寄り添ったものとなった。

 穏やかな日常など無く、親の温もりも知らず、傭兵として戦地を渡り歩き日々の糧を稼いだ。

 

『魔族と蔑まれたか? 角を恐れの目で見られたか? 光輪を浮かべるあの傲慢な羽根つきどもに、戦利品としてその角を掲げられたか?』

 

 抗えない程に大きなナニカに強いられてきたその日々が、和解を一層困難にした。もはや何故憎み合っているのかすらわからない。ただ()()()()だからと、そう言って悪意を剥き出しにされ続ければサルカズも彼らに憎悪を返した。

 

『流浪の日々に魂を削られたか? 大地の全てを敵に回したか?』

 

 終わることの無い負の連鎖。この大地で感じ続ける孤独。

 それを全て受け止め続けた彼は、目の前の小娘に問うた。

 

『無いであろう? そうだろうな。貴様らが潜ってきたと宣う苦境など、我らに比べれば甘く、浅い。ぬるま湯にすら劣る! 貴様らが与えてきた、サルカズへの不当な運命に比べればな!』

 

 もはや十分に待った。抗った。その末の現在(いま)だ。

 長い、永い時間が過ぎた。幾度も故郷と同胞を焼かれ、その死と新生を見送った。寿命という概念のない彼にとってそれは終わりの見えない地獄に身を浸しているような心地だった。

 だがようやく手にした反撃の機会。サルカズを呪縛から解放するチャンス。それが目の前にある。

 

『ならば我らはこのテラを悉く戦火に沈めよう。全てが灰燼に帰したこの大地で、サルカズの新たな時代を創る! あの魔王の片割れはそう決めた。そして我らに誓い、結果を出した。サルカズを下等な種族と貶められぬ、我らの正当な復讐を夢見させた!』

 

 影が激しく揺れ動く。その怒りの震えが伝播しているようだ。

 

 かつてサルカズを救おうとした双子がいた。

 彼らは同じ理想を求め、違う道を歩んだ。そしてその片割れは半身たる妹の道を断ち切り、1人己が道を貫いた。

 

 怒りに支配されていようと、彼はサルカズの守護者。サルカズのため歩む同胞への敬意を忘れた事はない。

 その孤独な背中を思い起こし、レヴァナントは告げた。

 

『あの男の信念に比べれば、何と脆い事よ! ロドス!』

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリア ブレントウードの廃村

 

 鈴の音が高く虚空に響く。

 寂れた村の中心で、2人のサルカズが剣を振るっていた。

 

 鋭い剣閃が空気を切り裂く。まともに受ければ得物ごと真っ二つにされるそれを絶妙な手裁きで受け流し小手を返す。

 引き戻した刀身を滑らせ、返す剣を振るう。それは僅かな足捌きで躱された。突き出された剣先を弾き、横に薙ぐも距離を取られ空を切る。

 

 途切れぬ剣撃の応酬、入れ替わる立ち位置。

 

 片や最高傑作として生まれた剣士。片や永きに渡る輪廻を望むままに歪め生き続けた不滅の魔王。

 違いはあれど、どちらもその才を磨き続けた強者。その剣撃は血生臭くもどこか美しくあった。

 

「さあ、己の運命を受け入れる準備は整いましたか?」

 

 一度大きく距離を取ったシャイニングにクイサルトゥシュタが問いかける。だが彼女は答えず息を整える事に徹する。

 

「どうしました? 何を躊躇っているのです。私を斃すのでしょう?」

 

 彼の指摘通り、シャイニングは攻めきれないでいた。

 

 彼に対抗できる人間はそう多くない。エリートオペレーターですら複数人でも勝負は五分になるだろう。彼と相対するのに一番の適任は恐らくシャイニング自身だ。

 だが彼女は彼を殺すことができない。もしそうなれば彼女の魂は彼のアーツによって塗り替えられ、肉体をみすみす明け渡してしまう事になる。彼よりも優れた、最高の器を。そうなれば最悪だ。

 

 この長い膠着を打破するためには―

 

「それとも何か秘策でも?」

「!」

 

 思考が逸れた一瞬でクイサルトゥシュタが距離を詰めた。振り下ろされた剣を受け止める。

 

 見透かすようなその瞳が、鍔競り合う刃越しにシャイニングを見つめている。

 均衡を崩し一度大きく薙ぎ払い牽制をかけ大きく下がる。

 

 乱れた呼吸を整え、再びクイサルトゥシュタを見据える。

 僅かに高い位置に立つ彼は悠然と構えたままだ。

 

「私を訪れたのですから何か策があるのかと思っていました。ですが振るわれる刃は到底致命足り得ない。それとも無策でこの場に参じたと? 貴女は昔からそうだ。情に振り回され、あるがままを受け入れず先の無いものに手を伸ばしてばかり。自らの血筋を蔑み定められた運命に抗おうと空しい努力を続けている。今もその鳥籠を供にしてここに来た」

 

 その哀れむような瞳が、彼女を見下していた。

 

「いつまで()()()()をしているのです? クイサルシンナ」

「・・・」

 

 シャイニングは答えない。だが彼女の纏う雰囲気が固くなったのは伝わった。

 

 そしてここに来てクイサルトゥシュタが攻勢に出る。

 次の器となる彼女の肉体を傷つけぬよう加減をしていたのを、彼は止めた。

 

 速く鋭く流れるような連撃の最中、クイサルトゥシュタはシャイニングに語り掛ける。

 

「貴女はあの日、実験体であるあれを憐み偽りの記憶を植え付け私の元を去った。中身の無い鳥籠を貴女はペットを飼うように愛玩しました。私達はヴィクトリアを手中に収め、兵力を蓄え、サルカズをこの大地唯一の支配者とする準備を整えてきました。一方で貴女は使徒などを名乗り、各地を放浪し気まぐれにその力を振るうのみ。あれだけの時間を費やした成果がこれですか? どうやら貴女の肉体を全盛期に戻すにはそれなりの時間が必要のようですね」

 

 シャイニングが徐々に押されていく。相手の剣を受け止める度、その手に伝わる痺れが大きくなっているように感じられる。

 これはシャイニング自身の問題だ。過去への罪の意識が彼女の剣を重くさせる。これまでずっと思い悩み、今度こそナイチンゲールを治すのだとそう決意してやって来たはずだった。

 だがその誓いも、彼の言葉と彼女の自責の念に鍍金のように剥がされていく。

 

 

「空虚な器に何を注ごうと、いずれ形は歪み綻んでいく。あるいは元の形へと還る」

「くっ」

「理解しているでしょう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 振り下ろしに耐え切れず、シャイニングの体が遥か後方に引っ張られる。その体は廃屋の壁を砕き砂埃が舞った。

 それをじっと見つめるクイサルトゥシュタは、そこから視線を切り彼らを見守っていた1人のサルカズの少女の元へ歩いていく。

 

「ううっ」

「! リズ!」

 

 悲鳴を聞き、砂埃で靄がかったそこからシャイニングが飛び出す。

 

 クイサルトゥシュタに角を掴まれ引き倒される少女。その顔が痛みに歪む。

 今すぐにでも駆け出したい。だがその動揺をなんとか抑え込みシャイニングは制止の声を上げた。

 

「やめなさい、クイサルトゥシュタ!」

 

 だがその制止の声が聞き届けられるはずもなく、剣がその白い首筋に添えられた。

 

 リズ、ナイチンゲールはこれが罠だと分かっていた。そもそも彼女は聴罪師の実験体の中でも特異な成功例だ。そんな彼女を傷つけるはずもない。当然、シャイニングに対しても。

 全ては彼女を激昂させ、自分に手を下させるための卑劣な手段。

 

 だからこそ、ナイチンゲールはどうにか歪まないように笑みを浮かべた。シャイニングが心配しないように。

 その笑みを見て、シャイニングは目を見開き、そして鋭く敵を見据えた。

 

「駄目です、シャイニングさん・・・」

「・・・ごめんなさい、リズ」

 

 そう告げたシャイニングは、もう決死の覚悟に染まってしまっていた。

 それを見てクイサルトゥシュタは薄く笑みを浮かべ、そして柄を強く握り振り抜く。その直前、シャイニングが駆けた。

 

「ダメ!!」

 

 悲痛な静止の声も空しく、肉を断つ音がした。

 角を放され地に伏したナイチンゲールの頭上。

 

 

 シャイニングの剣が、クイサルトゥシュタの胸を貫いていた。

 自らの血が滴り落ちるのを見届けて、彼はこれまでで一番の笑みを浮かべた。

 

 

「わ、たしの・・・勝ちです・・・」

 

 

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