「はあ…」
日も暮れてきた、スグリは未だに穏便に話せる相手と出逢えずにいる、道中金髪の謎の少女と出会したが結局戦うことになり撃破した。落ち着いて会話ができる相手が欲しいと思いつつため息を吐いて湖の周辺を彷徨いていく。
そういえば道中遭遇した少女は妙なことを言っていた、「取って食べれる人類?」とか、そんな感じの事を言っていた…はず、正直今までの状況で混乱しているため一言一句覚えている余裕がなかった。
ここ周辺ではカニバリズムが受け入れられているのか?最初に遭遇したチルノとやらについても気になる、あの氷の翼は一体なんだったのか…人間のようには見えたが、違う存在なのか?スグリはそう色々と考えながら歩いていると少し遠くの前方に謎の大きな館を見つけた。
「…泊めてもらえないかな」
そう呟いてスグリは館の方へ近づいていく、しばらくすると門が見えてきた。そこに誰かが立っていることにもすぐにスグリは気づいた、話の通じる人であることを期待して歩くスピードを上げて門へ向かう。
「すみません」
すぐそばまで近づき、門のそばに立っている人に声をかけた。中華服というのだろうか、緑色の服と帽子をかぶっている女性のようだ。スグリが結構小さく身長140cmほどであるのに対し、そこから少し見上げる程度、つまりそこそこ身長差がある。
「あの?」
反応がない、声を掛け直してようやく気付いた。この人立ったまま「眠っている」我ながら鈍いものだ、とスグリは自嘲しつつ少しだけ揺さぶってみる。
起きない。もう少し力を入れて揺さぶってみる、まだ起きない。正直申し訳なくなってきたが、かなり力を込めて揺さぶることにした、それでも彼女は起きることがなかった。
「…しょうがない、無断で入るのは気が引けるけど…」
諦めて中の人に話を聞こうと門を越えて進んでいく。少し大きめの入り口のドアを開け、中に入っていく。
(鍵がかかってなくてよかった、門番の人がいるからかな?)
内装は全体的に妙に赤く、ずっと住んでいたら目が疲れてしまいそうだと思いながらスグリは適当に廊下を歩いていく。入ってすぐに声をかけた方がいいかとも思ってはいたが普段あまり大声を出さないので誰かに会ってから事情を説明しようと考えて声はかけないことにした。
しばらく廊下を歩き、誰も住んでいないのかと不安になった頃、突然上の方から一本のナイフが飛んできた。スグリは素早く反応して回避しナイフが飛んできた方を見る。
「うっかりこっちにすっ飛ばしちゃった…というわけではないよね?」
「ええ、もちろん狙って投げましたとも。それで、アポイントメントは取っておりますか?侵入者様」
そこには銀髪でショートヘアのメイド服を着た女性が浮かんでいた、敵意はあるものの会話の余地はありそうだと考えてスグリは会話を試みる。
「飛び込みだよ、図々しいとは思うけどちょっと1泊だけ泊めてもらえないかな」
「残念ですが私の方で判断はできかねます。それと、先程お嬢様に指令を与えられまして」
指令と聞いて嫌な予感がしたスグリは眉をひそめながらメイドに指令の内容を聞こうとした。
「指令…内容は?」
「侵入者を排除せよ、と」
そう言い終わるや否やメイドはナイフを何本も投げてきた、会話を断念しスグリは下がりながら手元にビームライフルを形成する。
「くっ…」
ナイフであっても虹の輪でスグリの力へと変えることはできる、しかし無効化はできない。チルノという少女のように無傷で倒すことは厳しいと考えつつ飛行してメイドと同じ高さまで浮上した。
「お嬢様には会わせてもらえないよね?」
「当然でしょう?」
とりあえずお嬢様とやらに直談判をしに行こうと決意、面倒な事になったものだと思いながらスグリは少しづつ距離を詰めていく。
「なら、無理やり会うしかないね。悪いけど…どいてもらうよ!」
虹色の輪を出しながらメイドの方に高速で突っ込んでビームライフルをゼロ距離で撃ち込もうとする。
「え?」
突然メイドが消えた、慌てて減速しながら周囲を確認しようとしたその時、背中に衝撃が走った。
直後の痛みで血の気が引いていく、生暖かい液体が背中を流れる感触から流血していると気づき、鋭いものが刺さったと判断してナイフが突き刺さったとスグリは断定した。
「油断…しすぎた…!」
痛みに耐えながらも振り向きながら背中に突き刺さったナイフを引っこ抜く。振り向いた先から少し遠くにメイドがいた、一瞬であそこまで移動したのか。
しかし単純に反応できないほどのスピードで移動したわけではないようだ、高速戦闘を得意とするスグリの目に止まらぬ速度で、かつあの近距離であるならば一切の風圧も感じさせずあの距離まで移動するのはほぼ不可能だろう。
(瞬間移動…?いや、何か違和感が…)
思考している間にメイドがナイフを何本も投げてきた、これくらいなら避けれると思考を続けながら回避を試みようとしたその時、飛んでくるナイフの量が突然「増えた」空間に対するナイフの密度が厚くなり思考を続けたままのスグリには咄嗟に回避をすることは不可能だった。
「しまった…!」
またも油断した自分を恥じながらもスグリは腕でガードをしてダメージを減らそうと試みた。腕に深々とナイフが突き刺さるも苦悶の声は漏らさず刺さったナイフを引き抜いてビームライフルを構え直す、引き抜いている最中も視線はメイドから逸らさずに見つめ続けた、見つめ続けていたのだがまた突如メイドが消えて数十本のナイフが同時に飛んでくる。
(また…まるで場面が飛んだみたいに…)
(……場面?)
スグリは空いている手からソードを形成させてナイフを弾きながら消えたメイドを探す、その隙を狙って背中を狙いナイフが飛んできた。
今度は気付き、スグリは振り向きながら飛んでくるナイフを弾いた。また少し遠くにメイドを見つけた…と思った直後にすぐ前に数本のナイフと共にメイドが現れてスグリめがけて突っ込んでくる。
しかし一瞬の硬直もなくスグリ側もメイドに突っ込む、予想外だったのかメイドは一瞬目を見開いて硬直してしまった。
スグリはその隙を見逃さず虹の輪を出しながら高速で飛行してすれ違いざまに胴体にソードでの一撃を喰らわせ、そのままの勢いで距離を取った。
一撃を喰らわせた直後の一瞬、その一瞬で再びメイドは消え少し遠くで廊下に立っていた、汗を滲ませながらソードの斬撃を受けた箇所に手を当てている。
攻撃が効いたことを認識した頃、スグリは自分の脚から流血していることに気づき後から痛みも感じ始めた。太ももの裏にナイフを刺されたらしい、ナイフを引き抜きながらスグリは相手の能力が高速移動や瞬間移動ではないことを確信してその正体を推測した。
「私だけかキミ以外の全てが止まってる、とかかな」
「…っ」
反応からして大雑把には合っていると判断したスグリはビームライフルとソードを構え直しゆっくりとメイドに近づいていく。
ほんの少しの時間メイドは考えたのち、スグリと同じ高さまで飛んでから1枚のカードを取り出してこう言った。
「幻幽『ジャック・ザ・ルドビレ』」
人一人は包めてしまえてそうな大きな光弾をばら撒いたかと思えば突然大量のナイフが飛んでくる、よく見ればスグリの方に飛んでくるナイフと移動を制限するように飛んでくるナイフに分かれているようだ。
スグリは飛び回ってナイフをかわしながらビームライフルを連射し、ビーム弾をメイドへ当てていった。ダメージは与えられているようだがまだ耐えられるようでまた光弾をばら撒いてさらに大量のナイフを飛ばしてくる。
それを見たスグリはビームライフルを撃つのをやめ、ナイフを弾きながら光弾に突っ込む。光弾に当たる直前に虹の輪を出しながら加速して光弾をすり抜けてメイドに近づいた。
流石に予想外だったらしく反応が遅れたところにソードでの2連撃を叩き込み、直後にビームライフルをゼロ距離で撃ちこんだ。決着をつけれたか?とも思いはしたがメイドは吹っ飛ばされながらもまた別のカードを取り出しているのを視認し、また大技が来ると判断しスグリは警戒する。
「メイド秘技『殺人ドール』…!」
今度は光弾はなく無数のナイフをばら撒くように飛ばしてくる、まだ様子を見ていると突然飛んでくるナイフの一部が方向転換しあちこちに飛んでいく。
避けようとしたところに方向転換したナイフが突き刺さってしまいそうで避けづらい、そのためスグリはソードでナイフを弾く事にしたがやはり数が多い、防戦一方になってしまった。
この状況ならば強力な一撃を仕掛けて倒すのが有効とスグリは考え、ナイフの密度が少し薄くなったその瞬間を見逃さずビームライフルをメイドに向けた。
「ハイパーライフル…!」
ビームライフルの銃口から人を包めるか包めないかという程度の太さのビームが放たれ、メイドに直撃する。
数秒間照射し続けたのち、発射を止めてビームライフルを下ろして様子を見に近づく。倒れているが呼吸はしている、気絶しているだけのようだ。
致命的な怪我をしてる様子もないので加減は出来ていたことに安心してスグリはメイドを廊下の壁に寄りかからせてから館を進もうとしていく。
「本当は出て行ったほうがいいんだろうけど…」
流石に右も左も分からない土地で野宿はしてられないと思い、罪悪感を感じながらもスグリは廊下を歩いていった。