(もう外は夜...かな?)
少ない窓でチラリと外を見ると、すっかり暗くなっていた。
(ここから野宿は…嫌だな…)
まだわからないことづくしの上、人を襲うものも多いらしい。そんな状態で野宿などしてはいられないと、自分でも図々しいなと思いつつ一日泊めてもらう為スグリは廊下を歩いていた。
不思議なことに今までチラホラ見かけていた羽の生えたメイド…フランドール曰く妖精メイドというらしい彼女たちは全くと言っていいほど見当たらない。
そのため廊下はスグリの足音のみが響くだけで静寂に包まれている、少し不気味なほど気配がなく、警戒しながらスグリは歩き続けた。
「確か…この辺りって…」
紫髪の少女、曰くパチュリーという名前らしいが、その少女から聞いた主人の居場所はおそらくこの辺りのはずだ。
周囲を確認しつつそれらしき部屋を探してみると、他の部屋よりも豪華な扉が目についた。
あそこが主人の部屋だろうか、罠であるということを警戒しつつドアをノックしようとした。
その時。
「ノックはいいわ、入りなさい」
中から声がした、来ることがわかっていたのかと驚きつつもドアをゆっくりと開け、スグリは中に入ることにした。
「で、何の用かしら、侵入者さん?」
独特なデザインの帽子を被った青髪の少女が机に座っていた、背中から生えているコウモリのような大きな翼が人でない事を感じさせる。
よく見るとフランドールと瓜二つだ、妹様というのはやはりそういうことだったのかと思いつつ、スグリは対話を試みる。
「…今日1日だけ、泊めてもらえないかな」
「…は?」
予想外だったらしく、面食らったような表情になりながら聞き返された。
当たり前だ、ただ泊めてもらうためだけにここまでするとは思わないだろう、そう思いながらもスグリは会話を続ける。
「本当にそれだけでいいんだ、図々しいのはわかっているけれど…」
主人、曰くレミリアというらしい彼女は数秒考えたのちこう言った。
「そう、あなたの目的はわかった。でも…私の館を荒らした挙句、自分は代償もなく泊めて欲しいなんて虫がいいと思わない?」
返答はすぐにはできなかった、相手が完全に正しく自分はわがままを言っているだけという状況なのだ。追い出されるならまだ運がよく、本来ならタダで帰れない…どころか生きて帰れないかもしれないような状況である。
多少冷静にはなってきているため追い出されて野宿でもいいとは考えてはいるものの、できるなら今夜の寝床は欲しい。
そう考えてスグリは交渉をしようと口を開いた。
「だから、代償を払うよ。どんな要求も飲む、というのは難しいけれど」
「へえ…」
また数秒考えたのち、レミリアはこう言った。
「フランの相手でもしてもらいましょうか?」
「…フランドールならさっき遊んできたところだけど」
「えっ?」
驚いたようにレミリアは声を漏らした、それほど予想外だったのだろうか?
「…その程度の傷でフランの相手もしたっていうの?咲夜を倒した後で…」
肉体は治ったのでもう傷はなく、服もメイド…咲夜と言うらしい彼女によるナイフの攻撃、およびフランに床に叩き受けられた際の瓦礫でで多少破け、その際の血が付いている程度だ。
確かに余裕はまだあったが過剰評価されている気がする、しかしチャンスでもあると考えてスグリは交渉を続けようとした。
「怪我はしたよ、もう治ったけど」
それを聞いたレミリアは十数秒ほど考え、口を開いた。
「ならこうしましょう、今後何かあった時必ずこちら側に着くこと、その条件を飲んだら一泊止めてあげるわ」
「…必ず、というのは難しいな、君らが悪事をする時は協力するわけにはいかないもの」
そう言い、譲歩を求めることにした。
「飲めないのなら、ここにいさせるわけにはいかないわね?」
流石に無条件に要求を緩和させることはできないようだ、少しの間考えたのち、スグリは交渉を続ける。
「すぐ帰れるかはわからないけれど、ここに長居するわけにはいかないんだ。だからいくら協力をしてもそれは帰るまでの間しかできないよ、だから…」
そこで一度言葉を切り、ビームライフルを手元に形成しレミリアに見せ、数秒ほど間を空けてからまた口を開く。
「私の武器を持たせた方が戦力になる、私はそう思うよ」
数秒の間お互いが無言になり、レミリアが口を開いた。
「…いいわ、交渉成立ね」
なんとか一泊止めてもらうことになった、安心して息を吐いたのち、思い出したかのようにスグリはレミリアに一礼してドアから出ようとした。
突然ドア前で立ち止まり、スグリは振り返ってレミリアに話しかける。
「そういえば包帯ってあるかな?あのメイドの人の手当てがしたいんだけれど…」
よく考えたら放置したままだった、手当てと謝罪をしなければと包帯の場所を聞いた。
「ああ、咲夜ならもう手当てが済んでいるわ、意識こそなかったけど傷は浅かったもの。今は部屋にいるはずよ」
上手く手加減できていたらしい、少し安心しながら謝罪しに行こうと考えて居場所を聞こうとする。
「部屋の場所教えてくれないかな?」
「一緒に寝る気?」
「違うよ!?」
レミリアが笑っている、からかわれているようだ。まあこのくらいは我慢しておこうと思いつつ、部屋の場所を聞いたスグリはドアを開け、咲夜に謝りに行こうと歩き始めた。
そうして道中妖精メイドの案内を受けつつ、咲夜のいるという部屋の前に到着することとなった。
ドアの前で立ち止まり、少し思考を始める。具体的にどう謝罪するかしっかり考えていなかったのだ。行き当たりばったりすぎるなと自嘲しつつ思考を続ける、まずは傷つけたことの謝罪でいいだろう、それから無理に押し入ったことやすぐに帰らなかったことについての謝罪も…
そう思考を続けていると不意にドアが開き、思考は中断された。
「ふぇっ!?」
「…用件くらい考えてから尋ねに来たらどう?」
中にいた咲夜がドアを開けたのだ、驚いて思わず間抜けな声が出てしまった。1、2秒ほどフリーズしたように動かなくなったのち、落ち着いてから先ほどの間抜けな声を誤魔化すようにスグリは口を開いた。
「用ならあるよ、君に謝りに来たんだ。」
「謝りに?」
少し意外そうに咲夜は反応した、想定外だったのかな?とそう思考しつつもスグリは言葉を続ける。
「君を傷つけたことや無理矢理押し入った事とか…謝らないといけないことが色々あるから…」
「そう…」
微妙な反応、何か対応を間違えただろうか?不安が少し湧いてくる。
とはいえ変に対応を変えて余計に不快にさせてもまずいと考え、そのまま話し方は変えずにいようとスグリは口を開こうとした。
「ええと…まず、ごめんなさい。私の都合で君たちに迷惑をかけて…君には怪我をさせたりして特に迷惑をかけたね、それに結局私が無理を通した形になっちゃったから…本当に申し訳ないよ…」
そう言い、スグリは頭を下げようとしたが「しなくていい」と止められ、少しだけ驚きつつ頭を上げた。
「あなたが敵意や悪意を持ってここに侵入してきたわけじゃないってことはわかった、それで十分だから」
「…いいの?」
「いいの、メイド長の座を奪おうと挑んでくる妖精メイドも図書館の本を持っていく本泥棒も日常茶飯事だもの」
思ったよりこの館は物騒らしい、流石に寝込みは襲われはしないだろうか…そう考えつつもスグリはまだ謝罪し足りないが、本人がそれでいいならと内心でほっと息をついた。
とりあえず、今すぐ解決すべき問題はなんとかなったのだ、早く地球に帰らねばならないがすぐに戻れはしないだろう。のんびりする余裕はないが少しくらい休憩しても元いた地球に問題は起こらないはずだ。
「あ」
思わず声が出る。そういえば服が破けたままだ、少ししか出せないが身体からナノスグリを作り出し、それで分解すればついた血の処理はできるが、破けた部分を修復するにはまだ少し心もとない。
「謝りにきた身でなんだけど…針と糸って、どこかにないかな…?」
「ああ、服なら妖精メイドに直させるから気にしなくていいわよ」
「え、…でも悪いよ、それに着替えだって持ってないし…」
「パジャマの用意くらいあるけど?」
流石に侵入してきた身だ、申し訳ないと拒否したいが、これ以上拒否するのも失礼かとも考え十数秒考えたのち、スグリは諦めてお言葉に甘えることにした。