「ん……」
結構眠っていたらしい、疲労…と言っても精神的なものが多いがとにかく疲労はすっかり取れているようだ。
なかなかいいベッドを使っているようでリラックスして眠ることができた、初日をここで過ごすことができたのは運が良かったと思いつつベッドから身体を出す。
「あ」
眠る時に借りたパジャマを着たままだということに気づき、昨日着ていたジャージを探そうと考えて周囲を確認する。
それらしいものはない、クローゼットを開けてみるもメイド服しか入っていない、流石にこれは着れないとクローゼットを閉じで部屋の中を探し始めた。
…見当たらない。困ったことになった、流石にパジャマ姿のまま部屋を出て探し回るのは憚られる、どこに服があるのかも見当がつかないし虱潰しに探すにもこの館は広い、構造もまだ覚えきってはいないし確実に迷うであろう事が考えられる。どうしたものかとスグリが考えを巡らせていたその時。
「…思ってたより朝早いのね」
咲夜が部屋に入ってきていたようだ、思考していてすぐには気づかなかったらしい。よく見ると片手のは畳まれたジャージやスカートなどと、昨日着ていた服を揃って持って来てくれたことがわかる。
「あはは、いつも早起きするようにしてるからね。あ、服ありがとう」
服を受け取りつつそう言い、とりあえず広げてみる。傷や血の跡などは最初からなかったかのように修復されており、汚れも隅々まで取られている。まるで新品かのようだ、技術に少し驚きつつもあまり顔には出ないようにして再び感謝を伝える
「凄いね、新品みたいだ……ありがとう、凄く助かるよ」
「どういたしまして、じゃあ私はこれで」
そういうと咲夜は部屋から出ていった、まだいてもよかったのに、とも思ったがまだいたら少し着替えづらいな、と思い直していつものジャージに袖を通していく。
着替え終わり、出発の準備が整ったところで武器の受け渡しと出発の報告のため、レミリアの部屋に向かうことにした。
「…と、いうわけで私はそろそろ出発するよ」
「へえ…それは構わないけれど、あなたの武器はいつ貰えるの?」
急かされた、まあ当たり前だと思いつつ手元にビームライフルを出して机の適当なところに置く。
「もう少し渡せなくもないけど、あんまりやったことないからいくつも欲しいって言われると…少し大変かな」
「…一つで構わないわ、全員分貰っても大して使えるやつは多くないだろうし」
「……そっか」
解析でもするのだろうか、思ったより小さな目的な気がするな、と何故かはわからないがそう思ったスグリはその直感を信じ切らないようにはしつつ、大変なことにはならないだろうと考えながら部屋を出ようとした。
「じゃあ…」
「ええ、さよなら」
別れの挨拶をしてから部屋を出てそのまままっすぐ玄関まで向かい、妖精メイドに見送られつつ紅魔館を後にしようとした。
そうして門を出たところ、突然の攻撃を受けた。
「うわっ…!?」
「避けられた…何奴!」
突然の格闘攻撃、ほぼ不意打ち状態だったが小柄で当たるところが少ないことやスグリ自身の素早さもあり、なんとか回避する事ができた。
攻撃の主は昨日この館にやってくる時、眠っていた門番。曰く美鈴というらしい彼女からのものだった。
「っ…落ち着いて、私は一応客人ってことになるよ、……事後承諾みたいなものにはなるけど…」
「え、客人…?」
スグリはこれまでの状況を努めてわかりやすいように、かつ手短に説明を試みた。
美鈴は最初こそ不審そうにしていたが、敵対する意思はないことからか、嘘をついている様子はないことからか納得したらしく警戒を解いてもらえたようだ。
「なるほど…とりあえず信じましょう」
「ありがとう、今ここを出ていくところだから…攻撃しないでくれると嬉しいな」
「既に一度通してしまったわけだし、出るところを攻撃してもしょうがないですね…はあ、また怒られちゃう」
割と居眠りしているらしい、門番がそれでいいのかと思いつつスグリは美鈴に別れを告げ、紅魔館を後にした。
「迷った…」
あてもなく歩いてみたものの、案の定迷ってしまった。
行った方がいい場所を聞いておけばよかった、我ながら間抜けなものだと自嘲しつつスグリは周囲を確認し状況を分析してみることにした。
鬱蒼とした森の中、視界はかなり悪いようだ。さらに空気が悪い、瘴気ともいうべきか?この森の空気には良くないものが混ざっているらしい。
スグリは地球を癒すために汚染された空気や水なども浄化できるように改造されているため、平然としていられるが一般人が迷い込んだら大変だろう。
長居こそできる状態ではあるが出口はわからない。空を飛んで出る手もあるが…出てもまた別の場所で迷うだけかと考え、とりあえず誰かがいないか探してみることにした。
「誰もいない……よね」
何時間経っただろうか、具体的な時間はわからないし木が大きく茂っているため太陽の位置も確認できない。
とりあえず暗くなってきたため夜は近づいてきているようだ、野宿することになるだろうか、それも覚悟しつつスグリは足を進めていった。
またしばらくの時間は経ったが誰一人見つかることはなかった。
ここは人の入るような場所ではないことは分かっていたものの、紅魔館の彼女たちのような人ならざる者たちでもここの環境は厳しいのだろうか。
そう考えを巡らせながら歩いていると視界の隅で茂みが揺れた、風だろうか?それとも何か動物だろうか?それとも…
人である可能性はゼロではない、どうせ道に迷っているだけでただ歩いているだけのようなものだ、調べてみる価値はある。
「おーい!そこに誰かいるのー?」
あまり出さない大声を出して茂みへ声をかけてみる、数秒待ってみるが返事はなかった。
やはり風だったのだろうか、そう思うもまだ期待は捨てず、茂みに入ってみることにした。
茂みを進むにつれ、それを構成する草木の背丈が高くなってきていた。初めはスグリの膝下程度だったものが腹ほどの高さへ、そして胸元まで来るほど高くなっていた。
当然足元への視界は悪く、スグリ自身の身長が低いのもあるが人が隠れるのには十分な高さがある、誰か居ても屈まれてしまえば簡単に見失うだろう。
かくれんぼには最適ということだ、ここを虱潰しに探すのは骨が折れるな、とスグリは思いつつも茂みをかき分けながら進むことにした。
しばらくの時間が経ち、やはり風だったのかという思考がスグリの頭によぎったその時だった。
「うわっ!?」
一瞬で視界に広がった黒、それに驚きスグリは後方へ尻餅をつくように転んでしまう。何が起こったのか?
「おい、大丈夫かー?」
そこには黒く大きなとんがり帽子を被った金髪の少女がいた、先程の視界に広がった黒は彼女の帽子だったらしい。
スグリが彼女のいた茂みをかき分けたタイミングと彼女が立ち上がるタイミングが偶然にも重なってしまったようだ。
「だ、大丈夫、怪我はしてないよ」
「おー、ならよかったぜ」
起きあがろうとしたスグリに金髪の彼女は手を差し伸べる、ありがたくスグリは手を借りて起き上がった。
「で、見ない顔だなお前、ひょっとして外来人か?」
「そういう事になるかな…私はスグリ、道に迷っちゃって…」
「へえ、迷子のスグリか。私は魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
「魔法使い…」
魔法、ここに来るまでならばフィクションの中だけの架空の物だと思っていたもの。
紅魔館で軽く話は聞いていたしパチュリーというあの少女も魔法使いとやらだと聞いていた。
しかし実際にこれが魔法だと見せられたわけではないのでスグリには実感があるわけではなかった。
そのため…少し微妙な表情になっていたようだ。
「おいおい、信じてない顔だな?」
「あ、いや…信じてないわけじゃないよ、ただ…実感がなくて」
「…ま、外来人だもんな」
不快にさせてしまっただろうか、とはいえ何か納得はしてもらえたようだ。
とりあえずようやく会えた現地の人間だ、出口を聞いておきたいとスグリは会話を続けようとした。
「とにかく…この森から出たいんだ、出口を知ってるなら教えて欲しいんだけど…」
「別に構わないけどさ、もうすぐ夜だぜ、道を教えたって迷うんじゃないか?」
「それは…そうだけど」
野宿して明るくなってから森を出た方がいいだろうか、付き添って貰えば今からでも出れるだろうか?そんな様々な思考が脳内を駆け巡り、数秒の間スグリは考え込んだ。
「じゃ、私の家に泊まってくか?」
「え、いいの?」
「ああ、初回サービスで今回は無料だぜ」
「あはは、次からはお金取るんだ」
ありがたい申し出だった、おそらく冗談で次回から有料だと仄めかしてはいるが、実際持ち合わせがあれば払いたいほどありがたかった。
スグリはその言葉に甘え、魔理沙の家で一泊することとなった。幸運にも野宿を避けられており、体力の温存にも役立ちそうだ。
「じゃ、こっちだぜ、付いてこいよ」
そう考えながらスグリは魔理沙に付いていくこととなった。