戦場より、愛を込めて   作:亥露

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第四話 病弱と、未来視と、隻眼と

「あら、彩葉ちゃん。久しいわね」

「あぁ、那須先輩。お久しぶりです。身体の調子は如何ですか?」

「ふふ、今日は調子がいいの。だから今日は思いっきりランク戦しようって思ってね」

 

 ──彩葉は同情した。

 

 那須の対戦相手に。

 

 小夜子を送った後、偶々、偶然的に──いや、運命的に、小夜子の所属する部隊隊長の那須玲と遭遇したのだった。

 

 那須玲はその身体が病弱の所為で、ボーダー本部に来る事自体が稀であり、学校も違う彩葉は久々に、本当に久々に那須と会ったのだ。当の彩葉も、普段は自室に篭り仕事をしているので、一概に那須が原因とは言えないのだが。

 

「そうですか。元気があるのは大変良い事です。しかし惜しい事をしましたね。さっきまで珍しく小夜子が来ていたんですが、たった今帰ってしまいましたよ」

「えぇ、知っているわ。此処に来た時に偶々会って、少し挨拶をしたもの」

 

 では何故開発室まで送ってやらなかったのかと彩葉は疑問に思うが、恐らく小夜子が無理だと判断する前の出来事だったのだろう。

 

 小夜子は大丈夫だと思い意気揚々と彩葉の元へ赴こうとしたのだが、矢張り無理だった様で、彩葉が来るまで廊下の隅で蹲ってしまっていたのだった。

 

 それ程までに重かったのだろう。

 

 小夜子が平気と思っていても、体が言う事を聞いてくれない。

 

 それでは、まるで精神疾患だ。

 

「今から帰りですか?」

「そうなの。もう七時だからね。迎えの車が来てくれているわ。彩葉ちゃんはまだ仕事?」

 

 小夜子の言葉に彩葉は左手に付けていた腕時計を見る。時刻はもう六時五十五分を指しており、良い子はもう帰る時間だった。しかし彩葉の仕事はまだ残っており、基本的に退勤時間は八時と指定されている。

 

 鬼怒田曰く、これでも譲歩をした方──らしい。勿論勤務時間を延ばすのを。

 

 まぁ、年中繁忙期の様な技術者(エンジニア)としては当然の判断だろう。

 

「はい。これから部屋に戻って再開するつもりです」

「若いのに偉いわね」

「一歳しか変わりませんよ、那須先輩とは」

「ふふ、そうだったわね」

 

 そう言いながら笑う姿は、良い意味で大人びており、十七歳の女子高生とは思えない程だった。まぁ学校帰りと言う事もあり、お嬢様校である星輪女学院の制服を着ているが、それすらもドレスであるかの様な出立ちだった。

 

 彩葉の白衣とは偉い違いである。

 

 彩葉も顔が良い部類に入るのだが、那須とはいかんせんベクトルが違うのである。

 

 那須は美しい。

 

 彩葉はどちらかといえば鬱くしいだった。

 

 鬱々として、美しい。

 

 透明感のある美人とは、まるで対極だ。

 

「……小夜ちゃんと仲良くしてくれて、ありがとう」

「はい?」

 

 唐突に、那須は彩葉に感謝の念を伝えた。彩葉は訳が分からず首を傾げる。けれども那須はそんな彩葉へ微笑みを返して言葉を紡ぐ。

 

「あの子は少し、難しい子だから。彩葉ちゃんの様な子が側に居てくれて嬉しいわ。隊長としても、先輩としても──友人としても」

 

 那須は目を伏せそう言った。まるで母親の様な言い方だ。

 

 まぁ、その様なものなのだろう。

 

 那須にとって小夜子は年下で、後輩だ。そして度を超えた人見知りで男性恐怖症。那須からしたらバッチリ庇護対象なのだろう。だからこそ親の様な気持ちになり、彩葉に礼を言う。

 

 その顔はどこか儚げで、那須の白い肌も相まって触れれば割れてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。けれども彩葉は那須の言葉に違和感を持ったのか顔を顰める。

 

「那須先輩って、意外と人を見る目がありませんよね。私を良い子と思っているのだったら正気を疑います。眼科をお勧めしますよ。それか精神科」

「そう? 私は彩葉ちゃんが思っているより、彩葉ちゃんは良い子だと思うわ」

 

 その言葉に彩葉はさらに顔を顰め呆れた様に溜息を吐く。

 

 彩葉は自分で性格の歪み具合を嫌と言う程自覚しており、だから尚更自分の事を()()()と言われるのは些か気持ちの悪い物があった。

 

 自分が良い子な訳がない。

 

 そんな筈がない。

 

 そんな事、()()()()()()()()()

 

 例えるなら猟奇殺人犯を事情があったんだと庇う市民の様な気持ち悪さである。

 

 宛ら犯罪(サスペンス)に憧れる人間の如く。

 

 犯罪者は、庇われる事なく罪人なのだから。

 

「私も、小夜ちゃんに頼られたいのだけれど、如何してもダメね。こちらから近づくと、猫の様に逃げられるのよ。ままならないわね、人生と言うものは」

 

 そう言う那須の顔は、憂いの影が差す。

 

 彩葉はそれを見て、再度溜息を吐いた。

 

 それはままならないと言う那須への同意。

 

 彩葉とて、小夜子の疾患を事はなんとも思わない訳ではない。どうにかしたい。どうにかして小夜子を苦しみから解放させたい。親友ならば当然に思うのだった。

 

 だけれど停滞もまた一つの解決策なのではないかと思う事も事実だった。

 

 別に疾患を完治しなければいけないと言う法律は無い。此の儘男を避けて生きる事もまた一つの人生なのだろう。

 それの良し悪しなんて、誰にも分からない。

 

 善悪なんて、正しいか間違っているかなんて、人間が決めて良い事ではない。それを決めてしまうのはあまりにも傲慢で──とても卑怯な事だと、彩葉は常日頃思っているのだった。

 

 だからこそ彩葉にとって如何治すかより、いかに小夜子が苦しまないでいられるかの方が大事なのだから。

 

 それは那須も同じだろう。

 

 しかし──。

 

「悪いですけど、今の那須先輩では、小夜子を理解するのは不可能ですよ」

「……え?」

 

 彩葉はそう切り出す。

 

 那須の喉からでた声は掠れており、見開かれた目には困惑の色が宿っていた。

 

 けれども彩葉は続ける。那須の心を抉る言葉を。

 

「多分だけど、小夜子の事を一番理解しているのは私だと思います。だからこそ分かるんです。先輩には、背負う覚悟が足りない。そんなんじゃ、小夜子を理解するどころか、小夜子自身を見つける事も、暗闇から救い出す事も叶わない」

「……覚悟って、何? そんなの……」

「だからダメなんですよ、那須先輩は」

 

 彩葉はやれやれと言う様に首を横に振る。その意図が分からず、那須は困惑する。

 

 覚悟とは何か。

 

 何を覚悟すれば良いのか、那須にはそれが分からなかった。

 

 解らなかった。

 

 だからこそ、小夜子の力になりたいと言う()()那須を、彩葉は否定した。

 

 全力で、真正面から否定をした。

 

 何故なら彩葉と小夜子は親友だから。

 

 同じ痛みを知る同じ穴の狢(親友)だから。

 

 分かるのだ。

 

 だからこそ、分かってしまうのだ。

 

 今の那須では、小夜子を救えない事に。

 

 彩葉と那須の間に、沈黙が流れる。重たい、冷たい空気が。

 

 空気が冷たいのは、恐らく季節だけの所為ではないのだろう。

 

「それじゃあ、私はそろそろ戻りますよ。仕事も残っていますしね。引き止めてごめんなさい。さようなら」

 

 彩葉はそう言って那須に会釈をし、その場を立ち去る。

 

 ポツンと残された那須は、呆気に取られたかの様に立ち尽くす。

 

 時刻は遠に七時を超えており、外はもう真っ暗だった。この時期になると、日も短い。

 

 薄暗い中に、浮かぶ様に那須の白い肌が強調される。

 

 そしてその頬に流れる雫も、キラリとひかり、地面に落ちてゆくのであった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

「まったく、ひどい事を言うな、お前は」

「……迅さん」

 

 壁にもたれながら、彩葉の進行方向を妨げる様に立っている青い服を着た青年──迅悠一は、眉間に皺を寄せそう言う。しかし彩葉はそれを気にする素振りも無く「まぁね」と返した。

 

「別にどう思われようがどうでも良いよ。小夜子がこれ以上無理をしなければ別に」

「無理をするなって、多分彩葉が一番言っちゃいけない台詞だよ」

「迅さんもね」

 

 彩葉の言葉に、迅は溜息を吐く。

 

 ──迅は、彩葉の事がどうも苦手だった。

 

 理由は分からないが、何故か少しだけ、ほんの少しだけ苦手意識が出てしまう。。

 

 逆に彩葉自身は迅の事を嫌っている訳ではない。なんなら境遇上、親近感(仲間意識)を持っているくらいだった。

 

「と言うか、迅さんが本部に来てるなんて珍しいじゃん。なんかあったの?」

「……彩葉は何が起こるか予想出来る?」

 

 迅の言葉に、彩葉は考える素振りを見せ、口を開いた。

 

 その間、三秒。

 

「いや、出来ないね。遠征も何も滞りなく帰ってきそうだし、暫くは平和に暮らせるんじゃない? 少なくとも、一ヶ月間は」

「そうだね。それが答えだよ」

「ふうん。つまんないの」

 

 彩葉はその体質上、予測する事が得意だった。

 

 あらゆる状況、環境、人間を観察して予測する。それを当然の様にやってのけれるのだから、それはもう化け物じみている。

 

 正気の沙汰ではない。

 

 しかし、それも完璧ではない。

 

 世界なんて予定調和にはいかないもので、彩葉の予測も、ごく稀に外れる時もある。

 

 ──未来視でも持っていない限りは。

 

「じゃあ、暫くは問題ないって事か」

「多分ね。最低でも一ヶ月間は」

「何その歯切れの悪い返事」

 

 彩葉はジト目で迅を睨む。迅はそんな彩葉を一瞥し、いつもの口調で、いつもの台詞を口にした。

 

「未来は無限に広がっているんだ。何がどうなるかなんて、俺にも分からないさ」

 

 ──未来視。

 

 それが迅悠一に与えられた副作用(サイドエフェクト)の名前だった。

 

 文字通り、未来が見える副作用(サイドエフェクト)

 

 一見、便利そうに見える力だが、彩葉は別に羨ましいとは思わなかった。確かに便利な事は少なからずあるだろうが、矢張り使用者によるマイナス方面も当然ながらある。

 

 要は足し引きである。

 

 光があれば影がある様に、便利性を手に入れたのなら、それ相応のリスクもまた必然的について回る。

 

 本人が望んだ力でなくとも。

 

 彩葉が思考強化という副作用(サイドエフェクト)を手に入れてしまったばかりに、身体がその力について来れなくなったのと同じように、未来視もまた、何かの代償の元に成り立っているのだから。

 

 迅の代償か何かは、彩葉には分からない。

 

 想像は出来る。しかしそれが正しいのかは、矢張り迅にしか分からない事なのだから。

 

「ま、迅さんの未来を覆す事も悪くは無いかな?」

「うわぁ、太刀川さんみたいな事言ってる……。というか彩葉が言うと洒落になんないんだけど、何をする気?」

「城戸司令のデスクをファンシーにしたら面白くない?」

「面白いより恐怖が勝る!」

 

 迅は彩葉の突拍子もない言葉に思わず叫ぶ。

 

 城戸司令は誰もが震え上がる程の圧を持った人物だ。そんな人のデスクをそんなキキララが出てきそうなファンシーにしたら、きっと恐らくとんでもないことになるだろう。

 

 迅は予知したくなく、意識してその未来を隅に追いやる。

 

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。次の〝暗躍〟をしなければいけないからね」

「言ってしまってる時点で暗躍じゃない様な気がするんだけど」

 

 彩葉は迅の言葉に苦笑する。迅は自身の趣味が暗躍と豪語している事もあり、日夜どこそこへ飛び回っているのだった。

 

「けど残念。私に会いに来た訳じゃないんだ」

 

 意地の悪い質問に、迅もまた苦笑をする。これが本気で言っている訳ではないのだから、余計にタチが悪い。

 

「別に彩葉だって、会いに来られても嬉しくないでしょ」

「そんな事ないよ。誰だって自分の為に足を運んでくれたら嬉しいものだよ」

 

 意外な返答に、迅は目を丸くする。どうやら読み逃していた様だ。

 

 迅の印象では、誰が自分にどうしようがどうでも良い、関係ない。自分こそが正義であり正解。という風な人間だった。

 

 けれども彩葉の口から出た言葉は、迅の予想のはるか上──いや、はるかに斜め上を行く返答だった。

 

 これがまだ別の人間だったらなんとも思わない。どころか普通の返答なのだが、相手が彩葉なばかりに、迅は何か裏があるのではないかと身構えてしまう。

 

「……何か失礼な事を考えた?」

「いやいや別に! 何もないよ! いやぁ、彩葉でもそんな事考えるんだね! 関心関心!」

「余程早死にしたい様だね」

 

 失言だった。

 

 いくら未来視が出来る迅とて、並行思考が出来る訳ではない。だからこそこんな慌てた時に未来を見ながら喋るなんて、そんな超人技、迅には不可能だった。

 

 しかし冷静に考えてみると、迅は彩葉の事をよく知らない。だったらこんな一面があることもまた、当然かも知れなかった。

 

 人間は悪い面だけを持っているとは限らない。

 

 良い面もまた、持っているのだった。

 

 それに友人たちと過ごしていく間に、何か心変わりがあったかも知れないと、迅は思い直す。

 

「あーあ。未来視が聞いて呆れるよ。その未来視はなんの為に持ってるの?」

「そんな事を言うなよ。俺が一番実感してんだからさ」

「私の機嫌を取る為でしょう?」

「やっぱ傍若無人だった!」

 

 何が良い面を持っているだと迅は肩を落とす。

 

 矢張り彩葉は、迅が思っている通りの人間だったらしい。

 

「まぁ良いさ。今度の検診で少し無理難題をしてもらうだけでチャラにしとこう。なに、難しい事は何もないよ」

「絶対当社比だ!」

 

 迅の未来では自分が項垂れている未来が視えた。

 

 迅の未来視は、不確定な未来は直前にならないと視えない代わりに、ほぼ確定している未来は年単位で見えるのだ。

 そして次の検診はだいぶ後。恐らく遠征が終わった後だろう。

 

 これは確定と言っても過言ではなかった。

 

「ほら、もう帰るんでしょ。さっさと行きなよ」

「いや、正しくは帰るんじゃなくて〝暗躍〟ね」

「どっちでも良いわ」

「雑! とても雑い!」

 

 迅は彩葉に促されるままその場を後にする。

 

 結局長々と喋ってしまったからか、予定より時間が大幅に過ぎてしまった。

 

 自身が視ていた未来では、話を早々に切り上げられる未来が見えていたのだが、そうではなかったらしい。

 

 矢張り未来は分からないものだなと思う反面、矢張り彩葉の事は苦手だなと思う迅であった。




番外編【猫の日の城戸司令の憂鬱】
 

「賢。今日がなんの日か知ってる?」
「ふふ、彩葉ちゃん、佐鳥を誰だと思ってるの? 広報部隊さ。つまり! 今日は猫の日である」

 ラウンジの一角。そこで彩葉と佐鳥は向き合って談笑していた。
 
 そう、本日は二月二十二日。世間では猫の日と言われている。(ニャー)(ニャー)(ニャー)で猫の日である。

「話が早くて助かるよ。それを踏まえて賢。相談があるんだけどさ」
「因みに猫耳はつけないよ」
「それは去年やってもらったから満足してる」

 彩葉の言葉に佐鳥は静かに目を伏せる。思い出すは今からちょうど一年前。

 広報の仕事でボーダーを訪れた佐鳥に出会い頭彩葉に猫耳を無理やりつけられ、その日一日そのままでいることを強制させられたのだった。その間彩葉は佐鳥をじっと眺めていたのだった。他のボーダー隊員曰く「あれは一種のホラーだた」らしい。

 因みに一昨年は訓練用トリオン兵を全て猫にしていた。一部の猫好きからは好評だったらしい。けれど無断でやっていたらしく、鬼怒田開発室長からは大目玉喰らったとか。

 そして今年である。今回は何が彩葉の琴線に触れたのか、佐鳥はまだ分からなかった。

「猫の日にちなんでさ、城戸司令の私物という私物を全て猫ちゃんにしたんだけど、あれよくよく考えたらまずいかなぁって。どうしたら良いと思う?」
「何恐ろしい事してんのぉ!?」

 佐鳥は思わず叫ぶ。叫びながら立ち上がる。周りのC級隊員の目が刺さるが、今はそんなことはどうでもいい。

 彩葉はもしかして恐怖心が死滅しているのかもしれないと、佐鳥は呆れながらそう思った。

 城戸司令は厳格をそのまま人間にしたような人間に、良くもまあそんなことができるものだ。こんな事ができるのは本当に彩葉くらいだろう。

 改めて佐鳥は彩葉に対して恐怖を感じた。

「……彩葉ちゃん。やってる間考えなかった? 後々恐ろしいことになること」
「いやぁ、あれは深夜三時で深夜テンションだったから」
「社畜って限界突破するととんでもないことするよね」

 彩葉はワッと佐鳥に泣きついた。

「助けてよう! 私城戸さんに怒られたくないよう! なんなら城戸司令のパソコンも子供向けパソコンに変えちゃったし、どうしよう!」
「むりむりむり! いくら佐鳥でも城戸司令には太刀打ちできないって!」
「できるよ! 賢はやればできる子だもん! ツイン狙撃(スナイプ)を習得した時みたいに! さあ!」
「そこでそれを出すなぁ!」

 二人の絶叫がラウンジに響く。もう二人は人の目を気にしている余裕はなかった。あるのはただ一つ。これからの地獄をどう回避するかだけだった。

「もう素直に謝るしかないよ」
「やっぱそれしかないかぁ。今からでも究極の土下座を極めないと」
「え? 何それ」
「逆立ち」
「ふざけてる! こんな状況でもふざける心を忘れてない!」

 彩葉はどこまで行っても忍田彩葉だった。それはもう呆れを通り越してもはや尊敬の域だ。佐鳥は意外にも見習いたいと思ってしまった。

 まあ彩葉のような愚行はしないが。

「つーかさ。城戸さんも城戸さんだよ。城戸さんには可愛さが足りない。いっつも真顔でふんぞり帰って、威圧感ばかりだし。これを機にキャラ変したら良いんだ。ほら、上層部にはファンシーキャラいないじゃん。城戸さんが先駆者になったら面白くない? うわ、想像したらマジうける」

 彩葉は意気揚々と語り出し、大声で笑った。けれども佐鳥は彩葉の頭上を見ながら顔を青ざめている。まるで魔王でも見るかのようだ。今の背景BGMはベートーヴェンの『魔王』が流れていることだろう。

 彩葉も佐鳥の異変に気付いたのか顔を笑顔にしたまま笑い声を止める。

「……賢、なんで私の上を見てるの? そこに何があるの? ちょ、やめてよ。ねぇ賢」
「あー……そういえばオレ仕事があったんだった。じゃあ行くね。彩葉、達者で!」
「待って賢! 私も!」

 ポンッと彩葉の肩に大きな手が置かれる。彩葉は肩をびくつかせ、恐る恐る振り返る。

「そうだな。君も今から用事があるな。少し私とお話をしよう」

その後、ラウンジで土下座の究極版と言うに相応しい程の土下座をしている彩葉の姿が上層部の部屋で見られたとか見られなかったとか。


──完──
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