裏ボスになりたくて!   作:ぐえ

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魔力のない世界

アレクシア「なんでよ、なんでなのよ...シドォオオオ!!!」

 

アレクシアの剣がシャドウに迫る。しかし、その剣をシャドウは避けなかった

 

「なんで止めたの?」

 

アレクシア「...」

 

シドはアレクシアの震えている剣を見る

 

「あぁ、なるほど。よく見れば姉さんもそこでへたり込んでるや。それにアイリス王女と武神ベアトリクスか」

 

ベアトリクス「道理で強いと思った」

 

アイリス「ずっと騙していたのね...」

 

クレア「いや、いやぁ、なんでなの、え、あ、し、シド、腕が...!」

 

クレアは顔中液体だらけで今はまともでは無かった。そしてアイリスとベアトリクスは剣を構えたまま動いていない

 

「これ?ちょっと今は回復も難しいかな」

 

誰も動かない。誰も動けない。皆頭が真っ白だった。

今まで守ろうとしていた相手が最期の敵として現れたのだ。信じたくない。

 

アイリス「シド・カゲノー君、大人しく武装を解除して降伏しなさい」

 

「イヤだと言ったらどうするんですか?」

 

アイリス「あなたを...殺します...」

 

アレクシアがアイリスの方へ振り向く

 

アレクシア「ちょっと待って姉様!これは何かの間違いよ...!だってそうじゃない、こいつは勉強できなくて、魔剣士としての能力は酷いし、しかも魔力だって全っ然ない...んだから...」

 

(彼の魔力量はクレア、あなたの10分の1しかないわ)

 

アレクシアの脳裏にアウロラの言葉がよぎる。だがそれをアレクシアは否定する。そもそもシドのように魔力量が少ない魔剣士がいないわけではない

 

「それにこいつは...」

(僕は君の剣が好きだ)

「ッ!!」

 

凡人の剣を認めてくれたのはシドだった。そして凡人の剣の先に目指した自分の理想を体現したのがシャドウだった。

共通点が無いわけではない。

 

「話し合いは終わったかな」

 

アレクシアがすぐに振り返り剣を向ける。しかしそこにシドはいなかった。

 

「あ」

 

「姉さん、そんなに泣いていたら...前が見えないよ?」

彼の顔に笑顔が張り付く

「え?」

唯一残っていたスライムソードを振り上げ

 

「「ッ!?」」

 

アイリスとベアトリクスがクレアに振るわれた剣を間一髪防ぐ

 

ベアトリクス「シド、この子は君の姉だろ...!」

 

アイリス「自分の家族を何だと思ってる!!」

 

シドの雰囲気が変わる

 

シャドウ「さあフィナーレと行こうか」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

シャドウ「(弱いなぁ。アイリスとベアトリクス、それにあの二人がいれば僕の最後にはちょうどいい...そう思ってたんだけど、アルファ達の後にこれじゃ締まらない)」

 

「ハァアアア!!」

「このぉおおお!!」

 

アイリスとアレクシアの猛攻をシドは片手で防ぐ。

 

「(本当に壊してしまおうかな)」

 

「ッ!!」

 

ベアトリクスが背後から急接近する。振るわれた剣を振り向きもせず防ぐと、片足でアレクシアの腹を蹴り飛ばす

 

「ガァアッッ!!」

アイリスは一瞬アレクシアを心配するが機を逃さなかった

「(取った!)」

 

アイリスの剣がシャドウの首へ向かう

 

バギンッ

 

「そんな...!」

 

アイリスの剣をシャドウが自らの歯で噛み止める

 

バキッ!!

 

噛み砕かれた剣に呆然としたアイリスとスライムソードが突然液化したことで身体が前のめりになったベアトリクスを二人まとめて殴りつける

 

「ぶべっ」

「あがっ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

クレアはただ三人の戦いを眺めていた。まるで何もできない赤子のように

 

アウロラ「立ちなさい。あなたの使命は終わってないわ」

 

クレア「...」

 

アウロラ「他の皆が死ぬわ。あなたも死ぬ。それでもいいの?」

 

クレア「...別に、いいのよ。私はあの子に拒絶された。もうどうでもいい。ごめんねアウロラ、折角色々教えてもらったのに」

 

アウロラ「本当にあなたが拒絶されたわけではないわ」

 

クレア「何を...」

 

アウロラ「前も言ったわ。今彼の体は彼だけの物じゃない。精神が魔神ディアボロスと共存しているの。本来だったらすぐに彼の身体を突き破って復活してもおかしくはないけど、彼がそれを食い止めてる」

 

クレア「じゃあシドは...シドは戻って来るの?」

 

アウロラ「それはあなた次第よ」

 

クレアがようやく立ち上がる

 

アウロラ「隙を作って、そしたら私が分離させる」

 

クレア「やってやるわよ!!」

 

クレアが駆ける

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

シャドウ「来たか」

 

クレアが跳躍し、大振りで剣を振るう

 

「シドォオオオオオ!!!」

 

シャドウ「姉よ、あなたは昔から変わらない」

 

シドは剣を精製せず、ただ半歩前へ出る。伸びた手はクレアの剣の腹を触れ、クレアの剣筋を狂わせる。

 

「なッ!?」

 

そのままクレアの首を手で締め上げ、地面に激突させる

 

「んがッ!」

 

シャドウ「頑固で、威勢がよく、そして...弱い

 

クレア「シドはそんなこと、言わないッ...シドを返せ!!」

 

アレクシア「やめろおおお!!」

 

アレクシアが飛び出て剣を振ることでシャドウは大きく後退する

 

クレア「カハッ、ハァハァ、アレクシア隙を作るわよ」

 

アレクシア「元からそういう作戦でしょ。あなたが来ないからほんとにヒヤヒヤしたわ」

 

シャドウ「ほう、何か作戦があるのか。やってみるといい」

 

アイリスとベアトリクスが瓦礫の下から這い上ってくる

 

ベアトリクス「作戦なら私達もある」

 

アイリス「うぉおおおおお!!!」

 

ベアトリクスの正面からの猛攻にアイリスが背後から奇襲を仕掛ける

 

シャドウ「そうか、だが時間切れだ」

 

彼の消えた右腕が再生する。それは皮膚がなく筋肉がむき出しだが戦闘に支障はなく、アイリスの剣を指で止める

そのままスライムを変形させベアトリクスの剣を()()()で防ぐ

 

ベアトリクス「生えた!?」

アイリス「化け物めッ!!」

 

シャドウ「貴様らにはコレがちょうど良かろう」

 

二人は大きく後退する。シャドウはバールを二つに分裂させ構える

 

 

 

 

『すまぬな、時間が掛かった』

 

シャドウ「!?」

 

シャドウを中心に黄金の世界が広がる

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

シャドウ「これは...(身体強化が全くと言っていいほど出来ない。事前に作っておいたおかげかバールは形を保ってるけど)」

 

アイリス「これは竜の封印だ」

 

シャドウ「この程度で我を封印?笑わせる」

 

ベアトリクス「知ってる。君ならいつか出てくるかもしれない」

 

アイリス「だからここで仕留める」

 

シャドウ「確かに魔力が無い一般人相手なら勝てるやもしれぬな。だが、貴様らも魔力が使えないのならば意味が無かろう」

 

アレクシア「四対一で随分余裕があるじゃない?ポチ」

 

クレア「少し痛い思いしてもらうからね」

 

4人が彼を囲む。それぞれの頬に汗が走る。最初に攻めた者が死ぬ。そんな予感が全員の頭をよぎる。

 

「怯えているのか、魔力がない唯の人間に?」

 

アレクシア「このッ!」

 

アイリス「待ちなさい。私から行く」

 

彼女は歩み足で近づく。魔力が無くなった以上圧倒的な差は無くなった。あるのは剣技の差。

 

アイリス「だぁあああああ!!」

 

アイリスが雄叫びを上げ一気に剣を振りかざす。剣が流されそうになってもすぐに身体を引き、間合いを保つ。しかし攻め続けることで相手には攻撃させない。

 

シャドウ「(やっぱり強くなってる。さっきはドーピングでもしてると思ってたんだが、なんか違うね。とはいえ単純な修練でここまで飛躍的に剣技が上がることなんてあるのか?)」

 

シャドウが間合いを狭くし、右下からバールで殴りつける。しかし手首を回すことで防御を間に合わせる

 

「(剣が捌きにくい位置からの攻撃にまで対応したね)」

 

『さぞ不思議そうだな』

 

どこからともなく声が聞こえてくる。

 

「竜か」

 

左手から振りかざされたバールをアイリスは間合いを取り避ける

 

オルガヌム『そうだ。今貴様が相手しているのはアイリスではない』

 

シャドウ「では竜よ。お前か?」

 

オルガヌム『違う。我は手助けをしてやっただけだ。この娘の分岐する幾つもの未来の可能性から剣士を極める道を引っ張り出したのだ』

 

シャドウ「なるほど。面白い。天才の剣はどこまで我に迫るのだろうな?」

 

クレア「私を忘れるんじゃないわよ!」

 

クレアが横からシャドウを叩きつける。しかしトンファーのように持ち変えることで攻撃を防ぐ

 

シャドウ「殺す気でやれ。だから貴様に興味が湧かんのだ」

 

クレア「シドの顔で喋るんじゃないわよ!...ングッ!?」

 

他3人が迫ってくるのを確認し、クレアを殴りつける。

 

アレクシア「(3方向同時ならいくらなんでも対応できないでしょ!)」

 

シャドウが動いた

 

「「「ッ!?」」」

 

ベアトリクス「私か...!」

 

シャドウがベアトリクスに向かって一直線に走る

 

「長物の弱点は取り扱いの難しさ。そう思われがちだ。」

 

「フンッ!!」

 

ベアトリクスが袈裟に切りつける。それを姿勢を低くし避ける。

 

「(間合いが殺された!)」

 

攻撃が来る前に身体を回転させ、二撃目を放つ。

 

「魔力に頼って生きる魔剣士は忘れる。その剣の重さを」

 

今度は剣がトンファーによって上に流される。その重さに身体を持っていかれた結果腹がガラ空きになった。

 

「ウガァッッ!!」

 

正拳突きが入る。そのまま顎に肘打ち、ベアトリクスの身体が少し浮いた。そこから躰道の旋状蹴りによって近い間合いでありながらベアトリクスを5メートル先まで蹴り飛ばす。

 

アレクシア「こいつ魔力がないのに...!」

 

アレクシアがアイリスより先にシャドウにたどり着く。しかし、その剣はバク転で躱される。

 

次の狙いはアイリスだった

 

「(来る!!)」

 

シャドウの右手のバールは中段、そして左手は上段。

 

「(見たことのない二刀流...今までの戦闘スタイルとは違う!)」

 

アイリスの攻めは右のバールでいなされ、今度は左のバールが襲う。アイリスは後退しながら捌き続ける。

 

「(こっちの動きの方が速いのに当たる気配がない。これじゃあ消耗戦になる!)」

 

シャドウは既に死に体のはずだが、それでも消耗戦では負ける確信がアイリスにはあった

 

「(アレクシアに賭ける!)」

 

アイリスの剣の起こりをシャドウは捉える。彼女はあえてシャドウの身体の前に剣を振り下ろした。

 

彼はアイリスの剣の起こりに合わせ右手のバールを少し上げていた。それが致命的になった。

 

違う方向からぶつかり合う攻撃では相手の得物を落とすことはできない。格上なら尚更だ。だが、得物が進むのと同じ方向にぶつければ話は別だ。それには相手より何倍も速い速度で動かなければならない。それをアイリスは剣技だけで可能にした。

 

アイリスが剣を振り上げる。

 

ガンッ!

 

「最初から右のバールを...」

 

右のバールがシャドウの手から落とされる。代償として左のバールがアイリスの肩を破壊した。

 

「グッ!ウガァアアアアア!!!」

 

「確かにお前の未来は我に届きえた。」

 

飛び込んだアイリスの顎にシャドウの膝打ちが入る

 

「剣技だけだがな」

 

アレクシアが後ろから剣を振り上げ跳ぶ

 

「このぉおおおお!!!(入る!姉様が作った隙、絶対に当てる!)」

 

シャドウが振り返る

 

「アレクシア」

 

シドの声が聞こえた。いつもの気の抜けた声。あいつから話しかけてくることなんてほとんどないから、名前を呼びかけられることはそんな多くなかった。でも、あの時彼を好きになってしまったから、だから...

 

 

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