裏ボスになりたくて! 作:ぐえ
そもそも勝てるわけがない相手だ。しかも我々の殆どはジャックによって傷ついている。時間稼ぎにもならない。残りは私だけ。あぁ胸が貫かれた...シャドウ様.....申し訳.......
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クレア達は後ろを見ずに走る。さっきからずっと走りっぱなしだ。でも足は止められない。なにかが近づいている。シャドウでもディアボロスでもないおぞましい存在が。
目的地まではまだ半分も届いていない。なのにすぐそばから悪寒がして鳥肌が止まらない。嫌な汗が流れる。さっきいたガーデンの精鋭はもうやられたのだろうか。30人以上いたはずだ。まだアレが現れて数分だというのに。
アレクシア「え?」
さっきまで後ろにあった悪寒が急にかき消えた。
山勘だろう。アレクシアの身体が勝手に動き剣を抜く。そしてなにもないはずの空を切ろうとする。
キンッ!
なにかに当たった。
気づいたときにはアレクシアの目の前に”シャドウ”がいた。
「(見えなかった。これがシャドウの本気!)クレア行ってッ!」
アレクシアがもう一度剣を振るがシャドウに届くことはなかった。
「剣が?!」
最初のぶつかりで既にアレクシアの剣は根元から断ち切られていた。
絶体絶命。アレクシアは自分の特攻で何秒時間が稼げるかを考えた。駄目だ。奪われる。勝てるはずがない。
「それでもッ!!」
拳が振り抜かれた。
受け止められ、握りつぶされる。手から鳴ってはいけない音が響いた。
「私はぁあ!!」
反対の拳を再度振るう。今度は腕の骨が折られる。
声にならないアレクシアの悲痛な叫びが木霊する。
「カハッ!?」
お腹、熱い、痛い。なにこれ。剣が刺さって、あぁそうか私死ぬのか。
「ポチ...最後に一言ぐらい言いたかったわ...」
これで最後よ
アレクシアの周囲に魔力が発散される。最期にできる彼女の抵抗だ。
「アイ...アム...」
シャドウは動かない。ただアレクシアの動きを見つめる。
「...アトミック」
爆発は起こらなかった。
あれ発動しない。ただ私の体から血が流れていく。なぜ、あぁそうか。そもそもこんな身体で撃てるはずなかった。アウロラだって私が走れる程度に身体を治しただけだ。
こんな最後で終わるのか。あぁ何て無意味なの。
シャドウが最期のトドメを刺しに近づいてくる
終わりたくない。まだ何もできていない。せめてポチに...
「よくやったのです。後はデルタに任せろなのです。」
シャドウが大きく吹き飛ばされる。七陰の暴君が現れた
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ごめんアレクシア、私...」
自分の不甲斐なさに反吐が出る。しかし今は止まれない。アレはマズイ。シャドウより恐ろしい。強さとかそういうものではなく、憎悪そのものに相対しているような感覚だ。
「うわっ!?」
後ろからの爆風によってクレアが吹き飛ばされる。後ろを見れば、シャドウと七陰らしき獣人が戦っていた。
「遅いのです!早くボスを連れて行け!!」
「あんた七陰の、とにかくありがとう!!後はお願い!!」
デルタが正面に相対するボスの姿をした何かを見据える。
「フヒッ」
久しぶりのまともな戦いに笑みを隠せない。
先に動いたのはデルタだった。彼女の突進にシャドウは糸で対応する。しかし、糸が到達する前にデルタの咆哮が轟く。
「ウガァアッッ!!」
弛んだ糸をデルタが剣を精製し切断していく。シャドウも再度剣を作り出す。剣の交差、互いの膂力に差は無く火花が飛び散る。その火花が地に落ちるより早く次の剣が交わる。
打ち合うに連れ、互いの速度も増していく。シャドウの方に疲れは見えない。無機物と対峙しているような感覚をデルタは感じ取る。
シャドウの剣がデルタを斬りつけるより早くデルタが後退する。それはシャドウの剣を避けたのではなく、巻き込まれないためであった。
瞬間シャドウの身体が大爆破する。シャドウの身体が泣き別れとなり、上半身がこぼれ落ちる。
「よくも主をかどわかしたな」
「...殺す」
「簡単に死ねると思うな」
「絶対に許さない」
「お前がぁあああ!!」
再度爆撃のような攻撃がシャドウを襲う。
今アルファ以外の七陰が集結した。全員が憤怒の様相で。
『…』
シャドウの肉体が再度作られる。
ガンマ「消し炭にするか、魔力が無くなるまで消耗させればいい。」
不死身相手でも意外にやりようはあるものだ。昔シャドウ様が言っていた。まずは動けなくする!!
今度はシャドウが跳躍する。シャドウの着地より早く散会。そこにシャドウは踏み潰すように着地する。
ガンマが正面から鍔迫り合いを起こし、背後から他の七陰が何度も切りつける。しかし再生の方が早く終わる。
カキンッ!
片手でガンマとの斬り合いを制し、もう片方の手から作り出した新たな剣で七陰の猛攻を受け止め始める。
「遅いッ!!」
ゼータとデルタがシャドウの腕を切り飛ばし、足蹴りで腹に風穴を開け、顔を砕き飛ばす。
「やっぱりこいつ学習している。」
「段々、主様の動きに近くなってる。」
シャドウの再生が終わる。
「「「ッ!!」」」
彼の黒衣から触手が伸びそれぞれへ向かってくる
大して力が無かったのでそのまま切り刻まれ接近される。
「これスライムじゃない...」
イータが手を掲げ、振り下ろすと同時にシャドウの脳天に剣が突き刺さる。
そのままイプシロンが全身をくまなく切り刻み、ゼータが無数の槍ですり潰す。
「こいつどれだけ再生するの!?」
ベータがナイフを投げ爆発させるが爆発の中で更に再生を終了させ、ガンマに向かい歩を進める。
「(身体は正面に、全身で振る!)」
ガンマの全力の斬り付けをシャドウは”避けた”。
「「避けられた!?」」
驚いたのはガンマではなかった。他の陰も当たることを確信していた。しかしシャドウの学習能力は七陰の想定を遥かに上回ってきた。
ガンマの腹部に肘打ちが入る。そのまま顎に足蹴り。吹き飛んだガンマを追撃するために、シャドウが駆ける。
「ウガァア!!」
デルタが横槍し、追撃は防がれる。イータやゼータが遠距離からスライムで絨毯爆撃を行うがそれを身体を後ろへ回転させ避けていく。
「攻撃が当たらなくなってきた...」
「なら避けるより速く攻撃すればいい!」
イプシロンの空斬がシャドウに向かう。それをシャドウは同じ”空斬”で迎え撃つ。
「こいつ、もう!?」
空斬には尋常ではない緻密な魔力操作が必要だ。ただ出すだけならまだしも、戦闘で使うのは一朝一夕でできるようなものではない。
「シャドウ様の知識を貴様程度が使うな!!」
大体の事情はウィクトーリア達から聞いて分かっている。この化け物はシャドウ様に取り憑き彼の方の肉体を我が物のように扱っていたのだ。許せるはずがない。
「うぐっ!?(速くなってる?!)」
イプシロンの腹に膝蹴りが入り、吹き飛んでいく。
シャドウが手を上にかざす。
「今度は何、ゼータやイータの真似事?」
「ッ?!お前ら避けるのです!!」
シャドウの掌から大量の魔力の球が弾き出される。
「(シャドウ様こんな技を)」
「(切るのはダメね)」
ベータが追尾してくる魔力弾を至近距離で切るのは危険だと判断し、そのままシャドウのところまで駆ける。
シャドウの切り上げを寸前で避け、迫り来る魔力弾を全てシャドウに当てる。
「品がないわ。やはり偽物ね。」
当たった直後に大爆発を起こし爆炎がシャドウを包み込む。
他の七陰も何かしらの方法で直撃は防いでいる。
「違う罠だ!」
「!?」
爆炎の中からシャドウが飛び出し、後ろからベータを切りつける。
「こいつ気配を?!」
ベータの防御が間に合うが、防御ごと地面に叩きつけられる
「ガァッ!!」
他の陰の追撃もすぐに始まる
『助けて、皆』
「ッッッ!????」
「ダメ、ガンマ!惑わされないで!!」
イプシロンの叫びも虚しくガンマの動きに迷いが生じる。その一瞬にシャドウは距離を詰め、ガンマの一振りの剣筋を逸らし、腹を切りつける。完全に両断されなかったのは彼女元来の硬さゆえだろう。
『痛い、痛いよ』
「シャドウ様がそんなこと言うはずないのよッ!!」
空斬によってシャドウをガンマから引き離す。
「ガンマ!すぐ治すわ!」
「ごめんなさいイプシロン…私、躊躇してしまった」
「弱音を吐いてる暇があったら回復に集中しなさい!数の利があるうちに仕留めないと手に負えなくなるわ!」
背後ではイータによる無数の剣の攻撃音が聞こえてくる。
デルタとゼータの動きにイータが遠距離からサポートしシャドウの魔力消費を早める。
しかし、まだ誰も気付いていない。シャドウの魔力総量が段々増えていることを。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クレア「一体どこに金髪のエルフなんて…いた!」
クレアはその頃ようやくアルファを発見した。
クレア「ちょっと起きてってば!今アンタの仲間が皆戦ってるのよ!」
アルファはまだ起きる様子を見せない。
アウロラ「さっさと起こさせてもらうわ」
アウロラが手をアルファの頭に添える。
アウロラ「真実を知ればすぐ起きるはずよ。なんだってこの子は誰よりも彼を愛してるんだから」