キヴォトス最弱による復讐劇 作:せりなべ
ここは学園都市キヴォトス。青空の下で毎日銃声が響く場所。生徒は皆頭上にヘイローが輝き、自分の銃を持ち歩く。その体は1発銃で撃たれただけではなんともない。だからこそここは銃撃戦なんてものが日常の一部になっている街なのだ。
そんな場所でヘイローを持ちながらも1発の銃弾で生死を彷徨う羽目になる人間はどうなるのかというと。
「やばいやばいやばいやばい」
「おいコラ待てぇ!」
「何もしてないですって!!」
「ウチのシマ荒らしといて何もしてねぇとは言わせねえよ!」
「人違いですって!!」
ただの勘違いですら命の危機に瀕することになる。
今日は目覚めからおかしかった。セットしていたはずのアラームは鳴らず、冷蔵庫の中身は空で、挙句の果てに家を出れば身に覚えのない罪を擦り付けられ、ヘルメットを被ったいかにもな少女にに追いかけ回される始末。今日も空は美しい。ああ、なんて
なんでだ。私はただ学校に行きたいだけなのに。寝癖はついたままで、朝食をとっていないため顔色は最悪な上に命の危機まで迫っている。顔色が悪いのは命が危ないからかもしれない。神はこんな私の姿を見てきっと顔を歪ませて大笑いしていることだろう。クソッタレ。
そんな無駄なことを考えているうちにだんだん迫ってくる弾丸の数が増えている。うそだろ。なんでか弱い少女1人捕まえるのに6人も出てくるんだよ。暇なのか? ああ暇なんだろうな。こんな朝っぱらからご苦労さんですこと!
走って走ってそこら辺に転がっているゴミ箱で弾丸を防いでジグザグに動いてみたりして、撃ち抜かれる前に疲労と空腹で死ぬんじゃないかと思いながらもやっと学校周辺にたどり着く。ここまで来ればパトロールしてる人がいるはずなのだ。いやしててください。でなければ死んでしまいます。
「だ、誰かぁ!」
「……はぁ」
聞き覚えのあるため息が耳に届いた次の瞬間、後ろからさっきまで追いかけてきていた人たちの悲鳴が聞こえた。ああよかった。助かった。もうダメかと、今日こそは終わりかと思った。
「朝からなにやってるんです。ミオ」
「違うんだよ。私は何もしてない。無罪です」
「なんかやった人はみんなそう言うんです」
「ホントだってぇ」
地面と背中合わせで体力回復中の私に無情にも罪をかけようとしてくる正義実現委員会所属の友人は小さく笑って「冗談ですよ」と呟いた。
「毎回このくだりやって飽きないの? ハスミ」
「やらないと落ち着かなくなったのですよ。それより怪我はないですか?」
「ないよー。でも疲労で死にそう。あとお腹空いた」
ハスミはもう1度深くため息をついてからどこかから銀色の包みに入ったブツを差し出してくる。ほう、今日はそれか。私は身体を起こしてフッと笑ってから受け取った。
「いつも悪いねえ。ああ〜、キマる〜」
「ヤバいものたべてるみたいな反応しないでください。ただのチョコレートでしょう」
「やだ〜。ハスミったら冷たい〜。マジ卍〜」
「なんで今度はギャルみたいになるんですか」
「さっきのお返し。ありがとね、助けてくれて」
「仕事だから当然なのですが、まあどういたしまして」
まだやることがあるらしいハスミに別れを告げ、今度は歩いて学校を目指す。もう足はガクガクで今にも崩れ落ちそうだが、流石に何も無いところで寝転がれるほどほど強メンタルじゃない。え? さっきやってただろって? あれはハスミがいたから出来たんだよ。知り合いのいないところじゃできませんよ。
学校近くまで走ったおかげでギリギリ遅刻にはならなそうだ。まあ、不良生徒に追いかけられてましたって言えば遅刻扱いにはならないんだけどさ。なんか損した気分。微妙な心持ちで教室に入ればこの世で1番見知った顔が目に入った。
「おはよ。セイア」
「おはようミオ。今日はいつにも増してギリギリじゃないか。寝坊でもしたかい?」
「半分当たり。寝坊はしたけどその後不良生徒に追いかけ回された」
「それは大変だったね。寝坊したのはあまり良くないと思うが」
「アラームかけてたはずなのにならなかったんだよ。ひどくない?」
「それはかけ忘れたと言うんじゃないかな」
「いいやかけたね。きっと幽霊がイタズラしたんだ」
セイアは呆れたようにため息を1つつく。あれ? 今日だけで何回ため息つかれてるんだろ。まだ1日始まったばっかなのに。私悪いことしてないよ。ちょっと冗談を言っているだけじゃないか。それなのにみんな酷いなあ。うーん。それもこれも全部神のせいだ。そうだ。そうに決まってる。
「そんな訳ないだろう。おっと時間だ。授業が始まる。話はここまでだな」
「え、心読んだ? そうだ。帰りにティーパーティー寄っていい? 今日何も食べてなくてやばいんだよね」
またため息。そんなにため息ついてたら幸せ逃げるよ。と言いたいところだけどそれを言えばまたため息をつかれるのは目に見えてるので言うのはやめた。セイアはそんな私を置いて小さく首を振りながら続けた。
「君ってやつは。ティーパーティーの食べ物を非常食扱いするのは君くらいだよ。まあいい。どうせ3人しか食べないのだから君が食べたところで怒る人間は居ないだろうね」
「やったー! ありがとね〜」
これでお腹は満たせそう。よかった〜。って待て。放課後まで何も食べれないってこと? それはやばくね? え、授業始まるんだけど。もしかして詰んだ? えーっと、うーんと、うん。終わった。
「って感じで今日の授業はなんも覚えてない」
あれは苦行だった。お腹がすき過ぎてもはや痛かったからね。今は空腹が解消されたので笑い話だけど。目の前のクッキーを口に運びながら今日のできごとを話せばセイアはため息をつき、ナギサは頭が痛そうに手を当て、ミカは面白そうに笑った。
「やっぱりミオはおもしろいね」
「ありがとうミカ。私は今笑い話をしたはずなのになぜかミカしか笑ってくれなかったんだけどなんでだと思う?」
「見てて飽きないよ」
「うん。質問の答えになってないね」
ミカも私の味方ではないらしい。ティーパーティーはどうしてかわからないが私に当たりが強い。同じ3年生で友達なはずなのになぜなのか。これはトリニティ三大ミステリーに登録するしかないね。ちなみにその他のミステリーはどこでも同じ椅子に座っているナギサと隕石を降らせるミカ。おっとこれじゃセイアが仲間外れじゃん。可哀想だから今度セイアミステリーを見つける旅に出よう。
「それより今朝は大変だったとおっしゃいましたが怪我はありませんか?」
「掠ってもないよ〜。不良生徒ごときに遅れはとらないね」
「その割には死にかけたとか言ってましたけれど」
「ま、まあ言葉の綾ってやつだよ。大丈夫だって」
「ミオちゃんはセイアちゃん並によわよわなのに面倒事に巻き込まれがちだからナギちゃんは心配なんだって」
「そうだったの!? きゃーナギサったら言ってくれないと私バカだからわかんないよ〜」
「ナギサは言葉が足りないからな」
「うるさいですね!」
「うわー! ナギサが怒ったー! じゃ、またね〜」
「待ちなさいミオさん! 話は終わっていませんよ!」
背中から聞こえるナギサの声は無視して部屋を駆け出る。今日はとてもいい日だった。
放たれた弾丸が目の前の身体を貫いた瞬間、ひび割れていたヘイローが砕け落ちた。きらきらと神聖さを感じさせる光を含んだまま、それはただの屑になった。それらは地面に落ちる前にはらりと消え去った。ほんの1秒前には存在したものが、もうこの世界のどこにもない。ああ、いやだ。いやだ。いやだよ。置いていかないで。目の光が弱くなっていく。血は止めどなく流れ続けている。それでも最後に見た顔は笑っていた。
「お姉ちゃん!!!」
水面から顔を出したような感覚の後、だんだん意識が覚醒し、ここが現実だということを実感した。パジャマがしっとりするほど全身から汗が吹き出し、寝ていたはずなのに意識が落ちる前よりも身体が重い。視線を移せば昨日と同じ場所に時計があって、その針は4時を指していた。本来起きている時間ではない。それでも再び寝る気にはならなかった。
ベッドから身体を起こし、洗面所へ向かう。目の前にある鏡を覗けば、そこには真っ青な顔で汗を滲ませ涙の跡が残る私が映っていた。情けない顔。本当に情けない。私は生きてるのに。生かされたのに。なのにこんな顔してる。これじゃダメだ。生きてるならちゃんとやらなくちゃいけないよね。頬を両手で思い切り叩けばスイッチが切り替わった。
早起きしたし、散歩でもしようかな。うん、そうしよう。ミオさんってばチョー健康的〜。
「あちゃー。頬っぺ赤くなってんじゃん最悪。まあこのくらいなら化粧で隠れるか」
この青白い顔も誤魔化せそうだし一石二鳥ってやつ? なんなら化粧で可愛くなるし一石三鳥じゃん。私ってば天才。顔を洗い、歯を磨いて、制服に着替えて、化粧をして、最後に靴を履いた。今日は変なのに絡まれないといいな。化粧くずれちゃうし。
「じゃあ、行ってくるね。お姉ちゃん」
頭上のヘイローはいつも通りひび割れ今にも崩れ落ちそうだった。
この後セイアの死を聞かされ情緒不安定なまま、カイザーアンチ仲間のホシノから別れの言葉的なメッセージが届き、対策委員会と一緒にカイザー潰しして、その後ちょっと荒れてから落ち着いたところでエデン条約で生死を彷徨うんだ。
っていうネタだけ思いついたから供養