キヴォトス最弱による復讐劇 作:せりなべ
その日はいつもと何も変わらない日のはずだった。いつもよりいつも通りな日だった。寝坊はしなかったし、朝ごはんもしっかり食べて、登校中にヘルメット集団から追いかけ回されることもなかった。空は青くて身の危険もない。
私はただそれだけで心が踊って、学校へ行く足取りも軽くなった。教室の扉を開ければみんなが「おはよう」と言ってくれた。そこには1人足りなかったけどそれもそこまで珍しいことじゃない。体調でも崩したか検査か何かで病院に行っているだろうことは容易に想像ついた。一応生存確認のためにメッセージは送っておいたが、放課後になっても返信はなかった。珍しいこともあるものだなとそう思った。健康な時はすぐに返事が返ってくるし、そうでなくとも連絡を確認しない人間ではない。連絡を返せないほど体調悪いのかもしれないなら看病でもしに行った方がいいのかもしれないな。寄ってから帰ろうか。
そこまではよかった。ちょっとだけいつもと違うだけで何気ない日常の一部だったんだ。
「ちょっと買いすぎたかな〜。まいっか」
食料とドリンクを買ってからセイアの家を訪ねた。でも、インターフォンを鳴らしてみたのに反応がない。もう一度押してもさらに押しても家主が出てくることはなかった。
しかし、私はそんなことで諦めたりしないのさ。この程度で引き返す私ではないのだよ。しょうがない。アレを使うしかないな。カバンから取り出したのは合鍵。いつだかに家で倒れてたら危ないからと作らせた合鍵がやっと出番だ。これまで1度も活躍したことなんてなかったけど作っててよかった。
それを鍵穴にしっかり差し込み、後は捻るだけ。それだけなのに何故か緊張と罪悪感が止まらない。すごくいけないことをしている気分だった。友達の家に無断で入るということに変な感情が湧いてきたが、これはインターフォンを鳴らしても出なかったのが悪い。そうだ。私は泥棒なんかじゃないし、悪いことなんてしてない。なんなら良いことをしてるはずなんだ。意を決して手首を捻れば、ガチャンと金属の音。扉をゆっくりと開け中を覗くが電気はついておらず、生活の音は聞こえない。
「おーい。見舞いに来たぞー」
やはり返事はない。深い眠りにでもついているのだろうか。少し心配になりながらも靴を脱ぎ、リビングを通って本当に居ないか確認してから寝室へ向かった。
「大丈夫か〜? って、は?」
そこには人の気配がなかった。
悪い予感が増大する。なんで。どうして。なんでいないんだ。学校をサボって出かけるようなやつじゃないのにどうしてここにいないんだ。家中を探し回っても名前を呼んでみても見つからなかった。もしかしたらまだ病院なのかもしれないと思い、電話をかけるが今日は来ていないと断言された。じゃあどこに。ああなるほど。ティーパーティーの仕事でも急に入ったのかもしれないな。そうだ。きっとそうだ。すぐにナギサに電話をかけた。1コール、2コール、3コール、4コールまで待ってやっと繋がった。
「ナギサ急に電話してごめん。いきなりなんだけどさ」
セイア知らない? と続けようとした所で電話越しから息を殺すような嗚咽が聞こえた。
「ど、どうしたの!? あえ、もしかしてタイミングミスった? えっとまたかけ直した方いいかな?」
「いえ、大丈夫、です。話せます。」
ナギサの吐く息によって、私は急に空気が重くなったような感覚を覚えた。自分が何か重大なミスをしてしまったのではないかと錯覚するほど嫌な予感が背中を撫でた。
「落ち着いて聞いてください。セ、セイアさんのヘイローが壊されたと先ほど連絡が」
「は?」
ヘイローが壊された? セイアが死んだ?
瞬間、強烈なフラッシュバック。砕けたヘイロー。広がる血溜まり。最後に見た笑顔。
見てることしか出来なかった私。
「カヒュ」
まずい。これは過呼吸になる。抑えろ。息を吐け。ゆっくり息を。そうすれば落ち着くはずだから。すぐに抑えなきゃナギサが心配する。これ以上気苦労を増やすわけにはいかない。
「っミオさん! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫。大丈夫だよ。ナギサは大丈夫?」
「まだ全てを飲み込めたわけではありませんが、私は大丈夫です」
「そっか。ならよかった。それでセイアは今どこにいるの?」
「……それがわからないんです」
「え?」
「救護騎士団から連絡がきて、そのまま何の続報もありません」
どういうことだ。なぜセイアを隠す? 何の理由があってそんなことを。ティーパーティーとの交渉材料? いやそんなことする人たちじゃない。死体を見せてはいけないというルールでもあるのか? でもそんなルールがあるならナギサは知っているはず。待て、ヘイローは壊された? 壊された? なら、殺された?
「ねえ、ヘイロー壊されたってことは壊したやつがいるってこと?」
「は、はい。多分そうだと思います。救護騎士団の方がそうおっしゃっていたので」
「……なるほどね。ねえ、ナギサ。私1週間休むね」
通話越しのナギサが息を飲んだ。でも続くはずの言葉は形成されなかったらしい。
「大丈夫。心配してるようなことにはしないよ。ただ、真相が知りたいだけ」
「そう、ですか。お怪我なさらないように」
「うん。ナギサも無理しないでね。ホストの代わりはナギサがするんでしょ?」
「多分そうなると思います」
「頑張ってね。1週間後には帰ってくると思うから。ミカにもよろしくね。じゃ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
電話を切れば静寂が身を包む。それがこの家に家主がいないことを強調しているように思えて仕方がなかった。
次の日、朝から救護騎士団を訪ねた。しかし、そこにセイアの行方を知っている者は居らず、皆なぜそんなことを聞くのかという面持ちでこちらを見つめてきた。どういうことだ。昨日ナギサは救護騎士団から連絡がきたと言っていたのに。
「そうだ! ミネ団長知りませんか?」
「ミネ? 知らないなぁ」
「そうですか。どこいっちゃったんだろう」
「ん? どういうこと?」
「昨日からミネ団長と連絡が取れないんですよ」
昨日? セイアと何か関係があるのか? ミネがやったとは思えないけど、それでも可能性があるなら探ってみないとなにも進まないしな。
「最後にミネに会ったのっていつ?」
「一昨日の放課後ですかね」
私もセイアに最後会ったのは一昨日の放課後。トリニティの主要人物がこんなに同時にいなくなるなんて偶然とは思えない。なら、どんな関係があるんだ?
「教えてくれてありがと。私の方でも探しておくね」
「ありがとうございます!」
「じゃ、ばいばい」
セイアの死とミネの失踪。これだけの情報じゃ何も分からないな。ミネが殺して逃げたとも推測できるけど、動機がない。ミネが殺してないならなんで急にいなくなったんだ? セイアを助けに行ったのか? ああダメだ私の頭じゃ何もわからない。なら頭が切れる人を頼ればいい。
「こんな感じなんだけどナギサはどう思う?」
「情報ありがとうございます。そうですね。今思えば昨日の連絡はミネさんだった気もします」
「うーん。じゃあミネが犯人?」
「いえ、犯人なら私に連絡はしてこないでしょう。何か要求されたわけでもありませんし」
「確かにね」
「しかし、ミネさんも事件に巻き込まれていると考えられます」
「そうだね。もっと探ってみるよ」
「私の方でも調べておきます」
「じゃ、またね」
「はい」
セイアのヘイローが壊されたと聞いたあの日から5日が経った。進展はなにもなかった。
セイアもミネも見つからない。情報もない。伝えることもないためナギサとも会っていない。ナギサからの連絡もないし、きっとあちらも情報を捕まえられていないのだろう。それにエデン条約とやらで忙しそうだったしね。なら私がセイアの件は受け持とう。そうだ、明日はブラックマーケットに行こうか。あそこなら何か得られるかもしれない。今はなんでもいいから情報が欲しい。何かの欠片だけでもいいからどこかにないか。セイアに関する何か。なんだっていい。この手に掴みたい。抱えておきたい。それだけあれば私は生きていけると思うから。
ベッドに入ったが眠ることすらもったいなくて、服を着替えて外へ出た。朝を待つ街は酷く静かで少しだけ気分が良くなった。そのままブラックマーケットを目指している途中、ポケットの中のスマホが揺れた。こんなに時間にメッセージ? 誰だ?
ミオへ
急にごめん。私、カイザーに行くことになった。ミオが一番カイザーを嫌ってるのに、こんなことになっちゃって本当にごめんね。カイザーで傭兵やれば借金肩代わりしてくれるんだってさ。借金なんてかわいい後輩たちに背負わせるものじゃないから、私で終わらせたかったから、その取引を飲んだんだ。最後くらい先輩っぽいことをしたかったんだよね。
ミオと出会えて本当によかった。ひとりぼっちとひとりぼっちな私たちだったけど、だからこそ仲良くなれたよね。ミネの存在が支えになってた。私だけで戦ってるんじゃないって思えた。本当にありがとう。
こんな形の最後になっちゃってごめんなさい。多分ミオのことだから助けてくれようとしてくれると思うけど、でも助けに来ちゃダメだよ。私はミオに生きて幸せになってほしいから。私は大事な後輩ができて十分幸せになれた。だから生きて。もしカイザーの一員としてまた会った時は喧嘩でもしようか。一発目は譲るよ。
あともう一個だけ。困ったらシャーレの先生に頼るといいよ。あの人は悪い大人じゃないから、きっとミオの力になってくれると思う。
今まで本当にありがとう。友達になってくれてありがとう。私がいなくなったアドビスを気にかけてくれると嬉しいな。じゃあ、ばいばい。
小鳥遊ホシノ
神は本当に私のことが気に食わないらしい。
また私は何も出来ずに失った。
あの日から何一つ成長してない。なにより大事な友達すら助けられない。救えない。
なんで私だけ助かったのかわかんないよ。なんであの時死ねなかったんだろう。
そんな私を嘲笑うような息が吹き出た。
「なんだよ、それ」
なんで急にそんなこと決めたの? 相談してくれてもよかったじゃん。頼ってくれてもよかったじゃん。なんで諦めちゃったのさ。あの時は諦めなかったのに。ああ、わかってるよ。後輩ができたから、守るべきものができたからなんてこと。手からすべてを零した私と違うってこと。でもさ、私は
「ホシノにも幸せになってほしかった」
どうしてこうなるんだ。私は何も救えないまま、誰も救えないまま、またのうのうと生きるのか。
ねえセイア、セイアならこういう時どうしてた? ってセイアなら何かが起きる前に止めてたか。未来が見えるもんね。でも私には見えないからさ、どうしようもないよ。私にはなにもできない。
いや、まだだ。顔を上げる。前を向く。違う。終わってない。まだ終わってない。こんな私でも最後にホシノだけは救ってみせる。そうだよ。ホシノは、ただカイザーに行くって言ってただけ。ヘイローはまだ浮かんでいるんだ。死んでないなら助けられる。どうとでもなる。まだ間に合う。間に合わせる。もうこの手から何も零さない。もう失わない。
ブラックマーケットなんかに行ってる場合じゃなくなっちゃった。目的地変更。今からアドビスに急行しようか。待っててホシノ。そっち側には行かせない。大事な後輩に囲まれて借金に追われてるのがお似合いだよ。あんなメッセージ送ったこといじってやるまではアドビスから帰ってやらないから。
ねえ、セイア。私ってばバカだからさ、突撃して力で解決することしかできないからさ、今回もそうするね。今回こそはなにもできない私じゃない。たとえ手遅れでもやらないと気が済まない。また誰も救えない自分でいるのは嫌なんだ。
もしそっちに行っちゃったら、また昔みたいにお姉ちゃんと一緒に3人で遊ぼうね。じゃあ、行ってくる。大事なものがある人をひとりぼっちになんてさせないよ。
続いちゃいました
でもエデン条約までしか考えてないし、カイザーどうやって潰すかも考えてないのでこのままだとタイトル詐欺になっちゃう。どうしよ。見切り発車すぎた。がんばります。