境界対策課。
それは環境庁神祇部に属する政府機関。いつからか認知されるようになった『境界異常』と呼ばれる災害、そこから現れる『界異』という超常存在を滅し祓う『祓魔師』、およびそれらを監督する『神祇官』で構成された実働部隊を持つ組織。
警察、消防に次ぐ、第三の公安系機関。それこそが境界対策課であり、そこに所属する祓魔師を…タクティカル祓魔師と呼ぶ。
午前10時39分 中国地方某県の都市部に建つ取り壊し予定の廃ホテルにて。
「いやラブホテルじゃねぇかァ!!!!!」
「うるさいッ!!!」
「ァア痛ァ!!!」
丸眼鏡をかけた女性に頭を殴られる男性を見ながら、新人タクティカル祓魔師の
――この変な人達が僕の先輩なのだろうか。
そして、境界対策課の制服である
――というか、朝起きたらスマホに連絡が入ってて、出勤初日なのに家からそのまま現場に来る事になったけど、そこら辺とかも大丈夫なのだろうか。
「お、なんだテメェはァ!ここは立ち入り禁止だぞ赤子ォ!」
「いや、あの…今年で19なんですけど……」
「19ゥ?!まだまだ若いなァ!!!」
「だ〜か〜ら〜うるさいッ!!!」
「ゴハァ?!」
樫輪の茶色い前髪が当たりそうな距離まで顔を近づけていた赤い瞳の男の背中を蹴り、逆だった黒い髪を掴んで後ろへ放り投げる丸眼鏡の女性。
そして眼鏡の奥の、キリッとした青い瞳を樫輪に向ける。
「貴方の事は聞いてるわ樫輪隊員。神官学校の卒業おめでとう。ようこそ、境界対策課へ」
「よ、よろしくお願いします……えっと――」
「
首の辺りまで伸ばした青みがかった黒髪を揺らしながら、樫輪の顔の横を指差す。
「今貴方の後ろに立っているのが、
「ワァァァァ?!!?!」
――いつの間に僕の後ろに?!ってか背高っ!
180は超えてるであろう体を屈ませ、後ずさる樫輪と顔を合わせる浄蔭。
「ヨロシク」
「ヒェッ」
顔面が怖かった。簡単に表すなら、子供向けのホラーな絵本とかに出てくるお化けがするような…そんな構造的に人間には出来ない様な笑顔を貼り付けている。
しかも白目だった。
「ヨ、ヨロシクオ願イシマス……」
「安心して、怖く見えるかもしれないけどいい人だから。すぐに慣れるわ。ほら立ちなさいこのバカ!神祇官のとこ行くわよ!」
「ゴハァッ!惨讐の河で戦国無双!」
途中で3人の使用する術式を樫輪に軽く説明してから、神祇官と呼ばれる男の前に並ぶ4人。強面の神祇官の男は、サングラスを押し上げながら話を始める。
「今回の境界異常は平成後期頃から心霊スポット、並びに自殺スポットとして有名になっていた廃ホテルで発生した。ラブホじゃねぇぞ。んで、境界災害の事もあって取り壊しが決まってはいたんだが……今の今まで長引いてな。そんでいざ取り壊しが始まって……あの始末だ」
そう言って親指を指す先には、おどろおどろしい雰囲気を纏った廃ホテル。現世とは明確に分かたれた雰囲気は、紛れもなく境界異常が起きている証拠だ。
「外から索敵した感じじゃあ、一号級から二号級の界異が複数、一部の場所に密集している事が予想される……付近は封鎖した。人払いは済ませたし結界も張り終えた。逃げ遅れた奴もいねぇ。後はお前達の出番だ」
「「「「了解ッ!」」」」
「それと新人」
「ッ…なんでしょうか?」
「頼むから死なんでくれよ。ただでさえ数が少ない上に、お前達の死体は処理が面倒なんでな」
「………善処します」
――…集中しろ、樫輪涼介。この仕事の殉職率の高さはわかってる。それを承知で訓練に励んで来たんだ。僕に出来るのは、全力で生き足掻く事…!
制服である狩衣を軽く整え、タクティカル祓魔師達の生命線である形代紙の数と、腰に下げた黒い刀『
「はァはァン、成る程なァ。突然このラブホテルに境界異常が現れた理由はコレだァ!」
「……なんですコレ?」
ホテルのロビーについた途端に駆け出した毘辿が、受付の隅にに寂しく設置してある砕けた何かの前で叫ぶ。
「元々、ソコに仏像が立ってたみたいよ。来る人を暖かく迎え入れ、去る人を優しく見送るっていたのだとか」
「ラブホテルにしては豪盛だなァ!」
「ラブホじゃないっつの!」
――授業で聞いたな。仏像や御神木には、信仰の影響で何かしらの加護を得ている時がある。その加護によって、現世と幽世の境界を安定させているって。
「大方、何も知らずに撤去させようとしたのだろうな!コレだからただの土木作業員は!」
「それ以上言ったら沈めるわよ」
――そういや、こういう所の作業をする際に念の為とかで祓魔師を呼んで境界を維持してもらうのはお金がかかるって、友達が愚痴ってたな。
何かの装置をカチカチとイジる日聖と、慌てて口を抑える毘辿。それらを無視して、ジッと仏像が立っていた場所を見つめていた雁染硝が、徐ろに狩衣のポーチから何かを取り出し、そこに置いた。
「……ヨシ」
「えっと…何故フィギュアなんです?というか誰?」
「
「ナニィ?!カガりんのフィギュアだとォ!!!何処で手に入れた浄蔭ェ!!!本人の特徴を捉えつつアニメ調に落とし込めてて良いなコレェ!!!!!」
「自作ダ」
――勝手にそんな事していいのだろうか…?
「お遊びはそこまでよ男ども。界異の位置を特定したわ。場所は4階…でも一応、全ての階を調べていくわ。新人君、ここからが本番よ」
「ッはい!」
「おい日聖ィ!エレベーター動かないんだけどォ!」
「当たり前でしょうがこのバカ!階段で行くわよ!」
――本当に大丈夫なんだろうか……
小さな音を立てながら、5階と表記された4階の非常階段の扉が僅かに開かれる。そこから銃口がゆっくり飛び出し、続いて日聖が扉から見える方向を覗く。
そして合図の後、扉を勢い良く開け、それぞれが武器を構え臨戦態勢で即座に飛び出し、全方位を警戒する。
「いない…ですね」
「シッ……このまま前進」
エレベーター周辺から離れ、日聖が右を、毘辿が左を確認してから、廊下へ出る。
「………界異がいない?」
「いいえ、いるわ。すぐ近く」
「えっ?!」
「浄蔭!どっち?!」
「新人ノ上ダ」
その瞬間、天井から何かがすり抜け、樫輪の頭めがけて落下する。その落下物が汚い口を開いていたのを辛うじて認識した樫輪は、間一髪で黒不浄を抜き、その落下物を受け止める。
『迯イ迚ゥ縺医b縺ョ繧ィ繝「繧ョ繝」?!』
「うわっ?!」
「左右警戒!来るわよ!」
「ドラァ!」
その落下物……異様に大きい掌が歪に一つになった異形へむ向けて、直ぐ様日聖が祭具『カラビナORZ90』を発砲。
その異形は樫輪の黒不浄から剥がれ落ちると、毘辿の黒不浄で真っ二つに叩き割られた。
そして同時に、今までの静寂が嘘だったかの様に、壁や床、天井から様々な異形が這い出て来た。
「てけてけニ
「先ずは私と新人君、毘辿と雁染硝に別れt「ヨッシャア!!!片方は我に任せておけェ!!!」
「ちょっ、毘辿さん?!」
――ちょっ、あの人勝手に突っ込んで行ったんだけど?!いや強っ?!
「あぁもうッ!!!新人が来た時くらい連携しろボケナスッ!!!!!」
「大丈夫ッ!!我は《強い!!!》《一号級界異なぞに負けはしない!!!》そしてェ!《絶対に帰って来るぜェェ!!!!!》」
「――〜ッッッ!!!2人とも!正面迎撃ッ!雁染硝は新人君のサポート!私は貴方達を支援するわ!」
「は、はいッ!」
「マッタク、最近前衛シカシテナイ気ガスルナ」
樫輪が黒不浄を腰に構え、雁染硝が赤錆びた刀に黒い何かを纏わせ抜き放つ。日聖は片膝をついて精密射撃の態勢に移り、カラビナORZ90の射撃をバースト射撃に切り替え、素早くマガジンをリロードする。
「新人、日聖ノ射線ハ気ニスルナ。オ前ノ動キヲ全力デシロ」
「わかりました!では……遠慮なくッ!」
――加護を体に行き渡らせて…スイッチを入れる感じで!
「タクティカル新陰流、抜刀!」
瞬間、雁染硝の前から樫輪の姿が無くなり、前方の一番前にいた界異が真っ二つになった。その横には、黒不浄を抜き放った態勢の樫輪が立っている。
――ヨシ!上手く出来た!これならッ!
「へぇ…」
「コレハ中々」
更に高速で刀を振り上げ、火の玉の界異『鬼火』を逆袈裟に斬り裂き、返す刀で掌の歪な塊『てけてけ』をたたっ斬る。
そして、動き回る樫輪を避けるように祓串が飛来し、的確に彼の死角にいる界異の足止めを行う日聖。
そうやって樫輪が高速で界異達を斬り続けても尚、奥の方からわんさか界異が溢れ続けている。ソレに気づいた雁染硝が地面に刀を這わせ、素早く4回ほど刀を振るう。すると、ソレによって傷ついた場所から黒い何か……即ち、刀に纏わせた雁染硝の影が細く広がり、壁や床、天井を素早く伝って、這い出て来ようとする界異達を斬り裂いた。
――凄い…コレが雁染硝さんの術式。
『鬆ゅ″縺セ繝シ縺呻シ?シ?シ』
「ッ?!ヤバっ――」
樫輪の未熟な隙をついた界異が一匹、彼の足に噛みつこうとして……3本の祓串が突き刺さる。
「ボサッとしない!」
「す、すみません!」
――本当にそうだよボサッとするな!集中しろ集中!
また黒不浄を腰に構え居合の態勢になり、体全体に行き渡らせていた加護を腕に集中させる。そして一気に抜き放ち、前方の界異達を瞬く間に斬り裂く。
最後に日聖が祓串で界異を怯ませ、雁染硝の影の斬撃で一掃することによって、一旦界異の攻勢は静まった。
樫輪は残心を解き、黒不浄をベルトに差し込む……と同時に、腕に来る痛みに顔を顰めた。
――痛てっ…やっぱり、一点集中の高速化にまだ慣れないか……
「……一応終ワリハシタ、ト言ッタ所カ」
「そうみたいね…所で新人君」
「ッ…すみません。少し足引っ張りました」
「まだ何も言ってません…けどまぁ、自覚できてるのなら良いわ。ソレに、この程度のミスは別にどうって事無いから。そうビクビクしないで」
「毘辿ニ比ベレバナ」
「あっ、思い出してイライラしてきた」
「あのっ、助けに行ったりとかは……?」
「しない。いい新人君!生き残りたければあのバカアホ間抜けの真似は絶対にしない事!アレが今まで生き残ってるのはアイツの術式が特別なおかげなだけ!それと、祓串でちゃんと道しるべを作る事!境界の中はよく形が変わるから!」
「わ、わかりました…」
「ならよし!じゃあ行くわよ」
――この人、いっつも苦労してるんだろうなぁ……
なんて思いながら、床に祓串を打ち終わった雁染硝と共に、ズカズカと進む日聖の後を追いかけた。
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