タクティカル祓魔師の作戦記録   作:ゲルゲルググ

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夜勤前に初投稿です。


第八班作戦記録

「ぶぇっくしょい!!!」

 

 ここは境界対策課の食堂。20℃くらいの室温が保たれているというのに、気持ち良いくしゃみをする男が一人いた。

 

「……怠い、寒い」

 

 その男は、室内でありながらゴワゴワのコートを着込んでいる。そんでもって、席に座っている彼の目の前にあるのは、コレまた赤いオーラが見える程の存在感を放つ麻婆豆腐。

 見るだけでも舌が辛くなるその麻婆豆腐を余裕そうに食べながら、この男は寒いと独り言を発していた。

 

「ふぅ…落ち着く」

 

 食器を返却口へ持っていき、スマホを見ながら食堂を出る。画面に映る今日のシフトを見て……

 

「……怠い」

 

 と、呟いた。

 

 境界対策課祓魔隊第八班に所属する、怠いが口癖なだけの普通に良い人、凍洞雪氷(トウドウ ユキヒ)のとある一日の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、境界対策課のお仕事である境界異常の浄化作業。今回は、とある県境にある山を貫くトンネルに発生したモノ。こう言う都会から離れた道路などには、簡易的な結界が構築されているのだが……どうやら、その要石が経年劣化で弱まり、発生したようだ。

 

「………怠」

「ヒェッ」

 

 通信機越しに任務の概要を聴いてる時、説明の後ろで結界管理課の聖沢庄司という女性の怒鳴り声が響いていた事を思い出しながら、冷えた溜息を吐く。みんなは流石に古いと思ったら、メンテナンスしまくらずに素直に取り替えようね。

 

 そんな訳で辿り着いたのが、くだんの境界異常。トンネルを囲むように張られた注連鋼縄(ワイヤー)をくぐれば、目の前にはおどろおどろしい雰囲気のトンネルが、口を開いていた。

 1〜3号級の界異が存在すると言われていた通り、漏れ出ている穢れも相応に多い。

 

「ウザ」

「ヒィンッ」

 

 ……所で、さっきから情けない悲鳴をあげている奴を説明しよう。

 彼女は間崎文目(カンザキ アヤメ)。第八班の成人済みチビ女性の片割れであり、見ての通りアワアワした雰囲気の女。さっきからビビっているのは、怠い、ウザい等のネガティブワードを放つ凍洞くんが怖いからである。

 

「なに?」

「ひぇい?!なな、何でもな〜いデス…」

「帰る?」

「だだだ大丈夫デスぅッ!」

「そう………怠い」

「ヒィン………」

 

 白い息を吐きながらトンネルに入る凍洞くん、それにビビりながら続く間崎ちゃん。見るからに人選ミスな編成であった。

 

(大丈夫かアイツら)

 

 金髪ロン毛グラサン神祇官が、煙草を吸いながら心配するのも仕方の無い人選ミスである。

 

 

 

 

 

 

 境界異常の浄化には複数の工程がある。先ずは、神祇官と結界管理課で、発生した境界異常が広がらないよう結界で囲い、次に対策課のタクティカル祓魔師が境界異常に入り、中に発生した界異の祓滅や人命救助、殲滅後に境界異常内の死体や穢れの物質を回収し、最後に歪んだ現世の境界を調律して浄化が完了する。

 

 それで、今回の界異の祓滅だが、いるわいるわウヨウヨと。黒百足などの比較的よく見られる界異から、腹部が目玉で覆われた蜘蛛、野糞の塊の様なスライム、人面の蟹など、多様な界異が手厚く2人を出迎える。

 

 そして、見えない壁に阻まれた。

 

「それ以上っ…こっち来るんじゃねぇデス!」

 

 その壁の正体は、祭具である杖を構え、重力を操る術式を発動させた間崎文目。

 

『『『『蟾ォ螻ア謌ッ繧薙↑繧。繧。繧。!』』』』

「……怠い、ウザい、汚い」

 

 目の前に大挙し、口々に意味不明な鳴き声を放つ界異達。その光景を心底不愉快そうに睨みながら、凍洞くんはゴワゴワのコートのジッパーを全開にし、小さく息を吸って…………

 

「フッ………!」

 

 小さく吐く、ただそれだけ。ただそれだけで、目の前の界異達はすべて凍り、その後ろに広がる空間までも暫く先まで凍結する。

 

 後は重力の壁を倒し、凍った界異を押し潰して第一波を瞬く間に祓滅した。

 

「……まだ、奥にいるデス」

「怠いな。行くぞ」

「あいぃ…」

 

 

 

 

 

 凍り軋む音が響く。

 目の前の界異を凍らせ、ソレを飛び越えて来た界異を前に、凍りついた地面を祭具を装備した足で勢いよく踏めば、一瞬にして周囲の氷が足元へ集まり、巨大な氷の刃となって地面から界異を突き祓う。

 

 天井から染み出るように出現し、奇襲をかけようとした界異には、何処からか飛んできた複数の氷に貫かれる。その氷塊の正体は、間崎ちゃんがそこら辺の手頃な大きさの氷を術式で打ち出したモノだ。

 奇襲の対応を間崎ちゃんに任せ、口から長めに息を吐き、界異ごと前方を凍りつかせ、その氷を手に装備した祭具で集め、剣を生成。

 足の祭具で足裏にスケートの刃を作り、凍った地面を滑りながら剣とスケートの刃でアクロバティックに斬り裂き続ける。

 

「あぁ、怠い!」

 

 ゴワゴワで動きづらい筈のコートを着たまま、襲いくる界異を斬りつくし、悪態をつく。

 

「お、多いデスねぇ」

「いつもの事だ。怠い」

「デ、デスよねぇ…うへへ」

「………なに?帰る?」

「かかっ帰りませんってぇ!」

「そう。まぁどのみちもう少しだろ。行くぞ」

「ヒィン……」

 

 ………コレ、一応間崎ちゃんの事を心配してると言ったら、どれだけの人間が納得するだろうか。

 

 まぁそんなこんなで、この境界異常の奥についたのだろうか、一際広い空間へ出る。

 その奥には、とぐろを巻いた巨大な蛇の様な界異が一匹。コチラへ気付いたのか、堅く尖った頭部を持ち上げ、頭が痛くなる音を出し威嚇する。

 

「ヒッ、穿蛟(ウガチミズチ)デス…」

「…まだ3号級だな」

「正直帰りたくなってきたデス!」

「…………流石に怠い」

「ややっややっぱ頑張るデス!」

「ならサポート。ミスったら死ぬから」

「はいデスぅ!」

 

 ここに来て、初めてコートを脱ぎ捨てる。その瞬間、彼の全身から冷気が溢れ出し、周囲の地面が凍りついた。

 

「フッ………!」

 

 最初にやった様に、溜め込んでいた冷気を一気に吹きかける瞬間凍結。瞬く間に氷漬けになるが………ヒビが割れる。

 

「怠っ、穢装厚過ぎ」

 

 氷を破りながら急接近する穿蛟の下顎を、地面から生やした氷塊の刃で打ち上げて足止めし、手足にそれぞれ氷で刃を生成しながら、さっきよりも動きやすくなった体で跳躍。穿蛟の穢装を凍らせながら、凍った穢装ごと穿蛟の体を頭から尻尾まで滑りながら斬り裂いていく。

 

 穿蛟もただでやられまいと、体をくねらせながら顔を凍洞くんの方へ向け……その横顔に氷の飛礫が突き刺さる。

 そして間髪入れずに割とデカい氷塊で殴られたもんだから、穿蛟はもうカンカン。デカい咆哮を上げながら、下手人である間崎ちゃんに襲いかかった。

 

「ぎょえあぁぁぁぁあ?!?!?」

「フゥーッ!!!」

 

 ソレを後ろから冷気で瞬間凍結させる凍洞くん。いつの間にかコートの下に着ていた上着を1枚脱ぎ捨てている。

 

「間崎!」

「うぇぇおあハイデェス?!」

 

 凍った地面から適当な大きさの氷の刃を形成し、ブーメランの要領で間崎ちゃんへぶん投げた。

 間崎ちゃんは自分目掛けて飛んでくる氷の刃に顔を青くさせながら、杖状の祭具を向け術式を発動。氷の刃のかいてんをそのままに、杖の先でキャッチする。

 

 ソレと同時に、氷漬けだった穿蛟が氷を破り、口を開けて襲いくる。

 

「ビャアァァァァァ!!!!!」

 

 情けない悲鳴を上げながら、咄嗟に杖を向け術式を発動する間崎ちゃん。重力の壁で穿蛟をせき止める。そして幸運な事に、その大きく開いた口に回転していた氷の刃がすっぽり入り、穿蛟の口内を斬り刻み始めた。

 

『逞帙>逞帙>逞帙>逞帙>逞帙>?滂シ?シ滂シ?シ滂シ』

「やれば出来るじゃん」

 

 凍洞も氷ごと穿蛟の尻尾をたたっ斬ると、その断面に氷の刃を突き刺し、もう一枚の上着のジッパーを全開にする。

 

「今度こそ凍れッ!」

 

 そして、突き刺した氷の刃を伝って勢いよく放たれた冷気の奔流が、周囲の水分を巻き込んで穿蛟の体を完全に凍結させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぇっくしょい!ぶぇっくしょい!!!ぶぇっくしょぉい!!!!!」

「それで、この状況ってわけですか?」

「はいデスぅ……」

 

 先程の任務が終わり、無事に帰宅した2人。その後、境界対策課祓魔隊第八班の共同部屋はサウナと化していた。

 そしてその部屋の真ん中には、無限にくしゃみをする布団の芋虫と化した凍洞雪氷の姿が。

 

 間崎ちゃんの知らせを受けて来た同じ班員である市倉八尋(イチクラ ヤヒロ)田中陽斗(タナカ ヨウト)は、汗ビッショリの間崎ちゃんを見て、いつも通り呆れた顔を浮かべる。

 

「取り敢えず、エアコンとかきる様に言いましょう」

「あー、多分近づかねー方がいいですよ」

「え?」

 

 芋虫に近づいた陽斗くんに忠告するが、時既に遅し。

 

「ズビ…ゆたんぽ」

「どわぁ?!」

 

 哀れ、ゆたんぽと認識された陽斗くんは一瞬にして布団の中に引きずり込まれ……暫くしてから、全身が冷えた状態で吐き出された。

 

 まぁそんなこんなで、世界は今日も平和である。

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