飛行機ハイジャック事件を難なく解決したギデオンくんがそのまま滞在する事になった日本での一幕。
ストリート祓魔師ファイト。Street Exorcist Fight…通称SEFと呼ばれる割とグレーゾーンな祓魔師達の闘技場。ダークウェブから入手出来る殺伐マッチングアプリである。
「コレが
豪華なホテルのベッドに座って、スマホを見ながらそう呟く金髪碧眼の男。名をギデオンズ・グレイマン。宇宙から帰ってきた男である。
彼の視界にあるのは、そのストリート祓魔師のサイトが映っていた。下にスワイプすれば「ここをタップすればアプリをダウンロードするよ〜」といった感じのモノもある。
「へー賞金も出るのか。なになになに、支給される3枚の
などと言いながら、一通り読み終わり……
「よゥし、じゃあ早速調査に乗り込むかァ!の前にマルクトに連絡しとこ。報連相大事大事大事っと」
タプタプと別のスマホでメールを送ってから、ダウンロードしたアプリを開き、早速マッチングを行う。電子音にも似た術式詠唱の残響が何かのシークエンスを淡々と行っていき、暫くの後には、ギデオンくんの姿がホテルから消えていた。
因みにメールを受け取ったマルクトちゃんと言う名の白い体に黒い軍服を着た人型ロボは、メールの内容を見て無表情でスマホを握り潰した。周りの人曰く、怒気とか殺気とかが出てたとか何とか。
そしてギデオンくんは呆気なく敗北した。
「オイ待てェ!カットし過ぎだろうが!」
少し時を戻して初のストリート祓魔師ファイト。ソロファイトモードでマッチングしたのは、
問題だったのは、その女性が人間でありながら界異としての性質を併せ持った「半界異」と呼ばれる存在……即ち、ギデオンくんの性癖ドストライクだった事。
「初戦が麗しきレディとはツイている。そんじゃ早速、シャル・ウィ・ダンス?」
「………良いでしょう。
そしてもう一つの問題は、ダメージ判定を把握していなかった事。
まぁ油断はしてなかった筈である。それはそれとして、亜音速で急接近されアッパーカットで上空に吹き飛び、竜の翼でこれまた亜音速で飛翔した赫竜エクリプスが尻尾で叩き落とし、最後に自由落下よりも速い速度で急降下しながら、ギデオンくんを掴んで頭から地面に叩きつけ、上半身を地面に埋没させた。
本来なら、何食わぬ顔で飛び出してカウンターを食らわせる所であったが、これは割と公平に調整されている儀式戦闘。アッパーカット、叩き落とし、地面へ埋没、これらが死亡判定になり形代が消費され、初戦敗退という結果となった。なんて素晴らしいの。
「素晴らしくねェよ!ヌアーッ!!!悔しいったらありゃしねェェェェェェァァァァァァ!!!!!」
ベッドの上をゴロゴロバインバインする事暫く。落ち着いた彼は、改めて敗因を分析する。
――つまりはアレだ。今まで通りに身体で受ける事は出来ないってェ事だァね………
肌に触れる0.000001秒で相手の攻撃力を解析し、その攻撃力以上の防御力になる皮膚をお持ちな彼にとって、この仕様は
「最高かよッッッ!!!」
………まぁ、こんな身体になってからアクション系のゲームに夢中な男である。何故かって、対等な駆け引きを楽しめるからね。
そしてこのストリート祓魔師も、ギデオンくんの好きなゲームと同じ、ゴリ押しの効かない楽しい駆け引きができると確信した。
「流石に、勝ち越されたままじゃあ納得いかねェよなァ」
コイツ調査の名目なのもう忘れてない?
「今度はブッ飛ばしてやるからなァ覚悟しとけよ赫竜エクリプス!」
かくして、宇宙から帰ってきた男のストリート祓魔師生活が始まったのであった。
《ゲームモード:ソロファイト。対戦相手:
「シューッハッハッハァァァァァァ!!!出てこい
『繧キ繝・繝??繧ゥ繧ゥ繧ゥ繧ゥ繧ゥ繧ゥ!!!』
戦闘フィールドに指定された結界内を線路無しに駆ける、3両編成の路面電車に乗った男が叫ぶ。が、次の瞬間、遠くから撃ち込まれた小さな閃きが命中したかと思うと、次の瞬間にはソニックブームが起き、周囲の物と共に廻葬電車が一瞬にして粉々に吹き飛んだ。
「シュポアァァァァァァッッッッ?!!?!?!俺の廻葬電車がァァァァァァ?!!?」
形代を1枚消費しながら空に放り投げられる轟速エクスプレス。彼はそれでも、自分は狙撃されたと分析して辺りを見回し……
地形を抉りながら飛んでくる加護の矢によって胴体に風穴を空けられ、
「そこかチクショ―」
最後に頭を撃ち抜かれた。
「悪いなジャポンの祓魔師。少し恋焦がれた奴を追いかけてるんでな、卑怯な戦法は許してくれ」
今回、打倒赫竜エクリプスちゃんの為に彼が用意してきた祭具は『RF00サンダラー』と呼ばれる、アメリカで警察、義体祓魔師ともに幅広く愛用されている、可変機構を持った弓型祭具。市販のアマテラス加護電池をセットするだけで、誰でも祓魔師になれる優れものだ。日本で使っても問題ないのがこれしかなかったのである。
「さァて、次だ次!」
《ゲームモード:ソロファイト。対戦相手:
「トリガーハッピィィィィィ!!!アベシッッッッ?!」
開けた採石場での一騎打ち。ガトリング型の祭具が機動する前に通常射撃モードで祭具と両足を破壊。頭部に等間隔で3回撃ち込んだ。対戦時間、12秒。
《ゲームモード:ソロファイト。対戦相手:
「近づけばどうってことはねぇっ!」
「あるんだなコレが」
突っ込んで来た所をスライディングで潜り込み、加護の性質を集束に切り替えた3本の加護矢を束ね、回転させながら撃ち出す事で貫通力が高まった槍とも呼べる加護が、術式で鋼鉄になっていた上半身の半分を抉り飛ばす。自信満々だったのか、動揺した所に2射3射と撃ち込み勝利。対戦時間、26秒。
《ゲームモード:ソロファイト。対戦相手:
「いやぁぁぁぁムリムリムリムリムリィィィィィ!!!」
場所は取り壊し予定の廃ビル。その名の通り透明になって暗殺する予定だった彼女だが、ギデオンくんは加護矢の性質を反射に切り替え、5本の矢をフルオートアサルトライフルの如く手動連射。
壁や天井で乱反射する加護矢は一瞬にして廃ビルの中を覆い、角に追い詰められた透明エレジーちゃんを蜂の巣にしたのだった。対戦時間、41秒。
《ゲームモード:ソロファイト。対戦相手:
対戦時間、36秒
《ゲームモード:ソロファイト。対戦時間:
対戦時間、32秒
《対戦相手:
対戦時間、54秒
《対戦相手:
対戦時間、23秒
《対戦相手:
対戦時間、49秒
「ん、今度はなんだい」
次々と一分以内に試合を終わらせ、アプリに仕込まれたワープ術式でホテルの一室に戻って来たギデオンくん。次のマッチングをしようとスマホを見ると、何やら実績解放の様な画面が出ているのに気付く。
――なになになに、アプリを入れてから通算10回試合をするを達成したから、複数人のマッチングによるマルチファイトを解放…更にここまで勝ち越してきたから一気に中位レートまで格上げ…さらなる強敵とのストリート祓魔師ファイトをお楽しみください……
「サービス精神凄いじゃんね。お前がグレーゾーンに身体を沈めてるのが残念でならないよ」
とか言いながら、この男凄く笑顔である。新作のモンハンを発売日で買ったガキみたいな笑顔である。
――まぁ今日はこれくらいにしておくか。視覚情報はマルクトとちがやんに送っておいて……温泉行こっかなァ。
ストリート祓魔師ファイト2日目
「ヒャッホォォォォォォォォォイ!!!!!」
チュドドーンッッッ!!!(いい感じの矢が城を倒壊させる効果音)
マルチファイトが解放されてから最初の一戦。マルチファイトには複数のゲームモードがあり、今回は攻城戦。攻めと守りに別れ、守りは制限時間まで城を守りきるか、攻めを全滅させる…攻めは守りを全滅させるか、城を破壊すれば勝利。因みにこの城は構築系の術式で違法建築されたものらしい。
で、ギデオンくんは今回攻め側だった。そんでもってこの城は表面に結界がガチガチに張ってあり、正攻法は城の内部最奥にある爆破術式を機動させる、のだったが……
「あ、アナタ今、何をしましたの…???」
「火力デカすぎ〜」
「ん?あァ、城の気になる所を単純に矢でブチ抜いてみたら、まァまァまァ上手くいったと言うか……あァいや、ごめんねマジで。次からやらないでおく」
「え、ええ」
「いやマジでスマン。あとで私の賞金振り込んどくからフレコ良いかな?」
「え、あ、ありがとう御座いまし…?」
「太っ腹〜」
よくある、最初は面白かったけど、改めて見ると自分も相手も仲間も全然面白くなかったムーブである。割と萎えたギデオンくんは、今回仲間だった『
「あれが噂の異邦天人グレイガーディアンか」
「強い上に良識もあるとか無敵過ぎ〜」
《ゲームモード:マルチファイト・エネミースコアアタック》
即ち、NPCとして配置された仮想界異を倒しまくり、時間までに貯まったスコアが多いチームの勝ち。
「ヒャッホォォォォォォォォイ!!!!!」
本日2回目。ソニックブームを纏った加護矢が道端の一号級界異どもを巻き込み、その先に立っていた邪眼鬼と呼ばれる4号級界異の上半身を吹き飛ばす。
そして当の本人は、住宅街の屋根を走りながら道を埋め尽くす界異を片っ端から祓滅していく。
「やっぱ
どうやら気に入ったようだ。まぁコイツにとっては一番しっくりくるだろう。一番好きなゲームジャンルはアクションゲーム、無双モノである。
「………もうアイツ一人でいいんじゃないかな」
今回のパートナーである『
ただ、今回は彼の無双についてくる者が一人。
「ん…おやおや、おやっ!」
何処からともなく飛来した2枚の十字手裏剣が、界異を両断しながら、それぞれ別方向からイヤらしい位置とタイミングでギデオンくんに迫る。
彼は足を狙って飛んできた手裏剣を回避し、その読みで飛来していたもう一枚の十字手裏剣を、あり得ない身体の回し方をして回避し、避けられる事が前提の軌道で折り返してきた十字手裏剣を加護矢で撃ち落とした。
「へーすごい!流石、噂のグレイガーディアンね」
ハイヒールの音を奏でながら、界異がひしめいてる筈のフィールドを優雅に歩く赤いドレスを纏った女性。その周囲には、先ほどの十字手裏剣が2枚、独立して回転し近づく界異を両断している。
「なんだい、君も私に興味があるプレイヤーかな?」
今のギデオンくんは、余りに暴れ散らかしたせいで、短期間でのランキング中位入りした謎のストリート祓魔師として噂され、どんなゲームモードに限らず、しばしば優先的に狙われていた。
「
「良いよ、一曲踊ろうか!」
日本語の難しさ出てるよ。
瞬間、砕いた筈の十字手裏剣の刃一つ一つが動き出し、ギデオンくんの首筋に突き立つ。傷はついてないが、死亡判定により形代が一枚削られる。彼は4つの刃と一枚の十字手裏剣の追撃を連続バク転で回避し、散弾に設定した加護矢を放って弾き飛ばした。
そして瞬時にモードを追尾に切り替え、残り少なかった加護バッテリーを使い切るまで手動で剛射速射連射掃射乱射ァ!!!
刃を射落とし、十字手裏剣を弾き返し、周囲の仮想界異を祓滅しながら彩悦クイーンブレイドへの加護弾幕。
対してクイーンブレイドは、周囲に侍らせていた2枚の十字手裏剣を動かし、舞うような動きで次々と加護矢を弾き返し、避けていく。
「……いやぁ、本当に、俺が入る隙が無いな…」
「ウム、くいーんぶれいど殿の要求を無視しようにも、ソレガシも助太刀に入る隙なく、故に敵であるお主と会話団欒を選択した」
「…やっぱオタクも振り回されてるよね」
「然り」
烏賊腕クラーマンの後ろに立っていたのは、クイーンブレイドのマッチ相手であった金剛力士像の様な装甲に身を包んだ男…?ユーザー名を『
その鯱鉾の形をした頭部から覗く4つの瞳がクラーマンの瞳と相対し……そのまま彼の横へと重い腰を降ろす。
「オタクはどっちが勝つと思う?」
「そうであるな……ソレガシは、此度まっちんぐした彼女が勝つと信じたい所である」
「信じたいねぇ…あんま勝てるとは思ってないんだ」
「ウム」
加護電池を装填し、モードを散弾に切り替え、また手動でマシンガンの如く速射する。クイーンブレイドはそれを2枚の十字手裏剣で防ぎつつ、先ほど撃ち落とされた刃8枚を、また2枚の十字手裏剣へ合体させ、ギデオンくんを翻弄する。
「どうしたのかしら?さっきから粒玉を辺りにばら撒くだけ。打つ手無し?それとも、打つ手を模索しているのかしら?」
――その通りっと。
脳内で肯定しながら、素早くモードを散弾から砲撃に切り替え、轟速エクスプレスへ放った様な巨大な加護矢を放つ。その速度はあの時の様な空気を突き破る程では無いにしろ、威力そのモノは殆ど変わらない。
「ふふっ」
が、4枚の十字手裏剣がすぐさまクイーンブレイドの元へ集い、一つの手裏剣の刃と刃の間に、3枚の手裏剣から分離した刃がはめ込まれ、計16枚の刃で構成された盾が出来上がる。
そしてその盾は砲弾の如き巨大な加護矢と衝突し……見事防ぎきった。
――3回とも防がれた上に、まだまだ壊れる気配が無い。その耐久性、独自性…流石ジャポンの
感心を浮かべながら、2枚の十字手裏剣をそれぞれ撃ち落とし、蹴り飛ばす。加護電池を交換し、散弾モードで牽制に入る。
――本当に目がいいなあの女。少しでも狙いを定めりゃァ、遊びを止めて完全に守りに入る。砲撃は仕様上今みたいに乱射出来ねぇし、私の能力は今の思考速度と神経伝達速度じゃ遅すぎる上に只今絶賛乱されてる。今のやり方じゃァあの防御は破れない。
――だからまぁ、なんだ、別にブッ壊す必要は無いよなァ!
「ッ!」
クイーンブレイドの目に、散弾が止む瞬間が写る。己の十字手裏剣による妨害ではなく、自発的に止めたのだとわかっていた彼女は、今まで通り、己の周りで遊ばせていた2枚の十字手裏剣を引き寄せ、残り2枚の十字手裏剣をギデオンくんを攻撃しつつ、直ぐに手元に戻ってくる軌道で操作する。
だが、クイーンブレイドの予想に反して、やってくる筈の巨大な加護矢は来ず。ただ僅かに、ほんの僅かに、矢が発射される場所が煌めいたのみであった。
そして、クイーンブレイドが放った十字手裏剣はギデオンくんの腹を斬りつける。傷はつかず、なんならあまりの硬さに十字手裏剣が4枚の刃にパージされるが…それでも判定は別。胴体を泣き別れにした扱いによって形代紙が消費される。
(残り1枚…やっぱり打つ手が無かった?……いいえ、彼はコレまで数多のランキング中位のプレイヤー達を葬って来た。もしかしたら、攻撃では無く合図?…いえ、向こうのマッチング相手はアタシのマッチング相手と相対してる。なら、あの光はい――っ―ァ゙ッ――!??)
不意に、思考が纏まらなくなる。胸に激痛が走り、頭が急激に冷え、視界が明滅する。
(な――ぁ―???)
平衡感覚が無くなり、ぐらりと前へ倒れる。その瞬間見えたのは、美しい赤彩のドレスを染める命の紅と、その紅が胸から勢いよく吹き出る所であった。
中心部が黒くなった形代紙が、プレイヤー共通の専用ストレージから排出される。
「――ハッ?!なにが……っ!しまっ―」
倒れるギリギリの所で踏ん張り、戻った思考で今起きた事を整理しようとして、ここが戦場である事を思い出す。
だが、急いで上げた顔は既に遅く、モードをブレードにしたRF00サンダラーを振り被ったギデオンくんが、すぐ目の前でソレを振り降ろす所であった。
「ドラァッ!!!」
袈裟斬りにて一刀両断。肩から身体が半分になり、形代紙がもう1枚失われる。
この一瞬で、形代紙残数の優位性が失われた。
(嘘でしょ?!こんな、一瞬でっ……!)
「まだまだまだ行くぜ行くぜ行くぜェェ!!!」
「ッッッ――!」
先ほどのチマチマとした遠距離戦とは打って変わって近接戦。ギデオンくんは回復したばかりのクイーンブレイドへ向かってモードをナックルにしたRF00サンダラーを突き出す。
持ち手部分から上下、
「くぅッッ!!」
間一髪でソレを防いだ。
彼女の手には、4枚の刃が縦に連結した蛇腹剣があり、その上下の刃の内側…装飾に見せかけた持ち手を握って、文字通り命綱の盾としたのだ。
「離れなっ…さいッ!」
後ろから近づく音に気づき、拳を引いて飛び上がる。先ほどまでいた場所を、後ろから迫っていた2枚の十字手裏剣が通過していく。
ギデオンくんは笑いながら即座にモードを弓に変え、彼女の頭上から通常の加護矢を複数放つ。そして反対側へと着地と同時に振り返り、弓幹から硬質化加護ブレードを生やしたブレードモードに切り替え即座に斬りかかる。
クイーンブレイドは、頭上から来る加護矢を2枚の十字手裏剣で即座に防ぎ、ついでにフリーになっていたもう1枚の十字手裏剣を分解、縦に繋ぎ直してもう一振りの蛇腹剣にし、迫るギデオンくんの刃を躱しカウンターを試みた。
それに対して片方はRF00サンダラーで弾き、もう片方は直接掴んで、腕に絡ませるギデオンくん。コレまでの戦いによって、彼は攻撃を受けて良い場所と受けてはならない場所を把握しきっている。その一つが、肘から下の腕部分であった。
カウンターを防がれたクイーンブレイドは即座に腕に絡まった刃を分離し、後ろへ退きながら、全力で持ち手の刃を一つ投擲。ソレを見たギデオンくんも、高速回転して腕を斬り刻み始めた刃をぶん投げ相殺した。その刃を目眩ましにサンダラーを持ち手部分から2つへ分離させ吶喊する。
(なんて、なんて男なの。噂には聞いていた、実際に強かった。でも、それよりも、そんな事よりも…)
完全に壊れた4枚の刃。彼女は舌打ちしながら、奇襲や縦に使う予定だった十字手裏剣の1枚を蛇腹剣に変え、迎え撃つ。
(なんて、楽しそうな顔をするのかしら。そんな顔されたら、アタシもつい笑顔になってしまうわ。何が何でも、アナタに負けられなくなってしまうわ!)
2つの刃と蛇腹剣が金属の音色を奏で、火花と加護が混ざったスポットライトが2人の獰猛な笑みを照らす。
互いにジャンルは異なるが、まるでデュエットでも行なっているかの様な剣戟。その均衡が破られたのは、後ろから迫るクイーンブレイドの十字手裏剣だ。双剣を振り回すギデオンのモーションを優れた瞳で観察していた彼女が確信した、両方の刃による横薙ぎ。確かに後ろに対応出来ない状態への奇襲。
だが――
「待ってたぜェ!この時をよォ!」
「ッ!!」
あろうことか、下半身が別の生き物のように独立可動し、人間では出来ない態勢でもって、片足の膝から下で受け止めた。そして、横薙ぎを驚きながらも防いだクイーンブレイドへ、回し蹴りの如く脚で受け止めた十字手裏剣を叩き込む。
「――ガハッ…!」
蛇腹剣がバラバラに分離させられ、無防備となった腹へナックルモードをめり込ませる。加護ブレードが肉を貫き、銃口の部分から射出された小型の結界が、彼女を勢いよく吹き飛ばす。
建物の壁にめり込むクイーンブレイド。そこへ弓モードへ変形させ適当に加護矢を撃つ。矢は両手両足に刺さり、身体を縫い付け、デュアルブレードへ変形させ投擲されたRF00サンダラーがまたもや彼女の身体を貫いた。
「トドメだオルルルァァァ!!!!!」
今の出力で出せる筋力で弾丸の様に跳躍し、対人用スパイクを起動させた靴裏を顔面へ向ける。
(……次は、取ってみせる…わ)
出血による朦朧とした意識の中で、迫る死を見るクイーンブレイド。血化粧に塗れた美顔を綻ばせ、彼女の上半身は建物の一部ごと吹き飛んだ。
「やられちまったなぁ〜。いい線行ってた気がすんだが」
「あの一手…くいーんぶれいど殿の鉄壁に糸を通すが如き矢によって、流れを掴まれたが敗因か」
「アレ、何で胸からドバッと血が出たんだ?」
「先ほど出力した通り、糸の如き細い矢を撃ち込まれたのだ。孔雀の鉄羽の僅かな隙間を通り、肉を掻き分け、骨の間をすり抜け、心臓に繋がる大動脈に綻びを入れたあの一撃。後は血圧が勝手に傷口を広げ、時間差で死に至るのだ」
「うっわこっわ。あんだけ派手しておいてそんな手も使えんのかよ。俺アイツと敵としてマッチングしたくねー」
「ソレガシは是非とも手合わせ願いたい……所だが――」
フィールド全体に、けたたましい音が鳴る。ソレはタイムアップの合図だった。
因みに、買った方は………クイーンブレイドチームである。
「……いやなんでやねェェん!?!」
思わずエセ関西弁が飛び出るのも無理は無い。だがこの宇宙(から帰ってきた)人、試合のルールをすっかり忘れてるのである。
「あ…あっしまったァァァ!!!楽しすぎて忘れてたァァァ!」
エネミースコアアタックの勝者は、途中までギデオンくんと並行して界異を両断していたクイーンブレイドであった。これぞ勝負に勝って試合に負けた、であった。
「オァァァアオァ゙ォオァ゙ァァァア!!!!!」
(っべー、最初から何もしてなかったの忘れてた)
どうやら戦犯は見つかった様だな?
そんなこんなで、勝負にしか勝てなかった男の叫びが響いた後、それぞれがマッチングを開始した場所にワープさせられる。
こうして、あと一話くらい続くギデオンくんのストリート祓魔師活動は、一旦終わりを迎えるのだった。おしまい。
「まぁ過ぎた事は仕方無し。さてと、今までで会った呪詛犯罪者の情報をちがやんとマルクトに送っとこ」
そういう所は律儀に覚えてるのなんなん?