ウマ娘 闘走無頼伝バロンイースト   作:Picon

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第10話 帝王の慟哭

 生徒会室。

 

 薄暗いその部屋は暗い影に包まれ、天井から吊るされた黒いシャンデリアが冷たい光をまとっている。

 

 壁に掲げられた校訓の額縁には

 

 “Eclipse first, the rest nowhere”

 

 “唯一抜きん出て並ぶ者無し”

 

 と記されていた。

 

 しかし額縁のガラスは、まるで何者かによって力強く殴りつけられたかのように不気味なひびが走り、そのまま放置されている。

 

 最奥には、かつて学園を統べるものたちが座っていた玉座。今、そこに座るのは漆黒の勝負服に身を包んだ中央トレセン学園生徒会長“帝王”だった。

 

 帝王は頬杖をつきながら気だるげに座っている。彼女の周りには二人の下僕たちが静かに立ち並んでいた。

 

 “怪物”ナリタブライアンと“女帝”エアグルーヴである。

 

 二人の瞳の中には、未だ反逆の炎が煌煌《こうこう》と燃え盛っていた。が、帝王はまるで過去のことのように、それを意に介していない。

 

 真っ赤なカーテン越しに差し込む明かりが、部屋全体を赤く、不気味な輝きで照らし出している。

 

 クラシック三冠、秋三冠、春三冠、そして勇者の盃。全てを無敗で制し“皇帝”を越え頂点に立った帝王は、その栄光に歓喜し、玉座へとついた。

 

 その後も独り、勝ち続けていく帝王。誰もが帝王に挑み、そして散っていった。まさに無敵。

 

 しかしある時、誰も自分に追いつくことが出来ないことを知ってしまった。

 

 夢を叶えるということは、他者の夢を奪い去るということ。夢が持つ残酷な本質に気づいてしまった。

 

 自分以外、全て弱者。同格、比肩する者が居ない。そうして走る意味を失ってしまったことを悟り、狂う。

 

 そしてトゥインクルシリーズ、ドリームトロフィーリーグに続く新たなシリーズ。“エスポワールシリーズ”にて次々と挑戦者を受け入れた。

 

 狂気の帝王は、挑戦者たちの希望《エスポワール》を打ち砕くことを至高の愉悦とする。

 

 戦友《とも》を捨て、仲間を捨て、己を慕い憧れる者すら捨てた、悪魔へと変わり果ててしまった。

 

 その名は──トウカイテイオー。

 

 部屋の隅、玉座の真横に小さな椅子があった。そこには一人のウマ娘が座っている。シンボリルドルフである。

 

 ルドルフは、ただ虚しく、帝王を見つめていた。

 

 その時、生徒会室のドアが力強くノックされた。

 

「入れ」

 

 帝王の声が響くと、静かにドアが開き、一人のウマ娘が現れた。

 

「……」

 

 バロンイーストである。後ろから続いて鉄が現れた。

 

「──ルドルフ、会いたかっ」

 

「黙れ」

 

 帝王は、ルドルフに向けられたバロンの言葉を遮った。

 

「たぞ……今度こそ、決着をつけよう」

 

 しかしバロンは無視して話し続けた。ルドルフは無言で視線だけをバロンと合わせた。見つめ合うルドルフとバロン。

 

「──最初にこれだけ言っておくよ。ボクはキミが嫌いだ」

 

「……」

 

 視線を交わす帝王とバロン。

 

「こちらへ座ってくれ」

 

 二人の来訪者をソファーへと案内するエアグルーヴ。二人は大きな革のソファーへと腰掛けた。

 

「さて、ようこそ。中央トレセン学園へ。話は聞いてるよ……カイチョーに勝ったって?」

 

 険悪な雰囲気の中、帝王は指を組み、その上にあごを乗せた。

 

「……」

 

 無言でバロンを睨みつける帝王。迎え撃つように鋭い視線を交わすバロン。

 

「勘違いも甚だしいね……カイチョーは中央の超一流ウマ娘だ。キミらが走るような砂場は、カイチョーに相応しくないんだよ」

 

「おい、テイオー!」

 

 エアグルーヴが割って入った。しかし、ブライアンも口を開いた。

 

「1200mだったそうだな……ルドルフはスプリンターではない」

 

 ブライアンも、バロンを認めていないようだった。

 

「──やめろ」

 

 バロンはただならぬ気配を発しながら言葉を続けた。

 

「お前たちが庇えば庇うほど──ルドルフは弱い。と言っているようなものだ。ふざけるな」

 

「……」

 

 腕を組み、黙しているルドルフ。

 

「ルドルフは強かった。あの勝負は熱く、熱くっ──言葉に出来ない。だが、決着がついていないことは確かだ。オレは、ルドルフと決着をつける為に、今ここに居る」

 

「黙れよ」

 

 再びバロンの言葉を遮る帝王。その言葉は激しい怒りと嫉妬に満ちていた。

 

「地方のカス如きが、さっきからルドルフ、ルドルフと……敢えて言おう」

 

「……」

 

「中央を無礼るなよ」

 

 帝王の放つ圧倒的迫力に、鉄は息を飲んでいるしかなかった。

 

「──蹂躙してやる」

 

 だがバロンは、跳ね返した。帝王の放つ威光と威圧感を。

 

「お前たちの意地の拠り所……中央を破壊してやる」

 

「くく……中央を、壊すときたか」

 

 不敵に笑うブライアン。

 

「その言葉、撤回は許されんぞ。バロンイースト……!」

 

 バロンを睨むエアグルーヴ。その瞳に、女帝としてのプライドが宿る。

 

「本当に……ムカつく奴だねキミは。まるで自分の部屋にゴキブリが湧いて出たみたいだよ」

 

「──同感だ。お前はオレの運命の道筋に転がる虫ケラでしかない」

 

 バロンの言葉に帝王はほんの少し眉をひそめ、そしてニタァと笑った。その笑みには悪魔的な狂気が現れていた。

 

「ククク……キキキ……ありがとう。そこまで純粋な敵で居てくれるのは、キミが初めてかも知れない。マックイーン以来だ……このワクワク感……溶けそうだ……愉しみだよ。キミを叩き潰すのが──カカカッ!」

 

 帝王は不気味に笑い続けた。その様子は、まるで物の怪の類。

 

「テイオー」

 

「……」

 

 しかし、ルドルフが優しく声をかけると、帝王は唐突に声を潜め、黙り込んだ。

 

「……バロンイースト、まずは芝に慣れてみせろ。そしてグレードレースへの出場権を得るんだな。テイオーへの挑戦はそこからだ」

 

 エアグルーヴが冷静に語りかける。

 

「見掛け倒しでなければいいがな……上がってこいよバロンイースト。待ってるぞ。お前を喰らい……帝王を喰らうのはこの私だ……!」

 

 ブライアンは強者との出逢いに最高の悦びと己の新たな可能性を感じていた。

 

(このバケモノども……全員を倒さなくちゃなんねぇのか)

 

 鉄は自分の膝を強く叩いた。

 

(面白え……!)

 

「行くぞ、バロン」

 

 雄々しく立ち上がる鉄。

 

「……」

 

 鉄に続くバロン。

 

 そして、ドアを開けようとしたその時、鉄が振り向いた。

 

「覚悟しとけよ……バロンは必ずお前たちを超えるっ──!それとな帝王っ……!」

 

「……?」

 

 鉄に視線を移した帝王。まるで下等な生き物を見るような、あざけるような視線だった。

 

「沖野は……お前のようなウマ娘を生み出すトレーナーじゃあ、断じてないっ……!!寝ぼけたお前の目、必ず俺たちが覚ましてやる!あばよ!」

 

 そう言うと、鉄とバロンは生徒会室を後にした。

 

「カイチョー……嘘だよね。あんな奴に負けたなんて嘘だよね」

 

「……テイオー」

 

「嘘だと言ってよ」

 

「すまない」

 

 帝王はしなやかに脚を高く振り上げると、凄まじい勢いで執務机を踏み潰した。




トウカイテイオー。
中央トレセン学園生徒会長。
無敵のテイオーさ▀▀▀▀▀▀▀▀▀▀
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