ウマ娘 闘走無頼伝バロンイースト   作:Picon

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第13話 タキオンは心の友

 中庭。

 

「はははははははははっ!」

 

「──ふふ……あははっ!」

 

 バロンイーストとアグネスタキオンである。

 

 昼下りの中庭に広がる陽射しは柔らかな光を放ち、二人は和気あいあいと笑い合いながら過ごしていた。

 

 かくれんぼ、だるまさんが転んだ、ダンス、果ては組体操。まさにやりたい放題。

 

 タキオンを肩車しているバロン。タキオンは嬉しそうに髪と尻尾を風でなびかせ、その笑顔はまるで子供のような純真さに満ちていた。

 

「おほ〜高いねえ。絶景かな絶景かな」

 

 バロンの頭に手を乗せ、楽しそうに周囲を見回すタキオン。バロンの身長は195cm。その肩車は壮観である。

 

 タキオンの狂気をはらんだ楽しげな声が中庭に響く。周囲のウマ娘たちはドン引きしながらその異様な光景を見つめ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

「おぉ、速い速い!ははは!バロン君、君は見掛けによらず、とても愉快なウマ娘なんだねえ!」

 

「──タキオン……お前は面白いな」

 

 驚いた事に、気難しいバロンが心を開いていた。奇跡的に波長が合致したのか、二人は意気投合した。その様子はまるで唯一無二の親友のよう。

 

「ふふ……いい風だ。この感覚、久しく感じていなかったよ。バロン君、もっとだ!もっと風を感じさせてくれ!私に生きている実感をくれ!」

 

 熱のこもったタキオンの頼みを聞き入れると、バロンは一気に加速した。

 

「──ふっ!」

 

「ふひゃははは!最っ高だよぉバロン君!私達は、出逢うべくして出逢ったのだ!運命が笑っている──!」

 

 タキオンは狂喜乱舞しながらバロンの頭をポンポンと叩いた。バロンはまんざらでもなさそうだ。

 

「止まれっ……!バロン!!」

 

 突如として響く鉄の声。その声を聞き、全身の筋肉を総動員させ急制動するバロン。

 

「おおう……!」

 

 慣性の法則で肩車されているタキオンが激しく前に傾き、落ちそうになる。が、何とか耐えた。

 

「そろそろ来るだろうと待ってたら……ビックリしたぜ」

 

「──鉄……」

 

 バロンは鉄の言葉に耳を傾け、静止する。鉄の厳しい瞳がバロンの瞳を覗き込むと、バロンは鉄と目を合わせているのが辛くて目を逸らした。

 

「バロン、グラウンド以外で走っちゃ駄目だ。もし他のウマ娘やヒトにぶつかったら、大変なことになるだろ?」

 

「──すまない」

 

 羽目を外し過ぎた。当然のことながらバロンもグラウンドやレース場以外での走行禁止のルールは知っている。

 

「もうしない?」

 

 鉄が問うと、バロンは鉄に向き直って簡潔に応えた。

 

「──もうしない」

 

「……わかってくれればいい」

 

 鉄の厳しさとバロンの誠実さが張り詰めた空気を緩ませ、安らぎを与えた。

 

「ところで……もう友達が出来たのか?バロン」

 

「──トモ……ダチ?」

 

 バロンが肩に乗せたタキオンに目を向ける。

 

「そうだとも、友達だとも」

 

 タキオンは誇らしげに何度もうなずく。

 

「──トモダチ……トモダチ……!」

 

「おう、おおう」

 

 タキオンを肩車しながらピョンピョンと跳ねるバロン。

 

 胸を喜びで揺らし、耳と尻尾も嬉しそうに振り回す。バロンの感情が、鉄にも伝わってくる。

 

「よかったな……バロン」

 

 鉄は微笑みながら言葉をかける。優しさに包まれたその瞬間が、中庭の安らぎを一層引き立てていた。

 

「ん……?」

 

 鉄が何かに気づく。その視線の先には、アグネスタキオン。

 

「おや?なにかな」

 

「バロン……まさか、お前が肩に乗せてるウマ娘は、アグネスタキオンじゃないのかっ……!?」

 

「──そうだ。こいつは、面白い」

 

 バロンはタキオンを指差す。

 

「いかにも。私こそ“全知全能”アグネスタキオンさ。君は……バロン君のトレーナーかな?」

 

「ああ、鉄ってんだ。よろしくな」

 

「ふふ、よろしく。タキオンでいいよ」

 

「しかし驚いたな……まさかあのタキオンと知り合いになっちまうとは……同じクラスなのか、バロン」

 

「──ん。最初は、変な奴だと思った……だが、同じだ。オレとタキオンは……同じニオイがする」

 

 バロンの瞳が野生の本能を宿すように輝く。

 

「バロンらしいな……」

 

「最初は無視されていたんだけどねえ、何度も何度もしつこく話しかけていたら、次第に応えてくれるようになって、最終的にレースの話をしたら意気投合したのさ」

 

 タキオンは静かに、けれども深い感慨を込めて語る。タキオンの言葉に、バロンは頷き返す。

 

「ありがとなタキオン。これからもバロンをよろしくな。バロン、そろそろトレーニングに移るぞ」

 

「──わかった」

 

 バロンがタキオンを下ろそうとする。

 

「え〜!やーだー!もっと乗せておくれよ〜」

 

 やだやだと駄々をこねるタキオン。

 

「すまねえな。そうも行かねえん……いや……見に来るか?バロンのトレーニング」

 

「え?いいのかい?」

 

「ああ、アグネスタキオンの感想、是非とも聞いてみたいね」

 

「ククク……トレーナー君も話がわかるな。君とも仲良くなれそうだ。よし!さあ行こう!グラウンドへ!!」

 

 三人はグラウンドへ向かった。

 

 グラウンド。

 

「ストップ!いいぞバロン、休め!どうだ……タキオン?バロンの走りは」

 

「怖いねえ〜……これは確かにバケモノだ」

 

「へっ……だろ」

 

 バロンの力強い走りに驚くタキオン。鉄は得意げに微笑む。

 

「未だデビューしていないウマ娘たちの中では、最強だろう。クラシック三冠路線を選べば、間違いなく三冠ウマ娘になれる素質がある」

 

「そうか……そう見るか、お前も!」

 

 すると、バロンが鉄の前に頭をもたげる。

 

「ん、はいよ……」

 

 タオルを取り出し、バロンの汗を拭いてやる鉄。

 

「──んん……髪もだ」

 

「なんか注文が増えてきたが……いいぞ、お前の為なら……」

 

 ワシャワシャとバロンの髪を拭いてやる。気持ち良さそうに汗を拭かれているバロン。至福の時。

 

「スピード、スタミナ文句なし。特筆すべきは絶大なパワーかな。後は、それ以外の能力が未知数だが……」

 

「──問題無い。鉄がついてる」

 

「魅せつけてくれるねえ……トレーナーとの信頼関係も良好なようだ」

 

 バロンと鉄の絆は確実に深まっていた。

 

「ふぅン……どうだろう?トレーナー君。私をバロン君の協力者……サポーターにしてくれないかな?」

 

「え……?だが……」

 

 鉄はタキオンが怪我で走れないことを知っていた。つまり、協力者になったところでバロンの練習パートナーにはならない。

 

「無論、私は屈腱炎により全力で走ることが出来ない。だが、私独自の発明品や薬品でバロン君をサポートすることができる。悪いようにはしないよ」

 

「薬品って……」

 

 鉄の瞳には、明らかな不安の色が浮かんだ。

 

「安心したまえ。ドーピングの類ではない。あくまで合法的かつ健全にウマ娘の肉体へ影響を与えるものさ」

 

 鉄は少し考え込む、同時に深呼吸をした。彼の中で何かが変わりつつあった。GⅠ優勝経験者としての意見は聞きたかったが、ここまでの介入は想定外だった。

 

「バロン君とともに研究を進めたいんだ。頼む、トレーナー君」

 

「それってつまり……バロンを実験体にするってことだろ……?」

 

 タキオンの視線が鋭くなり、一瞬の間に鉄の心の中で戸惑いが走る。

 

「お前の屈腱炎を治す為に……」

 

「そうだね」

 

 タキオンはさらりと答える。

 

「お前の事情は知ってる……辛いだろう。きっと走ろうとすると、脚が燃えるように痛むんだろうな……無念だろう。その気持ちは、痛いほどよくわかる。だが……」

 

 鉄の声が静かになり、深い共感を込めて言葉を紡いでいく。その時、バロンが口を開いた。

 

「──鉄、タキオンを受け入れよう」

 

「え……?」

 

「バロン君……」

 

 バロンの言葉に対して、タキオンの瞳には感謝の輝きが宿っていた。

 

「──役に立つかも知れない。それに、タキオンは……トモダチだから」

 

「バロンくぅン!いいやつだぁ!君はなんていいやつなんだぁ!心の友よ!」

 

 バロンに飛びつくタキオン。タキオンは喜びと興奮に満ちた声を上げ、その尻尾を振り乱していた。

 

 バロンは深く頷き、タキオンを抱きしめ返した。

 

 その様子に、鉄は力をすっかり抜かれてしまった。

 

「……わかったよバロン。だが、勝手に実験とやらをするのは無しだ。一度俺に確認をとった上でやること……いいな?」

 

 鉄の声はバロンに対する信頼と、タキオンに対する不安が交じり合ったものだった。

 

「えぇー!?そんなの非生産的すぎるー!!」

 

 タキオンが騒ぎ立てる中、鉄は力強く頷いた。

 

「駄目っ……!」

 

 鉄が厳しい表情で制止する。それぞれの思いが重なり合い、ここに新たな局面が切り拓かれた。

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