ウマ娘 闘走無頼伝バロンイースト   作:Picon

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第18話 混沌の芙蓉《ふよう》ステークス・後編

 中山レース場。

 

『さて、いよいよ本日のメインイベント、芙蓉ステークスのスタートです!晴れやかな空のもと、芝、2000m。9人のウマ娘たちが挑みます』

 

 ファンファーレが終わると、ウマ娘たちが次々にゲートへと入っていく、観客席からは期待の声。

 

『1番人気から3番人気まで紹介しましょう!』

 

『1番人気。三冠ウマ娘“怪物”ナリタブライアン!』

 

『2番人気。“日本総大将”スペシャルウィーク』

 

『3番人気。“シンデレラグレイ”オグリキャップ』

 

『どの子も絶好調といった具合です。皆様注目のバロンイーストは惜しくも4番人気!しかしこのメンバーでの4番人気も凄まじい人気です!期待が広がります!各ウマ娘、ゲートイン完了』

 

 ──ゲートが一斉に開き、混沌の芙蓉ステークスがついに始まってしまった。

 

 観客席から歓声が上がる。

 

 先頭に立ったのはキタサンブラック、一歩ずつ蹄鉄を鳴らしながら力強く先頭をキープしていく。

 

『キタサンブラック、早くもトップに立つ!しかしトモエナゲ!負けじと食らいついています!』

 

 続いたのはスペシャルウィーク。先行の走行スタイルで二番手の位置をキープしていく。

 

『流石のスペシャルウィーク!いつでも先頭はとれるという位置取りでしょうか、スペシャルウィークにカジュアルスナップが並走します!がんばれカジュアルスナップ!!』

 

 しかし、後方ではブライアンや他のウマ娘たちも執拗に追い上げていく。

 

『第一コーナー通り過ぎまして、第二コーナー!ナリタブライアンが追い上げてきた!これは激しいレースが繰り広げられそうだ!』

 

「ぬっ……!」

 

 しかし、ブライアンの前方にはスペシャルウィーク。右にはオグリキャップ。左にはタマモクロス。完全なるブライアン包囲網。

 

「ゴルァ!逃さんでブルァイアン!」

 

「報いを受けてもらおう……!」

 

 一方のゴルシとバロンは、バ群の内側、後方にポジションをとり、不気味に潜む。

 

「ハァイ♪」

 

「……」

 

 なんとも言えない間抜け面でバロンに挨拶をするゴルシ。バロン、これを無視。

 

『ゴールドシップ、内側からじわりじわりとせめています。見逃せませんね!』

 

 各ウマ娘が熱いバトルを展開していく。中山レース場はまさに熱気に包まれ、観客たちは一体感と興奮に湧き立っていた。

 

『第三コーナー!ああーっとここでトモエナゲ、スタミナ切れか!?失速ッ!』

 

「ま、まだ……まだぁ〜!あぐ……ぅ……」

 

「ここだ……!」

 

 トモエナゲが後方に下がってきた時、それを回避する動きがバ群にあった。ブライアンはその動きに生じた隙を見逃さなかった。

 

「はぁあああ──!」

 

 ──しかし、越えられない。

 

「あげません──ッ!!」

 

 スペシャルウィークの見事なステップワークにブライアンは翻弄されていた。

 

「ぐっ……!」

 

 スペシャルウィーク、オグリキャップ、タマモクロスによるブロックは想像以上に堅く、道は閉ざされていた。

 

「やるっ……!」

 

 白熱するレース展開。しかし、その様子を観客席から不満げに見つめる者たちがいた。

 

「けー……なんでぃなんでぃ。のけものにしやがって。あたしだってバロンイーストとやってみたかったのに……」

 

 “大井の最終兵器”イナリワン。

 

「まぁまぁ、今回はバロンちゃんとのレースではないでしょうから、また今度ですね〜」

 

 その隣に立つのは“無尽の大河”スーパークリーク。二人とも、オグリとタマの親友であり、ライバルであるGⅠウマ娘である。

 

 ちょうど、その隣ほどの席に、鉄とタキオンたちは居た。

 

「ふぅン、ここまで私の予想通りだねえ。いかにブライアン君と言えど、あの布陣は破れまい」

 

「……タキオン。これは、お前の差し金か?」

 

「ノーコメントだ」

 

「関係ねえ……誰がどんな走りをしようが、バロン……!」

 

「……」

 

 その時、バロンは暗い世界を一人、走っていた。厳密には、遠い観客席にぽつんと見える鉄とタキオンだけが、色づいて明るく見える。

 

「──足……跡……」

 

 バロンが走る世界──そこにはバロンだけが視える、光る足跡が走っていた。バロンは、ただひたすらにその足跡を追っていく。やがてたどり着く。勝利に。

 

 ──そして消し飛ばす。全てを。

 

『最終コーナー通過!中山の直線は短いぞ!後ろの二人は間に合うか!?』

 

「──視える」

 

 その瞬間、バロンは全身の筋肉に力を込めスパートをかけた。筋肉のパンプアップにより、まるで身体が一回り大きくなったように見えた。

 

『き、来た!来た!バロンイーストが来た!凄い足であがってくるバロンイースト!』

 

「……よしっ」

 

『ああーっとどうした!?キタサンブラックまさかの失速!?下がるオグリキャップ!先頭はスペシャルウィーク!……お!?持ち直したキタサンブラック!!ナリタブライアン、またも囲まれてしまった!』

 

「……これもテイオーさんに言われたんですか!?」

 

 速度を調整し、ブライアンと並走するキタサンブラック。

 

「……」

 

 しかし、ブライアンは答えない。さらに加速しようとするブライアン。キタサンをはね飛ばそうとする。

 

「せいやぁ!」

 

 ブライアンの強力無比なタックルに動じないキタサン。二人のフィジカルは互角。ふと、笑うブライアン。

 

「……随分でかくなったな」

 

「……ふっ!」

 

 勇ましく笑い合うブライアンとキタサン。

 

『最終直線!さあ……誰だ……勝つのはー!』

 

「がうぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 一人、また一人と抜き去っていくバロン。その姿、まるで野獣。

 

「いい……走りだ」

 

「おう!いったれぇ!」

 

 バロンを見送るオグリとタマ。しかし、スペは加速した。

 

(いけない、ブライアンさんはまだやる気だ)

 

「三冠の重み……思い知れっ──!」

 

『ナリタブライアン激走!スペシャルウィークに迫りくる!残り300m!』

 

 ──その時、ブライアンに電流走る。

 

「あ……あね……姉貴……」

 

 突如、観客席の中に実姉ビワハヤヒデを発見したのだ。

 

 観客席の姉と視線を交わしたブライアン。姉の目は、まるで自分を叱りつけているようだった。

 

 ブライアンは失速すると、後続へと沈んでいった。

 

「……」

 

「なあ、タキオン。この子は……?」

 

「紹介が遅れたねえ。私の友人。ビワハヤヒデ君だよ」

 

「ビワハヤヒデだ……今回は、競争の激しいチケットを譲ってくれてありがとう。トレーナー君。タキオン君」

 

「はぁ……ビワハヤヒデ!?てことは……」

 

「ククク……精神攻撃は基本だねえ」

 

『ああーっと!どうしたことだ、ナリタブライアンまで失速!?これは勝負の行方はいずこへ!?』

 

 構わず爆走していくバロン。バロンの走りに、先輩たちは皆、希望を見た。しかし──。

 

「うっしうっし」

 

『ゴールドシップ!?なんとゴールドシップだ!いつの間にかバロンイーストの背後にピッタリとくっついていた!現在3番手!』

 

「ゴールドシップさん!?」

 

 流石に驚愕する先頭のスペ。予定と違うのである。

 

「わり」

 

「え……!?」

 

 青ざめるスペ。

 

「──!」

 

「へへ……!」

 

 高速の世界の中で、見つめ合うバロンとゴルシ。

 

 同じ追込戦術を持つ者同士か、或いは、同じく気性難のウマ娘同士惹かれ合うものがあるのか、ゴルシまさかの離反。

 

『残り100m!最後はバロンイーストとゴールドシップの一騎打ちだぁああああ!!』

 

 こうなると、もはやゴルシを止められる者は誰もいない。バロンは、勝つしかない。ただ、勝つしか。

 

「いけぇええ!バロン──!頑張れぇええ!!」

 

「くっ……やはりイレギュラーだったかゴルシくん……ゆけ!バロンくぅぅぅン!!」

 

 暗い世界の中に、声が聴こえた。温かい、優しく包み込んでくれる声が。

 

(──鉄……タキオン)

 

 ──視える。道が、勝利への道筋、未来が。暗い世界の中に一筋の光がほとばしる。

 

「ごぁあああああああああ!!」

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

 

『ゴール!』

 

 観客席の中、沖野が手を組み天を仰ぎ、神に祈っていた。

 

「ゴルシのヤツ!ち、着順は……!?」

 

『1着はバロンイースト!2着はゴールドシップ!3着はスペシャルウィーク!』

 

「ほっ……」

 

 沖野は、息を吐くと胸を撫でおろした。

 

 会場の声援と興奮がピークへと達し、健闘したウマ娘たちへ大きな拍手が送られる。

 

 バロンとゴルシは、芝を削りながら激しくブレーキをかけた。

 

「はぁ……はぁ……なんだよ……結構やるじゃねぇか。月に浮かぶ亀の甲羅くらい固い牙城だったぜ」

 

「……」

 

「決勝で……待つ。バロンイースト……」

 

 そう言うと、ゴルシはそのままライブ会場へと去っていった

 

 ゴルシを無視するバロン。すると、スペも歩み寄って来た。

 

「いいレースでした。バロンイーストさん。今度はこのような形ではなく、正々堂々戦いましょう」

 

 手を差し伸べたスペ。しかしバロンはその手を取らなかった。

 

「……」

 

 スペちょっとションボリ。無言のバロン。

 

「……」

 

 すると、キタサンが後ろからバロンへ声をかけた。

 

「勝負……どちらが先にテイオーさんを倒すか勝負!バロンちゃん!」

 

「──バロン……ちゃん」

 

 バロンは耳を回し、少しだけ動揺した。さらにはタマとオグリも近づいてくる。

 

「よう、バロンイースト。えぇ走りやったで〜これからも頑張りや……言っとくが、シニアGⅠではこうはいかん。オープンだけや……覚えとき」

 

 タマは最初にこやかだったが、最後にドスをきかせた声でささやくと、レース場を後にした。それに続くオグリ。振り向くと、オグリは一言だけバロンへ添えた。

 

「君がシニア級にやってくるのが待ち遠しい。また、学園で……」

 

 ブライアンは歓声の中、一人立ち尽くしていた。その様子を見ると、バロンはゆっくりとブライアンへ近づいて行った。

 

「──茶々が入った」

 

「……同情のつもりか」

 

「──次は……こうはいかん」

 

「ふふ……私の台詞だろ。それは」

 

「──明朝6時。グラウンドで待つ」

 

「なんだと?」

 

「……」

 

 それだけ言うと、バロンは鉄たちの方へと向かって歩いていった。そこにはビワハヤヒデがいる。ハヤヒデは、ブライアンをじっと見つめていた。

 

「……っ」

 

 ブライアンは、逃げ出すようにレース場を後にした。

 

 バロンイースト、芙蓉ステークス、通過。

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