空き教室。
ジャラジャラと牌の混ざる音が部屋の中に響く。四人は仲良くコタツに入り、昔ながらの手積みの麻雀を楽しんでいた。
「──ツモ。6000オール」
バロンの長い指が手牌を次々と倒していく。
「……やるな、バロン」
点棒の受け渡しが完了した後、ナカヤマは静かに闘志を燃やしながら、手牌を前方に押し倒した。
「まさか、ここまでやるとはな……だが、まだまだ勝負はここからだぜ」
牌を混ぜながら、バロンの手並みに満足した様子を見せるシリウス。
「うひひ、ごっつぁん」
そんな二人を尻目に戦利品のニンジンを頬張るゴルシ。勝利の味を噛みしめる。
「……」
バロンは、勝ち続けていた。ゴルシも好調。振るわないのはシリウスとナカヤマ。
そんな時、次の局に事態は起こった。
「──リーチ」
バロンがとどめとばかりに仕掛ける。
「おお、怖い怖い」
ナカヤマのツモ巡。自らの積んだ山から牌をツモる。
「次は私の番だな──」
その時、対面のバロンが電光石火の動きでナカヤマの腕を掴んだ。互いに睨み合う二人。
「……おいバロン。なんだ、この手は……え?オイ……」
「──オレを舐めるなよ……今、山からギッただろう……?」
ギッた。それはつまり“握り込み”というイカサマ。自分の手牌から不要牌を一つ山に戻しつつ、山から二つの牌を引くという単純明快なイカサマ。
「──しかも、お前が積んだ山だ。お前……積み込んだな?」
“積み込み”。自動卓が一般化して来た現代では考えられないイカサマだが、手積みが一般的な時代では、自分に都合の良い順番で山を積むことをそのように呼称した。
「なんだよナカヤマ〜強欲な壺か〜?」
「コイツは面白い」
茶化すゴルシに、ただ事態を静観するシリウス。
「ほう……すると何か、お前は私がチョンボをしたって言いたいんだな?」
あくまで冷静に対応するナカヤマ。その態度は堂々としており、とてもイカサマをしているようには見えない。
「──この手の中に、牌を隠し持っているな……」
ナカヤマの手を反転させるように、ひねるバロン。ツモってきた牌を一旦その場に置き、バロンの誘導に素直に従うナカヤマ。
「……へぇ、この手の中にねぇ。いいぜ、見せてやろうか。だが、もしこの手を開いて中に何も持ってなかったら、どうするつもりだ……?」
「……」
黙るバロン。
「おいバロン、質問してんだぜ。この手の中を確認して、ギッてきた牌が無かったらどうするつもりだよ?ゲームの進行を妨げて、他人にイチャモンつけんのも立派な妨害行為だ……そうだ、賭けようか」
さらに畳み掛けるように語りかけてくるナカヤマ。
「──何?」
「ニンジン50本だ。この手の中に牌があれば私が払う。無ければ、お前が払う」
「……」
「乗るか?」
考え込むバロン。確かに見た。ナカヤマがイカサマをする場面を。しかし、ここまでの勝負でナカヤマが自分の実力の全てを見せていないことくらい、バロンも承知している。
「──くっ……」
警戒してか、言葉を詰まらせるバロン。
(──ブラフ?オレに現場を取り押さえさせる為に、あえてギッたように見せて、実はギッていないのか……?)
考えれば考えるほど、術中にはまっていく。
「……乗らねぇんなら、この手をどけなッ!よしてもらおうか、くだらん言いがかりは……ゲーム続行だッ!!」
ピッ!っと一瞬だけ何かがこすれるような音がしたかと思うと、ナカヤマはツモの動作を完了していた。
「おや?来てるぜ、流れが……ほれ、追っかけ……リーチだ」
ナカヤマが不気味にリーチ棒を差し出す。
「ほいよ、ゲンブツ」
「私も」
流れが来ていないのか、安牌を流すゴルシとシリウス。バロンがツモる。
牌の表面をバロンの親指が舐めるように撫ぜると──その動きがピタリと止まった。
「……」
無表情のようだが、微かに眉毛をハの字にするバロン。動揺している。
「どうしたバロン。お前もリーチしてんだぜ。アガってねぇなら即切れよ……」
「──あ、う……」
あのバロンが、しおらしく耳をひしゃげさせている。完全に精神の風下に立たされてしまった。こうなると、運はナカヤマに向く。
「そうかい、できねぇなら……手伝ってやるよ!」
バロンの手に指を重ね、強引に打たせたナカヤマ。
切った牌は──ドラの一萬。ナカヤマの捨て牌からして超危険牌。
「くくく……バロン、そりゃロンだ!リーチ、一発、ハク、イッツー、ホンイツ、ドラ3!子の三倍満直撃!24000点だ!!これで逆転だ、バロン。悪いな」
ナカヤマ無法の三倍満、炸裂……!そう、当然のことながら全てナカヤマのイカサマ。
ナカヤマは堂々と自分の山から握り込み、さらにバロンが動揺している隙を見極めると、次のバロンのツモ牌を自分のアガリ牌にすり替えたのだ。
「ロン」
そんな中、ゴルシがパタリと手牌を倒した。
「え……?」
ざわ……ざわ……とナカヤマの胸の中がざわめき出す。ロン宣言をしたのは自分から向かって左側。バロンが放銃したアガリ牌に対して、ナカヤマより上の優先権を持つゴルシである。
「頭ハネだ。ピンフ、ドラ1、2000点」
“頭ハネ”とは、放銃した人から見て次にツモる人にアガリの権利が与えられるというルール。
つまり、無し。ナカヤマのロンは、無かったことになるのである。
24000点が、2000点で──。
ぐにゃあ〜……!ナカヤマの周囲の空間がねじ曲がる。
「あ、これバロンへの直撃だったから、アタシ今トップじゃね?」
「──そうだな」
逆転の兆し、勝利が見えたその時、持っていかれた。突然現れた黄金の船に……全てを……!
「ぱぁあああああああ!!」
ナカヤマ、卓に突っ伏して倒れる。
「どぉ゛じでだよぉ〜!!」
流石に涙を流してしまうナカヤマ。ここまで完璧にお膳立てをしたつもりが、乱される。やはりイレギュラー、ゴルシ。
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。これもギャンブルの醍醐味ってやつだろ」
ナカヤマの肩をポンポンと叩くシリウス。その叩き方は優しい。
「くっ……がっ……ち、違いねぇ。流石だ、ゴルシ……」
「あたぼうよ。誰だと思ってんだ。ゴルシちゃんだぞ」
四人の楽しい麻雀は続く──。その裏で、一人のウマ娘がニンジンインディアンポーカーで負けに負けていた。
「うがー!?また負けたのだ〜!!」