三日後。
カワサキトレセン学園。
学園内を歩いているのは、学園長と二人のウマ娘。中央トレセン学園生徒会“女帝”エアグルーヴと“皇帝”シンボリルドルフだ。
学園の窓から顔を出して、二人を見つめているウマ娘たち。憧れのスターを前に、彼女たちは大興奮していた。その中の一人が、ルドルフに向かって元気よく手を振った。
「ふふっ──」
ルドルフが微笑みながら手を振り返すと、学園中から黄色い歓声が響き渡った。
「いやーっ……!まさか、お二人のような偉大なウマ娘が、こんなところまで来て下さるなんて、恐縮です」
風は穏やかに学園の広場を抜け、ルドルフの髪をなびかせる。
「──いえ、こんなところだなどと。カワサキは立派な学園ですよ。東京からも近いですし……活気もあるようだ。なぁ、エアグルーヴ?」
学園の中庭には、午後の陽光が差し込んでいた。ウマ娘たちの笑顔が風に揺れ、微かな歓声が広がる。
「はい、会長。施設や備品は古い物が多いですが、整備は万全なようです。ウマ娘たちの満足度も高いようですね」
花壇に咲く花々が風に揺れ、エアグルーヴが地面を踏みしめる音が心地よい。
「えぇ、我々はウマ娘たちの幸せを第一に考え、学園を運営していますから」
学園長が自信たっぷりに話すと、ウマ娘たちの期待の視線が一斉に二人に注がれた。
「その言葉、私もウマ娘として嬉しい限りです──エアグルーヴ、会長はよせ。私はもう、ただのウマ娘だよ」
ルドルフは謙遜するように微笑んでいた。
「いいえ。私にとっては会長は貴女だけです……テイオーさえまともに仕事をしてくれたら、会長自らが地方の調査に来る事など……」
エアグルーヴは少し当惑した様子だった。無意識に耳もピクピクと動いてしまう。怒っているようだ。
「テイオーはあれでいいんだ。私もこういう仕事をしている方が性にあっていると、自分でも思うよ」
「はぁ……」
「それに、君と一緒に仕事をしていると楽しい。久しぶりだから余計にそう感じているんだ」
「それは、私もそうです……」
ルドルフの言葉に少し照れつつも、ため息をつくエアグルーヴ。耳と尻尾もゲンナリと垂れてしまっている。
「何事も、適材適所というものだ」
ルドルフは微笑みながら答えた。
「ところで、お願いがあるのですが……」
学園長が話しかけてきた。そのとき、学園の中庭には小さな風が吹き、花々の香りが広がっていた。
「なんでしょう?」
「はい、その……大変恐縮ですが……本校の生徒たちから、一度……貴女とお手合わせを願いたいと……強い希望がありまして」
ルドルフは学園長の言葉に静かに耳を傾け、学園の様子を見回す。ウマ娘たちの期待に満ちた視線を感じていた。
「……」
ルドルフは少し考え込むそぶりを見せると、エアグルーヴの方を向いた。
「……学園長、我々はあくまで地方トレセン学園の実態調査をURA《ウマ娘競争協会》に依頼されて来たのであって……!」
エアグルーヴがやや戸惑いながらも、学園長の願いを断ろうとする。
「あっ……!で、ですよね!し、失礼いたしましたっ……!!」
学園長が謝罪の言葉を口にする中、学生たちの期待に応えるかのように、ルドルフは再び手を振りながら歩き出した。それに呼応するように再び歓声が上がる。
「構わない。走ろうか」
ルドルフは軽やかな足どりで歩きながら言った。エアグルーヴは驚いた様子で追いついた。
「会長!?」
「いいじゃないか。別に減るものでもない」
学園の中庭でルドルフは学園長に向かい合った。
「本当ですか!?あ、ありがとうございますっ……!生徒たちも喜びます!我が校のとびきり優秀な生徒たちがグラウンドに控えておりますので……」
学園長は感謝の意を込めて頭を下げた。ウマ娘たちの期待の中、ルドルフはグラウンドへと歩みを進めていった。
「──会長」
やれやれといった様子でバッグの中からダート用の防塵シューズを取り出し、それを手渡すエアグルーヴ。
「用意がいいな、ありがとうエアグルーヴ」
シューズを手に取り、慣れた手つきで靴を履き替えるルドルフ。
「こんなこともあろうかと……と思っていましたが、本当に使うことになるとは思いませんでした……」
エアグルーヴは半ば呆れつつも、ルドルフのウマ娘に対する深い愛情を感じ、感銘を受けていた。
「一期一会……無意味な出逢いなど無いさ──久しぶりだ、砂の上を走るのは」
ルドルフが靴を履き替えた瞬間、その瞳にかつての勇猛な輝きが蘇った。まるで時を超えて燃え盛る炎のような情熱が、オーラとなって彼女の姿を包み込んでいく。
その圧倒的な存在感に、学園のウマ娘たちは口々に言葉を失い、静まりかえってしまった。まるでルドルフの周りの空間だけが陽炎のように歪み、その煌めく瞬間をじっと見つめるような雰囲気が漂っていた。
「あっ……あのっ……よろしければ、ジャージをお貸ししますが……!」
ルドルフの放つ迫力に戸惑いながらも、その装いを気遣う学園長。ルドルフは学生服を着ていた。
「不要です。むしろこの制服に、泥をつけて欲しいものです。つけられるものなら」
それは栄光ある瞬間の再来であり、彼女が築いた伝説を想起させる。
まさに“皇帝”の神威を感じさせた。
シンボリルドルフ。
元生徒会長にして、中央トレセン学園特別相談役。またの名を“皇帝”シンボリルドルフ。ウマ娘レースチーム“リギル”のリーダーも勤める肩書の多い人物。
GⅠレース7勝、全戦無敗のクラシック三冠ウマ娘としてトレセン学園の頂点に君臨していたが、トウカイテイオーに敗れたことにより生徒会長の玉座をテイオーに譲った。
妹のように可愛がっていたテイオーの成長を誰よりも喜び、テイオーを後方から支えていく道を選んだ。
かつてのような自他共に厳格な一面は鳴りを潜め、より寛容な一面が強くなった。しかし、レースの実力は全く衰えておらず陰りを見せない。
現在は積極的にレースに参加することは少ないが、ミスターシービーとは今でも草レースで張り合っているようだ。