ウマ娘 闘走無頼伝バロンイースト   作:Picon

5 / 24
第5話 幕開け

 走り出すルドルフとバロン。スタートダッシュはルドルフが優勢をとった。

 

 1200mは、超人的な身体能力をもつウマ娘にとっては超短距離。一瞬の判断が勝負を決するレースである。

 

(スタートが未熟だ……ここらへんは素人っぽいな……)

 

 先頭を走りながら、精確にバロンの位置を把握するルドルフ。

 

(しかし、離れない……スピードは中々だ。スリップストリームのつもりか……その図体で)

 

 バロンは無表情で走っていたが、その額には汗が見えた。

 

 第一コーナーを通過した二人。凄まじい速さで疾走するルドルフ。バロンは必死に食らいついていた。だがその走りはルドルフのように洗練されたものとは言い難い。まさに野生の走り。

 

(二人きりだというのに……ポジション取りは不規則。コーナー巧者というわけでもない……)

 

 冷静にバロンの走りを分析するルドルフ。

 

 二人は第二コーナーを通過した。さらに加速するルドルフ。バロンを引き離していく。

 

(見掛け倒しか……)

 

 しかし、負けじと追走するバロン。

 

(やるな……この走り、ブライアンやアマゾンと同じタイプか)

 

 ルドルフはバロンの走りに仲間たちの姿を重ねながら不敵に笑う。新たな強者との出逢いに、心踊らせていた。

 

「……」

 

 ポーカーフェイスなのか、本当に余裕なのか。一切の苦痛を感じさせず、ルドルフに猛追するバロン。

 

(闘走の果てに悦びを見出す──まるで野獣のようなウマ娘だ)

 

 第三コーナーに差し掛かる二人。ここで勝負をかけようと力を込めるバロン。

 

 しかし、ルドルフには届かない。バロンは完全に掛かってしまっていた。

 

「っ……!」

 

 バロンの焦りを肌で感じたルドルフ。

 

(ここまでか──勝負あったな)

 

「違うっ──!!」

 

 どこからか、突然怒号のような男の叫びがグラウンドに響き渡った。鉄である。

 

「なんだ……?」

 

 思わず鉄の方を向いたルドルフ。

 

「……!?」

 

 バロンも目線だけ鉄に向ける。

 

「そこじゃねえ!自分の走りを貫けぇっ──!!」

 

 駐車場のフェンス越しに叫び続ける鉄。

 

「──!」

 

 鉄の声に、バロンの走る姿勢がより低いものへと変わり、その目がすわった。

 

(む──冷静さを取り戻した。だがもう遅い)

 

 最終コーナー、ルドルフがとどめとばかりに仕掛ける。離されるバロン。

 

 ──いや、並んだ。

 

「なにっ……!」

 

「──!!」

 

 急加速するバロン。バロンの一歩一歩が、まるで大地を揺るがしているかのようだった。だが、その程度で押されるルドルフではない。百戦錬磨のルドルフに、こけおどしなど通用しない。

 

 最終直線。ルドルフとバロンは衝突寸前まで接近し、しのぎを削った。

 

(このパワー……!うっ……しまった……!?)

 

 ルドルフは、不運にも先程のレースでできたダートの凹みに、一瞬だけ足をとられてしまった。

 

「不覚……!」

 

「ぐぉおおおあああああっ──!!」

 

 雄叫びをあげ全力疾走するバロン。残り50m。

 

「ああっ……!?」

 

 凄まじいレース内容に驚嘆する学園長とカワサキのウマ娘たち。

 

「はぁっ──!」

 

 ルドルフは全力で駆け出し、バロンを抜いた。

 

 だがバロンは、差し返した。バロンの足からはねた砂が、ルドルフの制服を汚した。

 

「だあああああっ──!!」

 

「行けぇえええ!!バロンっ──!!」

 

 喉が張り裂けそうな勢いで叫ぶ鉄。

 

 ゴールに接近するルドルフとバロン。エアグルーヴはゴールラインに全神経を集中していた。

 

「──ゴール!」

 

 勝負は決した。

 

「ふっ……ふっ……」

 

 ゆっくりと歩きながら呼吸を整えるルドルフ。

 

「会長……」

 

 ばつが悪そうにルドルフのもとへ駆け寄るエアグルーヴ。

 

「わかっている……私の負けだ」

 

「まさか──地方にこれほどのウマ娘がいたなんて……」

 

 予想外の決着に驚愕するエアグルーヴ。

 

「ああ……」

 

 ルドルフはうなずくと、バロンへ優しく拍手を送った。

 

「ぐっ──うう……」

 

 あまりの疲労に膝から崩れ落ち、倒れるバロン。その光景にどよめき、呆気に取られているしかない学園長とカワサキのウマ娘たち。

 

「バロンっ!!」

 

 トレーナーバッグをかかえ、フェンスをよじ登る鉄。バロンに急いで駆け寄ると、丁寧にバロンを仰向けにし、その口元に酸素スプレーをあてた。

 

「──!」

 

 目を見開き、苦しみながらも鉄を跳ね除けるバロン。しかし、それでもバロンを介抱しようとする鉄。バロンは、そんな鉄をじっと見つめた。

 

(そうだよな──人間なんて信用ならねえさ)

 

 鉄はバロンの瞳を覗き込むと、そこに広がる深い闇を感じた。しかし、その中の孤独や絶望に、鉄は己と重なる運命的な何かを感じていた。

 

(てめえ勝手も甚だしい。誰もおめえを愛してなんていなかった……勝てねえウマ娘は世間から見放され、結果人生を無為にしたとしても──誰も知ったことじゃねえ)

 

 見つめ合う鉄とバロン。二人の間に沈黙が流れる。

 

(それがレースだ……!)

 

 鉄が決意に満ちた表情でバロンを見つめる。バロンはやっと大人しくなり、鉄の介抱を受け入れた。

 

(ウマ娘は金儲けの道具で……金を生まないウマ娘はターフを去るしかない。いわば使い捨て……レースの正体はおおまかそこなのに──)

 

 ひとしきり酸素を吸い込んだバロンは落ち着きを取り戻すと、すぐに立ち上がり鉄と相対した。

 

「……」

 

 無言で鉄の瞳を見つめるバロン。

 

(そういう人でなしどもがこぞってレースはロマンだとか……ぬかしくさる。そういう世界だ)

 

 鉄は内心、ウマ娘たちへの愛と、身勝手な人間たちへの複雑な感情を抱いていた。

 

(でもどうにもならねえよな──お前たちウマ娘は、走る為に生まれてきたんだから……!お前は……勝つしかねえんだよ!)

 

「勝つしかねえっ……!そうだろ、バロンっ……!」

 

「……」

 

 強く見つめ合う鉄とバロン。その様子を静観するルドルフとエアグルーヴ。

 

 その時、後に伝説と語り継がれる闘走無頼伝が、幕を開けようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。