ウマ娘 闘走無頼伝バロンイースト   作:Picon

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第8話 灰色のシンデレラ

 バロンの部屋。

 

「気に入ったかい?」

 

「……」

 

 部屋へ案内されたバロン。その部屋は、特にバロンの体格に配慮されたかのように、家具やベッド。日用品等サイズの大きな物が並べられていた。

 

「ルドルフの注文でね。全部君専用に用意したんだよ」

 

 フジキセキがそう言うと、バロンは口に含んでいた角砂糖を噛み砕き、一気に飲み込んだ。

 

「──ルドルフが?」

 

「やっと話してくれたね。そうだよ。ルドルフのおかげなんだ」

 

「……ルドルフは……何処だ?」

 

「……君は、本当に走ることが好きなんだね。ルドルフなら生徒会室にいると思うよ。後で挨拶に行ってみるといい」

 

「……」

 

 バロンは手荷物を部屋に置くと、そのまま立ち去って行った。フジキセキはその後ろ姿を見送った。

 

「……ルドルフを差したって話。嘘じゃなさそうだな」

 

 フジキセキは、新たな強敵との出逢いにウマ娘として喜びを感じていた。無論、バロンも。

 

 栗東寮入口。

 

「お……終わったか、バロン」

 

 無言で頷くバロン。

 

「悪いが俺もこの後、トレーナー寮に荷物を置きに行かなきゃいけないんだ。ついてくるか?」

 

「……」

 

 無言で歩き出すバロン。

 

「こっちだ」

 

 トレーナー寮へ案内する鉄。

 

 二人がしばらく歩いていると、一人の男とすれ違った。左側頭部を刈り上げた特徴的な髪型の男だ。

 

「……あれ」

 

 すれ違った後、互いに振り向く鉄と男。

 

「あ……」

 

 二人して声を上げた。

 

「鉄ちゃん《てっちゃん》!?」

 

「沖野……!?」

 

 二人は駆け寄ると熱く握手をし、再会を喜んだ。

 

「なんだよ鉄ちゃんも出戻りかよ!」

 

 この男は鉄と同じ中央トレーナー、沖野。笑いながら鉄の肩を叩く沖野。

 

「お前こそ!いつから中央に戻ってたんだ!?」

 

 鉄も驚きつつも笑顔で話す。旧友との思わぬ再会に喜ぶ二人。

 

「俺も色々あってさ……今は“スピカ”ってチームを受け持ってるよ」

 

 頬をかきながら恥ずかしそうに話す沖野。

 

「チーム“スピカ”って……あの“帝王”がいたチームじゃねえか……!?それに“日本総大将”に“お祭りウマ娘”まで……出世したな、沖野」

 

 友の出世を心から喜ぶ鉄。

 

「……鉄ちゃん“帝王”は……まだスピカを辞めちゃいねぇさ。それにさ、俺だってニュースとかに名前くらいは出てたんだぜ。知らなかったのか?」

 

 沖野は冗談のように言う。しかし、その顔は少し複雑そうだった。

 

「悪い……テレビとか、そういうネットニュースとか、俺全然疎くてよ……ここ2年間は、カワサキのことで頭がいっぱいだった」

 

 鉄も照れながら話す。

 

「で、今度はこの子と舞い戻ってきたってわけか」

 

 バロンを興味深そうに見ながら話す沖野。

 

「ああ……俺は地方で細々とトレーナーやってたんだけどな……今はコイツと手を組んで、テッペンを目指してる」

 

「そっか……また一緒に頑張ろうぜ、鉄ちゃん」

 

「ああ……!」

 

 再び熱い握手を交わす二人。

 

「──所で、いい〜トモをしているな。一回り何cmあるんだ?これだけ太ければスプリンターとして……」

 

 突如、バロンの前にしゃがみこみ、その脚に触ろうとする沖野。いやらしい目的ではなくこれは彼の癖であり、優秀なウマ娘を見るとやらずにはいられないのだ。

 

「ば……馬鹿!よせっ……!!」

 

 慌てて沖野を止めようとした鉄。しかし、もう遅かった。

 

「……」

 

 バロンは、無表情で沖野の顔面を蹴り飛ばした。

 

「ぶふぉ!?」

 

「沖野!!」

 

 吹っ飛ばされた沖野を、心配そうに見つめる鉄。

 

「お前……ちっとも変わってねぇな!大丈夫か?」

 

「だ……大丈夫大丈夫。慣れてるから……」

 

 すぐに立ち上がる沖野。驚いたことに、怪我はなさそうだ。

 

「ふぅ、おかげで目が覚めたよ……鉄ちゃん、俺、いつものバーにいるからさ。気が向いたら顔出せよな」

 

「……わかった。ありがとう沖野」

 

 沖野は、爽やかに去っていった。

 

「──痴漢だ」

 

 不服そうにつぶやくバロン。

 

「まあそう言うなって……良いやつなんだよ」

 

 二人はそのままトレーナー寮に向かった。

 

 トレーナー寮。

 

 バロンが一人、入口の前に立ち尽くしている。

 

「待たせたな、バロン」

 

 荷物を置いてきた鉄。

 

「よし、行くか」

 

「……」

 

 鉄の後に続くバロン。しかし、バロンのお腹が大きく鳴った。

 

「……」

 

 無言のバロン。

 

「腹減ったか?じゃあまずは食堂から行こうな。あそこに行けば、いつでも腹いっぱい食べられるぞ」

 

「……」

 

 バロンは無言だが、耳を震わせていた。喜んでいるようだ。

 

 食堂。

 

 食堂は朝食をとるウマ娘たちで賑わっていた。朝食の乗ったトレイを手に、空いている席を探す鉄。しかし混雑していて中々見つからない。

 

「どうするか……仕方ねえ。相席を頼むか」

 

「……」

 

 バロンの手には山盛りの朝食が乗ったトレイがあった。

 

 すると、そのバロン以上に山盛りの朝食を食べているウマ娘が居た。そのウマ娘以外には、テーブルには誰も座っていない。

 

 あまりの量に、あぜんとしている鉄。

 

 すると、そのウマ娘が鉄とバロンに気づいた。

 

「……少し待っていてくれ」

 

 そう言うと、凄まじい速さで大皿三枚分ほどの料理を平らげ、皿を重ねてスペースを作ってくれた。

 

「どうぞ」

 

 そのウマ娘は快く同席を許してくれた。

 

「あ、ああ……どうも」

 

 その異次元なまでの食いっぷりに驚く鉄。バロンは無言だが、そのウマ娘に視線を向けていた。すると、バロンはにわかに口を開いた。

 

「──お前が……オグリキャップか」

 

「?……そうだが」

 

「……」

 

 オグリを睨むバロン。するとオグリは、無言でバロンに自分の皿を差し出してくれた。

 

「そうか……君もこのニンジンハンバーグを食べたかったんだな」

 

 見守っているしかない鉄。

 

「……」

 

 すると、バロンは素直にその皿を受け取り、自分の前に置くと席についた。鉄もほっとした様子で席につく。

 

「初めて見る顔だな……もしや、転入生か?」

 

 わくわくとしながらバロンへ視線を送るオグリ。

 

「……」

 

 だが、バロンは答えず、黙々と食事をしていた。

 

「そうなんだ。今日からこのトレセン学園に世話になる、バロンイーストって言うんだ。俺はトレーナーの鉄。よろしくな、オグリキャップさん」

 

「私を知っているのか」

 

「知らないやつなんていないでしょうよ……」

 

 オグリの抜け具合に、少し呆れながら話す鉄。

 

「バロンイースト……聞いたことがある。タマが教えてくれたな。ルドルフを倒したウマ娘がいると──」

 

 すると、オグリとバロンの間に、目に見えぬ威圧感のようなものが生じた。

 

「近いうち……一緒に走ろう。バロンイースト」

 

「──お前は、ルドルフより遅いのだろう?」

 

 バロンの一言に、その場の空気が凍りつく。

 

「わからないな……私とルドルフは走ったことがない。君が羨ましい」

 

 しかし、挑発的なバロンの発言には乗らず食事を続けるオグリ。

 

「……」

 

 視線で応えるバロン。鉄は二人の様子を観察しながら、食事を続けた。

 

(しかし……考えてみりゃ、あのオグリキャップを相手に、怯むどころかケンカを売ってやがる……大したやつだぜ全く)

 

 鉄は内心ひやひやしながら、ニンジンを頬張った。

 

 その後、三人は仲良く食事を終えると解散した。




オグリキャップ。
地方、カサマツレース場の出身で、実力一つで中央にのし上がった“芦毛の怪物”。
普段はのんびりとした性格をしており、何よりも三度の飯が好き。何なら一日に五食以上とることもある。
しかし、レースとなると真剣そのもので、レース中の激しい彼女を知る者からは、“シンデレラグレイ”とも呼ばれる。
学園内の大食いイベントに度々出演してはファンを沸かせている。
街中の大食い飲食店からは軒並み出禁を言い渡されている。にもかかわらず、タマモクロスと名乗り度々忍びこもうとするが、すぐにバレてつまみ出されている。
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