グレイテスト・サマー!   作:おにぎり食べたい

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残った僕たち

 

 ガチャと後部座席の扉を開ける音がして、バックミラー越しに後部座席のほうに視線を送る。

 

「よっ、待たせた?」朗らかな様子で乗り込み、車の扉を閉める。

 

 軽やかな口調なのに、どこか落ち着いていないような、そんな感じでスマホを取り出す。

 

「約束時間から一時間待つぐらい余裕ですよ。車、出しますね」

 

 エンジンをかける。

 車が身震いし始めたと同時、後部座席にいた五条がスマホから視線を外し、私の方を見る。

 

「なーんで、敬語のわけ」彼は語尾を強く発音した。

 

「いや、なんか昔のこと思い出したというのもあるんだけど、そういえば私は補助監督で五条くんは呪術師だし。だからそういう上下関係みたいなのは大事にしなきゃなって」

 

 軽快なハンドル捌きで車を新宿方面へと向かう。

 雨はもう止み、雲の間からは太陽が見えていた。

 

「上下関係の前に、僕たちは友達関係でしょ」何気なく彼は頭を掻いて、スマホに視線を落とした。

 

「チッ、伊地知が電話に出ないんだけど」

「ダメだよ、あんまり伊地知くんいじめたら、ストレスで死んじゃうよ」

 

 確かに伊地知は五条のストレスでいつも死にそうな顔をしていた。それを遊んでいるのか分からないけど、五条はよく伊地知に絡んでいる。

 ポイッとスマホを投げ出す音が後ろの方でする。どうやら電話をかけるのを諦めたようだ。

 

「なんで昔のこと思い出してたの」

「理由なんてないよ。なんとなく」

「ホントの本当になんとなく?」彼はなぜか念を押すように聞いてきたので、私は眉尾を下げた。

 

「強いて言うなら、乙骨くんで思い出したかも」

「そういえば、カオルが高専やってきたのも憂太と似たような理由だったね」

 

 私は困った様子で頭を搔く。

 

「夜蛾先生には保護っていう名目で高専に来るよう勧められたんだけどね」

「保護なんて体のいい言葉でしょ。実際のところ監視だったし」

 

 彼は長い足を組んで、窓の外を眺めている。

 

「地方の田舎で特級仮想怨霊に憑かれるなんて、災難すぎでしょ」言葉の端々に嘲笑とも取れる響きを感じて、肩をすくめる。

 

「わざとじゃない」

「わざと憑かれる人間なんて居ないって。でも、まあ良かったんじゃない」

 

 信号は赤になり、緩やかにブレーキをかける。バックミラー越しに五条の方を見た。彼は外を眺めている。

 

「良かったって何が?」

「そのおかげで僕たち知り合えたわけだし」驚くほど明るい口調に口角が上がる。

 

 彼は“知り合えた”という言葉を強く発音した。もっとも重要であるといったふうに。

 

「そういえばさあ、あん時のこと覚えてる?」

 

 バックミラーを見ると白い布を巻いた五条と、多分、目が合った。

 

「いやほら、初めてカオルが高専にきた日のこと────覚えてない?」

「忘れるわけないでしょ。あの時ほんと最悪な第一印象だったからね。五条くんも……」

 

 私は口を噤んだ。

 

「傑も?」

 

 口を噤んだ私とは対照的に五条はすんなりとその名前を言ってみせ、座席に体を預けている。

 

「そう夏油くんもだね」車を走らせ、高専に向かう。

 

 ちょうど何年か前の私も夜蛾先生の運転で高専に向かった。あのころは呪霊なんて信じてなかったし、早くネタばらしをして欲しいぐらいの気持ちで高専に行った。

 

「ちょっとちょっと、どこ向かってるの?」軽やかな声色に頭を傾げる。

「高専だけど」

「いやいやいや、仕事のあとの締めにパフェ行くっしょ」

「いつものところ?」

「そう、いつもの喫茶店“アムール”」と彼は声高に言った。

「五条くんの奢りなら行ってもいいけど」

 

 そういうと次に五条は口を尖らせた。

 

「そういうところは相変わらず、強かだよねカオル」

「おかげさまでね」

 

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