“えっと、それはどういう…?”
「いやぁ〜・・・ちょっと不思議に思っちゃって?」
それはつまり、なんというか…
あれだ、私に喋れと言っているのだな!?
いや喋る事に対して拒否しているとかじゃなくて、う〜ん…なんて言えば良いんだろうか…
…うん、言葉にしづらいような感情だから一先ずホシノの話を聞く事にしよう。
「『アビドスの見学』として来てるなら別にそんな事を聞く必要はないんだけど、ヒノちゃんはシャーレの生徒として先生に着いて来てるじゃん?」
「なのにおじさんの目線からだと『シャーレの生徒』として行動してるようには見えないなぁ…って」
…なるほど、うん、よく理解出来た。
言うならば、ずっと目を背けてきた問題を自身の目の前に突き付けられたような状況だ。
『どうして先生に着いて来ているのか』
改めてそう聞かれると、返答に困ってしまう。
私はどうして先生に着いて来ているのか、キヴォトスに来たから成り行きで着いて来ているのか?
否、私の知っている原作のバッドエンドを避けるために先生のサポートをしようと決意して先生の下を訪れシャーレへと所属した筈だ。
じゃあ、それが答えになるのだろうか?
それはあまりにも傲慢が過ぎるだろう、正直な話今の私は何も為す事が出来ていない。
私がコミュ症だから上手く行っていない?
それはただの言い訳だろう、雑魚の思考ってヤツだ。
喋れないなら喋れないなりに頑張り方はある、努力の方向性なんて探せばいくらでも見つかる筈だ。
なのに私はやっていない、なのに私は行動しない。
私は何も出来ない、私は力を持っていない。
それ自体が自分自身に言い聞かせているだけの言い訳であり私が自分から行動しないための理由を探した結果の大義名分に過ぎないんだろう。
物語に直接関われるような立場にいながら、自分から直接物語を動かそうとはしない。
偉そうに物を言うだけの指示厨と同じだ。
「………」
正直に言おう、私は逃げているだけだ。
『先生』という物語の主人公がいる事を知っているから、自分では何も行動しようとしない。
自分のせいで本来だったら上手くいく筈だったその場面を悪い方向に進めるような真似をしたくない。
言うならば、責任を取りたくなかったのだ。
…なんて、こうやって言い訳を並べている時点で私は逃げる気満々なんだろうなぁ…
私はなんというか、優柔不断だからさ。
現実逃避してばかりで、自分が決めた事だってなんとな〜く実行する事しか出来ない。
こういうお硬い話をする事自体、私にはあんまり合ってないのかもしれないね。
だからと言って逃げて良い理由にはならないんだけどさ、うぬぁあああああ…なんて言うべきか…
“ヒノ”
えっ、ハイ、なんでしょう。
いや、あの、すいません、ホシノの言葉を無視してるとかそういう訳ではなくてですね?
今心の中で必死に『お前のミスでした』してる部分を振り返ってみているっていうか…
あっ、また言い訳してる!!反省しろ私!!
すぐにそうやって自分に都合の良い逃げ場を作ろうとする癖を治せ!!マジで!!
“君にもしも何か思う事があるんだったら、私はその意見を尊重するよ”
…うん、ぁ〜・・・いや、そうだね。
このキヴォトスが私の知っている『ブルーアーカイブ』と同じ道を進んでいるんだとしたら、この後バイト帰りのセリカはなんやかんやあって誘拐される。
だけど私の知る限りではセリカは先生達の手によって救出されるし、別に私が何もしなかったとしてもきっと正しい道へと進んでいくんだろう…
だけど、そういう事じゃないじゃん!!
キヴォトスに転生して、原作知識を持っていて…
そんな状況でさ、完全無欠のハッピーエンドを目指そうって決めたのは他ならぬ私自身じゃん!?
今この瞬間をみすみすと見過ごしてさ、ソレが私が目指そうと思った道なのかっていう話よ。
“大事な事は言葉にして口に出してみないと、きっと前には進めないから”
「………」
ここまでお膳立てされたんだ、先生の言う通り私だって向き合うべきだろう。
前に進まなければ何も始まらない、言い訳してばかりじゃ何も得られない。
そうだ、いつまでも逃げてばかりじゃいけないんだ、そもそもブルーアーカイブっていうゲームはその事を教えてくれたんじゃないか…
覚悟を決めろ、自分の問題に向き合え。
覚悟は良いか?因みに私は出来てない。
出来てないけど、やらなきゃいけない。
「私は」
息が詰まる、言葉が出てこない。
冷静に考えればそりゃそうだろう、普段は全くと言って良い程に喋らないんだからこんな咄嗟にスラスラと言葉が出てくる筈がない。
だけど、今はそんな事を言っている場合じゃない。
どうにか頭をフル回転させて言葉を探す、周りからの視線を意識してたら精神が持たないので今は周りの事を意識しないようにする。
「私は、先生を尊敬している」
“えっ、私?”
「うへぇ〜?先生、良かったじゃ〜ん?」
私は、先生みたいにはなれない。
これはシナシナのヒナ的な弱音ではなく、これからも揺らぐ事のない事実だろう。
私が私である限り、私という人間の内面が根本から変わりでもしない限り…
私は、彼のような『責任を負う者』として立派な大人になる事は出来ないのだろう。
そんな私が今出来る事、そんな私が今しなければいけない事。
「だから、貴方の手助けをしたい」
自分を卑下するとか、過小評価するとか。
そういう以前の問題に、私一人でどうこう出来る程にキヴォトスという場所は甘くはない。
私は主人公じゃない、私は主人公足り得ない。
それでも私は『物語の登場人物』にはなれる、物語に関与する事は出来る。
ならば、私に出来る最大限は『主人公』の行く道を出来る限りサポートする事だろう。
「ふぅ〜ん…それで?」
うん、ごめん、そんな目で見ないで。
…怯むな、怯んじゃ…やっぱ怯むって、何処となく敵意を向けられてるんじゃないかって錯覚するレベルで視線の鋭さが凄いって。
だけど本題はこれからなんだ、やりきった感を勝手に出してはいるが私が彼女達に本当に伝えなければならない事はここからの話なんだ。
「お願い」
言葉足らずだという事は承知している、私に語彙力なんてものはないしそもそもコミュニケーション力が欠如しているんだから。
それでも絶対に伝えなければいけない言葉は抜けないように、一番重要と言っても過言ではないその部分だけは絶対に伝えられるように。
傍から見れば変わらないであろう表情と裏腹に、速くなっていく心臓の鼓動。
全くと言って良い程に出てこない言葉とは裏腹に、悲鳴を上げ続ける私の心。
逃げ出したいと訴えかけてくる自分に対して精一杯の虚勢を張り、今の私に出来る先生達に対しての精一杯の行動を言葉に起こす。
「私に、着いて来てほしい」