えっちらほっちらほいさっさ、走る道中でアルとハルカと合流出来たのは我ながら運が良かった。
かくかくしかじか察してくだされ、それで納得してもらえたお陰で強力な助っ人さんを手に入れる事が出来たのだから。
それでも汗が、運動による汗とは別に冷や汗が止まらないのにはしっかりとした理由があった。
「どうして、便利屋の皆さんが…?」
「ここで気の利いた台詞でも言えれば良いのだけれど、残念ながらそんな余裕は今の私達にはないわね」
私の知る“対策委員会編”よりも、戦力が少ないのだ。
「戦闘に集中しなさいアビドス、助けが来たからってこの場を乗り切るのは至難の業よ」
理由は単純明快至極当然、アビドス校内でセリカ達がまだ交戦を行っているから。
正史…で良いのかな、私の知るブルアカではアビドスに乗り込んできたカイザーの面々は先生率いるアビドス生徒達が順番に順番に処理してた記憶がある。
しかしそうはならなかった、そうはならなかったんだよ…
主に私の影響だろうね!!ごめんね!!
「アルの言う通り、詳しい事は後」
「お前達、飼い犬の分際でよくも…!!」
私の勝手な心配として、ただの杞憂として、この場を切り抜けられるのならそれに越した事はない。
ただ『私のせいでこの場が崩壊する』なんて状況が起きてしまったら、想像したくないね…
そんな訳で激焦り中の私でございます、自業自得と言えばその通りなんだけど!!
「………」
“ヒノ”
えっ、ぁっ、そのっ、なんっ、なんでしょうか!?
“その手に、持っているのは…”
私の右手に握り締められたモノ、私が左手で抱え込んでいるモノ。
道中のいざこざが険し過ぎて少し皺が付いてしまった退部届と手紙、カバン型に折り畳まれた結構な重量の盾。
ホシノが残していった、ホシノから預かった物。
言葉に込められた意味をなんとなく察して、右手に握っていたソレらを先生に手渡す。
“………”
先生は黙って封を切ると、目に見えて分かる程に顔を顰めた。
当然ながら指揮は止めない、それでいて真剣に手紙を読み進める。
随分器用な事をする、マルチタスクは得意技と言わんばかりの行動に感嘆しちゃうね。
“ヒノ”
…頼むから急に名前を呼ばないでほしい、私みたいなコミュ症は意識してない時に名前を呼ばれると…
“ホシノは、なんて言ってた?”
「………」
ひとたびその言葉を口に出せば、先程までの表情はまるで嘘のように。
満面の笑みを此方に向けると振り返り、戦闘なんざお構い無しといった様子で前へ出る。
ちょうどアビドスと便利屋の皆がカイザーの一般兵を相当数蹴散らし、立て直しに時間が掛かりそうな状況。
顔を見ればすぐに分かるくらい狼狽したカイザー理事に対し、先生は堂々と啖呵を切る。
「ッ!!貴様、ノコノコと前に…」
“よくも私の大切な生徒を、傷付けてくれたね…”
怒りがあるのだろう、不甲斐無さがあるのだろう。
それらを全て飲み込んで、苦しんでいるのは自分じゃないんだと。
そう、ただ淡々と言葉を放つ。
“ホシノの事、返してもらうよ”
「…ふざけるな!!先生、貴様にそんな権利が…」
人間という生き物は、一度激昂した後の方が冷静になれるとかなれないとか。
カイザー理事含むキヴォトスのメカ住民達が人間かって話はさておき、怒りを露わに大声を出した理事は急に黙り込む。
そして、その機械の顔で笑みを浮かべた。
まるで何かを思い出したかのように、新しい遊びを与えられた子供のように。
「…理事?どうされましたか?」
「いや、いや…」
通信機的な何かを取り出すと、何やらボソボソと言葉を交わす。
その行動を咎めるか?否、何をしようとしているのか分からない以上は此方側から手を出す事は出来ない。
尤も私は彼が何をしようとしているのか、その大まかな予想が付いていたのだが。
「そうだな、そうすれば良かったんだ」
轟音と共に上がる砂埃、僅かに遅れて伝わる衝撃。
私達に限らず、カイザーの者も各々の反応をする中で現れたのは…
「私直々に“潰す”…!!」
ゴリアテ、しかもカイザーの専用機と思われるモノ。
「ん、やれるものなら…」
「やってみなさい!!」
しかし今更その程度で怯む筈もない、既に彼女達の決意は固まっている。
“行くよ!!”
先生の一言で戦意を更に向上させ、一直線に向かっていく。
そんな勇敢な少女達の後ろに隠れて、私は…
◇◇◇
「あくまで冷静、なのですね」
アビドスが襲撃される様をあからさまに見せられても、小鳥遊ホシノは冷静だった。
無反応だったという訳ではない、何度も何度も黒服に対して敵意を向けた。
だがそれでも、その場で耐えきれず激情するような事はしなかった。
「…私はいつでもお前に楯突くと、そういう意思を見せておこうと思って」
それは既に知っていたから、こうなる事を察していたから。
例の彼女から聞かされた言葉によって、こうなる事を理解していたからだろう。
それでも、と押し通した結果がこれである。
彼女自身からすれば実に不甲斐ない、馬鹿馬鹿しい話だろう。
「えぇ、私個人としては実に良い判断だと思います」
そんな彼女は全身を拘束され、監禁状態と化していた。
先程の言葉を最後に黒服は姿を消した、静寂の走るこの部屋に残るのは彼女一人のみ。
こんな状況に置かれれば、よっぽど“強い”人間でもない限りは少しばかりセンチメンタルになってしまう。
彼女とてそれは例外ではない、最初から最後まで己の過ちを理解していたからこそ余計にそれが顕著だった。
「…まぁ、あれだけ忠告されてたもんね…」
この世界の外から来たと言う、未来を知る少女。
不審な点や理解出来ない点が多くあったものの、彼女からこの行動は悪手だと聞かされていた。
先生だってそうだ、あれだけ念を込めて『信じてほしい』と。
あんなに真剣に『頼ってほしい』と言っていた。
その手を跳ね除けたのは、何者でもなくホシノ自身による判断だったから。
「また、間違えちゃったな」
結果論だった、信じ切れなかったのが悪かった。
最初から素直に助けを求めていれば、最後までしっかりと頼っていれば。
貫くにしては中途半端だった、何もかも。
彼女自身はそう思っているが、実際にそれが出来る者というのは数えるほどしかいないだろう。
最善を語ったところで虚しくなるだけで、やれる事はやったと適度に自分を認めなければならない。
「………」
しかしそれで納得出来るかと聞かれれば、彼女はそういう人間ではなかった。
脳裏に浮かぶのはアビドスの生徒の姿。
ノノミ、シロコ、セリカ、アヤネ…
今もなお記憶に焼き付いて離れない、梔子ユメ。
「騙された、なんて言葉は言えない」
最初から分かっていた事だ、また勝手な行動をして。
こうして過ぎた後悔を、全てが終わった後にする。
文句を言える立場じゃなかった、文句を言われるべき立場だった。
今のホシノに出来る事は、待つ事だけ。
「ごめんね」
希望は捨てない、それが最後まで出来る抵抗で。
最後の最後でようやく出来る、頼るという行為だったから。