暫く先まで能力の“模範解答”が出てくる事はないので、気長に予想していきましょう。
尻拭いくらいは、出来たんじゃないかなぁ…
そんな事を思いながら、明らかに曲がっちゃいけない方向に曲がっている腕を顔の手前に持ってくる。
緊張と意地で無理矢理凝り固めた表情筋が一気に役目を果たさなくなった気がする、絶対に他人に見られたくない顔をしている。
ほんの少しだけ、ほんの少しだけで良いから私がキャラを作り直せるだけの時間が欲しい。
だから、だから一つだけお願いがあって…
「だ、大丈夫ですか…?」
頼むんで顔を覗き込まないでくださいハルカさん…私を回収してくれた事は感謝してるんで…
心配してくれてるのは分かるんだけど、今の私にはそれが追撃になってるというか。
正直色んなところ痛すぎて、気抜いた瞬間に涙出ちゃうんじゃないかってレベルで色々限界なの…
「………」
…まぁ、閑話休題というかそれはそれとして。
精神的な話じゃない、厄介な問題が浮上してきた。
さっき私は、一体何をしたのかという事だ。
いや何をしたかは理解してるし自覚してるんだけど、何がどうなってああなったかっていう…
ああもうっ!!説明が下手くそっ!!
私は確かに足を踏み出した、私は確かに盾を構えた、私は確かに盾を片手に突っ込んだ。
自分がどんな行動を取ったのかは自覚出来てるし、無意識下ではない意識してやった自分の意思による行動。
それは良い、別に良い、頑張ったんじゃないかな私…
まあそうじゃなくて、出来たのがまずいわけで。
私の、というかヒノとしてキヴォトスに生まれ落ちたこの身体は意味が分からない程に貧弱。
普通の人間よりはまだマシな気がするけど、そこまでの差がないくらいには残念スペック。
体力などに関しては、一般人よりも数段階下。
あの状況でビームが放たれたのを確認してからシロコの前に割り込むなんて、私の身体スペックじゃ出来なかった筈。
そもそも盾自体が優れていたとしても、私の腕力と脚力でビームを防ぎ切れる筈がない。
最後の見様見真似救護アタックとか…アレに関しては何?何がどうなってああなったの?
「…はぁ…」
ご都合主義の神秘パワーと考えたら気が楽だけれど、私は神秘の扱い以前に神秘が何なのかよく分かっていない。
自分にどれだけの神秘があるのかを実感する事も出来ないし、コントロールなんて以ての外。
普段のスペックを考えると、ホシノやヒナのように優れた神秘を持ってるって感じでも無さそうだし…
いや分かる訳がないよね、自分の事とは言えど私がこの姿になってからまだ日が浅いし…
でもだからって放り投げるのもアレな気がするし…何か仮説的なモノを…立てた方が…
参ったな、思った以上に無理してたっぽい…
…難しい事を考えてたら、なんだか眠く…
「ん、ん、ん」
…痛っ、ちょっ、割とマジで痛い、やめてっ!!
私心身共にボッロボロだからぶたないで、やめてちょうだいシロコ!!
なんで叩くの!?どうして!?ナンデ!?
私自分がやるべき事はちゃんとやったと思うよ…!?
無茶しすぎてもう立つ事すら出来ないし…ふふ、ままならないね。
「毎度毎度意識を失ってないで、たまには事の顛末を知る事も大切だと思う」
…お叱りの言葉を受けてしまった…
「ほら、肩は貸すから」
正直な事を言うなら体調も体力も既に限界値超えてるし、叩き起こされたからとは言え意識が保てる状況ではない。
それでも今回は無責任に倒れてられない、私は最後まで見守るべきだ。
自分の手で物語の歯車を狂わせるという責任に対して、自分なりのケジメを付けるために。
「理事、傷が…!!すぐに治療を…」
「良い、後にしろ!!一時退却だ!!」
再起不能となったゴリアテから這い出てきたカイザーPMC理事、その身体にはまあまあな損傷。
でも私の方がボロボロだもんね!!がはは!!
うん、張り合う所じゃない、とにかく怪我をしていた。
「覚えておけ、この代償は高く付くぞ…」
私達がした行動は相手がいくら道徳心皆無で不条理な事をしていたとはいえ、完全な正義とは言えない行い。
ソレによって恨まれる事に対して正当な理由で言い返す事は出来ないし、適当な理由で受け流す事も出来ない。
それはあくまで、
「負けた犬ほどよく吠えるわね、飼い犬に腕を噛みちぎられた気持ちはどう?」
つまり正義でも何でもない
いやまぁ、ぶっちゃけ誰がどう聞いても負け犬の遠吠えにしか聞こえないセリフだったけどね。
テンプレのままの悪役セリフだった、ある意味でブラボー。
「…くっ…!!」
挑発じみたアルの返答だったが、理事はあくまで顔を顰めて素直に撤退する選択肢を選んだ。
此方の戦力がほぼ全員満身創痍なのに対して、また相手方も甚大な損害を受けていたから。
これ以上続けるのは、利益よりも損害の方が上回るという事を理解しているのだろう。
なんでこういうところは判断出来るのにすぐキレるんだろうね、カイザーPMC理事って。
「敵兵力、撤退していきます…」
ゾロゾロと列を成して一斉に去り行くカイザーの兵士達、こう集まられるとその人数がいかに異常だったかがよく分かる。
便利屋、風紀委員ときて今回はカイザーと来たもんだ…
他人事みたいな感想になっちゃうけど、アビドスも色々と不憫な目にばかりあってるなぁ…
「『覚えておけ』だって、正に三流悪党の台詞」
「し、シロコ先輩…」
私の事を肩にぶら下げるかのように運ぶシロコが、そう言いながら鼻で笑った。
さっきまであんな事があったのによくそのメンタルでいれるものだ、誉高きその精神…
少しは引き摺っていても不思議じゃないと思っていた、そこはまあキヴォトス人と一般人の感性の違いか。
“私の力不足だった、ごめん”
そんなシロコ達が“無理している”ように見えたのか、先生はそう言い頭を下げる。
いや、無理をしている、本心ではあるだろうが明らかに無理に明るく振る舞っているように見えるから。
…ホシノの状況を知ったんだから、そりゃあ当然か。
それでも全員取り乱す事がない辺り、やっぱり強い子達なんだなぁ…って思ったり。
セリカだって私の持ち物を見て明らかに察してたのに、そこで普段のようにキレたり…
“…取り敢えず、一度みんな帰ろ…”
「あ」
いけない、マジでいけない、本気で忘れてた。
「ヒノさん、どうかしたんですか〜?」
「セリカ達、まだ学校」
あれだけ助けられた癖に、私を此処に送り出してくれた彼女達の事が記憶から抜け落ちていた。
「…完っ全に頭から抜けてたわ!!ムツキ!!カヨコーッ!!」
「ぁ、アル様ぁ…!!」
その言葉を聞くまで彼女も同様に忘れていたらしく、焦った様子でアビドスへと走り出すアル。
それに着いて行くハルカ、まあカイザーは撤退したから恐らくは大丈夫だと思うけど…
何かあったら心配である、信じてはいるがそれとこれとは話が別と言いますか?
「…じゃ、行こっか」
苦笑い、という言葉がよく似合う表情を浮かべたシロコに引き摺られるがままに。
アビドスの校舎へと“帰る”私達であった。