例の襲撃から、数時間が経過した。
心配してたセリカ達に関しては撤退以前に、普通に正面からカイザーを叩きのめしていたらしい。
解せぬって感じ、無事なのに越した事はないけど…
なんだかんだみんな強いのである、そう、強い、戦闘力インフレ生徒達のせいで感覚がバグってるだけで強いのだ。
先生は今ホシノの居場所を特定するために職員室に一人で籠ってる、生徒のみんなはソレを待って待機中。
そんな中で私は、屋上に佇んでいる。
あいあむぼっち、やっぱり一人が至高だよね…
とか言いつつも、別に家族や友人と過ごす時間が嫌いだった記憶はない。
そもそも友人が少なかったっていう話は触れないでくれると助かる、信頼出来る友人が数人いれば良いんだし〜!?
私が何をしているかと言えば頭を冷やすためというか、考え事のために外に出てきたんだけど…
まあ正直、考えて分かるような事でもなかったな。
そんな気付きを得て苦笑していた時に、背後から扉が開く音がした。
何奴ッ!!まあ振り返らなくても予想は付くけど…
「ん、生きてる?」
シロコである、シロッコではない、ぶぉなせーら…
開口一言目がとんでもなく物騒だったのは聞かなかった事にしておく、私が脆いのが悪いのだから…
流石に何もないのに急にぶっ倒れる程の脆弱さじゃないから、そこは勘違いしないでほしいぜっ!!
まあ全身筋肉痛で悲鳴上げてるけどね、この程度の痛みは正直動かない肌じゃないからもーまんたい…
…そう言えば明らかにダメな曲がり方してた腕も既に治りかけてるな、神秘パワーって事で良いのか…?
先程と同じで考えても答えが出る気がしないので、一旦この問題は保留にするとして。
「甘い物、苦手じゃないよね」
シロコの両手には、自販機で売っているような缶入りのココア。
その片方を私の方へと差し出し、そう尋ねてくる。
「うん」
飲食において嫌いな物はあんまりない、あんまり。
ココアだって好きだ、積極的に飲まないと言うだけで見かけたらちょっと手を出す程度には好きだ。
今の私は先生に“保険”として渡されている僅かなお金を除けばほぼ無一文の素寒貧なのだが…
まあこうやって差し出して来てくれたという事は彼女の奢りなのだろう、折角なのでありがたく受け取…熱っ!!アッツ!!
「今日はありがとう、助けられた」
私の横で柵から身を乗り出し、空を眺めるシロコ。
その横でバレないように悶えながら、右手へ左手へとココアを一人リレーしている私。
良い感じの雰囲気が台無しである、情けない奴!
流石にどうしようもないので、服の袖で包むようにして一時的にココアを避難させる。
話にならないんだもん、言葉の通り。
軌道修正入りまーす!!真面目パート入ります!!
私はシロコを助けた、結果としてそうなっただけ。
前提としてあの場面でシロコがピンチに陥ったのが、私のせいという可能性がある。
私がいなくても起こり得た事だったかもしれないが、それを証明する術は誰も持っていない。
私にとってあの行動は“尻拭い”である、過度な謙遜はいけないが鼻を高くしすぎるのもまたいけない。
「別に、大した事じゃない」
私が割り込まずとも、先生が行動を起こしていたかもしれない。
私が割り込まずとも、アルやハルカが庇っていたかもしれない。
私が割り込まずとも、シロコ自身が対応していたかもしれない。
というのは全て仮説であって、実際のところはあり得たかもしれないフィクションの話でしかないのだが。
“ブルーアーカイブ”という物語を知っている以上、私は他の誰よりもそう思ってしまう。
あれは果たして最善の行動だったのか、と。
散々行ってきた失敗の中に一筋の成功があったとしても、私という存在がなければ最初から全て上手くいっていた事なんじゃなかろうかと。
んあーっ!!真面目な話をし始めるとすぐこうやって悪い方向へと考えが至ってしまう!!
うぅ。。。鬱。。。って程でもないけど、一旦考えをリセットしないとコレは…
「ううん、大した事だったよ」
一言、何気なく発せられた言葉。
「僅かな距離でも、短い時間でも」
やけに実感の籠ったような声色で、どこか悲観の籠ったような声色で。
「一歩でも踏み出す事が出来れば、それで上々」
彼女はそう言った、“彼女”と私を重ねるように。
彼女はそう言った、“彼女”と私を比べるように。
静寂が訪れる、数分間は黙っていただろうか。
気まずさを感じ始め、ようやく私の素手でも持てるくらいの熱さになったココアのプルタブを開けたタイミングで再び彼女が口を開く。
「あの後に手紙、みんなで読んだよ」
私は黙ってその言葉を聞く、口元に運んだソレをちびちびと傾けながら。
「変なところで改まってたし、何回も何回も謝罪の言葉が書いてあった」
わざとらしい大きな溜息、呆れた様子。
それでいて、やり場のない感情を吐き出すように。
「ホシノ先輩、何も分かってない」
それは愚痴だった、それは弱音だった。
ずっとずっと抱き続けていた、彼女の本音だった。
「これは後輩の私がしっかりお説教するべき、先生と一緒に叱ってあげないと」
普段より下がり気味になっていた眉を上げると、ふんすと彼女は意気込んだ。
後輩の過ちを正すのは先輩の役割だが、先輩の過ちを正すのもまた後輩の役割だと。
大人に頼る事も覚えはしたが、それとこれとは話が別だと。
「そのためにも、笑顔で助け出してあげないとね」
彼女は笑った、今の自分達が置かれている状況は良いとは言えないのに。
決して笑い事ではない状況の中で、それでもなお彼女は笑顔を保ち続けた。
後腐れのないように、後悔なんてしないように。
せめて、最初から最後まで笑っていろと。
「………」
「もちろん、貴方も一緒に」
どこまでも純粋で、どこまでも真っ直ぐ。
今まで見てきた濁りから目を背けるわけでもなく、あくまで向き合い続ける者の瞳。
望み願うのではない、最初から見えているのは自分の手で掴み取る希望だけだと。
私を見ていた、彼女の瞳は私を。
「…ありがとう…」
「ん、どういたしまして」
感謝の言葉に対しての正しい解答をしたシロコは、飲み終わったココアの缶を片手で潰す。
それを持って屋上から出る扉の前まで移動し、最後にこう言い残して姿を消した。
「私は先に戻ってるから、身体を冷やさないように」
…よし、シリアスムードは終わり!!
私ってばこういう雰囲気には慣れてないし、やっぱり明るく気さくにやっていくのが一番だよね!
表にはその感情を出せてないだろうって?正論は時に人を傷付けるだけの刃となるんですよーだ。
はぁ…落ち着いたら私も戻らなきゃな、正直に言うと寒さで色々とやられそうだし。
ここで体調崩すなんてヘマかましたら色々とおしまいだからね、身体には気を遣って…
…なんだこれ、さっきまでは無かったよね?
そう思いながら、扉の前にあからさまに置かれた封筒を手に取る。
光を反射しない真っ黒の紙に、白い亀裂のような模様。
「例の年賀状と言い、悪趣味なデザイン…」
差出人には心当たりがある、該当者など一人しかいない。
この状況で手紙を出して来たと言う事は、先生との“対談”をするためのお誘いを…
…どうして私の手に渡るように、コレを…?
私経由で先生の下へ行き渡らせるように、と考えるのが妥当だが別に私を経由する必要性がない。
勘付かれる可能性を避けた?彼らの技術なら手紙を置く程度アロナに気付かれないように出来る。
実際のところはどうかなんて、分からない。
それでも嫌な予感が、悪寒が背中を駆け抜けた。
「…私も、目を付けられてる…?」