目の前に広がる砂埃、晴れた先から飛んでくる鉛玉。
「くっ…!!」
全て避けるなんて芸当は出来ない、しかし致命傷を避ける事は出来る。
みんなを心配させるような怪我はしてはいけないが、今はみんなで無理をする場面だから。
先生とアヤネのサポートを受けながら、私達の前に再び立ち塞がったゴリアテとの交戦を続ける。
ホシノ先輩の救出のため、カイザーの本拠地へと突撃してから何度も戦闘を行った。
時に先生の行動で風紀委員会に助けられ、時にヒフミの行動で動いたトリニティに助けられ。
辿り着いた此処は“本来”のアビドス高等学校本館、この近くにホシノ先輩は囚われている。
「セリカ!!」
「大丈夫、手は足りてる!!」
「シロコちゃんも無理はしないように!!」
これは総力戦だ、カイザーとの最後の総力戦。
私達が勝利すれば、もう目の前に立ちはだかる敵はこれ以上出てこない。
その代わりに、ここにはこの場に集められる全ての戦力が集結している。
この戦いで全てが、全てが決まるのだ。
私達の想いが勝つか、彼らの思いが勝つか。
カイザーPMC理事は、淡々と言った。
『お前達がずっと、目障りだった』
カイザーPMC理事は、声を荒げて言った。
『あれほど懲らしめたのに、徹底的に苦しめたのに、それでも毎日毎日楽しそうに!!』
カイザーPMC理事は、怒りを露わにして言った。
『お前達のせいで私の計画がぁ!!計画がぁッ!!』
知った事か、最初からそんな事に興味はない。
もしかしたら、開放されないかもしれない。
もしかしたら、介抱されないかもしれない。
足掻いたところで甲斐はなく、辿り着いた先に求めるだけの解はないのかもしれない。
そんな理屈なんてどうだって良い、どれだけ呑まれようと私達は絶対に屈しない。
私の救いは此処にあったから、私の願いは此処にあったから。
折れてなんてやるもんか、こんな情けない大人に負けてなんかやるもんか。
勝って、笑顔で、みんなで帰るんだから。
『そろそろ援軍、が…いえ、風紀委員会の皆さんが抑えてくれています!!』
相手は私達の戦い方を知っている、しかし私達も相手の戦い方を知っている。
経験がある、仲間がいる、信念がある。
一度は苦戦した相手だが、私達なら大丈夫。
負ける事なんて考えない、最初から勝つ事だけを考えて戦いに望めば…
「大丈夫、行ける…!!」
「でも、やっぱり最善は尽くしたくな〜い?」
声が聞こえた、戦場には似合わない明るい声が。
“便利屋のみんな!!”
「ごめんごめん…ちょっと遅れちゃった、ねっ!!」
投擲されたバッグが、派手に爆発した。
予想していなかった援軍だが、先生の反応を見るに彼は彼女達の登場を既に知っていたらしい。
私達に知らせていなかったのは、カイザー側に彼女達の存在を悟らせないためか。
「道中で手間取った、隠密行動は心掛けてたけど…」
「ま、結局は戦闘しちゃってたからねぇ〜」
「アル様の障害となる人達は、全員、全員…!!」
目立つような損傷はないが、確かに消耗している。
そして何故だか便利屋の“社長”の姿は見えない、とはいえ状況的に予想は付いている。
この場にいるべき人物の中でもう一人、この場に姿を見せていない人物がいる。
臆病なのに結局自分から飛び出してしまうような、不器用で見栄っ張りな彼女。
察するに、彼女達は一緒に行動しているのだろう。
「ありゃ、ここにアルちゃんがいないって事はぁ…」
と、ムツキが悪戯っぽく笑う。
「ふっふー、ムツキちゃんが美味しいところを持っていって良いって事だよねぇ…!!」
何やら意味ありげに此方へ振り向くと、格好を付けて口を…
「ここは私達に任せて、先に行って」
「あー!!それ私が言おうと思ったのにー!!」
…開く前に、カヨコによって見せ場を奪われた。
“任せて、良いんだね?”
コミカルに言い放たれた言葉は、軽く流さない程度には重要なモノ。
先生がそう聞き返すと、さも当然と言わんばかりに便利屋は頷き笑う。
「最初からその予定でしたので…アル様の指示です、ここは私達が食い止めます…!!」
「念には念を入れてって、アルちゃんとあの子が先に行ってるけどさ〜」
自分達にこれと言った利はないと分かった上でそう発言する便利屋の姿。
「キミ達の先輩はきっと、可愛い可愛い後輩ちゃんの事を待ってるんじゃないかな?」
私達の事をよく知っているかのような発言をする便利屋の姿。
そうだ、その通りだ、ホシノ先輩には私達がしっかりと言ってやらなきゃいけない。
「…全部終わったら、ラーメン奢るから!!」
「期待しておく、その時は全員でね」
彼女達は輝いていた、各々が光を発していた。
そんな彼女達に甘えて、私達はその場を駆け出す。
「お前達3人だけで、この軍勢を止めれると?」
「まぁ、やれる保証なんてないけどね」
「私なんかに優しくしてくれた…皆さんのために…」
「便利屋68、社長がいなくても頑張っちゃお〜!!」
◇◇◇
私だよ!!!!!!(ダイナミック自己紹介)
アルと一緒にホシノを探して三千里、いくら原作知識があれど正確な位置までは分かんないからね。
そんな中でようやく辿り着いた、それっぽい雰囲気を感じる場所。
少し離れた位置から戦闘音が聞こえる、恐らくはシロコ達アビドスが戦っている。
となってくると、確証はないのだが…
「ここ、この下」
「バンカーの地下ね…素朴な疑問なのだけれど、どうしてここにいるって分かったの?」
明らかに厳重に閉じられた扉、前世から引っ張ってきた情報からの逆算、ただならぬ雰囲気…
まあ説明しようと思えば理由はいくつか出てくるのだが、結局のところ答えはコレに落ち着く。
「…勘…?」
「んー、聞かなきゃ良かったわね!!」
仕方がないさ、私達にサーチ能力なんてものはない。
アヤネや先生に頼らないで先にホシノを探し出そうとした時点で、こうなる事は分かっていただろう。
それでも行動を起こしたんだから、最後に頼れるのは己の勘だけなのである…
私に言われるがままに、扉に向かって銃を突きつけるアル。
力を込めるというのは銃を撃つ時の表現として何か違和感を感じるが、己の力を振り絞って。
放たれた弾丸は着弾と共に小規模な爆発を起こし、その重厚な扉には…
ちょっとした傷が付きました、うん。
「…役割的に、ムツキの方が適任だったかしら…」
先程までカリスマに満ち溢れていた表情が一点、シナシナになる。
カリスマブレイクである、いや私としてもどうすれば良いんだコレ状態ではあるんだけど…
アビドスのみんなが来るのを待つか、いいや。
それをするなら私達が此処にいる意味はない、そしてそれは悠長な選択だという事を思い知らされる。
突如として訪れた衝撃、肩の横を通り過ぎた弾丸。
「ちょっと時間計算が合わなかったわね…!!」
私達の存在がバレて、兵士が向かってきた。
大人数とは言えないような小規模なものではあるが、生憎私達は彼らに構っている暇がない。
先程の衝撃で“崩れ始めた”辺りの様子を見るに、彼らの相手をしている時間がないのだ。
というかそもそも、私が足手纏い!!邪魔!!
多分焦りが顔に出ている私に対して、冷や汗を垂らしながらも笑みを保ってアルが聞く。
「開けられる?」
私に、この扉が開けられるのか。
いやまあ、ぶっちゃけ開けられる自信はないよね。
というか道理がない、私に出来る確証がない。
でも、出来るか出来ないかじゃなくて。
「開ける」
出来なきゃいけないんだ、こういう時っていうのは。
「その一言で十分よ!!」
兵士の方へ顔を向けたアルは、発言する。
「“全員揃って便利屋68”なのは当然だけれど…」
立派な口上は不言の勝利に劣るのか?
いいや、彼女の場合は立派な口上こそが本命だ。
「社長一人でもちゃんとやれるってところ、見せてあげるわ!!」
見栄ではない、確かな自信を持って戦闘を始めた彼女を背中に私は扉と向き合う。
私にこの扉を壊すだけのパワーはない、だからコレは正当法で開けるしかない。
当然ながらロックが掛かっている、少なくとも私の住んでいた2024年の日本では見た事のないタイプ。
つまりスタートラインに立ててすらいない、私はこれをどうやって開けるのかをそもそも知らない。
が、それでも可能性は存在する。
この世界には、キヴォトスには、そこら辺の理屈を無視して暗号を解ける少女が存在する。
天賦の才とか生まれ持った異能とか言われているが、多分神秘による能力なのだろう。
つまりは、理屈を並べて出来ない理由を作ってもその理屈を無視できる存在は既にいるのだ。
この世界では、それが能力として認められている。
ならば、私が出来ても“おかしく”はない。
私の能力が何なのかは分からない、予想をしようとすれば出来るがあくまで仮説だ。
模倣なのかもしれないし、他の何かなのかもしれないし、そもそもアレは私自身の能力じゃないのかもしれない。
だから難しい事を考えるのはやめた、あの子が出来るなら私にも出来るのかもしれないと。
そう信じて音声入力なのかパスワード入力なのか、それすら分からない扉のキーに手を触れた。
「開いた!!」
その扉は反応を示し、小さく短いシステム音を鳴らしたのだ。
「行きなさい!!」
そんな声を背に受けて走り出した先には、ぐらぐらと揺れる地面に座ったホシノ。
崩れかけたその台座から今にも落ちそうな彼女の瞳は閉じている、意識がない。
私は走った、不安定な足場に転びそうになりながら足を動かした。
目前、その身体を傾かせて落下し始めた彼女の事を。
「掴んだ…っ!!」
縛られた彼女の事を、確かにこの手で掴んだ。