ふむ、私に喋れと言うのだな!?   作:хорошо!

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それでも想い続けた夢

『ねぇ、ホシノちゃん』

 

遠い遠い、いつまでも色褪せない記憶。

 

『私ね、ホシノちゃんと初めて会った時これは夢なんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったの』

 

忘れようと思っても忘れられない、絶対に忘れてやらない在りし日の夢。

 

『ホシノちゃんみたいな、可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていう夢みたいな事が…』

 

何度も何度も、目を瞑れば鮮明に蘇る私の思い出。

 

『本当に、ほんっとうに嬉しくって…』

 

私にとって何よりも幸せで、何よりも嬉しかった、あの頃の日常。

 

『上手く言えないけど、こうしてホシノちゃんと一緒にいられる事が私にとっては奇跡みたいなものなの』

 

そう、奇跡だった、奇跡だったんだ。

 

「毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか」

 

「昨日も今日も、明日だってそうです、こんなに当たり前の事で…」

 

“当たり前”を“当たり前”に謳歌する事が出来るような、奇跡。

 

『ひぃん…でも、私はそうは思わないよ』

 

あの頃の私は分かっていなかった。

いや、今の私だって分かっていない…

 

『ううん、ホシノちゃんも分かってるんでしょ?』

 

記憶の中にある、夢の中の“私”ではない。

“私”の方を見て、彼女はそう語り掛けてきた。

 

『ねぇ、ホシノちゃん…』

 

微笑んだ彼女の表情は、何処か悲しそうで。

それでいて、心から嬉しそうだった。

 

『やっぱり私にとって、これは奇跡だと思うんだ』

 

 

◇◇◇

 

 

「…ユメ、せんぱい…」

 

「ごめん、別人」

 

…このくだり、ちょっと前にもやったな…?

そんな比較的どうでも良い思考を切り捨てて、再び私の今の役目に集中する。

落下する寸前で掴んだホシノが、ようやく目を覚ました。

 

私の腕だけを支えに、宙ぶらりんになりながら。

 

実はもう限界なんです、色んな意味で。

体力的な問題もあるし、腕に力が入らなくなってきたし、何なら私のいる足場もそろそろ崩れそう。

刻一刻と死へのカウントが進んで行っているのを感じる、それくらいじわじわと追い詰められている。

 

ここで死んじゃうような事になったら、前世の家族に顔向け出来ない…ッ!!

聞こえていますか母さん、そして妹よ…

私、転生して早々に死の危機と向き合っています。

父さんはもう顔どころか、下の名前すら覚えてないので除外!

一度死んだ(仮定)上でこうしてやり直してるんだから、そう易々と死ねないよね…!!

 

「夢でも、見てるのかな…」

 

「ユメじゃない」

 

未だにぼんやりとした意識のホシノに対して、そう伝える。

 

「助けに来た、宣言通り」

 

「…まさか、本当に来ちゃうなんて…」

 

私だってビックリである、まさか一番最初にホシノの下へ辿り着くのが私だなんて…

そういう作戦を立てたのは私自身なんだけど、いまいち実感が湧いてなかった。

でも、私は今こうしてこの場に立っている。

…立ってはいないな、全力で横たわっている。

 

「強い子だったんだね、ヒノちゃんは」

 

「私は、弱いよ」

 

シロコにも同じ事を言われたが、私は弱い。

それは、そこだけは、否定しようがない事実だ。

 

「結局私一人じゃ、何も出来ない」

 

戦闘力も、行動力も、精神力も。

どれも私には足りなくて、結局は自分一人じゃ何も出来ないちっぽけな存在でしかない。

 

「でも、無力じゃなかった」

 

けれど、それでもやれる事はあった。

 

「便利屋が、風紀委員会が、ティーパーティーが」

 

私だけじゃない、たとえそれがどんな理由であろうと。

そこに、何らかの思惑があるのだとしても。

 

「シロコが、ノノミが、セリカが、アヤネが」

 

一人一人に役割があって、一人一人に思いがあって。

 

「先生が」

 

たとえ非力な存在であろうと、己の出来る最善を尽くして。

 

「ホシノを、救おうとした」

 

これは、その結果である。

 

「私はそれに、着いて来ただけ」

 

過度な謙遜と自己否定は誰も幸せにしないから、敢えて言っておこう。

みんな頑張った、私も頑張った、ホシノだって頑張ったんだ。

結局はそんな話、それだけの話。

 

「………」

 

「もう、分かってるんでしょ」

 

わざわざ、私の口から言うまでもない。

一番理解しているのは後輩達を見てきた、他ならぬ先輩自身だろうから。

自分自身との、折り合いの問題だ。

 

「…でもこのままじゃ、ヒノちゃんも一緒に落ちちゃうよ…?」

 

未だに縛られているホシノ、どうやら自力で解く事は難しいらしい。

私も体勢的にどうしようもない、引き上げるどころかちょっとずつ身体が下に落ち始めてるし。

 

「その時は、その時」

 

でも、だからって自分だけ助かるような選択を取る事はない。

 

「一緒に落ちるか、一緒に帰るか」

 

片方が助かるなんて、そんなんじゃダメだ。

自己保身に走ってはいけない、だからって自己犠牲に走るなんていうのもやってはいけない。

目指すのは問答無用のハッピーエンド、犠牲なんて二文字を見るのはお断りだ。

なんてったって“ブルーアーカイブ”、元は部外者とはいえ私も既に“生徒”なんだから。

 

離してなんか、やるもんか。

 

「っ…!!」

 

が、現実は非情、世の中はそう上手く出来てはいない。

私の腕が限界を迎えるよりも先に限界を迎えてしまい、崩れ落ちる足場。

浮遊感と共に、私の身体は宙を浮き…

 

「ん、もちろん一緒に帰るに決まってる」

 

落下を開始した直後に、背後から飛び降りてきた一人の少女に足を掴まれた。

 

「ファインプレーだったよ、お陰で間に合った」

 

その声に振り返れば、視界に映るシロコの顔。

それだけではない、身を乗り出したシロコの身体を後ろから支えるノノミとセリカの姿。

 

「はい、キャッチです〜⭐︎」

 

「シロコ先輩!!絶対に離しちゃダメだからね!!」

 

ゆっくりと、ゆっくりと、少しずつ引き上げられていく身体。

なんだか実感の湧かないまま、されるがままに身を委ねる。

 

“うわっ!!思ったより足場が…!!”

 

「先生は此方へ、私が加勢します…!!」

 

ヘリから降りて来たアヤネが加わった事で、一気に身体が持ち上げられた。

あのヘリは多分、シャーレから借りた物だろうか。

私が引き上げられたという事は当然、私が必死に掴み続けていた彼女も引き上げられるという事で。

 

“ホシノ”

 

少女は、目の前に広がる光景に目を見開いた。

言葉が出ないと言った様子で何度もその口を震わせると、震えるような声で呟いた。

 

「…ははっ、そっかぁ、そうなんだね…」

 

弱々しく、感情の籠った、子供らしい声。

それでいて虚勢を張った、先輩らしい声。

 

「お、おかえりっ!先輩!」

 

「ぁ、セリカちゃんに先を越されてしまいました!」

 

耐え切れない、と口を開いたセリカにハッとするノノミ。

ツンデレヒロインのような感情の振れ幅を見せるその姿に、思わず微笑むアヤネ。

そんな彼女達を横目に見ながら、シロコがホシノの前に向き合う。

 

「…遅れてごめん、もっと早く来られるように頑張るべきだった」

 

本当にギリギリだった、時間との勝負だったと。

彼女に責任は一切ないのだが、それでも謝らないと気が済まないと謝罪の言葉を口にして。

その言葉を聞いたホシノは、困ったように返す。

 

「謝らないでシロコちゃん…謝るべきなのは、助けられた私の方で…」

 

「違うよ、ホシノ先輩」

 

遮られた言葉、真剣な表情のシロコ。

 

しかしその真剣な表情はすぐさま崩れさり、笑みへと変わる。

 

「“助ける事”は、前提条件でしょ?」

 

その言葉に、ホシノは黙り込んだ。

黙り込んで、下を向いて、少しした後に再び前を向いて。

シロコの目を見て、不器用に笑った。

 

「色々言いたい事はあるし、帰ったらまずはお説教だけど…」

 

不満を隠せないような様子で眉間に皺を寄せる彼女、しかしこの場でソレを言うのは違うだろうと。

 

「何より一言、言わせてほしい」

 

この場で一番、言いたい言葉だけを伝える事にした。

 

「おかえり、ホシノ先輩」

 

彼女が一番、言ってあげたかった言葉を。

 

「おかえりなさい!!」

 

「おかえりなさい、です!!」

 

“うん、おかえり”

 

シロコの発言に続いて、みんなも一斉にその言葉を伝える。

私はその言葉を口にしない、なんでかって?

コミュ症だから…と言いたいところだけど、今回ばかりは残念ながらそういう理由ではないよ。

 

「………」

 

「黙ってこっちを見つめないでよヒノちゃん…私に、あの台詞を喋れって言ってるのかな…?」

 

そう、私からその言葉を言う前に。

彼女から、聞かなきゃいけない言葉があるから。

 

「うへぇ…仕方ないなぁ、一回だけだよ?」

 

目を細めて笑いながら、照れ臭そうに彼女は言った。

 

 

 

「ただいま、みんな」

 

 

 

「おかえり」

 

 

 

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