だから“勘違い”タグが付いてる訳でして
メインキャラ、サブキャラ、ネームドキャラ、モブキャラ。
物語の登場人物には、役割が与えられる。
これは“物語”である以上、避けては通れない事。
一つの作品として風呂敷を畳むには、仕方のない事。
作品に主人公が存在する以上、当たり前の事。
“ブルーアーカイブ”でも、それは同じだ。
実装済みの生徒、実装を待ち望まれている生徒。
それとは別に個別の名前を、立ち絵を、個性を貰っていない少女達が存在する。
正実モブ、風紀モブ、ハイランダーモブ。
彼女達も当然一人の生徒ではあるが、やはり扱いとしては“モブ”として一括りにされてしまう。
それはそれとして人気はあるけど、ここでは割愛。
でもそれは“ブルーアーカイブ”を一つの作品として見ているプレイヤー達の目線であって、実際は違う。
ゲヘナの制服を着た生徒が歩きスマホをしている、鮮やかな緑色の髪に黄色のリボンが映えている。
恐らく不良と思われる生徒二人組が談笑している、お互いが手に持っているのはモモフレンズのグッズ。
見覚えのない制服を着た眼鏡の生徒がクレープを食べている、眼鏡にクリーム付いちゃってるよ。
こうやって辺りを見回せば分かるだろう、一人一人の生徒に違いがあり個性があり、名前もある筈。
私達の見る“〇〇モブ”はゲームとしてのメタ的表現であって、実際の景色はこうなのだ。
まあ、5thのPVとかを見る限り最初から分かっていた事ではあるんだけども。
一人一人がこのキヴォトスを構成する上で大切な生徒であり、一人一人がモブなんかじゃない実在する生徒なのだ。
そんな事をどうして改めて確認するのか、私だって特に意味もなくこんな事を考えてる訳じゃない。
問題は私の視線の先にいる少女、明らかに人の流れに逆らって挙動不審と化している生徒。
かれこれ10分間くらいその少女の事をベンチから見守っているんだ、ストーカーではないよ!?
メカクレの髪型にベレー帽、比較的低身長の私よりも低いであろうその背丈。
何処ぞのメカクレ過激派海賊が口角を吊り上げそうな見た目のその少女が着ているのは…
ご察しの通り、正義実現委員会の制服。
もう分かるだろう、彼女は私達がよく知っている大人気の生徒。
そう、正実モブ(仮)なのである。
いやそりゃあ、別にいてもおかしくはないよ?
あの見た目だって個性として成立してるわけだし、私達の知るあの姿と全く同じ見た目の子がいてもね。
例えるなら私がプレイヤーだった時に好きだった生徒を見かけたような気分で、ちょっと嬉しかったの。
だから最初はちょっとした驚愕と共に目で追ってたんだけど、何やら動きが怪しくてさ?
白状します、明らかに困ってる彼女を助けてあげたいと思ってどう声を掛けるか悩んでたんです。
これでも所属:シャーレとして最低限の仕事をしようと思ったの、しかし私はカスのコミュ症…
声を掛けるどころか立ち上がる事すら出来なかったのである、足ぷるっぷるでワロタ。
とはいえこんだけ時間が経てば流石に決心も付くわけで、精神的にも落ち着いてきた。
安心するんだ安留ヒノ、キミはアビドスのみんなや便利屋と話せるようになったじゃないか…
…まだ言葉は詰まりまくるけどね、それでもちゃんと向き合う事が出来るようになった。
大丈夫、私なら出来る、もう心配する事はない。
そんな理由で色んな意味でドキドキしてる心臓を抑えながら、ベンチから立ち上がった。
先生がいなくても、やってやるぞ…!!
◇◇◇
最近になって、隠れた名店としてプチブームが起きたアビドス自治区のラーメン屋さん。
その日は休みだったから、いつも一緒にいる2人の友達と一緒にお昼ご飯を食べに行った。
ちょっとした遠出だったから、なんだか気分が上がっていたのを今でも覚えている。
だからこそ、普段だったらしないような噂話が飛び出してきたのかもしれない。
『そうだ、アビドスと言えば…』
その一言から始まった、とあるお話。
『ねぇねぇ、みんなは聞いた?』
『もしかして、あの噂の事?』
『そうそう、やっぱり知ってるよね…』
何の事だろう、と首を傾げる私に話を始めた友達がちょっぴり悪戯っぽい笑顔を浮かべてこう言った。
『今話題の先生がいるシャーレにはね、無口で怖い一人の生徒が所属してるんだって!』
先生とシャーレの話は勿論知っている、大々的にニュースにもなっていたから。
まだ、直接会った事はなかったけど。
でもその後に続いた話は、私の知らない話題だった。
『何それ、初めて聞いたかも…』
そんな私を見て、2人は説明するように話を続ける。
何やらトラブルが起きて困っていたアビドス高等学校に、先生が訪れたんだって。
これだけ話題になっているだけあって、先生はやっぱり凄い人でそのトラブルを解決しちゃった!!
そんな先生の隣には、なんだか不思議な生徒が一緒にいたらしい。
喋らないし動かない、だけど最初から最後まで先生の付き人として行動してたの。
その生徒の名前は、安留ヒノ。
制服には見えないような、厚着をしていて。
その長い髪と同じ、不気味な程に白い肌。
その隙間から覗かせる瞳は、鮮やかな赤色。
思わず見入ってしまうような美人さんなんだけど、それが逆に怖く見えるらしい。
そんな彼女は、銃を持っていないと。
『どこの学校の生徒、とかっていうのは…』
『分からない、私達も噂で知っただけだから…』
でも実は、その生徒は凄い力を持ってるんだって。
ちょっと前にニュースで流れてきた、あの指名手配された大人の人の件。
あの人の罪状を明らかにしたのは、その子と先生と、アビドスの生徒なんだって。
詳しい事は分からないけど、あの“便利屋68”とも手を組んだんだとか。
しかも、手綱を握っていたのは彼女の方だと。
『う〜ん、本当なのかな…』
『分からないけど、ちょっと気になるよね…』
まあ噂話なんて誇張されるものだから、最初から全部を信じるなんて真似は誰もしなかった。
だって、流石に作り話にしか聞こえないもん。
それは私に話してくれた2人もそうで、ちょっとしたスリルを感じるための与太話として楽しんでいた。
それが間違いだった、のかもしれない。
『貴女達、あの子に興味があるの?』
なくなってしまったお水のおかわりを持ってきた店員さんが、そんな言葉を口に出した。
思わずポカン、としてしまった私達だがすぐに店員さんが何を言っていたのかに気付く。
ここはアビドス自治区、そこでバイトとして働いているであろう店員さん。
そうだ、私達は理解したのだ。
『店員さん、知り合いなんですか…?』
『知り合いも何も、さっき話してた通りだし…』
彼女は噂していた、アビドスの生徒本人なんだって。
『あぁ、でもちょっと違う所は…』
続けて店員さんが何か言ったような気がするんだけど、今となっては思い出せない。
私達は興奮とも焦りとも、何とも言い難い感情を共有していた。
だって誰も知らないような噂話の真相を、こうして何気なく聞いてしまったんだから。
なんだか、いけない事をしているような気分だった。
『セリカちゃん、程々にな』
『ぁ、いけない!!』
店長さんの言葉で、店員さんがカウンターに戻る。
その言葉で私達も意識を戻されて、顔を見合わせて、少しだけ口角を吊り上がらせて言ったんだ。
『…本当なんだって、この噂…』
なんてやり取りをしたのが、ほんの1週間前。
今日の私は何をしてるかと言うと、忙しい先輩方の代わりにシャーレへ書類を届けに来ていた。
噂話の真相を確かめるチャンスかも、そして先生と初めて会える機会。
なんだかワクワクしながら出掛けたせいで、スマホの充電を忘れている事に気が付かなかった。
結果として迷子になって、道を聞こうにも人の波に飲まれちゃって目が回り始めて。
ちょっとだけ泣きそうになっていたところで、片腕を引っ張られた。
暴力とかじゃなくて、私の事を誘導するように。
自分じゃ解決策が思い浮かぶ気がしなかったから、その人に身を委ねてみる事にして。
そうしたら、人の波から脱出する事が出来た。
本当に困っていたから、本当に嬉しくて。
だからお礼をしようと思って、そのまま道も聞けたらいいななんて思って。
笑顔で、私の腕を掴んでいる人の方を向いて。
気付いた、理解した、思い出した。
「………」
黙って私を見下ろしてくる彼女は制服には見えないような、厚着をしていて。
白くて長い髪の毛と、同じような肌の色。
その鮮やかな赤色の瞳で、私の目を覗いていて。
私が今まで見た中で1番って言ってもいいくらいに、すごく綺麗な人だった。
でも何故だか、不思議とそれが怖く感じて。
そんな彼女は、銃を保持していなかった。
「ご、ご、ご…」
別に悪い事をした訳じゃない、言い訳とかじゃなくてそれは本当の事だと自信を持って言える。
だけど、だけど、本当に、本当に怖くって。
さっきは収まってくれた涙が、どんどんどんどん溢れ出てきちゃって。
「ごべんなざいでぢだぁ…!!」
気が付けば、目の前の彼女に謝っていた。
あらすじをようやく回収していく…!!
色々とハプニングはありましたが、連載開始時に1番書きたいと思っていた展開はこの部分でした。
正実モブって可愛いよね、異論は認めない。