助けたつもりの少女が、急に謝って泣き出した。
何を言ってるのか分からねーと思うが、私にも分かんないんだなこれが!!
これには私も無名の司祭、理解出来ぬ…
事情を聞かずに強引に連れて来たから、私の行動が
けれどそういう様子ではない、なんだか怯えているようで弱々しい表情が実に唆r…
消えるべ!!闇のわだす!!
しかしここまで号泣されるとコミュ症とか通り越して心配になってくる、ハンカチとか差し出した方が…
まあハンカチなんか持ってないんだけどね、素寒貧の状態でキヴォトスに放り出されたからね私。
そもそも今日は先生から受け取った給料で、そういう日用品を買い揃えようと外へ出た訳で…
いや私の話はどうでも良い、どうでも良くはないんだけど一旦どうでも良いという事にしておく。
肝心なのはどうして正実モブ(仮)ちゃんが号泣してるか、私に謝ってきてるのかの方であって…
流石にこの様子で人違いって事は無さそうだし、私に損失があるようなやましい事でもしたのか。
う〜ん、可能性は低いしそもそも疑いたくないね。
私から見て彼女が特に悪い事をした雰囲気はないし、それなのにそういう目で見るのは私の理念に反する…
けれど私も悪くない、だって私は悪くないんだから。
つまりどうしようもない、落とし所がないのである。
っていう事は、直接聞いてみるしかない。
いや本当にマジで冗談抜きで誇張とかなしに、出来る限り長くなるような会話はしたくないんだけどね?
「大丈夫?」
「ひっ…!!」
…心の折れる音って、こんな鮮明に聞こえるんだ。
「………」
えぇ、はい、私、ちょっと横になりますね…
どうか止めないで、これでも結構落ち込んでるの。
一言話しかけただけなのに、あんな反応をされた時の気持ちが果たして分かるだろうか。
そうだよね、今まで関わってた子達がみんな良い子だっただけでこんなカスみたいなコミュ症を相手にしたらそういう反応になるよね…
正実モブちゃんだって良い子だろうが!!(逆ギレ)
真面目に考えるなら他に理由がありそうなんだけど、パッと思い付くような心当たりはない。
単純に無表情を演じてる私の顔が怖かった説もあるけど、流石にそれでこんな号泣する事はないだろう。
ってなるとやっぱり本人に聞くしかない訳で、どうにかこうにか話を聞く方法を…
「…クレープ、食べる…?」
ってな訳でコミュ症はコミュ症なりに、物に頼るという選択肢を取ったのだ。
◇◇◇
私はもしかしたら、夢でも見ているのかもしれない。
「………」
元々焦っていたせいで、過剰にパニックを起こしちゃってからしばらく経って。
ようやく落ち着いたのが、ちょっと前の出来事。
私はクレープを食べている、買ってもらった物を。
それを横からじっと見つめられている、例の彼女に。
「………」
「ぁ、あの、お代って…」
「大丈夫」
まだ泣き止んでいない中で、流されるままに連れて行かれたクレープ屋さん。
なんだか注文で手間取っていたようだけど、彼女の買った1番人気のクレープを渡された。
そこであんなに号泣して、最終的に物で慰められてる自分がなんだか恥ずかしくなっちゃって。
消えてしまいたい羞恥心の中で、私はここにいる。
他には彼女への感謝と、まだ消えない恐怖心。
出会ってからまだ十数分だけれど、こんなにも私は親切にしてもらっている。
私が変に心配を掛けたから、きっと彼女も困ってしまったんだろう。
そもそも困っていた私を助け出してくれたのは彼女で、最初から最後までずっと助けてもらっている。
だから感謝の気持ちでいっぱい、なんだけど…
「どうしたの?」
「な、なんでもありません…!!」
それでもやっぱり、ちょっぴり怖いのだ。
でも、怯え続けているのは失礼にも程がある。
しっかりとお礼を言わなきゃいけないし、どうにか恩返しをしなきゃいけない。
噂話は所詮噂話なんだから、切り替えて会話した方が良いのは分かっているから。
だから勇気を出さなきゃって、そう考えていたら。
「何個か、質問」
彼女の方から、会話を切り出してきた。
私に対して、質問がしたいと。
「何か、困ってた?」
「その、先生に届けなきゃいけない書類があって…」
私は答える、此処に訪れた理由を。
「私の事、知ってる?」
「えっと…シャーレ所属の、ヒノさん…?」
私は答える、知識にある彼女の情報を。
「どこで、知ったの?」
「…ぁ…ぇ…」
私は口籠もる、言葉が詰まった。
だってそれは、彼女に対して失礼な事だから。
本人の前で言うような、良い話ではないから。
本当なら、あんまり表立って言える事じゃないから。
でもここで黙っているのは、本当の意味で恩を仇で返すような行為になっちゃうから。
怖くて震える体を、恐くて怯える心を。
どうにかこうにか自分を騙して、涙目になりながら返した言葉。
「…最近、噂になってて…」
「………」
彼女は黙り込む、此方をじっと見つめて。
なんだかそれが威圧されているように感じて、一瞬びくりと体が跳ねたのが分かった。
でも怯んでちゃいられない、私は既に彼女の前で泣いているんだから。
「どんな、噂話?」
少しの間をおいて、質問は続く。
「…ぇ、えっと、その…」
本当の事なんか言わなくても良いかもしれない、もしかしたら濁した方が良いのかもしれない。
でもここでそうするのは、何故だか違うと感じた。
だから決心をして無理をして、取り繕う余裕すらない声のままで質問に答える。
「シャーレに、怖い生徒が所属してるんだって…」
それが、目の前にいる親切な人の事を指しているんだから。
この話を聞いて興奮していた1週間前の自分に、叱りの言葉を掛けてやりたい。
「不思議な力を持っていて、裏ではあの“便利屋68”も従えてるんだって…」
だけどまだ不安だった、もしかしたら彼女の本性は噂話の通りなんじゃないかって。
疑い続けるのは良くない事だけど、それだけの雰囲気を彼女は持っていたから。
不安で不安で、仕方がなかった。
怖くて怖くて、仕方がなかった。
だけど当の彼女は、大きく大きく溜息を溢して。
さっきまで貫き続けていた完全な無表情を崩すと、眉間に皺を寄せて。
その表情を隠すかのように、右手で顔を覆うと。
「…嘘、では、ない…」
絞り出したかのような声で、そう答えた。
「………」
「………」
気まずい空気が流れる、お互いにだんまりだ。
けれどさっきの反応を見て、なんだか安心した。
“噂話は真実”だという事が分かったのに、何故だか逆に安心した。
だって、彼女が見せた反応が普通の人のソレと全く同じものだったから。
私にしてくれた行動が、表裏ない単純な親切心からの行動だという事が伝わったから。
噂話はやっぱり、所詮は噂話なんだって。
伝言ゲームみたいに、言葉が捻じ曲がるんだって。
「…ごめんね、取り敢えず…」
一人で勝手に安心していた私に、さっきまでより明らかに低いテンションで掛けられた言葉。
まだ少しだけ顔を顰めている彼女は、続ける。
「先生の所まで、案内する」
稀にヒノのイラストを描いてTwitterに投稿してるんですが、作者本人が彼女のヘイローの形状を理解出来ていないという事故が起きています。