嘘にならない程度に捻じ曲げられた真実というのは、時に嘘よりタチの悪い事故を起こす。
偏向報道とか言葉狩りだとか、それはいつの世だって分かりきっていた事だろう。
故に人は“飲み込む”という行為をしなければいけない、譲歩するという選択をとらねばならない。
「………」
と、理屈では理解出来ていても。
感情論ではそれを否定したくなるよね、って話。
初対面の少女に号泣された上で小さい悲鳴を上げられた、多分私じゃなくても結構傷付く経験だと思う。
そしてその原因が自分に対して流れているらしい噂話と来たもんだ、この感情の行き場がないね…
噂を流した犯人探しをしようとするのはちょっと違う気がするし、本当にもやもやするだけなのだ。
犯人探しと言ってもアビドスか便利屋、ヘルメット団に…カイザーとか?
そのくらいしか、候補は浮かばないけどね。
ともかく、この複雑な感情のやり場は何処にもないのである!!
「…ぁ、ぅ、ぇと…」
…それはそうと、やっぱり彼女に罪はない。
噂話を鵜呑みにしたという非はあるかもしれないが、目の前に噂話の具現化みたいな存在がいちゃあね…
仕方ないねという許容の心を持つべきなのだよ、確かに君は悪くないのだから。
問題はこの噂が“広まってそう”なところなんだよね、既に手に負えなくなってそうなところなんだよね!!
私が頭を抱えている理由の大半がこっちである、そりゃあ“本当は雑魚でコミュ障”って噂が広まるよりはマシな気はするけど…
ちょっとやりすぎじゃあ、ありゃせんか…?
私この噂を抱えた上で立ち回れるほど、上手な生き方が出来る自信がないんだけど…?
勘違いされるような行動ばっかしてた私も悪いけど、だからって明るく立ち回るのは無理だったし…
最善ではないにしろ、結局こうなる事は宿命だったような気がしてきたな…
「…ご、ごめんなさい…?」
「謝らないで」
そうだ正実モブ(仮)ちゃん、謝っちゃいけない。
別に君の自己防衛は誤った行動ではなかったんだから、そこを謝っちゃあいけないよ。
でもその言葉は私の心に染み渡った、同時になんだか自分が情けなくなってきちゃったぜ…
「わ、わかりました…」
そんなマイナスな感情に一区切りを付けて考える、落ち着いて楽しい事だけ考えよう。
私の後ろをテクテクと着いて来る少女は実に可愛い、微笑ましい、そんな気持ちが湧いてくる。
服の裾を軽く握ってるのに気付いて手を伸ばしてあげたら、その手を握り返してきた。
流石に可愛い、尊い、尊みラストスパート…
正直私自身も慣れない人混みでだいぶバテてるんだけど、そんな疲れが吹き飛ぶ程度には破壊力がある。
キヴォトスにTS転生してから身長が縮んで、人の顔を見る時は見上げる事が多かったから不思議な感覚だ。
前世でも身長は低かったけどな、がはは…!!
ホシノとかヒナも私より身長低かっただろうって…?
あの2人はなんかこう、違うじゃん…?
オフの時なら別だけど、オンの時は例外じゃん…?
確かに見下ろしてるんだけど、なんかね…?
「………」
だからこそ、私はこの少女を素直に可愛いと感じる。
今まで会った子達も当然みんな可愛いと思ってたけど、それとは別ベクトルな意味で…
…なんかこの発言、誤解を生みそうだな!?
これは違うくてぇ…大人が子供に対して抱くような庇護欲的な意味での可愛いであってぇ…
だから決して、恋愛感情的な話では…
いや、そっか、そうだな。
…私の今の感性が“どっち”に寄ってるのか分かんない以上、迂闊な発言は出来ないんだコレ。
たぶん、自分自身にすら影響を与えちゃう。
自分の事をしっかり理解出来るまで触れちゃいけない話題だ、今の私が触れるにはまだ早い…
逃げ続けるのは恥だし問題の先延ばしだけど、目を逸らす事も時には重要なんです。
この話はやめよう!!ハイ、やめやめ!!
なんで楽しい事を考えようとしていた筈なのに触れちゃいけない話題へと話が逸れていったのか…
これが分からない、私は思考整理が下手くそである。
昔から自分主導で他人と会話する事が少なかったし、今に至っては会話をする事自体ままならないし…
所詮は脳内思考なんて独り言みたいなモノだし、脊髄で考えているところはあるけれど。
「………?」
そんな風にわざわざ後ろを振り返って彼女の顔を覗く、なんて行動を何度も繰り返したから。
何が何だかといった様子で首を傾げ此方を見つめてくる少女、前髪で目線が隠れてるから正確には分かんないけど…
某海賊風に言うなら、中々のメカクレだね!!
「………」
まあ特に用件があって振り向いてた訳でもないし、返答の意味も込めて軽く微笑んでおく。
因みにちゃんと笑う事が出来てるかは知らない、この身体になってから真顔がデフォになりすぎてて…
自然な表情はともかく、意識して表情を変える事が出来てるのか自分でも分かっていないのである。
鏡の前で練習した方が良いのかな…?
いやでも、練習したところで実際に話すとなったらぎこちない表情になる気しかしないな。
そもそものコミュニケーション力がどうにかなるまでは、真顔の方がまだマシな気がする…
「………!!」
…そっぽ向かれちった、対応ミスっちゃったかな。
自分がどんな表情をしているか分からないのが悔やまれる、分かったら分かったで恥ずか死しそうだけど。
もし酷い顔をしていたのなら、それはそれでもう一回笑えば良いと思うよ…
何も言わずに顔を逸らされちゃったから反応から予想する事も出来ないし、シュレディンガーの私。
それにしても終始お互い無言である、ちょくちょく会話は挟むけどデフォが無言だからね。
多少の気まずさはあるとはいえ、正直すっごい行動しやすいからありがたいです。
やっぱり言葉を発しようと思ったら多少の覚悟が必要だからね、自然に出た言葉はまだしも…
つまりだ、余計な思考はしまくっていたが…
私の貧弱な体力と終わっている運動神経を、“歩く事だけ”にフルで注ぎ込めたんだ。
いくら私と言えど、流石に辿り着く。
「着いたよ」
周りの建物と比べても一際高い、高層建築。
私がこの世界に迷い込んでから、招かれてから、流れ着いてから。
この色々と悲惨なボディーで今日まで生き延びる事が出来たのは、この建物や組織の存在のお陰。
いや本当に、怪しさの塊みたいな私を置いてくださって感謝しかない訳ですが…
私はこの建物や組織について、理解が浅い。
前世が“プレイヤー”である以上、そりゃあ他の生徒よりかは詳しいとは思うけれど…
それはそれとして、しっかりとシナリオを読み込んでいたような人達と比べればやはり理解が浅い。
シャーレビルとサンクトゥムタワーがごっちゃになったりもした、今では笑い話に出来るけどね。
だから私が言うのも違う気がするのだが、生憎この場に
本人の所へ連れて行った後に言えば良い気もするのだが、恐らく彼女が此処に来るのは初めて…
ならば、形式上だけでも私から言っておこう。
「ようこそ、シャーレへ」