なんてったって、エイプリルフールですから。
予測可能回避不可能、流れ的に薄々察する事は出来ていただろうに。
それでもミドリの中の最後の一線が、流石にそれはないだろうと否定してたのかもしれないけど。
「ねえお姉ちゃん!やっぱりやめておこう!」
「あとには退けない戦いなの!!」
ミドリ自身が一番わかっているだろう。
自分の姉が、どういう人間なのか。
もう止まらんよ、流れ出したエネルギーと同じだ。
「ゆっくり考えてる時間はないんだよ、綺麗事だけでぜんぶが解決出来るならこんな事態にはなってない」
残念ながら真っ当に部活動として頑張るには、既に手遅れと言わざるを得ない状況だった。
廃部の危機が迫っている、彼女達にとってそれは絶対に避けなければいけないエンディング。
…この後結局真っ当な部活動をする必要があるというのは、本人達の名誉のためにも一旦置いておいて。
「私達のゲーム開発部を、守らないと」
彼女達の決意が、揺らぐ事はない。
「ユズの事だって…」
「…そう、だったね…」
花岡ユズという生徒は、このゲーム開発部の部室にて生活を行っている。
たぶん、現在進行形であのロッカーの中にいる。
その理由は私からは語らない、というか1から10まで説明出来るほど私は彼女の事を知っている訳ではない。
各々察してくれるなり飲み込んでくれるなり、私は特に追求しない派。
「武器と学生服、それに学生証…」
話を戻そう、アリスの生徒偽装について。
「優先なのは、あとの2つかな」
学生証、そして学生服が無ければアリスをゲーム開発部として仕立て上げるのには難しい。
そもそもミレニアムの生徒として誤認させる必要があるのだから、仕方がない。
正直やりようはいくらかありそうだけど、私はこの手しか知りません。
「ミドリとユズ、それにヒノはアリスの話し方をどうにかしておいて!」
…ユズ出てきてませんけど!?!?!?
「他は…うん、私がなんとかする!!」
明らかに正攻法ではない方法でどうにかしてくると宣言したモモイ、あんまり大々的に言う事ではない。
でもまあ、恐らくこれが最善なんだもんなぁ…
誰が悪いとかではなく、誰が正しいとかでもなく。
ただただ、これが一番“良い”んだろう。
「話し方、って言われても…」
「じゃ、あとは任せた!」
私の仲間達なら出来ると信じている!
そう言わんばかりに勢い良く部屋を飛び出して行ったモモイ、私の記憶が正しければ少し後に帰って来るけど。
それまでに、ちょっとは状況を前に進めたい。
「…えっと、アリスちゃん…?」
「肯定、本機の名称、アリスです」
意思の疎通を試みるミドリ、会話は成立している。
成立はしているのだが、これでは会話というより応答だ。
「う、う〜ん…」
これにはミドリも困った様子、そりゃあ困る。
「子供用の教育プログラム…いやでも、言葉が分からないんじゃなくて口調の問題…」
言葉の分からない子供に、言葉を教える。
英語しか喋れない人に、日本語を教える。
これは、そういう話ではないのだから。
「なら自然な話し方…でも自然ってなんだろう、そういうのって成長によって身につくものじゃ…」
ミドリも創作に関わる人間だ、だからこそ困る。
彼女にとっての目の前の少女は、“ヒト”だから。
“キャラ”を見るのとは、また話が違う。
しかし今回の話は“キャラ”を立てろという事なのだ。
1人の生徒として、ミレニアムに存在しても違和感のないような“キャラクター性”を。
「アリス」
表紙までは覚えていなかった。
しかし、貼られた付箋の数が私に教えてくれた。
本棚から取り出したのは、一冊の雑誌。
「…ぁ、ちょっ、ヒノちゃんそれ…!!」
彼女達の作り上げた1つの物語が掲載された、記念すべき雑誌。
良い思い出だったかは私には分からないけれど、少なくともここには残されている。
「部活動、しよう」
「…そっか…!!」
彼女達は、ゲーム開発部だ。
「ねぇ、アリスちゃん」
そして、そこにいるアリスも。
「私達の作ったゲーム、やってみない?」
「…肯定、アリスはゲームをプレイします」
ゲーム開発部の一員となる少女だ。
◇◇◇
「…時間帯的に誰もいなかったから、一旦帰って来た訳だけど…」
「!?!?!?」
「あっ、あっはははは!!!!!!」
「ぁ、お姉ちゃんおかえり」
おおアリス、死んでしまうとは情けない!
まあだいぶ理不尽な殺られ方をして、理不尽にゲームオーバーにされた訳だけど。
これがテイルズ・サガ・クロニクル。
これが、テイルズ・サガ・クロニクルなんだよ!!
「テキストで表せない感情、これは?」
「きっと“興味”だね!」
「“怒り”だと思うよ?」
Aボタンを押せという指示に従いAボタンを押したら、目の前が真っ暗になったアリス。
そんな彼女は今度はRPGにおける醍醐味、戦闘フェーズに突入する。
野生のプニプニ、恐らくスライムのようなナニカに対して主人公は剣を向ける!!
戦闘コマンド!!秘剣つばめ返し!!
ここで発砲音、だーん(やる気のないSE)
「!?!?!?」
プレイヤーアリスは、その胸を弾丸に貫かれた。
おおアリス、死んでしまうとは以下省略。
「どれだけ剣を極めようとも、銃の前では無力…」
「お姉ちゃん、絶対そういう問題じゃないって…」
お分かりいただけただろうか、これが彼女達の作った“テイルズ・サガ・クロニクル”。
直訳で“物語・物語・物語”である、なにが?
正直私は嫌いじゃない、結構好きではある。
好きではあるけど、狂気ではあると思う。
「思考停止、処理機能のエラー」
しかしアリスは折れない、コンテニューを行う。
「リブート、再開します」
「そう!その挑戦の繰り返しと正解への道中が、レトロゲームの醍醐味!」
言わんとする事は分かるけど、これじゃあジャンル的にも死にゲーになってないかな。
魔界村とか忍者龍剣伝の方がまだ良心的…いや、どっちもどっちかもしれない。
折れないアリスvsテイルズ・サガ・クロニクル、しかしアリスの傍には開発者という心強い味方が付いている。
ゲームオーバー、コンテニュー。
バッドエンド、リトライ。
ド級のリトライ、ドリトライ。
少女は、歩みを止める事を知らなかった。
己の感じている今の感情は、どう言語化したら良いのか。
分からないままにコントローラーを握り、分からないままに画面と向き合った。
だって、考えたら色々と負けだから。
「エラー発生!エラー発生!」
時々狂う事はあっても、アリスのSAN値は高かった。
「うわぁ!アリスちゃんが壊れた!」
「頑張ってアリス!ここさえ乗り切ればクリアまでもう少しだよ!」
応援する人もいた、少女は期待されていた。
そんな言葉を背負って、少女は戦い続けた。
「…リブート、プロセスを回復…」
何度だって何度だってコンテニューする。
何回だって何回だってリトライする。
「…これが、ゲーム…」
合ってるんだけど、ちょっと違うと思う。
少女は諦めずに向き合い続けた、その時間は約3時間。
理不尽という言葉の意味を知りながらも、少女はゲームの楽しさに触れ続けた。
「…すごいよ…!!」
初めてのゲーム、初めてのプレイ。
そして、初めてのゲームクリア。
たま〜〜〜に口を出していたとはいえ、ほぼ観戦しかしていなかった私でさえ少し来るものがあったのだ。
当の本人、プレイヤーであるアリスは。
「…こ、ろ、し、て…」
無垢な少女アリスは、脳が破壊されていた。
シャーレのお仕事は、とんでもなくキツい。
お死事と言える程度には、度を超えてキツい。
私は己を卑下する事が多いが、前世の経験的に要領は良い方である。
キヴォトスに来てコミュ症が悪化し、身体が弱くなり、体力が著しく落ちた後でも。
デスクワークでは、私はそこそこの活躍を見せる事が出来ていたのだ。
出来ている上で、これだ。
「………」
座っている私の頭上を超える程度の高さまで、高く高く積み上げられた書類の束。
昨日の夜から今の今まで、ほんの少しの休憩を除いて先生と2人で向き合い続けている。
もはや恒例となりつつあるデスマーチに、私達は陥っていた。
精神が肉体に引っ張られるだとか、そういう話があるが一旦その話は置いておいて。
私の肉体は、未熟な少女のソレとなっている。
さっきからずっと眠いし、頭と胃がズキズキと痛むし、耳鳴りまで聞こえ始めているのだ。
ブーストをかけないと、着いて行けない。
“ヒノ、2本目はあんまり…”
取り出したのはみんな大好き、エナジードリンク。
かの小鈎ハレも愛飲している妖怪max、本日2本目の接種となるソレを口に運ぶ。
「んぐっ」
しかし、やはり身体は正直である。
若さがあれば多少の無茶は出来るものだが、私の身体は若くともやっぱり弱かった。
既に限界を迎えている身体に刺激物、拒否反応を起こした肉体は物理的にそれを拒否する。
「ゲホッ…ゲホッゲホッ!!」
つまり、咽せた。
“ほら!!無理するから!!”
咳と同時に鈍い痛みが走る全身、キヴォトス人の肉体ってどんな仕組みになってるのさ…
これはもう口にしてはいけない、エナドリの缶を机の上に一旦放置する。
方法自体はアレだったが、意識を覚醒させるという意味では丁度良い刺激になった事だし。
もうじき当番の生徒も顔を出してくれる筈だし。
“そういえば、今日って…”
そうそう、今日の日付は4月1日。
世間一般で言うところの、エイプリルフール。
嘘を吐くという行為に免罪符を得られる、ちょっとしたおふざけの日。
正午までならば“悪意のない”嘘や悪戯を行っても大抵は許される、そんな日のこと。
こうして書類と格闘している間に、既に午後へと突入している訳だが。
“…タイミングが、悪かったね…”
まあ別に、余裕があったからといって私が嘘を吐いていたかと聞かれたら首を横に振るんだけど…
嘘を吐いて良いのは正午まで、なんて言ったけど別にそう決められてる訳ではないし。
確か、イギリスではそう決められてるんだっけ?
でもここキヴォトスだし、私は日本出身ですし…
その上で嘘を吐かないのは、単に私の性格とコミュ症のせいという説明があればそれで十分だろう。
「ごめん、遅れてない!?」
そのタイミングで、豪快に扉を開ける音。
今日のシャーレの当番生徒、セリカ。
私ともそこそこの交流があり、ある程度は打ち解ける事の出来ている生徒。
非常に助かる、マジで、本当に助かる。
彼女が当番として来る予定時刻は、確か13時。
「…セーフ…!!」
時計の短針は、13時手前を指し示している。
“何かあったの?”
「いや、別に私の身に何かあったって訳じゃ…」
肩に掛けていたバッグからタオルを取り出したセリカは、汗を拭いながらそう語る。
なにやら気になる事があったようで、自分には関係のない事だが少しだけ意識を割かれたのだと。
そんなニュアンスで説明する、彼女の瞳は。
「ないん、だけど…」
彼女の瞳は真っ直ぐと、此方を見ていた。
「…ヒノ…?」
何やら疑いの目を向けて、困惑するような様子で。
「…あれ、さっき…見間違い…?」
一言、正確に聞き取れない程小さな声でそう語った。
「私が、どうかした?」
状況は飲み込めないが、なんだか私に対して何か思うところがあるようだったのでそう聞き返す。
彼女は一瞬だけ眉間に皺を寄せ、眉を顰め。
「…うん、少し疲れてたみたいね」
自己完結したかのように、そう結論付けた。
“2人共…休んだ方がいいんじゃ…”
あなた、つかれてるのよ…
冗談にしてはちょっとタチが悪い、というか変なところで止められたせいでちょっと気になる。
まあ色んな意味で休んだ方が良いような気はするのだが、そうなってくると先生によるソロデスマーチが開演される事は必至。
それはちょっと、流石に避けないといけない。
「大!!丈!!夫!!」
「大丈夫」
正直全く大丈夫ではないのだが、私はセリカに続いてそう騙る。
仕事は終わってないし、セリカも頑張ってるし、私も頑張らないと!
「いや、ヒノは休みなさいよ!?」
今日は4月1日、世間一般で言うところのエイプリルフール。
時計の短針は、13時を指し示している。