「…すっ…すっ…」
「すごいよアリス!!」
ゲシュタレイションが崩壊ングした結果、フェイタルなエラーを吐き出したアリス。
自我を失い力を抑えられなくなったバケモノが如く、己を殺してくれと切望する少女。
いや、絶望しているのかもしれない。
そんなアリスとは真逆の反応をする双子姉妹、こちらは希望に満ち溢れている。
「開発者2人が一緒にプレイしてたとはいえ、3時間でトゥルーエンドだなんてさ!!」
そもそも初めてのゲームプレイが3時間ぶっ通しって時点で相当に辛いところがあると思うんだけどね。
若い子はそれくらい余裕だって?私も若いが!?
とりにてぃ…の大学?に通ってるんですけど!!
嘘をつきました、私は自称生徒の不審者です。
「それもそうだけど…」
どれがどうだけど…?
「もしかして本当に、ゲームをやればやるほどアリスちゃんの喋り方が多彩になってる…?」
まあ、理解能力自体はあるからね。
例があれば学びを得て吸収するし、1から教わらなくても真似する事が出来る。
そういう意味では、ゲームをプレイする事はアリスの言語学習には合っているのかもしれない。
ミドリからすれば半分くらい勢いで勧めた事だけど、結果が伴っているのかもしれない。
「勇者よ、汝が同意を求めるのならば私はそれを肯定しよう」
当然、ジャンル的にこうなるけども。
「確かに、そう…かも…?」
「ちょっと不自然かもしれないけど…最初よりは、全然良くなったと思う!」
不自然で済んでるのかなぁ、これ。
独特な口調にも程があると思うけど…
でも、私はツッコまないぞ。
たとえぎこちなくても、コミュニケーションが取れるって時点で成長ではあるからね。
自虐じゃないよ、本当だってば!
「…ところで、その…」
ここでミドリが、小さな声でそう呟く。
私の声と同じくらいの声量と言えば分かりやすいか。
「面と向かって聞くのは緊張するんだけど…」
ミドリは良い子だけど、あまり陽側の人間ではない。
特段にコミュニケーション下手な訳でもないけど、年相応の少女だから。
湿度が高いように見えるのは気のせいです。
アレはどっちかと言うと先生が悪いからね…
責任は、先生が取るからね。
「私達のゲーム、どうだった…?面白かった…!?」
緊張の中でのその質問、色んな意味で聞きづらい言葉だろうからね。
振り絞った一言、それでも聞きたい一言。
そんな問いに対しての、アリスの答え。
「…説明不可…」
それは、拒否ではなく困惑。
「えぇ!?なんでぇ!?」
「…類似表現を検索、ロード中…」
アリスにとって、覚えのない感情。
アリスにとって、データにない躍動。
「もしかして、悪口を探してたり…」
心配するミドリ、きっと大丈夫と肩に手を置くモモイ。
「…面白さ、明確に存在」
少女は最初から最後まで、ゲームを楽しんでいた。
「プレイを進めれば進めるほど…」
折れずに最後まで走り切っている。
義務感からではない、自分の意思で。
作業としての操作ではなく、ロールプレイをしながら。
そこに、全ての答えが詰まっていた。
「まるで、別の世界を旅しているような…」
画面を隔てた先にある、魅力的な異世界。
「夢を見ているような、そんな気分…」
そこでしか得られない経験は、数値として。
そして、感情としてアリスに積み上がっていた。
それはもう、莫大な経験値として。
「もう一度…」
感情の波を再び読み込んだアリスの瞳からは、水の玉が溢れ落ちていた。
「えぇっ!?ぇ…えぇ!?」
「ぁ、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」
それはそれとして、目の前で会話していた少女が泣き始めたら誰だって心配する。
「それだけ私達のゲームが感動的だったって事!!」
前言撤回、普通だったら心配する。
「お姉ちゃん一旦ストップ!というかこのゲーム、ギャグ寄りのRPGの筈だし…」
自信に満ち溢れているのは良い事だ、的外れすぎる意見を言っている訳ではないし。
正直私にもアリスの心が全てわかる訳ではないし、だって私はアリスではないから…
そして、私はコミュニケーション下手だから。
「えぇ…じゃあ、ヒノはどうだった?」
だからこそ、振られたくなったんだけどね!!
「………」
私は、プレイヤーとしてコントローラーを握っていた訳ではない。
アリスと違って、このゲームの全てを身に受けた訳ではない。
だから多分、そんなに求められているような発言は出来ないんだけど…
適当な意見を言うのは失礼だからね、ちょっとだけ頑張ってみるよ。
「私は」
「“ゲーム”を、あまり知らない」
勿論、ブルアカやってたし全く触れた事がないという訳ではないんだけど。
あまり裕福な家庭に生まれてないもので、据え置きゲーム機みたいなモノを買う余裕がなかったのだ。
大人になって、買う余裕が出来て、しかし心身の疲労からか先延ばしにして…
そんな後悔の先に、安留ヒノはある。
「だから、薄っぺらい言葉だけど」
知識自体は勿論あるけどね、触れる機会がなかったからこそ憧れていたし。
憧れていたからこそ、調べる機会があった。
故に私はニワカである、あんまり声を大にしては言えないけどニワカなのである。
それでこんなにミームを使うのだ、恥である。
私はもうネットミームかるたとコミュニケーションの境目がよくわからない、優しく殺してね。
そういう意味じゃ今回も観戦に回ってたし、実際にプレイしてたのは私じゃない。
アリスのプレイを見ていただけで、横から手を出したり時々プレイヤーとして動いたり。
別に、そういう事をしていた訳ではない。
だからこそ、隣にいたからこそ。
そこにある、熱さを感じた。
確かな熱が、そこにはあった。
真剣にゲームに向き合い、世界観に入り込み。
1人の勇者として世界を救う者の姿が、そこには。
「楽しかった」
私も、その熱に当てられた。
「…と、思う…」
ような気がするのだ、気がするだけだよ。
それっぽく言ってみたが、アリスが楽しそうなのを見れて私も嬉しかったというだけである。
つまり本当に薄っぺらい、私には読解力がない。
「…ヒノが、笑った…!!」
なぬっ!?!?!?
「ぁ、戻っちゃった」
私の表情筋が、緩んでいるだと…?
いや良い事なんだけど、なんか…
なんか、なんなんだろう、この感情は。
この、何とも言えない感情は…!!
「うんうん、その反応が見れたのなら思いは伝わったようなものだよ!!」
私、あんまり納得してないけどね…!!
「涙に笑顔…嬉しいなぁ、その辺の自称評論家の言葉よりも100倍嬉しい!!」
…まあ、嬉しかったのならそれでいっか。
「早くユズにも教えてあげ、た…」
きっと、彼女にとっても本望だったろうし。
「…ちゃ、ちゃんとぜんぶ、見てた…」
ガタガタと、部屋の隅から物音が鳴る。
そしてそこから小さな、籠った声が。
「ロッカーが!?」
「きゃあああああ!?お化け!?」
そう、音を立てているのはロッカー。
そのロッカーはひとりでに動いていた。
まるで、中から何かが出てくるかのように。
「ミドリ駄目!!これ以上投げられたらプライステーションも自分の事をボールだと勘違いしちゃう!!」
「何が!?」
その瞬間、ロッカーから物陰が顔を覗かせた。
突如現れたのではない、最初からそこにいた。
誰にも気付かれる事なく、其処に。
「………」
ゲーム開発部の部長であり、テイルズ・サガ・クロニクルの元となったゲームを制作した人物。
UZQueenの通り名を持つ、ミレニアムサイエンススクール1年生。
プログラミング担当、花岡ユズ。
「?」
ここに今、ゲーム開発部の部員が集結した。
Twitterの方でやってるマシュマロでヒノに関しての質問を返していると、脳が作品を更新したと勘違いしてハーメルンを開くのを忘れてしまいます。