「ユ、ユズちゃん……?」
「ユズ!!」
部室内のロッカーが唐突に動き出し、中から人が現れた。
シチュエーションだけ聞けばグロかエロ、Rな18にGが付くか否かみたいな状況。
しかしながら顔を覗かせた人物のその正体は
ゲーム開発部の部長、花岡ユズ。
姿を見せなかった最後の部員、または最初の部員。
「探してたんだよ、連絡しても返ってこないし…」
「うん、良かったねミドリ、だから一旦その手に持ったプライステーションを床に置こう?」
臨戦態勢と書いて、プライステーション投擲フォームと読む。
ロッカーに向かって投げる気満々だったそれをゆっくりと床に置くと、別の意味で混乱した様子でユズの事を見つめるミドリ。
連絡が取れなかった部長がロッカーの中から現れたとなれば、まあ、そんな反応にもなるか。
ロッカーって魔法の隠れ場所だからね、ホラゲーでも最強だし。
たまに貫通してくるヤツいるけど、何処ぞのヤンデレとか……
「み、みんなが廃墟から帰って来た時から……ずっと……」
「最初からじゃん!?」
私達がゲームを始めてから終わるまで、大体3時間。
実際はもっと長い時間この部室にいたと考えると、その間ずっとロッカーの中にいたという事になる。
あなた、狂っているわ……
それが出来る、というか心地良いと感じる場面があるようなタイプなのがこの花岡ユズという生徒ではあるが。
「ぁ、2人は初めましてだよね」
本来、私はその情報を知っている筈がないわけで。
転生者あるあるの“把握している情報の矛盾”ね、だから私はだんまりします。
決してきょどっているとかそういうわけではないし、実際に初対面ではあるわけだし。
「この人が私たちゲーム開発部の部長、ユズだよ」
大袈裟な動き、バーン!と効果音を鳴らすかのように。
モモイによって大々的に存在をアピールされた部長は目を泳がせながら、それでも確かに。
確かに前を向いて、一歩、二歩と。
「?」
疑問符を浮かべる少女の前に立つ。
「えっと、あの、その……」
溢れ出る言葉が沢山あったとしても。
「あ、あ、あ……」
まず伝える、伝えたい言葉はその一言。
「あ……?」
目の前の少女に言いたくなったのは、その一言。
「……ありがとう……」
「ゲーム、面白いって言ってくれて……」
「もう一度、やりたいって言ってくれて……」
アリスの洋服の端を、縋り付くように。
しかし優しく、柔らかく握りしめて。
泳いでた目を正面に据え、目を合わせて、言葉を続ける。
開発者としての、何よりも大切で。
何よりも嬉しかった、そのことを。
「……あっ、えっと、その……」
が、長くはもたなかったようで……
目を合わせたままやはり疑問符を浮かべるアリスに対し、一瞬肩を跳ね。
再びおどおどと視線を泳がせた先で私と目が合い、再び肩を跳ねさせる。
ごめんね、私なんだか視線に圧があるらしいね……
生徒のこと泣かせちゃったことあるもんね……(1敗)
しかし仮にも部長、面子を保つ立場。
「あらためまして……」
されるがままの紹介とはまた別に、自己紹介はするべきだ。
「ゲーム開発部の部長、ユズです」
そんなユズの礼儀と意地の表れ、前に向き直りアリスの目を見て名を名乗る。
「この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん」
真面目な口調も、引き締まった顔もそのままに。
それでいて少し頬を赤らめ、顔を綻ばせての感謝の言葉。
「それに……」
今度は私の方を向いて、目を瞑るユズ。
ほんの少しの間が空いた後に、やはり少しばかり綻んだ表情で続ける。
「……付き合ってくれて、ありがとう」
意図して表情筋を緩めるのは苦手だ、まだ私はこの“自分”に慣れていない。
「………うん、楽しかった」
だがそれでも、頷く事くらいは出来る。
不器用ながらも、応える事は出来る。
その様子を見て軽く息を吐き、本題の少女の手を握り。
「本当に……よろしくね、アリスちゃん」
新たに加わった部員に。
「……理解、ユズが仲間になりました!」
新たに加わった“仲間”に、笑顔を向けた。
「パンパカパ〜ン!」
ぱぁ〜んぱかぱ〜ん♪(愛宕)
と、我々もよく聞くアリスの鳴き声(?)。
「……ふふっ、仲間が増えるのはRPGの醍醐味……だもんね?」
ゲームのプレイを経て、AL-1Sからアリスらしく。
言うならば、ゲームの影響を受け始めたアリスを見るにモモイの作戦は成功したと考えていいだろう。
少女を狂わせたのは恋でも愛でも友でもなく、クソゲーだった……
その先で“仲間”を得たのだから、それはきっと良い事なんだろうけど。
「ねぇ、ねぇアリスちゃん」
まあ、つまりだ。
「もし本当に私たちのゲームを……うん、面白いって思ってくれたなら……」
このプレイによって、ゲームの開拓によってアリスの情緒が、人格が、口調が育っていくと言うのならば。
「他にも私のおすすめのゲーム、やってみない?」
「!」
大義名分が出来たと言わんばかりに、自分のおすすめのゲームを布教する時間が始まる。
ゲーム開発部を謳ってはいるが、開発する事だけに夢中なわけではない。
そりゃあプレイをするのも好きに決まってる、ゲーマー集団。
良いものは布教したい、それがオタクの
「ちょ〜っと待ったぁ!!」
そこに待ったをかけたのはモモイ。
「私が先!私が先にオススメするんだから!」
かけたのはいいが、結局モモイの方も布教をする気である。
じゃあ私もブルーアーカイブってゲームを布教したいんだけど…-
私の推しはこの、ゲーム開発部のケイって子でね。
……実装、されてない……?
いや、確かに映ってたんだ……
私の生徒、まるで天使みたいに笑って……
とまあ、“この先”の話はほどほどにしておいて。
「だから“英雄神話”と“ファイナル・ファンタジア”と、“アイズエターナル”なんかも……」
名作か、迷作か、とにかくお気に入りのゲームをアリスに向かって叩きつけるモモイとユズ。
その様子にやはり不思議そうな表情を返しつつも、これだけは分かる。
彼女達はまた、私にゲームをさせてくれるのだと。
そう理解したアリスは笑顔で、コントローラーを握る。
「……期待、再びゲームを始めます」
……そんな微笑ましい光景を、部室の隅で見つめるのは私。
いや別に人が増えたから混ざれないとかそういうわけじゃなくて、コミュ障発動してるとかじゃなくてね?
実際隣にミドリいるs……ミドリいるし!?
「……ヒノちゃん、大丈夫?」
移動していたのに気付いていなかったため若干、若干だよ?
ほんの少しだけ動揺してしまったが、前述の通りコミュ障爆発で離れていたわけではないので問題はない。
じゃあなんでみんなから意図的に離れているんだって?
いいや、離れてるわけじゃないんだよ、離れてるけど。
言葉の綾である、私が離れてるのは別に“みんな”からではない。
あそこに混ざっていいのか、という躊躇いはあるが無理に距離を取るのも良くないことは理解している。
だから私がここにいる理由はもっと単純で、軽い事。
私は、というか安留ヒノという生徒の身体は本当に脆い。
それは概念的な脆さというよりも、生活的な脆さというか。
走れば疲れるし、日差しが痛いし、床で寝られない。
そういった感じの脆さである、つまりだ。
察しの良い人間ならきっと、きっと気付くと思うんだけどさ。
「……大丈夫……」
画面をぶっ通しで見続けたから、目が痛いだけなの……
だから画面から、テレビから離れてるだけなの……
ケイ、もう幻覚じゃないけどね……(実装済)
一応他の界隈で創作活動自体は続けていました、生きてます。
だからって約一年も失踪するのは、頭がおかしい。