ふむ、私に喋れと言うのだな!?   作:хорошо!

59 / 60
頻度の保証は出来ませんが、これからもちまちまは更新されると思います。



遠くて近いミライの話

「ヒノちゃん、どうしたの?」

 

部室の出入り口、その扉に手をかけていた私に背後から声をかけたのはミドリ。

ユズが顔を出して……そう、物理的にロッカーから顔を出して間も無くのこと。

新しいゲームに手を出そうとしているアリスから離れ、私は部室から出ようとしていた。

 

「………」

 

今この場には先生がいない、私が単独でミレニアムに滞在している。

チャンス、って言い方は違うかもしれないけど……

私がのびのびと、経歴の矛盾を考えずに行動出来る絶好のタイミングなわけである。

“THE WORLD”、私だけの時間だぜ……

 

「……少し、用事……」

 

というわけで席を外させてもらう、用事とは言っても特定の目的に向かって行動するというより……

 

「んぁ、迷子には気を付けるんだよ〜!」

 

この先で起こる出来事に備える、という側面が強いのだが。

 

 

◇◇◇

 

 

時計じかけの花のパヴァーヌ編。

ブルーアーカイブにおける二つ目のメインシナリオ。

原作の時間軸になぞり当て嵌めるなら、私はそのシナリオの一章に乱入している形になるんだけど。

 

ゲーム開発部が廃部の危機だぜ!!

まず部員の数が足りないぜ!!

その上結果を残さないと詰みだぜ!!

そろそろ寿司を食わないと死ぬぜ!!

 

っていうのが、おおまかな第一章のストーリー。

んまあ、うん、確かに大変なんだけど。

このストーリーは“大変”で済ませられるものだ。

あくまで日常、その延長線で起きるトラブル。

本人達からしちゃ洒落にならないだろうが、どこまでいけど結局は日常。

 

アビドスの惨状と、あまりにも様が違いすぎる。

 

そう、酷い話になるのは二章の方だ。

救いがない、とは言わない。

ただ手が足りなかった、差し伸べる手が足りなかった。

正しさは、必ずしも正しさにはならない。

正しくない……悪は死ね……!!

それで解決出来るほど、世界は単純じゃない。

パヴァーヌ2章は、そういうお話だ。

 

抽象的な例えをしたけど、言ってしまえば“先生の手が足りない話”なんだよね。

人によって感じ方は変わるだろうけど……

誰が悪い、悪くないっていう話じゃない。

アレは、手が足りないって話だった。

あと天才のバカな部分ってこういうところだよねって話。

 

だから私が手になろう、っていうのが今の行動方針なわけね。

 

先生はこの先、ゲーム開発部に寄り添う事になる。

問題は、課題とするのは他に二つの陣営が存在する事。

リオ陣営と、ケイ陣営だ。

 

ぶっちゃけ後者はどうしようもないです!!

というのも、私はケイの事を知らなさすぎる。

そもそも私はブルアカを“最後”まで知ってるわけじゃない。

物語のエンドロールを見ていない私にとって、ケイはまだ登場回数の少ない生徒……

いいや、生徒としての彼女の姿すら見れていない。

 

そしてこれは一朝一夕でどうにかなるような問題でもないし。

私がケイに余計なアクションを起こす事で、原作よりも事態が拗れる可能性がある。

というかその可能性の方が高い、コミュ症なのにパーフェクトコミュニケーションを取れるとお思いか?

 

だから私がアクションを起こすべき相手は、リオ。

 

敵として立ち塞がる事になったリオ、そしてトキに寄り添うのが。

私が先生の足りない手の代わりになる術、なんだけど……

こっちもこっちでややこしい、そのルートを選ぶと私はアリス達と敵対する事になるわけだから。

それで話が拗れるとまた面倒な事になる、そもそも安留ヒノっていう生徒自体に怪しさがあるし。

 

私は多分、中立の立場であるべきなんだと思う。

物事をフラットに見る事で、感情的な云々を抜きにする。

ゲーム開発部に入れ込みすぎない。

そうする事で、支えるべきタイミングでリオに手を差し伸べられる。

そのために、第四陣営として行動する。

 

それが私の役割、私のやるべき事。

ただそれは、私だけが担うべき事ではない。

私だけで、担い切れる役割じゃない。

 

既に私が乱入してるんだ、更に乱入者が増えても破綻はしないだろう。

私はこのストーリーに“登場人物”を増やす。

一人で何かを大きく動かせるわけではない私の、生きる術。

他の人に頼る、それ即ち最強の処世術!!

 

なんて考えながら、迷い迷って辿り着いたのは金庫みたいな扉の前。

 

ここは反省部屋と呼ばれる場所、この扉の先にいる問題児に私は協力を……

協力を、仰いで……

……ん、あれ……?

 

「……開い、てる……」

 

“開いている”。

反省部屋の扉が開いている。

重厚な扉と壁に、無視出来ない程の隙間が。

明らかに人が一人通り抜けられる大きさの隙間が、空いている。

 

中を覗いてみれば、いくつかの玩具がある簡素な部屋が見える。

……のだが、やはり誰もいない。

そして、隠れるような場所があるわけでもない。

本来ならばそこに存在するはずの生徒。

 

“黒崎コユキ”が、そこにはいない。

 

……いや、いない事がおかしいというわけではない。

彼女は四六時中反省部屋にいるわけではない、しょっちゅう脱走している。

そもそも真っ当な理由、ユウカあたりに呼び出されてこの場にいない可能性だってある。

だから“異常性”があるわけではない、んだけど……

 

言ってしまえば、まあ面倒くさい。

 

私がコユキを巻き込も……こほんっ、協力を仰ごうとした理由の一つに“フリーだから”というものがある。

彼女はセミナーの生徒……ではあるが、少なくとも現状は陣営無所属寄りの生徒。

故に協力を仰ぎやすい、陣営が動くのと個人が動くのは労力が違うからね。

 

あとまあ、感性が若干クズ寄りだから……

いやうん、片方に入れ込まない子の方がいいから……

 

それが出来ないとなると、やはり“面倒臭い”。

ユウカやノア、セミナーを通して協力を仰ぐとフリーである事の旨みが減る。

あと多分、私の方の誤魔化しが効かなくなる。

私、ノアの前でミステリアスムーブ貫ける気しないからなぁ……

 

……んまぁ、これは切り替えるしかないだろう。

 

正直他のルートが思いついてるわけじゃないんだけど、ここでコユキに執着する理由はないっていうか……

早く対応するに越した事はない、っていう理由で動いてるだけでまだ時間に余裕はあるし。

パヴァーヌ2章、時系列的にまだまだ先の話だしね。

 

一旦ゲーム開発部の部室に戻って……いや、その前にコンタクトを取った方がいい生徒とか……

う〜ん、念のためスミレあたりと面識を持っておくのもアリなのかもしれないしなぁ。

会える事ならヒマリとかとも会っておきたいし。

後から変に奔走する事になる前に、色々と仕込みをしておいた方が……

 

あでっ

 

「おぁっ、大丈夫ですか?」

 

私は人を目を合わせる事を避けるために、下を向いて歩く癖がある。

たぶん、キヴォトスに来てから出来た悪癖だ。

そのせいで真正面から歩いてくる誰かに気付かずぶつかった。

反省部屋から離れようと、振り返り歩き始めたところでぶつかった。

お互い速度が出てなかったため軽く、転ばない程度の衝突だが。

 

「すいませんね、少々考え事をしていまして……」

 

「……こちらこそ……」

 

……知らない声だ、原作にいない生徒か……?

そう思い顔を見上げてみれば、やはり見慣れない姿の生徒。

私よりも幾分か背の高いその生徒、外見で予想するなら3年生。

多分、原作におけるモブ生徒の一人……

 

……いや、そうだ、うん、そうだよね。

この世界は丸々私が知っている“ブルアカ”じゃないんだ。

私の知らない生徒だって、沢山いる。

そう考えれば最初から、コユキに拘る必要はない。

協力を仰げる相手は、思っていたよりも沢山いるようだ。

 

「こちらこそ……という事はもしや、あなたも何か悩みをお持ちなのですか?」

 

そんな、都合の良い質問をしてくれた相手。

深呼吸、相手の目を見る意識を持って。

再び、正面に立つ生徒の目を見る。

藤鼠色……だったっけ、そんな目の色をした彼女の問いかけに対し答える。

 

「……うん、悩みがある」

 

その言葉を聞いて、目をぱっと見開き。

両手を合わせ笑い、彼女はこう語った。

 

「それはそれは!!丁度良いところに!!」

 

少し腰を曲げ、私の目線に合わせ。

 

「……あぁ、先に名乗るべきでしたね」

 

その口から発されたのはやはり、私の知らない名前。

 

「私、吾妻ミライと申します!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。