辺境街の衛兵さん 作:大いなるcoffee
『世界は今、混沌の勢力によって脅かされている!
地を這う
空飛ぶ
海に漂う
彼奴等の脅威から秩序を守護し、栄光を手にせよ!
さぁ、君も冒険者協会へ!
我らは新たな秩序の守護者をを望んでいる!!
冒険者協会職員一同』
「……チッ」
そんな大仰な売り文句が躍る忌々しい張り紙が視界の端に映る。
秩序の守護者なんて耳触りの良い文句を使っているが、民間人からしたら冒険者なんて一部を除いてただの犯罪者予備軍。どちらかと言えば混沌の側と同系列の連中だろうに。
違うと言うのならば、今までの冒険者による犯罪総数を数えてみると良い。
暴行、窃盗、強盗、器物損壊。
ここ三ヶ月だけで数えても、これらの罪状での検挙数は優に三桁に届くぞ。
そりゃあ確かに混沌の連中が脅威であると言う事は事実であるのだが、それ以前に冒険者が民間人の脅威になってしまったら意味が無いだろうに。
まぁ、だからこそ俺たちのような衛兵がいるわけなのだが。
「……はぁ……」
「う、ふぅっ、ふぅ……ッ!」
俺の数歩ほど前で腹を抑えて蹲るのは、新人であろう銅等級の
罪状は窃盗。何でも道を歩いていた爺さんの財布を、後ろからスったらしい。
そしてそれをたまたま見ていた通行人が大声で衛兵を呼び、駆けつけた俺が逃げようとした奴を蹴り飛ばしたところだ。
「ぐっ、う、うぅ……ッ!」
「そら」
「おぐぇッ!?」
息も絶え絶えに立ち上がった奴の、ガラガラに空いた腹に蹴りをもう一発叩き込む。
まともに食らった犯罪者は剣を取り落とし、くの字に体を折り曲げてそのまま後ろにぶっ倒れ、ゴロゴロのたうち回って悶絶する。
「えーと……?」
「ぎっ、ガァっ!? 」
そんな冒険者の腹を踏み付けつつ、ポケットをまさぐってみると、出てきたのは硬貨が数枚ほど入った布の財布。
随分と年季が入っており、施された
そして、口の部分には黄色いスープの染み。
まぁ、多分これだろうな。
「おい爺さん、スられたのはこれで間違いないか?」
「ああ、それです、間違いありません!」
念の為に見せてみると、やはりこれで合っていたらしい。
「次からは気をつけろよ。今回はたまたま運が良かったと思え」
「ええ、本当にありがとうございました」
財布を爺さんに渡してやると、爺さんは何度もこちらに頭を下げつつ雑踏の中へ消えて行った。
「……さて」
「ひっ、うぁ、ああああああああああああッ!?」
足の下でもがく犯罪者を見下ろすと、冒険者はより一層激しく暴れ、どうにか俺の足の下から逃れようとする。
しかし、当然ながらパニックになった状態でいくら暴れようと、俺から逃げられるはずもなし。
ただ滑稽な姿を衆目に晒すだけだ。
「……ったく」
「あがっ……ぐ……」
ただ、これでは連行するのに些か面倒なので、頭を掴んでガクンと揺さぶる。
そうすると冒険者は脳が揺れたことにより気絶し、体がだらりと弛緩した。
よし、これでだいぶ運びやすくなった。
「はいはい、ちょっと失礼しますよっと」
冒険者の体を肩に担ぎ、いつのまにか出来ていた人だかりの間を通って冒険者協会の方へ。
犯罪者は民間人であれば留置所の方へと運ぶのだが、冒険者は一旦冒険者協会に運び込む必要がある。
理由としては、冒険者は街の外の村や別の街からやって来た者達が非常に多く、街の住人としての登録がされていない場合が殆どで、街の方で処理する事が難しいからだ。
そんな冒険者協会は、街の正門のすぐ近くに建てられている。
大貴族の屋敷ほどもある巨大な石造りの建築物で、冒険者への仕事の斡旋所の他に、薬屋や武器防具屋、宿屋を備えた、まさに冒険者のために作られた建物だ。
冒険者にここまで金を使うのなら、その冒険者どもの蛮行を止める俺達衛兵にももっと金を回して欲しい所だが、残念ながら俺達が使える金は冒険者協会に比べれば雀の涙である。
どうしてろくに働いていない騎士団が冒険者協会とほぼ同額を貰っているのに、俺達はこんな扱いなんですかねぇ?
……いやまぁ、それが格差社会と言うものであるのだが。
「はいはい、また新しいの持ってきたぞ、っと」
「ああ、お疲れ様です」
冒険者協会の裏手、衛兵用出入り口から中に入る。
すると、口元をマスクで覆った職員の方が俺を出迎えてくれた。
この人の役職の正式名称は違反行為冒険者一時留置所監視員。
言ってしまえば冒険者用留置所の看守さんである。
「こちらで身柄をお預かりしますね。それで、罪状は?」
「ただの窃盗。特に悪質なものでもなし、資格剥奪からの追放でいいだろ」
「はい、わかりました。それでは私はこれを運ばせていただきます」
気を失った冒険者を小脇に抱え、奥の方へと消えてゆく看守さん。
こんな広い留置所を毎度毎度、ご苦労な事である。
まぁ、俺たちの方がもっと大変なわけだが。
「……んお? おうなんだ。そっちも冒険者か」
そんな事を考えつつ踵を返し、再び巡回に戻ろうとすると、冒険者を肩に抱えた同僚が歩いて来た。
衛兵の制服の青色とは対照的な赤髪が映えるナイスガイこと、ユリウスだ。
「まぁな。こっちはスリだったが、そっちはどうだ?」
「万引きだ。マグナさんンとこのリンゴ持って行こうとしてな。ボコボコにされた」
「あー、そりゃぁ……ご愁傷様だ」
マグナさんとは俺たちの大先輩だ。
先々代の衛兵長で、『鬼のマグナ』なんて言う二つ名もあり、犯罪者に対して容赦ない事で知られていた。
そんな彼は引退後に店を経営しているのだが、そこから物を盗んだとなれば、勿論タダでは済まない。
例に漏れず、ユリウスの肩に担がれている冒険者も、ものの見事にボコボコだった。
「まぁ、それじゃあ、俺は巡回に戻るわ」
「ああ」
ユリウスの隣を通り抜け、再び大通りへ。
さて、次はどんな問題が起こるのやら……