辺境街の衛兵さん 作:大いなるcoffee
「喧嘩ぁ……? また冒険者か?」
人の波を掻き分け進んで行きつつ、後ろについて来ている隊員の言葉を反芻する。
いつも通りの巡回中、いきなりコイツが飛んできたかと思えば俺に助けを求めて来たので、何の大事件だと現場に向かいつつ聞いてみたところ、帰ってきた返答がそれだったのだ。
「ってか喧嘩ってだけならお前だけで止められないのか? お前も衛兵だろうが?」
俺がそう言って肩越しに隊員を見やると、隊員はバツの悪そうな表情を浮かべる。
「ああ、その、仰る通り冒険者同士の喧嘩なんですが、パーティ同士の衝突って言うか、抗争と言うか……数が多くて」
「あー……成程……まぁ、そりゃあレンズ君には荷が重いわ」
隊員ことレンズ君は入舎二ヶ月の新人だ。
そこらの冒険者との一対一ではまず負けないだろうが、多対一となればまだわからない。
勝てない事は無いのだろうが、怪我の可能性も高いだろう。
「人数と……等級とかはわかるか」
「ええと、両方とも4人ずつで……あ、一人だけ銀が居ました」
「ほう」
成程。これは……あれか。
メンバーの一人が昇格したもんで、気が大きくなっちゃった感じか。
まぁ、よくある話だ。
一ヶ月ごとにある昇格試験の後なんかは特に多い。
とは言っても、精々が一件か二件ある程度だが。
「えーと……あれか」
「あ、そうですね、あれです」
向かう方向に人だかりが見えた。
耳を澄ませてみれば、確かに鈍い、殴る蹴ると言った暴行の音が聞こえて来る。
しかし、四対四の戦闘にしては音の数がどうにも少ない。
どうやらもう既に勝負は決しているようだ。
「はーい、失礼しまーす。衛兵でーす」
人だかりの隙間に体を差し込み、ぐいぐいと前に進んで行く。
こう言う人混みでも問題なく進む技術は、衛兵の習得すべき技能の中で最も優先すべきものの一つだ。
昼間に事件が起これば、まず野次馬で人だかりができる。
そこを早急に越えられなかったせいで、面倒事になった事だってよくある事だ。
「オラッ! どうだオイ! 偶然なんかじゃねぇ! 俺ぁ強ぇんだ!」
「ぐうぅっ、あぁっ!」
「おー、やってんねぇ」
最前列に出てみれば、見えて来るのは一人の男が倒れ伏した四人を甚振っている様子。
意気揚々と拳を振り下ろす男の首元に躍る等級標は銀。
彼のパーティメンバーであろうメンバー達は隅の方で縮こまっている。
この状況と聞こえた言葉から察するに、どうやら銀等級の彼が昇級したことを『偶然だ』と馬鹿にされた結果、ヒートアップ。
メンバー達がそれに巻き込まれる形で抗争が始まり、そのまま勝利。
あとは銀等級の彼の憂さ晴らしタイム、と。
まぁ、とりあえず銀等級だけ殴って、後は任意同行願うか。
「……っと、そうだった。おいレンズ君。これならやれるだろう。君がやれ」
「えっ、あっ、はい!」
「あん?」
今のレンズ君の声に気付いたのか、銀等級の彼がこちらの方を見る。
「ええと、衛兵だ! 大人しく同行願おう!」
「アぁん!? ふざけんじゃねぇぞ、テメェ!」
「そうか、ならばこちらも相応の手段で以て対応しよう!」
銀等級の男は激昂し、レンズ君に殴りかかって来るので、レンズ君はそれに応戦する。
槍の柄で突きをいなし、蹴りを流し、隙が出来たところへ急所に反撃を入れる。
うむ、教本通りのお手本のような、実に綺麗な戦闘だ。
実力は隔絶している。まぁ、この分なら余裕で勝てるだろうな。
「さて、そこの君たち」
「ひっ!?」
俺が隅で縮こまっていた三人の方を見ると、三人はびくりと体を震わせる。
「怖がるんじゃない。ただちょっと任意同行を願いたくてな」
「お、俺たちは、その……」
「あー、そう言うのいいから。後でまとめて聞かせてもらうから。……で、着いて来てくれるか?」
俺がそう三人に問いかけると、三人は青い顔をして頷いた。
よし、これでこっちは問題なし。
「……で、そっちはどうだ? 動けるか?」
「う、うぅ……」
俺が問いかけると、地面に這いつくばった四人はボコボコになった顔で呻く。
「こりゃあ無理そうだな。おいそこの三人。適当なの一人づつ背負って────」
「ぐぶぅッ!?」
銀等級の男がこちらの方に飛んで来て、そのまま地面に頭を打ちつけて気絶する。
「ヒィぃッ!?」
三人が上げる悲鳴を聞き流しつつ、チラリとぶっ飛んで来た方を見てみると、レンズ君が繰り出した脚を静かに下ろしている所だった。
成程、中々の威力だ。こりゃあ将来有望だな。
「ご苦労さん」
「はい、ありがとうございます。それでは、後始末は僕が」
「ん。じゃあ任せた」
後の場をレンズ君に任せ、人混みを通り抜けて巡回に戻る。
いやはや、レンズ君が成長してくれて嬉しい限りだ。
他の新人達も、同じように成長してくれると嬉しいんだが……まぁ、その辺は俺らの頑張りか。
最低でも、次の戦争を生き残れるレベルにまでは鍛えておかんとなぁ……