辺境街の衛兵さん   作:大いなるcoffee

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4話

 俺たち衛兵は基本的に兵舎で寝泊まりする。

 これは別に強制というわけではなく、自宅で寝て通勤しても全然問題はないのだが、色々と兵舎で寝泊まりした方が都合がいいので、衛兵のほぼ全員がそうしている。

 なんなら兵舎に家具とか持ち込んで住んでいる奴すらいる。

 俺達分隊長と、他では補佐官様なんかがそうだ。

 

 俺たちは分隊長として書類処理が大変だし、大事件か何かが起きた時は飛び起きて現場指揮を取らなきゃならないので、常に兵舎に居るか巡回をしているかのどちらかだと衛兵全員が分かっている方が都合が良いのだ。

 一応、プライベートな時間やプライバシーはきちんとある。

 ほぼほぼ無いに等しくはあるが。

 

 ちなみに補佐官様が兵舎に住んでいるのは実家に帰ると色々面倒だからだそうだ。

 貴族のお嬢様がこんな所で大丈夫なのかと最初の頃は思っていたが、割と快適に生活出来ているらしい。

 何よりな事だ。

 

 さて、そんな風に皆兵舎で寝泊まりしているので、兵舎にはさまざまな設備が充実している。

 例えば台所と食堂であったり、浴場であったり、娯楽室であったり。

 まぁ、色々とあるわけだ。

 そしてそんな設備を使おうとすれば、他の衛兵達と出会すのは良くあるというか、まず確実に一人とは会う。

 

「む」

「お」

 

 俺が台所で飯を作って夜食……時間的に言えば昼食を食っていると、ユリウスの奴が鎖帷子姿で食堂へやって来た。

 

「おお、美味そうだな。俺の分は無ぇのか」

「あるわけがねぇだろうが。自分で勝手に作って勝手に食え」

「何だよおい、ケチ臭ぇな……いやまぁ、元からそのつもりで来たんだがよ」

 

 そう言って、ユリウスは台所へと入って行く。

 そしてユリウスが食糧庫から取り出したのは、大量のジャガイモ。

 

「……おい、そんなに食うつもりかテメェ」

「ん? ああいや、グレゴールとイリオスの奴にも飯を頼まれててな。良い感じに(マッシュ)して持って行ってやるつもりなんだが」

 

 包丁でジャガイモの皮を剥き始めるユリウス。

 ……きちんと芽の部分は深めに取り除いているな。よし。

 

「……お前、マッシュだけをそんなに食うのか?」

「いや、マッシュオンリーなのはアイツらだけだ。俺はこれを輪切りにして油とベーコンで焼いて食う」

「嫌がらせかよ」

「俺も最初はそのつもりだったんだがなぁ。アイツら味覚馬鹿だからマッシュでも喜んでやがんの」

「…………」

 

 そうだったのか。

 アイツらが分隊長に上がってから随分と長い間付き合っていたが、知らなかった。

 

「……まぁ、何でも美味く食えるのは良い事だ。俺もあのポリッジが美味く食えりゃあ良かったんだが……」

「あれ一回でも食えば、味覚馬鹿が羨ましく思えちまうよなぁ……」

 

 ユリウスがしみじみと呟きながら引き続きジャガイモの皮を剥く。

 ポリッジと言うのは、簡単に言えば麦やら何やらと言った穀物を挽いて、それをミルクで煮た料理だ。

 作りやすい上に腹も膨れるので、戦場ではこれが主食だったわけだが……

 まぁ、死ぬほど不味かった。いや本当に。

 出来る事ならば、もう二度と食いたく無い。

 

「ってか、今の話で思い出したんだが、聞いたか。ゼン公と帝国がまた戦争しそうって話」

「……そりゃあ確かなのかよ?」

「おう」

 

 スープを啜りながら聞いてみれば、ユリウスはボウルを取り出しながら肯定する。

 

「うげぇ……マジか」

 

 ゼン公はゼンスバルグ公国、帝国はアルバニア帝国の略で、まぁ言ってしまえば因縁のある、死ぬ程仲の悪い国だ。

 我が国との位置関係としては、我が国、ゼン公、帝国の順で直線上に並んでおり、ゼン公が挟まれている形になる。

 

 で、まぁそんな位置関係なわけだから、ゼン公は帝国と戦争するとなると、我が国に後ろから攻められないように注意しなければならないわけだ。

 だから我が国とは同盟を結んだりしているわけだが、それでも信用ならないのか、戦争になると連中は国境付近にある都市に使節団を派遣して来る。

 そして、そんな国境付近にある都市の一つがこの街と言うわけだ。

 そうなるとこちらも歓迎の式典をせねばならないわけなのだが……これがまた大変。

 

「……連中、今回は大人しくしててくれないかねぇ……」

「無理だろ。あの連中だぞ」

「わかってるよ。希望的観測って奴だ」

 

 ダンッ、ダンッと音を響かせながら正論をぶちかましてくるユリウスへ、適当に答えつつパンを齧る。

 連中と言うのは、まぁ、言ってしまえばゼン公との戦争を望んでいる奴らの事だ。

 親帝国派であったり、混沌に属する教団や商隊だったり、後は戦争で利益を被れる商売の奴らがそれに該当する。

 

 そんな奴らが何をして来るかと言えば、まぁ、全力で以て使節団を殺しにかかって来るのだ。

 連中としてはゼン公との戦争を起こしたいのだろうが、そんな事をしようものなら当然ながら国の信用はガタ落ちである。

 ウチの国は確かに大国ではあるが、流石に周辺国を全部敵に回して勝てるような国であるか、と聞かれれば首を捻らざるを得ない。

 そんなわけだから、俺達は必死こいて表沙汰にならないうちにそんな連中を始末しているわけだ。

 

「……んで、どうする。今回は?」

「どうするも何も、いつも通りだろう。あれが一番だ」

「だが最近は混沌勢の数が増えて来ているだろう」

「あー……それもそうか。しかし、対策ねぇ……後で衛兵長入れて分隊長で話し合うか」

「それが良い」

 

 肯定の返事を返しつつ空になった食器を持って立ち上がり、台所の近くに置いてある水を貼った桶に漬ける。

 

「んじゃ、俺ぁ寝るわ。会議の時間決まったら明日教えてくれ」

「あいよ」

 

 食堂を出て、俺の部屋へ。

 ……腹拵えが出来たので、本格的に眠くなって来た。

 さっさと寝よう。眠い時には寝るのが一番なのだ。

 

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