辺境街の衛兵さん   作:大いなるcoffee

5 / 7
5話

 ふと、空を見上げる。

 実に良い天気だ。雲一つ無く、一面に澄んだ青が広がっている。

 こんな日には、絶対に何か面倒なことが起こるものだ。

 俺の今までの経験則がそう言っている。

 

「うわあああああああああああああッ!!?」

「爆発だぁぁぁあああああああああッッ!!?」

 

 チュドーン、と言う爆発音が轟き、遅れて人々の悲鳴が響く。

 うむ、やはり俺の経験則は間違っていなかったらしい。

 音の規模的に、どうせ魔法が使える冒険者が爆雷矢(ファイアボルト)火球(ファイアボール)でもぶっ放したんだろう。

 

「……ええいッ、こんの、畜生がぁッ!!」

 

 こちらの方へ逃げて来る人の波を掻き分け、全速力で音の聞こえた方へ走る。

 爆発地点であろう場所からは既に黒々とした煙がもうもうと上がっており、事の凄惨さが見て取れる。

 人死にの一人や二人は出ていると見るべきだろう。

 

「クソッ、これだから天然モノの魔法使いは嫌いなんだッ!」

 

 魔法と言うのは、魔力と言う力の形を変換して、現実に現象として起こす技の総称だ。

 基本的にはどんな人間でも行使は可能であるのだが、普通に生活する分には魔法なんて不要だし、魔法を使えるようにするまでが大変だと言う事で、大半の人間は魔力を自覚する事すらなく一生を終える。

 

 正規の手段で魔法を覚えるのは、殆どが貴族か俺たちのような衛兵、もしくは余裕のある都市部住民。それか一部の成功した冒険者達だ。

 で、そんな俺たちのような人間は、当然ながらきちんと常識を弁えている。

 少なくとも、街中でいきなり攻撃魔法をぶっ放す馬鹿では無いと言う事だ。

 

 しかし、一部の生まれつき魔力を自覚できていたり、魔力の流れを感じ取れていた者達は違う。

 彼ら彼女は魔法を生まれつき使う事が可能で、そんな人間が天然モノの魔法使いの冒険者として街に出て来るわけだ。

 まぁ、魔法書もない農村部で出来るのは簡単な基礎魔法くらいだが。

 

 とは言え、他人とは違う力が使えるのには間違いない。

 生まれたのが都市部であったのならば、他の魔法使いに色々と教えてもらう事もで来たのだろうが、農村部だとそうもいかない。

 周りに魔法を使える人間がいないばかりに、彼ら彼女らにとって、魔法とは『自分だけの特別な力』、『自分が他の連中とは違う証明』になるわけで、まぁほとんどの場合は日常的に魔法を使う。

 

 ……で、そんなわけであるので、彼ら彼女らに『魔法は街中でぶっ放してはいけないもの』と言う常識は無い。

 一応『攻撃魔法を無闇に使ってはいけない』という常識こそあるものの、あくまで『無闇に』である。『絶対に』ではない。

 なので、激昂したりと感情が昂れば、普通に攻撃魔法をぶっ放す。

 と言うか意志に関係なく『出ちゃう』。

 

 そうなると、基礎の攻撃魔法となれば爆雷矢(ファイアボルト)火球(ファイアボール)になるわけで。

 タチが悪いのが、日常的にそんな魔法を使っていたから無駄に洗練されており、威力も無駄に高い事だ。

 だから使われると、今回のような大惨事になる。

 

「衛兵だ! 犯人は……チッ、こりゃあ酷ぇ」

 

 魔法が使われた現場であろう店の中に入ると、その有り様は実に酷いものであった。

 辺り一面が火に包まれており、天井は所々が崩れ、壁には大穴が空いている。

 その中にただ一人茫然と佇むのは、犯人であろう少女。

 見たところ、他の生存者は全員が避難したようだ。死体も見えない。

 

「おい、まずは避難だ! さっさとしろ!」

 

 俺がそう少女に叫ぶが、少女は一向に動こうとしないので、俺は少女の腕を掴んで無理矢理店の外へと放り出す。

 

(ウォール)!」

 

 そして、俺も急いで店の外へと出た後に、魔法で発生させた壁で以て店を外界と遮断。

 店の周囲の建物の側面が壁に巻き込まれて壊れるが、このまま燃え広がらせるよりかは圧倒的にマシだと思ってもらいたい。

 

「…ふぅ」

「分隊長!!」

 

 一仕事を終え、俺が一息ついていると、向こうの方から補佐官様が走って来る。

 

「事態は……一先ず、終息したようですね」

「ああ。で、こいつが暫定犯人だ」

 

 尻餅をつき、未だに茫然自失としている少女を親指で示す。

 先程までは余裕が無かったので気づいていなかったが、首元に銅等級を示す標識が下がっている。

 

「……ああ、天然モノですか。随分と久々に見ましたね」

「そうだなぁ」

「……ええと、あ、あのぉ……」

「ん?」

 

 俺が適当に相槌をうっていると、後ろから中年のおじさんが気まずそうに近づいて来た。

 

「……ああ、そこの店の?」

「ええ、はい。今回燃えたのは私の店でして……」

「ほーん……で? 何があったんだ?」

「ああ、その、ええとですね。お食事とお酒を提供しまして、お代金を払って頂こうとしたら、『高すぎる』と……」

「コイツが?」

「ええ……」

 

 少女の方を見て頷くおじさん。

 あれか。ついカッとなって出ちゃった感じか。

 それで思わず引き起こされた大惨事に茫然自失、と。

 ふむ、まぁ、この時点で一考の余地もなく有罪だな。

 

「死者は?」

「ああいえ、何分、逃げるのに必死だったもので……ただ、昼飯時なものですから……」

「ふぅむ……」

 

 俺がパッと見た限りでは確認できなかったが、一応きちんと調べてみるか。

 手を翳し、(ウォール)を解除する。

 すると壁が大気に溶けるようにして消え、閉じ込められていた煙がふわりと流れる。

 そして、煙の中から多少は焦げたものの、十分に原形を保っている店が出て来た。

 

「おぉ……!」

「ああ待て、まだ近づくな。毒気がある。……おい、この場は任せるぞ」

「はい」

 

 補佐官様に指示を出し、毒気が消えるのを待って店の中に侵入する。

 さて、死体は……やはり無いな。

 それっぽい痕が無いところを見るに、吹き飛んだとか消し飛んだとか言うわけでも無さそうだ。

 

「ど、どうでしたか?」

「死者なしだ。……まぁ、罪状は放火と器物損壊、傷害に食い逃げ未遂ってとこだな」

 

 俺の言葉にほっと胸を撫で下ろすおじさんと、感心の声を上げるいつの間にか来た野次馬共。

 

「……さて、んじゃあ俺はコイツを連行して……ああ、アンタも付いてこい。協会に賠償させるから」

「あっ、ええ、はい」

「で、お前は巡回に戻ってくれ」

「了解です」

 

 少女を気絶させて肩に担ぎ、おじさんを連れて歩き出す。

 冒険者協会はいつも無駄に金を持っていやがるんだ。こう言う時にはきちんと払うモン払ってもらわんとな。




 感想、評価ください(乞食)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。